やっと王都に到着です
話しが長くなるかもしれないので二人は近くの岩場に腰を下ろす。
膝の上にノエルが乗ってきてそのもふもふを撫でながら、
話をするタイミングを計るのが難しいけど一度深呼吸。
「夫のことは今でも大切で、幸せになって欲しいと思ってる」
メイが前世界で死ぬまで夫と二人で暮らしていた、
うつ病になってから支えてもらって、結婚してからも支えてもらった。
「普通の夫婦ではなかったよ、どちらかと言えば友達みたいな兄妹みたいな」
だからなのか、周りからの声は非常に苦しい物があったのだ。
「結婚して20年、そろそろ耐えられなかったんだと思う」
「何故…?」
20年も一緒に居たのなら円満夫婦と言えなくない、
どちらがどう支えていたかは分からないけれど、
長年連れ添ったのならおしどり夫婦だったのだろう。
「私の方が耐えられなかったんだ。
病気で支えてもらって、夫の幸せを奪ってるみたいで」
「………」
まさかメイが病気だったなんて初耳だ。
「心の病だったからいつ完治するって分からないし、
なにより…子供が居なかったの」
ああ…そう言うことか。
「夫は素敵な人だった、でも…私には子供を産む勇気がなくて、
気が付けば子供を授かるタイムリミットが過ぎちゃった…。
彼には私よりもっと良い人と一緒になって、
子供を設けて幸せになって欲しいの」
俯いているメイの手にそっと手を添える。
どんな世界でも子供を授かれる可能性は100%ではない、
いくら魔法が発達していても、いくら科学が発達していても、
神のみぞしる生命の左右は誰にも分からない。
例え子を宿せる身体だったとしても心の問題だったり、
金銭的に無理だったり、育った家庭環境など人それぞれ理由があるのだ。
「メイも幸せになっていいんだ」
素直な言葉が吐いて出た。
だってそうだろう、メイが夫の幸せを願うのと同じ様に、
ウィルもメイの幸せを願って何が悪いのか。
同じ冒険者で仲間だからというだけの理由ではない、
今なら分かる、これは本当に個人的な理由だ。
「だからさ、こっちの世界にきちゃって戻るに戻れないし、
私も私で幸せになってもいいのかな…って」
「当たり前だ」
力強く答えてくれるウィルの声が胸に沁みていく。
その言葉がどれほど背中を押してくれることか。
「でね、もし良かったら…ウィルと一緒に冒険をして、
この世界を見て、幸せになれたらって思ってる」
いつの間にか心を占めていたウィルの存在。
困った時に助けてもらったり、危機に陥った時も助けてもらった、
いつも傍に居て勇気付けてくれたり、冒険者としての心得も教えてくれた。
見た目こそ釣り合わないけど仲間として隣に立つことを許されて、
これからも一緒に楽しく冒険をしたいと強く思ったんだ。
寧ろ、ウィルと一緒だから冒険をしたい。
自分一人では何もできなかったけど、ウィルが居るから冒険者になれたんだ。
この人と一緒にこの世界を見たい。
「未だに戦いは苦手で料理しか作れないけど、
これからも仲間として一緒に冒険してくれる?」
「勿論、俺からもお願いしたい」
見詰め合い二人して笑う、恥ずかしいけど嬉しい、
言葉にできない何かが胸の中で熱く渦巻いて叫び出したい。
「やっぱり、ウィルに出会えて良かった」
「ああ、俺も…」
メイに出会えて良かった、本当に、心からそう思う。
まるで青空みたいに、透き通る空みたいに、
メイの笑顔を見てウィルは耐え切れずメイをぎゅっと抱き締めた。
「だから、ずっと傍に居てね…」
小さな声を耳が拾って、更にメイをぎゅっと抱き締めることで返事をした。
これが『好き』と言う感情で合ってるんだ、きっと。
仲間でもないし家族でもない、師弟関係も間違ってはいないが、
もっとその先、メイをずっとずっと抱き締めていたい。
特定の誰かをここまで大切に思ったことはない、
自分がこれほど誰かを大切に思えるなんて知らなかった。
奪うのではなく包み込んで守り、あなたの幸せを第一に考えたい。
ダンジョンからの帰り道、繋いだメイの小さな手を握って心に刻み、
この命が果てるまで守ろうと強く誓った。
ぬくもりが愛おしい、小さくて一生懸命に生きている彼女が愛おしくて堪らなかった。
次の日、メイとウィルが若干よそよそしい空気だが、それ以外はいつも通り。
朝食は何故か皆でふりかけご飯になった。
ちなみに丁度良い茶碗が無いので普通の平皿に盛っただけ、フォークで食べます。
ウィルもミィナもお米が食べられるようになったし、
リックは初めて見る食べ物に興味津々だったから。
ふりかけご飯だけでは色々と足りないのでサラダと味噌汁も準備しました、
おかずは昨日市場で買ってきた魚の塩焼きです。
内陸だから川魚だけど結構大きくてトラウトっぽい感じで、
味もしっかりしていてとても美味しかった、ごちそうさまです。
できれば納豆も食べたかったけど臭いが気になるので辞めときました。
生まれてこの方ずっと箸を使っていたから、
ナイフとフォークで和食を味わうってちょっと不思議な体験でした。
「お味噌汁美味しいね~」
「故郷が懐かしい…お米も食べられるなんて幸せ」
故郷…メイの故郷はどんな所なのか今度聞いてみようかなと思うウィルだった。
朝一で馬車に乗り王都へ向かうことになった。
定員的に一人乗れないので、リックには御者の隣に乗ってもらうことに。
「わ、私が御者と乗りますからぁああ!」
エリンが泣きながら叫ぶけどリックがそれを断る。
「俺が後から付いてきたんだし、御者の隣でいいよ」
「でも、でも…っ」
うるうる見上げてくるエリンにリックもたじたじになっていた。
結局ウィルがリックを追い出してリックは御者の隣に落ち着きました。
順調に王都へ向かい、寄り道せずに二日後には到着。
途中でダンジョンに寄ったりしてたから結構日数が掛かってしまった、
メイは王様からいただいた服に着替えて謁見用の部屋へ向かう。
豪華な乗馬服っぽい感じで緊張する、てか本当にサイズどうやって調べたんだ…。
何故かウィルはいつもの鎧ではなく正装に着替えていて、
しかも髪をアップにしているから男らしさマシマシじゃないですか、
雰囲気が普段と違って格好良い…やっぱりこの男は美人だ。
ミィナは用意されていたドレスに着替えたのでお姫様みたい。
ちなみにリックはエリンと一緒に客室でお留守番です。
「この服動き難い…」
文句を垂れるミィナを無視してウィルが扉の前で声を掛け、
内側から返事が聞こえたので近くに居た護衛騎士が扉を開けてくれた。
中は広く豪華で王様らしき人とインテさんと…誰だ? 何人か居る。
ウィルが挨拶をしたのでメイもミィナも真似て挨拶をする。
「よく参ったな、楽にしてくれ。
それで、メイ殿は冒険者になったそうだな」
「はい」
「ここガルシアをゆるりと巡り見て回って欲しい、
冒険者になるのが一番だと私も思う、良い選択だ。
ウィルも一緒なら問題なかろう」
国王陛下はメイよりちょっと上くらいに見えた、
だが王族は長寿なのできっと見た目よりずっと年上なのだろう。
「それから、メイ殿にはこの国が預かる身であることを許して欲しい、
まあ色々と厄介ごとから守るにはこれが一番だからな」
「はい、心得ております」
「ではリオン」
名前を呼ばれたおじ様が小さく返事をしてメイに近付き、
宝箱みたいな物を差し出してきた、蓋が開いていて中身を見てみると。
(腕輪…?)
ゴールドの腕輪で竜のレリーフが薄く彫ってあり、
竜の手には見事なダイヤが輝いていた。
「それは王家の証だ、メイ殿には着けていて欲しい、
何か困ったことがあれば役に立つだろう」
えええ? 王家の証とか貰っちゃっていいの!?
服だって貰ってるのにどうしよう!
ちらっと隣のウィルを見ると小さく頷いているので、
メイは恐る恐る両手を出して宝箱を受け取った。
「あ、ありがとうございます」
「それからミィナ、エルフの族長には手紙を送るがいいか?」
「はい!でもまだ帰りたくないです!」
もの凄く緊張しているのかミィナは直立不動だが、
思ったことがそのまま口から出ているようで、ウィルは顔が青ざめている。
「メイちゃんと一緒に冒険をしたいから、まだ帰りません!」
一瞬空気が凍ったけど、国王陛下が吹き出して笑ったことで場が和み、
うんうんと頷いてミィナの願いを聞き届けてくれた。
最後にメイは腕輪を左腕に装着させてもらい謁見を終えることになった。
謁見を終えて客室に戻ると、ウィルだけでなく数名が付いてきた。
「おかえり~王様どうだった?」
「めっちゃ緊張したー!」
待っていたリックとエリンに迎えられメイはソファに腰掛け、
ミィナは早くドレスを脱ぎたいと拗ねてしまった。
「お疲れ様ですメイ様」
あれ?王様の隣に居たおじ様が付いてきてる、リオンさんだっけ?
「父上…、しばらく休憩させてもらえませんか」
父上!?
言われてみれば似てるかも!
銀髪を撫で付けてダンディな感じの…と言っても見た目は六十歳前くらいで、
年上だった夫に近い雰囲気がある、リオンさんは一体いくつなんだろう。
ちなみにインテさんも部屋に居るのだが無言で立っているだけ、
アルバート家ってなんか不思議だ、会話が全然無い。
「国賓に対して礼儀を尽くすのは国としても 」
「いいですから!」
リオンさんの言葉を遮ってウィルが部屋から追い出し、
ついでにインテさんまで追い出してしまった。
ああ、多分恥ずかしかったんだろうな…親に友達を紹介するのって。
休憩と言っても夜には歓迎会と称した宴会があるそうで、
服はこのままで着替えず待って欲しいとのこと。
歓迎会まで時間があるし王宮を見学するか街に戻って見て回るか悩む。
「メイ」
「なに?」
ソファに座るメイの近くに来たウィルが耳打ちをしてきた、くすぐったい。
「会わせたい人が居る…と言うか是非メイと話しがしたいって人が居るんだが」
「会わせたい人?」
「謁見の時に国王陛下の後ろに居た第二王子だ」
そう言えば王様の後ろに若い男が二人居たな…。
どっちかが第一でもう一人が第二だったのかな。
緊張しすぎて周りを良く観察できなかったから顔まではっきり覚えてない。
まあでも断る理由もないし会ってもいいけど、
話したいって転生のことで何か聞きたいのだろうか。
OKの返事をしたらウィルが部屋から出て行ってしまって、
残った四人(ミィナ、リック、エリン)で小さなお茶会をした。
紅茶はエリンに任せてお茶請けはコンビニで買ったサクサクのバタークッキーでした。
しばらくして戻ってきたウィルと共にやってきたのは、
謁見した時とは違う離れた場所で、王宮の中でも王族が住まう領域らしい、
第二王子と歳が近かったウィルは、幼い頃第二王子と一緒に育ったとか。
育つと言っても教養を学ぶためのもので前世界で言うところの学校とは違い、
専属の家庭教師が付いて歴史や座学、マナーなど様々なことを学んだとのこと。
なので今でも気心が触れていて、魔法の話しになると止まらなくなるそうだ。
第二王子は王族の中でも魔法に優れていてウィルと話しが合うとか。
部屋に案内されて待っていたらこれまた美形の男性が入ってきて、
そう言えばこんな顔だったかも…と先程の謁見を思い出していた。
「先程ぶりですメイ殿、私は第二王子のエドガーです、お見知りおきを」
「ど、どうも、よろしくお願いします」
エドガー王子はすらっとした美形でプラチナブロンドの長髪が眩しい、
エメラルドグリーンの瞳が更に美しさに拍車を掛けている。
切れ長の目で見詰められると思考まで読まれそうでちょっと怖い。
冒険者ではないのでランクは無いが、魔法の扱いに長けていて相当強いらしい、
ウィルが言うには冒険者であればランクA~S相当とのこと。
ウィルもそうだがエドガーも婚約者が居ないので、
舞踏会ではかなり人気があるらしい(エリン情報)
そりゃこれだけ美人だったらねえ…。
しかし何の話かと思ったら何のことはない、前世界について色々聞かれた。
今までウィルにも話してなかったからウィルも聞き入っていたようだ。
メイが居た前世界では魔法がなくて科学が発達していたとか、
スマホを見せながらこれで遠くの人と会話をしたり、
カメラ機能で写真を撮って送ったり、動画も撮れたりするんですよー。
試しにウィルの写真を撮って画面をエドガーに見せる。
馬車ではなく金属で出来た乗り物で移動したり、
遠く離れた地域の出来事を映像として見れるテレビなる物もあったり、
毎日の天気予報を知ることだってできたり。
そして食について。
日本は前世界でもちょっと特殊だったと思う、
他の国よりも食に寛容と言うべきか、世界各国の料理が食べられたり、
内陸も海産物も豊富で食に関しては説明しきれなかった。
コショウや砂糖も手頃に入手できるし、他のスパイスも安い。
そんなに高いお金を払わなくても外食では美味しい物が食べられるし、
物価高の傾向だったけれど、他国に比べればマシな方だったと記憶している。
「かなり恵まれた環境だったのですね」
「そうですね、私が居た国は他国より治安が良かったですし、
住むには文句なかったと思います」
(ただ…)
しかしそれは夫の支えがあったからだ。
日本は高齢化社会になってきたし仕事だって景気が落ち気味で不況だったと思う。
夫は大手企業だったからリストラとか無かったけど、
改めて考えると本当に恵まれた環境で生活していた。
ブルーカラーと言えども年収は1200万くらいだったし、
共働きをしなくても充分に蓄えもできるくらいの生活水準だった。
まあ夫は50歳を越えていたからそのくらいの年収だった訳だが。
今までもこれからも夫には感謝している。
一通り話し終わりメイは少し疲れてしまったので、
エドガーには悪いが切り上げさせてもらった。
ウィルと客室に戻りながら王宮を歩き、綺麗な中庭を見下ろす。
今も昔も守られてばかり…独り立ちって難しいな。
溜息が出そうになった処でウィルに手を引かれた、
驚いて顔を上げると真剣な顔で見詰めてくるウィル。
「少し中庭を散歩しよう」
「う、うん…」
きっと気を使ってくれたんだな、ウィルは優しい。
落ち込んでる訳じゃない、未来が不安で足が竦むと言うか、
そもそも独り立ちってどこがゴールなんだ?
漠然と不安に駆られて立ち止まってしまった感覚だった。
広い場所に置き去りにされて前後左右が分からない真っ暗闇みたいな。
でも、ウィルの大きな手がとても頼もしい。
立ち止まってもいい、過去を振り返ってもいい、
前に進めなくても遠回りでも、この大きな手は優しく包み込んでくれる。
美しいバラ園を歩きながら、正装のウィルが格好良すぎて緊張しつつ、
中庭にある東屋(ガゼボと言うらしい)に来て腰掛ける。
バラだけでなく小さな噴水も見えてとても見晴らしが良い、
こんな場所で二人きりとかデートみたいでドキドキするけど、
メイは思考が重苦しくマイナスに傾きそうだった。
未だに繋いだ手、ウィルの大きさに怖気づく。
手の大きさだけじゃない、公爵家の人間だったり第二王子と仲が良かったり、
冒険者としてランクSだったり、そしてなにより美しくて。
(釣り合わないって分かってる)
ちょっと前にどこぞの令嬢に言われたじゃないか、
平民風情が公爵家と一緒に居るなんて有り得ないと。
(だって私はおばさんだし、いろいろ草臥れてるし)
若い子には敵わない、おばさんなのは本当だ。
それこそ子供は望めないし…。
そこまで考えてしまうくらいにはウィルのことを思う気持ちは大きいのだ。
「俺は、メイが幸せならそれでいい、
メイが幸せになるのを見守りたいんだ」
優しいだけじゃない、きっとメイより大人だ。
そもそも夫のことも受け入れた上で言ってくれるのだから、
きっとメイよりも考え方はずっと大人なのかもしれない。
勿論メイだってウィルには幸せになって欲しいよ。
「ウィルの幸せは…?」
「俺の幸せか…」
ウィルが遠くを見詰めて、でもメイの手を握ったまま。
「メイの隣に居ることかな」
サラっとキザな台詞に吹き出しそうになったけど、
それがウィルの本心だと伝わってくる。
「初めてなんだ、こんなに誰かを想うのは」
遠くを眺めたまま。
「自分より相手の幸せを願うのも、
そんな自分に気付いたのも、メイのお陰だ」
「私は何も…」
ゆっくりとウィルの視線が戻ってくる。
メイのことを優しく微笑み見詰めながら。
「できることなら、ずっと一緒に居たい」
それはメイもお願いしたいところだ。
でもちょっとだけ意味合いが違う。
「メイを閉じ込めて俺だけを見て欲しいと思う時もあるし、
この世界を一緒に旅して見て回り、世界の全てを見せたいと思う時もある。
でも一番は、メイがどうしたいのか、どうありたいのか、
俺とどういう関係を望むのか…全て叶えてあげたい」
今はまだ仲間であり師弟であり、友達と言うのが適切な表現になるだろう。
それ以上の関係と言われると…。
「望んでもいいの…?」
「ああ」
(私が望むのを待ってるの?)
やっぱり優しい。
握られていた手がやや持ち上げられて、なんだろうと思ったら…。
手の甲にウィルの口付けが触れた。
「俺としてはメイと婚約したい」
「こ、婚約!? ちょっと話しが飛びすぎじゃない!?」
「そうか…?」
「婚約の前に恋人なんじゃないの???」
フッと笑うウィル、美人が笑うと破壊力やばい。
「じゃあ、恋人と言うことで」
「…恋人ってのも早い気がするけど…」
いいのか? こんなおばさんの恋人で。
いや、年齢的にはウィルの方がだいぶ年上だけど。
(見た目が…)
うーん、と頭を悩ませているとウィルが顔を覗き込んできて、
思わず身を仰け反らせてしまった、近い。
「何を考えてるんだ」
「いやぁ…私っておばさんだし」
「俺の方が年上だが?」
「見た目の問題が…」
「見た目?」
心底分からないと言いたげにウィルは首を傾げる。
「一般的な年齢だとメイは30前後だろ?」
「ぶふぉっ!!!」
汚い…。
「まあ確かに日本人は童顔だって言われてるけどさー。
流石に30代は無いわ、太ってるからシワが少ないとは言えさー」
「???」
「服で見えない所はだいぶやばいよ」
「やばい?」
「………もういいです」
草臥れてるとか垂れてるとか言いたくないわ!
きょとんとしてるウィルが可愛くてメイはぷいっとそっぽを向く。
「後悔しても知らないからね」
「しない」
もう一度手の甲にキスされてメイはどうにでもなれー!と思考を放り投げた。
何を言ってもウィルは引かないのだと教えてくれたから、
これ以上あれこれ言ったところでウィルには敵わない。
エドガーと話していた時点で昼を回ってて、
中庭を散策して戻ってきたら既に三時を回り、
昼食を食べ損ねていたけど客室で軽食(スコーンとジャム)を頂いていた時に思い出した。
そう言えば手土産忘れてた!!!
実はメイ、数日前にコンビニに行って手土産を予約していたのだ、
コンビニでお中元やお歳暮、クリスマス商品なんかを予約できたりするが、
メイは王様に会うってことで前もって手土産を予約していた。
食べやすさ重視で苺のチーズケーキタルト5個入りを10個ほど。
商品はコンビニに行って受け取らないといけない、急いでコンビニに行かないと!
中庭から戻ってきたらミィナとリックに捕まってしまって時間が無い、
今のところ特殊スキルのコンビニはウィルだけでなく、
国王陛下、以下王子二名、宰相であるウィルの父上リオンだけしか知らない。
唯一無二でかなり特殊なので国の機密として扱うように言われている。
戦争の脅威にはならないけれど、他国に知られれば連れ去りの可能性もあるからだ。
ミィナにはぼんやり教えてるけど詳しくは突っ込まれなかったし、
リックもエリンもメイの特殊スキルがぶっとんだ内容だとは知らない。
寧ろ転生者であることすら知らない状況である(他国出身だと思われている)
どうしようと焦っていたら時間が迫ってきて慌てる、
だって歓迎会って夜って言ってなかった?
夕方から始まるなんて聞いてないよ!!
「ちょっとトイレ行ってくる!!」
「もっと言葉を選びなよメイ~」
リックに突っ込まれたが構ってられない、急いで部屋を出てトイレに向かう。
小脇にノエルを抱えながら走ってトイレに駆け込み、個室に入ってコンビニへ…。
『ボクを連れて来た意味は…?』
「急いでて動転してた!」
ごめんノエル!と言いながらダッシュでコンビニに駆け込んだ。
商品が用意されていたので受け取り清算して戻ってくる、
だが手土産なんて誰に渡せば…? 執事か侍女に渡せばいいのか?
「ウィル!」
「どうした?」
正装ウィルに未だ慣れずあたふたしてしまうけれど、
手土産の紙袋(10個)をウィルに差し出しながら。
「すっかり忘れてたんだけど、王様に手土産」
「今更…」
「そうなんだよ忘れてたんだよ!どうしよう!」
「エドに渡せばなんとかなるだろ」
「お願いします!」
ウィルが紙袋を受け取って走っていく、頼みましたよー!
しばらくして執事が客室に来て声を掛けられ歓迎会が行われるホールへ案内された、
まだウィルが戻ってきてないんだけど大丈夫かな…。
歓迎会と言っても集まっているのは王族関係だけで、
貴族も公爵はアレクだけでわりと少人数だった。
アレクさんもインテさんもリオンさんに似てカッコイイ…口が裂けても言えないが。
拍手で迎えられメイだけでなくミィナもリックも居心地悪そうにしていて、
立食形式の料理に目を輝かせる。
「あ、間に合ったんだ」
テーブルの上に並べられている苺のタルトを見て胸を撫で下ろした。
「こちらはメイ様よりいただいたデザートでございます、
珍しいデザートなので宜しければ是非」
にこっと笑うエドガーの言葉に周りはわっと声を上げた、
他国(異世界だけど)のデザートが食べられると人が集まってきた。
5個入りを10個しか買ってないから足りるかどうか…。
心配してるとエドガーがこっそりとメイに近付き耳打ちしてくれた。
「我々は先にいただきました、とても美味しかったですよ」
「良かった…」
「私としては読めない文字も気になりまして、
袋も箱も私がいただきました、興味深い手土産をありがとうございます」
「いえいえ…」
にこっと笑う第二王子、本物の王子様だ。
そんな二人を見てウィルが眉間にシワを寄せてメイの腕を掴み引っ張る。
「ちょっとウィル!」
たたらを踏んでウィルの腕の中にすっぽりと納まってしまい、
とんでもなく恥ずかしくてメイは顔を俯ける。
「エド、メイに手を出す気なら容赦しないからな」
「出さないよ~特殊スキルに興味はあるけど、
ウィルには勝てないし勝算の無い争いは好みじゃないよ」
フフっと笑うエドガー、王子様の笑みも破壊力抜群でした。
プラチナブロンドの長髪をポニーテールみたいに縛ってて、
深いエメラルドグリーンの瞳は吸い込まれてしまいそうな威力がある、
そしてなにより正装って言うのがもう…ウィルと同じくらい素敵で。
思わず見惚れてしまいそうになるけど、どちらかと言えばウィルの方が好みかも…。
遠くの方でミィナとリックがデザートを頬張っているのが見えた。
(私もそっちに混ざりたい…)
そんなこんなで歓迎会っぽい宴が終わり客室に戻ってきた、
今夜は泊まっていくとのことで、メイは普段着に着替えてからバルコニーに出る。
ミィナは疲れて寝ちゃったし、ノエルはミィナと一緒に丸くなってる、
ウィルとリックは隣の部屋なのでここには居ない。
メイはバルコニーに出て手すりに両手を掛け凭れる。
こちらに来てそろそろ二ヶ月、冒険者ランクも自身のレベルも上がった、
独り立ちを目指して歩んできたつもりだけど、
仲間に助けられてここまで来た気がする。
ショルダーバッグからタバコを取り出して指先で火を点ける、
実に二ヶ月ぶりのタバコだった、咽ることはないけど胸にずっしりと染み渡る。
(懐かしい味…)
部屋にミィナとノエルが居るから窓を閉めての喫煙。
前世界では電子タバコがメジャーになりつつあったけど、
メイは根っからの紙タバコ派である。
捨てる予定だったドリップコーヒーのカップに水を入れ、
灰皿代わりにしてまずは一本ゆっくりと味わう。
久しぶりだからくらくらする、二本目に火を点けたところで気配を感じた。
「メイ、タバコを吸ってたのか」
「幻滅した?」
「いや、珍しい香りだから何かと思った」
そうか、あっちとこっちとタバコの香りが違うのか。
普段とは違う匂いには敏感なのだろう、
ダンジョンで危険と隣り合わせの世界を戦い抜いてきた戦士だ、
僅かな違和感すら見逃したら致命的になる。
隣の部屋のバルコニー、ウィルも寝る直前なのかとてもラフな格好だ。
「なんかいいな」
空を見上げながらウィルが呟く。
「え?何が?」
「知らない世界のことを知るのは得した気分になる」
言われてみればそうだ、メイだってこの世界のことを知る度に嬉しかったし、
怖い思いをしたこともあったけど人間は知識を求める生き物だ。
ウィルの気持ちがなんとなく分かる。
でもタバコの副流煙は身体に良くないからそっと火を消す。
「終わりか?」
「うん」
二人だけの空間では吸いたくない、できれば一人がいい。
「この近くにダンジョンはないのかな」
「あるぞ、行くとなったらエドも付いて来そうだ」
「王子様なのに?」
「エドは魔法が得意でな、俺は氷特化だがエドは満遍なく強い」
「そうなんだ…」
他愛無い話しもウィルの声が耳に心地良くてずっと聞いていたい。
近くにダンジョンがあるなら行ってみたいなぁ。
グングニルにも慣れたいし明日になったら…。
「行くか、ずっと部屋に閉じ篭ってても鈍りそうだ」
「うん、行きたい! どんな素材があるんだろう楽しみ!」
二人して笑い合う、そんななんでもない日常がとても幸せだった。
時間も時間なのでそれぞれの部屋に引っ込んでおやすみなさい。
朝食は王宮でいただいて(味気なかった)早速ダンジョンに向けて出発です!
ミィナとリックは朝食に文句を言いながら、ウィルとメイは馬車に乗り込む。
ダンジョンに向かう前に一度アルバート公爵家の別邸に行きます、
そこを拠点にしながら冒険者ギルドへ行って依頼を受けて、
やっとダンジョンに向かうことができるのです。
面倒だけどエリンが別邸に向かうことが決まっているので、
引き続きお世話をしてもらうことになりました。
部屋は余ってると言っていたし宿代も浮くのでウィル様様です。
エリンを送り届けてまずは冒険者ギルドへ、薬草とか素材とかの依頼を受ける。
もしかしたらもう少し依頼をこなしたらランク上がるかも。
王都近くのダンジョンは適正レベル×7くらいで、
前に寄ったダンジョンと同じくらいのようだ。
今のメイはレベル37なので五階から六階が適正になる、
ただ、ミィナもリックも100を越えているからもっと深く潜ることになった。
まあメイは後からこっそり付いて来れば問題ないだろう、
入り口付近ならすぐにセーフティエリアに入れるし、
いざとなればウィルが全力で助けてくれます。
そんなわけで目標は二十階になりました。
十刻みで帰還石を使えるようにしたいけれど、
そのエリアボスを倒さないといけないので先に倒されていた場合はスルーになる。
王都から近い分、行きやすいから前回と同じく倒されてる可能性がある、
そうだとしたら諦めるしかない、メイとしては戦いたくないのでそっちの方が良い。
ダンジョンの入り口に着いて戦闘準備をし、一階に入った所で声を掛けられた。
「潜るんでしょ?」
「え?」
びっくりして振り向いたらそこに立っていたのは王子様…。
「エドガー様!?」
「やっぱり来たのか…」
驚くメイと呆れるウィル、ミィナはメイの後に隠れてリックはスルー。
王子様に対しての態度が悪くて申し訳ない。
「メイ殿と一緒に行きたかったんだよ、
ウィルが居れば危険も少ないしいいだろう?」
にこっと笑う王子様スマイルに反論できない。
ウィルは舌打ちして(大丈夫かよ)結局五人でダンジョンを潜ることになりました。
エドガーはいかにも魔法使いって感じのローブを羽織っていて、
仰々しい杖はなんだか強そう…実際強いらしいので心強い。
レベルが気になるところだけどウィルが認めた魔術師だし、
上級ポーションと万能薬があればなんとかなるよねきっと。
堂々と顔出ししてるのは大丈夫なのか不安だったが、
第二王子がこんな所に居る訳がないと周りは思うので大丈夫だってさ、マジか。
その辺の魔物を倒しながら進んでいくのだが、
メイのレベルアップが主な目的なのでトドメを刺すのはメイの仕事です。
「当たれー!」
思いっきりグングニルをぶん投げて魔物をぶち抜く、
調合師らしからぬ戦闘スタイルにエドガーは驚いたものの、
使ってる武器がグングニルなら、まあ…そうなるのか。
ウィルが氷で魔物を足止めしたり、ミィナがスリングショットで魔物を瀕死にしたり、
リックが毒を掛けてHPを削ったり、お膳立てしてもらいながら進む。
クエストを受けているため途中で素材を採取しつつ。
エドガーはあまり手を出さずボスが居た場合に補助魔法を掛けようと考えていた、
しかしメイの放つグングニルは思った以上に威力があって、
メイ自身のレベルとか冒険者ランクとか無視した破壊力は流石グングニルだった。
それもウィルが取ってきてくれたお陰です。
そろそろ二十階に到着します、十階のボスは倒されていたので、
二十階のボスも倒されてたらいいなぁとメイは祈りながら二十階の入り口を潜った。
続く