おばさん、よくある異世界転生する   作:竹モカ

1 / 19
よくある異世界転生?
銀髪イケメン剣士に助けてもらって冒険のスタートです


①『おばさん、異世界転生する』

(あれ…?)

目に飛び込んできたのは透き通る青空だった。

状況を把握できなくて何度も瞬きを繰り返していると、

僅かに土や草の香りに気付いて寝転がったまま辺りを見渡して見る。

(どこだろう?)

彼女…竹内 明(メイ)はぼんやりと遠くを眺めた。

辺り一面芝生で何も無い不思議な空間。

今まで生きてきた中で見たことも無いし行ったことも無い場所だった。

ひとまず起き上がって芝生に座ったままで、

立ち上がることさえ気力が沸かずに首を傾げた。

『起きた?』

「!?」

突然聞こえてきた声にびっくりして振り返ると、

そこにはいかにも女神様!って女性がふわふわ浮いている。

割と薄着でナイスバディ、背中にある天使みたいな羽が現実離れしていた。

絵画に描かれているようないかにもな女神様。

驚き過ぎて言葉も出ない。

『驚かせたみたいでごめんね、あなたはついさっき死んでしまったの』

(あ、これもしかして転生とかそういう?)

『あたり』

「心読まれてる…」

ふわっと笑う女神様に背筋が凍る。

『あなたは本来死ぬことはなかったんだけど、

 地球の神様が手違いで死なせてしまったみたいなの』

マジかよ…。

そんなうっかりで殺さないで欲しい。

しかし考えてみる、確か足りなくなった調味料を買うために、

マンションを出て階段を降りている時に転んだような…。

本当に死んだってことだろうか。

「あの、夫は…」

メイは専業主婦だ、夫が帰ってくる前に晩ご飯を作らないと。

『残念ながら死んでしまったから生き返ることはできないの、

 でも手違いで魂がここに来てしまったから、

 あなたが望むなら生き返ることは可能よ、ただし地球ではない別の星で』

(理不尽すぎやしないか)

『そう言われると私も困っちゃうのよね…』

心の声を聞かれていたとしても呟かずにはいられなかった、

と言うか本当に理不尽でなんと言えばいいのか分からない。

『いわゆる異世界転生ってことになるんだけど、

 それでもいいなら生き返らせれるけど、どうする?』

「………」

生き返るって言っても…。

元の世界で生き返ることは不可能みたいだし、

夫が居ない世界で生きていくなんてそれこそ不可能な気がする。

「このまま死んで地獄に行くことも可能なんですか?」

『…自ら地獄に行きたいなんて不思議な人ね』

女神様に苦笑いされてメイは俯いてしまった。

もう二度と夫には会えない、涙が滲んだが唇を噛み締めて飲み込んで、

しばらくしてゆっくりと顔を上げる。

「夫には幸せになって欲しいんです。

 私より素敵な人と出会って幸せになってくれないと死にきれません」

『約束はできないけど、私も女神としてあなた方の幸せを願うことはできます』

(そっか、良かった…)

ぽろりと零れ落ちた涙が芝生に染み込んでいく。

死んでしまったのは仕方がないし、夫が幸せになれるなら地獄行きでも構わない。

『こちらの手違いですから地獄行きは免れますよ』

「ありがとうございます」

手の甲で涙を拭ってぺこりと頭を下げる。

(私はあの人の足枷でしかなかったし、これでいいんだよね…)

『………そんなことないです、擦れ違いがあったとしても、

 あなたが足枷だったなんてことはありません』

メイは思わず鼻で笑ってしまった。

女神様がどこまで知っているかは分からないが、

足枷だと感じていたのは事実だから他人にどうこう言われても変わらない。

『まあとりあえず、新しい世界で人生をスタートさせてみませんか』

夫の幸せが確約されるなら地獄でも異世界でもどこだっていい。

「分かりました」

にこっと笑う女神様にどことなく気が抜けてメイも笑みが零れた。

 

『まず、こちらの手違いと言うことであなたには特別オプションを付けます』

「いいんですか?大盤振る舞いですね」

『お詫びです、地球の神様には私からお説教しておきますね』

「パワハラにならない程度でお願いします」

『優しいのね』

二人で微笑みあって、女神様から説明を受ける。

転生者であること、それに伴い特別なスキルが発動するらしい、

細かいことは現地で確認しろとのこと。

ただし異世界は剣と魔法のファンタジー世界であり、

魔物が居るから下手したら普通に死ぬらしいので気をつけるように。

異世界の基礎知識が全くないのでお供を付けてくれるようだ、

女神様が軽く宙を撫でるとそこから出てきたのは精霊。

「ノルウェージャンフォレストキャット!」

『あら、ただの猫精霊なのだけど…名前を付けてあげてね』

精霊らしい猫は大型の長毛猫で一度は飼ってみたいと思っていた猫種だった。

メイの趣味や好みを反映させているらしい。

茶色と白のハチワレで手足の白ソックスが可愛い。

『よろしくにゃ!』

「会話までできるとか流石精霊ですね…」

香箱座りしてるとブッシュドノエルみたいだな…じゃあ。

「ノエル。 で、いいかな?」

『はいご主人さま!』

元気な大型猫がメイの胸に飛び込んできた、

見た感じ6~7キロくらいありそうな大きさ。

ふさふさでもふもふ。

見た目に反して重さはあまり感じなかった、精霊だからかな。

『これからあなたが行く世界はアスガルド、

 細かいことはノエルが説明してくれるから、

 困ったときはノエルに聞いてね』

「はい」

『それから、スマホに様々な機能を持たせたからそれも活用して、

 アスガルドの世界を思いっきり楽しんで欲しいわ』

楽しむって、知らない世界に行く上に死ぬかもしれない危険な世界なのに、

楽しむことができるのか不安しかない。

『それじゃあ準備はいい?』

準備することが他にあるのか疑問だけど、まあいいでしょう。

「お願いします」

『行ってらっしゃーい!』

女神様が言った瞬間にふわっと身体が浮いた…いや、地面がなくなった。

「えっ 落ちるとか聞いてない!!!」

悲鳴さえ上げることができないまま落下していき、

地面に激突する恐怖に目を閉じたが衝撃がやってこない。

恐る恐る目を開けると地面に座り込んでいた。

そりゃあ転生してすぐに殺さないよね、でも落下の恐怖はあったぞちくしょう。

『ご主人さま、すまほを開いてください』

「ノエル冷静だね…はいはいスマホね」

ポケットからスマホを取り出してみると案の定圏外で、

時間はマンションを出て死亡した時間から少し経っていた。

夕方6時、晩ご飯の用意をしようと思ってたからお腹空いてる…。

スマホを指先でタップするとステータス画面が映し出された、

まるでRPGのゲーム画面のようで懐かしい。

そういったゲームをしたのはもう随分前なのでちょっと慣れない。

若い子ならすぐに順応するんだろうなぁ。

 

メイ・タケウチ  称号【転生者】

レベル1  HP 28/MP 5

 

■特殊スキル■

【コンビニ】

 

■固有スキル■

【神域の眼】【スマホ】【魔法カバン∞】

【マップナビ】【看視】【調合】

 

■サブスキル■

【女神の祝福】

 

■特性(ジョブ)■

・料理 B(普通の主婦、ちょっと料理が得意)

・召使 C(掃除や洗濯など普通の主婦)

・調合 C(見習い、初級ポーションが作れる)

・剣術 D(包丁の扱いに慣れている)

・魔法 F(生活魔法、火、水、風が少し使える)

 

■持ち物■

ショルダーバッグ、スマホ、財布、帽子、メガネ、エコバッグ

ハンカチ、ティッシュ、タバコ、ライター、自宅の鍵

 

「ちょっと待って、コンビニって何?」

異世界なのにまさかのコンビニの文字に目玉が飛び出るかと思った。

『それはご主人さまの特殊スキルでイナンナ様からの特別オプションにゃ』

「特別オプションでコンビニって有り得るの!?」

『もう付いちゃってるし』

この猫は驚かないのか。

他にもステータス画面には色々書いてあるけど、

コンビニ以外の説明文は読んでみても意味が分からなかった。

ようは慣れて覚えろってことかな。

固有スキルとかサブスキルとか本当に何なの…。

一番下には特性ジョブという項目があり、そこには自分にできること、

得意なことが書かれている、専業主婦だったし家事は分かるけど。

「調合って言うのは?」

『ポーションや薬を作れる薬師みたいな特技にゃ』

じゃあ今のところ得意なのは料理と調合(ポーション作り)のようだ。

こんなんで異世界を生きていけるのか不安だけど、その前に…。

「お腹空いたね」

『ボクは食べなくても大丈夫にゃ』

「そうなの?」

流石精r()

『大気中にある魔力で動いてるから食べなくても平気にゃ』

なるほど、この世界には大気中に魔力が漂ってる(?)のね。

改めてバッグの中を確認しようと広げてみるとそこには異空間が広がっていた。

「なにこれ?!」

『ステータスに書いてあった魔法カバンの効果で、

 亜空間に繋がってるから無限に物をしまえるにゃ』

「異世界スゲー」

『中身はスマホで確認できるにゃ』

マジ便利。

異空間なのか亜空間なのか分からないけど、

見ていると目を回しそうなので一度バッグのチャックを閉める。

スマホで確認すると元の世界からバッグに入っていた物がきっちり表示され、

他には特別な物は何も入ってなかった。

(どうしようかな)

辺りを見てみるとどうやら森の中のようでお店は無いし、

寧ろ街すら見当たらないので森からの脱出が先決かもしれない。

(でもコンビニが気になる)

きょろきょろと森を確認してから身を屈めてノエルの耳に内緒話。

「この特殊スキルっていうの、どうやって使うの?」

『念じれば使えると思うにゃ、ところでこんびにって何のことにゃ?』

ああ、うん…。 分からないよね。

念じれば使えるってどういうことだろう、

まさか武器にでもなるの?どうやって?

「………コンビニ」

ぽつりと呟いたら視界が瞬時に切り替わって瞬間移動した感覚。

驚いて固まっていると聞き慣れた入店音が響いていた。

(ファ○マの音だ…!)

もうどこから驚けばいいのか分からない、

おっかなびっくりで腰が引けてしまう。

見慣れたコンビニっぽいけど店員は居ないしセルフレジだ、

ひとまず晩ご飯を買いたいので適当にサンドイッチを手にレジへ。

セルフレジの横にはコンビニコーヒーがあって、はっと我に返る。

「………」

(大好きなコーヒー、私も夫も大好きだった)

泣きそうになる、本当に夫は幸せになれたのだろうか。

遠くから願うだけなら許してもらえるかな…。

女神様は言っていた、もう二度と元の世界には戻れないと。

だったら異世界で生きていくしかないじゃないか。

頭をぶんぶん振って思考を切り替える。

サンドイッチとコーヒーの会計を済ませて(日本のお金)

コンビニの自動ドアを潜り抜けたら先程まで居た森に出てきた。

相変わらずあの音を聞くと気が抜けそうになる。

『ご主人さまお帰りなさいにゃ』

「ただいま」

ノエルが足に纏わり付いてきてほっとする、一人じゃないのは心強い。

腹ごしらえをしたら森を抜けようと心に決めて、

大きな木の下に腰掛けて買って来たサンドイッチの封を切る。

買って来たのはたまごサンドとハム&レタスサンド、そしてホットコーヒー。

前世界と変わらない香りがして若干気持ちが沈んでしまう。

匂いは記憶と結び付きやすいって本当だな…。

たまごサンドに被り付いたらノエルがじっと見上げてきたので、

食べたいのかな?と思って少し千切って差し出すと、

ノエルは美味しそうに食べてくれた、猫って雑食だよね?

あ、精霊だから大丈夫なのかな?

時間的にそろそろ日が沈む頃だが、森の中なので更に暗く感じる。

早くここから脱出しないと本当に魔物に襲われるかもしれない。

サンドイッチを食べ終えてコーヒーも飲み干したら、

ゴミをどうしようか考える、そこらへんに捨てる訳にもいかない、

分別とかこの世界の基準が分からないし、

前世界のゴミなんてここには残したくない。

「コンビニにゴミ箱ってあるのかな」

ふと思い至ってもう一度『コンビニ』を念じてみる、

そうすると再びコンビニの自動ドアの中に瞬間移動で入店。

やっぱり聞こえてくる音に毒気が抜かれる。

ドア近くにあるゴミ箱にゴミを捨てて店から出た。

(傍から見るとどんなふうなんだろう、いきなり姿が見えなくなる感じ?)

自分以外にコンビニの自動ドアは見えるのかどうか、謎。

さて、そろそろ本気で森を抜けなきゃ。

ショルダーバッグをぐっと掴んで気合を入れた時だった。

「おい」

低い声が聞こえてびっくりして身が竦む。

恐る恐る振り向けば背の高い男性が立っていた、

バスケ選手並に背が高くて一瞬魔物かと思っちゃった。

「は、はい…?」

人っぽいので返事をしてみる。

男は銀髪で鋭い目付き、動きやすそうな鎧を着ていることから戦士みたいな風体。

本当に剣と魔法のファンタジー世界であることを実感する。

無表情だからちょっと怖いけど、この世界に来て(落ちて?)初めて会う人間に、

どこか安心したような気になった。

「ここは街から随分離れているが、もしかして迷子か?」

「あー えっと、迷子ですね」

なんせここがどこだか分からない。

焦って答えたが男はじっと見下ろしてくるばかりで動かない。

どうしよう、逃げた方がいいのか?

「ここはアルバート領だ、近くの街まで案内するから付いて来い」

「いいんですか、ありがとうございます」

アルバート領ってのが既に分からないが助けてくれるらしい。

知らない人に付いていくのはよろしくないけれど、

この世界に来たばかりだから知ってる人が居る確率はゼロである。

「身元確認のため【鑑定】させてもらうが、いいか?」

「か、かんてい???」

「固定スキルだ、名前や状態異常などを見る」

こ、こていすきる???

ああ、確かステータス画面にそれらしいことが書いてあった気がする。

確かに迷子とは言え、この男性とは初対面なのだから身元確認は当たり前か、

きちんと前もって言ってくれてるし大丈夫だろう。

「…ふむ、一般人か。

 こんな森の奥まで何の用事だ」

なんて答えればいいんだろう、異世界から来ました!とは言えないよな。

男はこっちだ、と顎をしゃくって歩き出したので追い掛ける。

メイの歩調に合わせてゆっくり歩いてくれるのでありがたい。

「用事と言うかなんと言うか…」

「深くは聞かない、事件性が無ければそれでいい」

「事件ではないですよ」

「アルバート領で身元不明の迷子は一度こちらで保護することになっている。

 どこのどいつか判明すれば解放されるだろう」

「………」

判明することはまず無い。

どう説明するべきか悩んでいると男が立ち止まったのでメイも足を止める。

「訳あり…か?」

「…そうですね」

「なるほど」

短く答えて男は再び歩き出す。

「ところで、あなたは…?」

「申し遅れた、俺はウィルだ、冒険者をしている」

「冒険者!?」

そんな職業があるのか!やっぱりここは剣と魔法のファンタジー!

斜め前を歩く男を見上げて、銀髪がキラキラと揺れていて魅入ってしまう。

白髪ではないしロマンスグレーという訳でもない、不思議な銀色。

動きやすそうな鎧に暗い色のマントを翻して、かなり背が高いから山のようだ。

「いいですね冒険者、私も世界のあちこちを巡ってみたいです」

「そんな簡単じゃないがな」

確かに、魔物が居るみたいだし簡単ではないだろう。

前世界でも日本は平和ボケしてるとか言われてて、他国に比べて治安は良かったし。

でも、世界各国を巡るのは夢のような話だ。

前の世界で旅行は国内だけだったし頻繁には行けなかった、

パスポートすら持ってなくて海外なんて行ったことがない。

まあ異世界には来ちゃったけど。

「一人で生きていくにはどうしたらいいですかね、

 冒険者は難しそうだし」

「さっき見た特性で調合があっただろう、

 薬師としてどこかのパーティに入れてもらえば可能じゃないのか」

「そういうもんなんですか?」

今まで一度も【調合】なんてやったことないし、

余裕があれば試してみたいけど、それよりも先に安全な場所に行かないと。

でも冒険者か、ちょっと興味がある。

元世界ではなかなか居ない職業だし自分でもなれるならなってみたい。

そんなこんなで、冒険者に付いて話を聞きながら歩くこと一時間、

やっと街が遠くに見えてきて日が沈んで真っ暗になっていた。

「ひとまず街にある役所で迷子の確認と 」

男、ウィルが言いかけたところでメイは首を振る。

「森の中で迷子にはなってましたけど、

 私は身寄りもなく一人きりなので届出は出されてません」

「………」

「適当に宿屋を探してなんとかします、

 街まで案内してくれてありがとうございました」

無言で見下ろされる、なんとなく居心地が悪くて目を逸らし俯いた。

真っ暗だけど街頭の灯りが僅かに影を作る地面、

甘えるように足に擦り寄るノエルと目が合った。

ぐぅううう~。

聞こえてきた音にパッと顔を上げると、

若干恥ずかしそうにしているウィルが顔を背けていた。

「夕飯時ですもんね」

ちょっと気が抜けて笑みが零れてしまった。

「この後、飯を食うから問題ない」

「あ、じゃあちょっと後向いてもらえます?」

「?」

不思議そうにしながらも後を向いてもらえたので、急いでコンビニへ行く。

少し肌寒いから温かい物が良いだろう、適当に肉まんとファ○チキをお買い上げ。

退店音を聞きながら戻ってきて、ウィルの背中を軽く突く。

「こちらをどうぞ、案内してくれたお礼です」

「これを…?」

手渡された肉まんとフライドチキン、ほかほかでウィルは戸惑いの表情だった。

一体こんな温かい物をどこに隠していたのか。

「温かい内にどうぞ」

言うとウィルは手にした肉まんをひとくち。

「うまいな」

「寒いと余計に美味しいですよね」

フライドチキンにも被り付いたウィルは驚きなのか目を見開いて。

(うまい!!!)

「どこで入手してきたんだ?」

素朴な疑問だが答えていいのか悩む。

「なんだっけな、特殊スキルを使って…」

「興味深い」

一気に食べ終えてしまったウィルは興奮しているが、

元々無表情がデフォの男なのでメイには伝わっていないようだ。

「食べ物を召喚できるなんて珍しい」

そういう訳ではないんだけど…返答に困る。

「他にも何か召喚できるのか? 例えば飲み物や…」

「………」

どう答えようか迷っているとウィルはハッとして言葉を切った。

「不躾だった、申し訳ない」

「いえ…」

「それならその商品を売り出してみてはどうだろうか、

 商人ギルドに登録すれば商売ができるぞ。

 どちらも温かくとても美味しかった」

商人か~どうしようかな、てかこれって転売になるのか?ちょっと嫌だな。

どうしても必要でこれじゃないとダメ!って言う人が居れば、

仕方ないけど転売してもいいかなと思うけど、

転売がメインになるのは良心が痛むと言うかなんと言うか。

「その前に、身分証すらないので登録できるかどうか…」

ふむ。とウィルは少し考える。

ウィルからゴミを受け取ったメイはゴミを丸めてバッグの中へ。

免許証はあるけどこの世界で通用するとは思えないし、

もっと言えばお金だって違うかもしれないし、行く先が不安で心細くなる。

しばらく無言で佇む二人。

意を決したのかウィルが右手を差し出してきた。

「俺はウィルフレッド・アルバート、

 このアルバート領を治めるアルバート公爵家の三男だ。

 俺の後ろ盾があれば冒険者ギルドも商人ギルドも登録できるだろう」

その右手はよろしくの握手だったようだ。

公爵って確かものすごく位の高い貴族だったはず…。

そんな人が後ろ盾になってくれるなら願っても無いことだ、

しかし初対面でそこまでお願いしてもいいのだろうか。

彼の右手を見詰めて言葉に詰まる。

「ここは甘えておけ、身元不明のままでは生活すら立ち行かなくなるぞ」

「そういうことなら…よろしくお願いします」

ごつごつと無骨で大きな手をそっと握ると、

ウィルは優しく握り返して小さく笑ってくれた。

無愛想だけどイケメンが少しでも微笑むと威力が凄い。

これが乙女ゲームならきっと攻略対象なんだろうな。

 

宿の前に腹ごしらえをするらしく居酒屋のような食堂に案内された。

お店に入る前にノエルにはバッグに入ってもらって、

スマホで確認したら荷物の一覧にノエルが居て複雑な気持ちに…。

店内は大繁盛で周りの客は高確率で酒を飲んでおり騒がしいが、

ウィルが注文してくれた料理は大盛りで美味しそうだった。

奢りだと言ってくれたので少しいただくことに。

何の肉か分からないが焼き加減が絶妙でジューシーな料理や、

すっぱいレモン風味のドレッシングが掛かったサラダ、

じゃがいものポタージュまであってもうお腹一杯。

でもなんだろう、新鮮でジューシーだけど味がぼんやりしてるような、

まずくはない、ないけど…物足りない感じ。

恐らく下味せず軽く味付けしただけのようで、

香辛料やにんにくなどの香りが足りないのかなと推測。

奢りなので文句は言わない。

食べながらお酒(エール)を飲みつつ今後の話し合い。

「まずは何をしたいかによって行動が決まる」

「はあ」

「冒険者と商人のギルドに登録できればそれが身分証となるから、

 王族や農民以外はだいたいが登録してるんだ」

なるほど…。

「あちこち旅行をしたいなら冒険者ギルドで護衛の依頼をするのも良い。

 街を巡りながら商売もできて日銭も稼げるし旅費の心配もなくなる」

それはよい循環かもしれない。

正直この世界で貯金してもあんまり意味がなさそうだし。

勿論あって損はないだろうけど。

「調合のジョブ持ちだしポーションを冒険者ギルドに売れば、

 ポーションの出来によって高値で買い取ってくれるし、

 商人じゃなくても生きていけそうだな」

「ポーションですか、作ったことないんですけどどうすれば…?」

「普通は薬草や特定のアイテムをすり鉢で砕いて混ぜて、

 沸騰したお湯に入れて魔力を込めて煮込み、それを濾せばいい」

正直めんどくさい。

そもそも薬草とかアイテムってどこで手に入るんだろう、

ポーションを作る前から躓いてて挫けそうだ。

するとウィルがじっと見詰めてきてメイは首を傾げる。

「薬草や必要なアイテムはダンジョンに潜ればそこらじゅうにあるぞ」

「ダンジョン!?」

怖い!それって確実に魔物が居ますよね!

と言うか、本当にファンタジーの世界だな。

ダンジョンの中でもコンビニって発動するのかちょっと気になる。

「なら、明日は俺とダンジョンに行くか」

「え?」

思いもしないことを言われて目が点になった。

「俺は冒険者だ、丁度依頼も無いし余裕があるから、

 メイ・タケウチの護衛の依頼を受ける条件で一緒に行ける」

鑑定したから名前がバレてんのか、いきなり名前呼ばれてびびった。

「で、でも、報酬をお支払いするだけの手持ちが…」

「後払いでいい」

どうしてそこまで親切にしてくれるんだろう。

身元不明で同情してくれてるのかな?それとも…。

(肉まんとファ○チキの効果か!)

健康には良くないだろうから大量には差し上げられないけど、

できればポーションを作ってみたいのでダンジョンに行ってみようと思う。

 

と言うことで、食事を済ませた後に宿屋へ赴き(食堂の二階だった)、

ウィルが部屋を取ってくれたのでお言葉に甘えて泊まることになった。

ちなみにウィルは隣の部屋なので何かあれば声を掛けてくれと言われた。

どこまでも優しい人だ、見た目は無表情でとっつき難い人だけど。

部屋にはシャワーがあったので安心、しかし困ったことに着替えが無い。

「コンビニで売ってたよね確か」

手持ちの現金(一万円)が足りるか不安になりつつもコンビニへ。

今日だけで何回来てんだよ常連かよ。

衣類が並ぶ棚の前で立ち尽くすメイ。

「ブラが、無い…だと…!?」

スウェットもTシャツも、ショーツもあるのにブラだけ売ってない!!!

おかしいな…カップブラが付いたキャミソールが売ってた気がするんだけど、

もしかして取りやめになってしまったのかそれとも…。

(あ、ファ○マじゃなかったとか!?)

セ○ンなのかロー○ンなのかミニス○ップなのか…がっくり項垂れる。

仕方ないのでスウェットとTシャツとショーツだけ買って戻ってきた。

なんだろうこの敗北感…。

一日あればブラは乾いてくれるかな…生乾きになっても諦めるしかない。

シャワーを浴びてブラを手洗いして室内干しにする、

スウェットに着替えベッドに腰掛けた。

先程の買い物で所持金が底を尽きそうで不安が拭えない、

明日からどうしよう、死ぬ気でポーション作らないと!

そうだ、ポーションの作り方をノエルに確認しとこう。

「ねえノエル」

『はいご主人さま』

ベッドで寄り添っていたノエルが顔を上げる。

「調合のスキル?ジョブ?でポーションが作れるみたいなんだけど、

 作る道具とかってどこで借りられるのかな」

確か茹でて煮詰めて濾すんだよね?

するとノエルがきょとんとして。

『素材さえあればスマホのアイテム欄でドラッグ&ドロップすれば作れるにゃ』

「…え?」

そんな簡単に作れるの?

もしかしてそれも女神様の特別オプションですか?

じゃあ素材を集めたその場で作り出すことも可能ってこと?

なにそれ超便利。

『ちなみに称号【転生者】の特別効果で成功率も上がってるし、

 効能も少し上がるみたいにゃ、後でもう一度ステータスの確認をして欲しいにゃ』

すり鉢を使ったりお湯を沸かしたりと言った面倒なことが省略されて、

ダンジョンから戻ったらすぐにでも売却できるとか…夢のようだ。

「女神様って太っ腹だったのね」

『イナンナ様は太ってないと思うにゃ』

ああ、確かにナイスバディだったね。 いやそうじゃなくて。

「てか、イナンナ様?」

『他にもヌト様やイシュタル様とも呼ばれてるにゃ。

 いろんな名前があるけどボクはイナンナ様って呼んでるにゃ』

なんか分かる気がする。

日本の神様も別名が多かったような…。

事代主が恵比寿神だったりアジスキタカヒコネだったり、

迦毛之大御神とか他にもいろいろ…覚えてないけど。

まあ名前なんて後から人類が付けた物だろうしどれも正解なのかもしれない。

そもそも人名なのか役職名なのかも不明だし。

「明日は初ダンジョンか~いよいよ冒険だ。

 専業主婦が冒険なんてできるのかな」

『やりたいことをやる、それがこの世界にゃ』

「…そっか」

やりたいこと。

前の世界でそれは難しいことだった。

若い頃に仕事でパワハラのストレスに耐えられずうつ病になり退職、

それを当時彼氏だった夫が支えてくれて、

なんとか料理を作れるようになって結婚した。

それなりに立ち直ってはいたけど外で働くことができなくて、

専業主婦として夫と暮らしていたけど…。

彼はとても出来た人間で、私より素敵な人ともっと幸せになるべき人だと思う。

私は彼の足枷になりたくなかったんだ。

ウィルに頼ることになるけど、私にも冒険ができるだろうか。

「冒険者、か…」

危険を伴うけどわくわくする響き。

おばさんになっても夢を持つことは許されるだろう。

灯りを消してベッドに潜り込む。

「ノエルおやすみ」

『おやすみなさい、ご主人さま』

メイの足元でノエルが丸くなって、若干の重みを感じながら目を閉じる。

怖いけど行ってみたい、ウィルが護衛してくれるしたぶん大丈夫。

この世界では、誰に依存することなく自分の足で立てるようになれたらいいな。

 

───

 

朝になって身支度をしてから改めてスマホを確認することに。

この世界で生きていくためにきちんと内容を把握しておく方がいいだろう。

まずは称号【転生者】をタップしてみる。

 

称号【転生者】

《神からの加護を受けているためステータスのパラメーターが5%増し

 経験値も5%増しになる、ドロップ率も高くなってレアドロップも5%上がる

 料理や調合などの成功率も5%上昇

 女神により異世界の言葉が理解でき読み書きができるようなっている

 転生者は千年に一度あるかないか》

おい待て、転生者すごいな!

 

■特殊スキル■

【コンビニ】

《異世界では謎のスキル、メイしか持っていない、現代風のコンビニへ行ける

 入店すると某コンビニの音が鳴る、亜空間への逃げ道としても使える

 入店できるのはメイのみ、精霊でさえ入ることはできない

 コンビニはセルフレジとなっており

 このスキルのコンビニに限りお会計の端数は切り捨て

 支払いは現金のみでカードは使えないしATMは無し

 ちなみにお得なポイント制度などは一切無い

 商品の入荷は買った瞬間(購入支払い直後)に補充されるので品切れの心配なし

 コンビニなので野菜は気持ち程度にしか売っていないし精肉は無い

 現代と同じく商品はスーパーに比べて若干割高》

それもうファ○マですよね。

 

■固有スキル■

【神域の眼】

《いわゆる鑑定スキルの最上位、様々なスキルと連動できる

 人やモンスター、アイテムに至る全てのステータスが視れる

 生物の場合特異性や弱点なんかも、アイテムは使用方法や採取できる場所など

 神域の眼により他者の鑑定スキルでメイの全ステータスを見ることはできない

 見えても名前やレベル、冒険者ランク、特性(ジョブ)まで》

最上位とか奮発しすぎじゃないですか!

 

【スマホ】

《電話やメールは使えない、バッテリーは魔力で充電されるので常に満タン

 マップを表示させたりメモ帳代わりになり

 人に画面を見せることで情報の疎通ができるようになる

 前世界の料理レシピと異世界のポーションレシピが記録されている

 カメラ機能を使って写真や動画を保存できる

 自身のステータス画面を表示したり、カバンの中身を簡略化して表示できる

 画面上でドラッグ&ドロップで調合できる

 ちなみにスマホは紛失しても戻ってくる

 どんなに乱暴に扱っても絶対に壊れないし画面は割れない、ある意味最強の防具》

まさかのスマホが伝説級に最強の防具でした。

 

【魔法カバン∞】

《マジックボックス、無制限

 ただし人間は不可(ノエルは精霊なのでOK)

 カバンに入れた瞬間から経過時間が止まり鮮度はそのままになる》

鮮度そのまま!?冷蔵庫みたいに使えそうだ。

 

【マップナビ】

《世界地図の最上位、指先で拡大縮小可能、簡略化された2Dと写真を選べる

 神域の眼で視たアイテムを指定すればナビしてくれる(薬草など)

 スマホとも連動することができる》

グー○ルマップかな?

【マップナビ】をタップしたら視界の左上に小さいマップが表示され、

建物の名前や道路などが簡略化されたように見やすくなっている。

視界の中で指先を使い広げたりできるのはなんだか不思議な感覚。

メ○バースみたいな?近未来の映画みたい。

 

【看視】

《自身の周辺をサーチしマップに反映させる、半径10m前後

 神域の眼の効果でマップと連動しており薬草など欲しい物や生物反応などサーチし

 色分けして目印を付けてくれる、フルスクリーンにすると視界にも目印が見える》

どうやら言葉で発すれば一定時間発動するようだ。

 

【調合】

《魔法カバンの中で素材があれば、スマホのアイテム一覧で選択指定して調合でき

 神域の眼の効果によりある程度のレシピが既に登録されている

 ただし死者蘇生は不可、存在しない》

指先ひとつで薬が作れるのか?便利すぎてバランス大丈夫か。

 

■サブスキル■

【女神の祝福】

《状態異常耐性、物理耐性など一般人の倍くらい耐性がある

 それに伴い身体がやや丈夫、長生き、補助魔法の上乗せは可能

 筋肉痛や眼精疲労になり難い、四十肩やぎっくり腰とは無縁

 自律神経が整いホットフラッシュも最小限

 残念ながら見た目や身長体重は前世界からの引き継ぎ

 勿論、油断していると太る》

おい最後!!細くしろとは言わないから現状維持でお願いできませんかね!

サブスキルは勝手に発動してるバフみたいな感じらしい。

生理が上がりそうだからホットフラッシュに悩まされていて、

それが少しでも改善されているのは心底嬉しかった、マジで。

まあ、前世界からの引き継ぎってことは近い内に生理は上がるんだろうな…。

けれど、ここまで至れり尽くせりだったら冒険は少し楽になる、

ベテラン冒険者に比べたらお子様みたいなものだろうけど無いよりマシだ。

朝ごはんはウィルと取ることにしてスマホをポケットに捻じ込んで、

いよいよ冒険の始まりだ、ドアを開けて一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

続く




俺TUEEEEEとかざまぁwとか、そんな展開は特にありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。