おばさん、よくある異世界転生する   作:竹モカ

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いろんな人に助けてもらいます


⑪『エリクサーの片鱗』

メイは絶望した。

「居るじゃん…ボス居るじゃん…」

そう、二十階のエリアボスが普通に居た、しかもなんか強そう。

ライオン頭に山羊の体、毒蛇の尻尾を持つ…キマイラだった。

キマイラの性格はとにかく獰猛、火を噴いたりもするらしい、

そんなの一体どうやって倒せって言うのよ!

しかも毒にも強いってリック詰んだじゃん。

隣に居るリックも青ざめてるしミィナに至ってはメイの後に隠れている。

「どうやって倒せばいいのよ…」

「じゃあ削るからメイもちょっとは攻撃してダメージ入れとけ」

「ダメージ入れるって無理ゲーすぎない!?」

ウィルがサラっと言うけどメイは必死だ、

あんな強そうなの絶対ダメージ入らないって。

レベル差考えてくれよ! レベル37で立ち向かうには無謀すぎるって!

するとウィルがエドガーに目配せ。

「はいはい、ここまで来たからには役に立ちますよ」

肩を竦めて笑うエドガー、杖を翳しつつ何かを唱え始めて、

メイ、ミィナ、リックの三人が光に包まれた。

「身体強化したから攻撃当たると思うよ?」

「ありがとうございます!」

キマイラに向かってウィルが氷の矢をいくつも放ち、

接近して剣でダメージを与えていく、エドガーが強化魔法を使ったのを確認し、

あえてキマイラから距離を取りアイスフォールで足止めをした。

「このくらいでいいだろ、多分HPは十分の一くらいだと思う」

「調節できるんだ?すごいね」

感心するエドガーにウィルはジト目。

「やり慣れないから難しかったぞ、もっと削りたかったのに、

 これ以上やると倒してしまいかねない」

流石レベル700↑の人は言うことが違いますね。

まずはミィナがスリングショットで頭を狙い、

ノックバックしてるところでリックが尻尾を切り落とす。

動きが鈍くなってきたのでメイがグングニルを構えた。

キマイラのレベルは140、メイのレベルは37、当たる訳が無い。

いくら強化魔法でパラメーターを底上げしてもらったとしても、

レベル差の壁は越えられないと思う、思うけれど。

「イナンナ様よろしく!当たれー!」

叫びながらグングニルをぶん投げたメイ、

まさかこんな場所で女神に祈るなんてどうかしてる。

きっとイナンナ様もびっくりよ。

しかしグングニルは強かった、なんとキマイラにトドメを刺してしまったのだ。

恐らくエドの強化魔法の効果だけでなく転生者の称号があるから、

相乗効果で強化率が大幅にUPしたのだろう。

ステータスパラメーターが5%UPするのが基本なのだが、

素のパラメーターに強化魔法が掛けられた後から5%UPの効果が付与され、

レベルが低くても適正に届きそうなくらい強化されてしまったと推測される。

「お、恐るべしグングニル…」

「さすが伝説の槍…」

「メイちゃんすごい!!」

メイとリックが青ざめて、ミィナは嬉しそうに抱き付く。

まあウィルがギリギリまで削ってくれたお陰だし、

エドガーの身体強化の魔法でパラメーター的に強くなり、

ミィナもリックも手伝ってくれたので倒せました、ありがとうございます。

メイがトドメを刺したことで一気にレベルが上がりました。

メイ37→46

ミィナ142→143

リック122→124

ウィルもエドガーも上がらず。

そしてキマイラを倒したので楽しい解体のお時間です。

メイはやっぱり解体は直視できなくてウィルとリックに後は頼んだ。

本体を解体して魔石を取り出し、食材としての価値は殆どないので、

キマイラの価値は魔石とドロップアイテムだけのようだ。

「メイ、レアドロップがあるぞ」

「え、ほんと?」

リックの声にメイが顔を上げる。

宝箱がふたつ落ちてる、ノーマルっぽいのとちょっと豪華なの。

「レアドロップ品が落ちたの? 一発にしては凄いね」

「メイにはレアドロップが上がる特殊バフがあるからな」

「そうなのか…」

エドガーとウィルは小声での会話である。

一応メイは国賓として迎えている異世界人だ、

どんなスキルを持っているかまだまだ謎の部分が多い。

ちなみにメイの全ステータス画面を見たウィルは覚えていたのだ、

称号【転生者】の説明文にステータスが上がるだけでなく、

料理や調合の成功率、そしてレアドロップ率も上がることを。

メイのレベルを上げることが目的とは言え、

レアドロップが狙えるならメイにトドメを刺してもらえば確率が上がる訳だ。

国王陛下への報告は異世界人であることと、特殊スキルのコンビニだけで、

詳しいステータスはウィルだけが知っている。

そもそもメイの許可を得ていないのでおおっぴらにはできない。

エドガーは機密を漏らしたりしない信用の置ける人物だし、

なによりメイを守るためには王家に味方が居た方が良い。

「宝箱開けてみろよ」

「分かった!」

リックに促されてメイが宝箱を開ける。

ノーマルの方は万能薬に使う素材が数種類、そして。

「なにこれ?」

豪華な方の宝箱には見たことが無い薬草が入っていた。

メイは久しぶりに【神域の眼】を使ってみる。

「世界樹の葉?」

「マジか!!!」

メイの素っ頓狂な声にリックが驚きの声を上げる。

(あ、これって…)

メイは神域の眼で見て気付いてしまった、世界樹の葉はあるポーションの原料。

(エリクサーを作れるの?)

まだまだ材料は足りないけれど、必要な種類がひとつ手に入ったことになる。

大きな葉っぱが5枚ほど束になっているそれを手にしてメイは、

緊張で震えて冷や汗が溢れ出た。

「メイ、大丈夫か」

そっと寄り添うウィルの手がメイを支える。

「ど、どうしよう、嬉しいけど…」

「まるで導かれてるみたいだね、女神イナンナへの祈りが通じたのかな?」

エドガーの声は真剣だ、驚いて固まっているリックも薄ら寒さを感じて二の腕を擦る。

「お肉はないの?」

解体されたキマイラを見てミィナがぼやく。

「食べられる魔物じゃないから無いな、魔石は…」

「魔石は食べられないから要らない!」

ミィナの分かりやすい反応にウィルはちょっと笑う。

体の部分は山羊だし食べれないこともないだろう、

ただクセが強いので好みが分かれる、成分的には低カロリーで身体には良いとされ、

臭みをなんとかすれば食べれないことはないと思う。

日本でもマイナー食材だが、この世界でもあまり食肉としてメジャーではないようだ。

と言うことで、世界樹の葉だけでなく魔石もメイが受け取ることになった。

大部分をウィルが削ったのだから、魔石くらいウィルが貰えばいいのに、

メイが文句を言いたそうなのを察してウィルがメイの頭を撫でる。

「初めてボスを倒したんだ、記念に取っておけ」

「う、うん、ありがとう。

 その代わりに夜ご飯はリクエストに答えるよ」

「お肉がいい!!」

「お前には聞いてないと思うぞ」

ミィナに突っ込むリック、そんな遣り取りに場が和んでメイは肩から力が抜けた、

仲間が居るから大丈夫、エリクサーの素材という恐ろしいアイテムに驚いたけど、

ひとつひとつこつこつと、戦いも素材も時間も積み重ねて少しずつ強くなっていくんだ。

世界樹の葉をカバンに突っ込んで魔石を掌で転がす、

真っ赤な宝石にしか見えないけど魔力が宿っていて不思議な揺らめきを帯びている。

とても綺麗でいつまでも見ていたい、まるで洗脳されてるみたいな感覚。

「おっと、早くしまった方がいいよ」

見詰めていた魔石に手を添えてメイの意識を戻したのはエドガーだった。

「魔石には魔力が宿ってるからね、魅入られちゃうこともあるんだ、

 気をつけた方がいいよ」

「そうなんですね、すみません」

声を掛けられなかったらずっと見詰めていたかもしれない、魔石って不思議。

「ボスも倒したことだし帰還石に触れて戻ろう」

「えーもう帰っちゃうの?」

ウィルが提案するとミィナが頬を膨らませた、

メイのことを考えると帰った方がいいと思うけど…。

「ひとまず帰還石に触るだけ触って、セーフティエリアで考えようぜ」

「さんせー!」

と言う事で二十階と二十一階の間のセーフティエリアで会議です。

一旦石に触れてから(デカくてびびった)戻るか進むかを考える、

多数決にしたら絶対進むに決まってしまうのでメイは諦めるしかなかった。

 

正直、グングニルが神で困る。

いや、ウィルが大幅にHPを削った上で、

エドガーの補助やミィナの致命傷にリックの毒攻撃、

みんなのお陰でメイは魔物にトドメを刺せている事実。

「おんぶに抱っこでごめんなさい…」

泣きそうな顔でグングニルをぶん投げるメイは情けなくてしょうがなかった。

仲間と共に戦えるのは嬉しいが、正味メイはトドメを刺しているだけで、

魔物を自力では倒せないレベルの低さにうんざりしていた。

二十階より下へ潜りながらみんながHPを削った魔物を連れてきてくれて、

はっきり言ってメイは寄生している状況で泣きそうになっている。

(寄生したいんじゃない、手助けできるくらい強くなりたい)

独り立ちには程遠くてみんなの背中が遠いよ…。

お陰様でレベルは上がってるし、メイだけでなくミィナもリックも上々だ。

ゆっくり進みつつ昼食は五人で仲良く食べました、

メイの作るランチに驚き真剣に調理法を問い質すエドガーが怖かったです。

そして結局三十階まで来てしまった。

流石にミィナもリックも適正レベル(200~210)を大幅に下回り、

エドガーの補助魔法無しでは攻撃すら当てられない。

しかもエリアボスはまさかのキマイラ三頭という鬼畜ぶり、

一頭でもしんどかったのに三倍とかバカじゃないの?

ウィルは余裕らしく、倒しやすいように一頭ずつ誘き寄せ、

残る二頭は氷漬けにして足止めしてくれている。

二十階の時と同じ様にウィルがHPを削った上でエドガーの補助魔法を貰い、

ミィナが微調整で攻撃したらリックの毒を掛ける、

キマイラは毒耐性が高いのでリックの毒はあまり期待できるほど削れないが、

HPが残り僅かになった処でメイがトドメでグングニルを投げて倒す。

そんな連携プレイで時間が掛かりながらも三頭のキマイラを倒すことができた。

運が良かったのかレアドロップの宝箱が一つ落ちてくれた、

三頭全部が落とすのはミラクル以上に神懸りすぎるし、

そんな奇跡はうまいこと起こらない。

今回もレアドロップの宝箱には世界樹の葉が入っていた、

なんと5枚の束が5組、大量の世界樹の葉…希少性どこいった。

そして魔石は二十階と同じ色の深紅でとても綺麗だが大きさが違った、

キマイラのレベルが高かったせいで大きさが異なり、

宿っている魔力も相当高いのだとエドガーから教えてもらった。

今日の戦いでMVPは確実にウィルだけれど、

ウィルは魔石を必要としていないとのことで、

大きな魔石三個のうちひとつをエドガーにお裾分け。

と言うかエドガーの補助魔法がなければ攻撃はかすりもしなかっただろう。

残りの二個はメイとリックがもらうことに、

ミィナは魔石よりもお肉が欲しいらしいので晩ご飯で大盛りにしてあげよう。

三十階のエリアボスを倒したので危険度が下がったため素材集めをして、

クエストで必要な分は来る途中で採取したので大丈夫かな。

帰還石に触れてダンジョン入り口まで戻ってきたら、

エドガーはお城に帰るってことで現地解散となった。

メイ達は街の冒険者ギルドに戻ってクエスト完了してから、

アルバート公爵家の別邸へ帰ることに。

もうすっかり日も暮れてしまって皆がはらぺこ。

夜ご飯を作る気力は残ってないけどがんばります。

メイ 46→53

ミィナ 143→145

リック 124→127

冒険者ランクはミィナだけ上がり、メイと同じくランクDになりました。

ちなみに今後の冒険者ランクはクエストだけでは上がらないとのこと、

指定されたダンジョンのエリアボスまたは準ボスを倒す条件が加わるので、

今後はそれも考えてダンジョンを選び潜ることになりそうです。

 

それじゃあ夜ご飯を作っていきます。

今夜はアルバート公爵家の別邸でキッチンをお借りして、

仲間の分だけでなくここに住んでいるリオンさんとインテさんの分も、

そして使用人の分まで作っていくことになりました。

本来使用人達の食事は完全に別で質素なのだが、

メイが異世界の料理を作るということでリオンさんが特別に許可を出したそうです。

リオンさんとインテさんは王宮仕えだからここに住んでるんですって。

前に使わせてもらったタウンハウスと違って倍以上の広さと部屋数、

お庭も手入が行き届いていてお城と言っても過言ではない。

さて、料理人や侍女達にも手伝ってもらいながら、

待ちきれないミィナもお手伝いしてくれるようです。

大人数でも食べられる物と言えば…そうです、カレーです!

一応食べられるかどうか聞いてみたらビーフシチューがあるし、

いけるんじゃないかとウィルに聞きました。

言われてみれば見た目は似てるかもしれない、カレーのネックは見た目だからね…。

前もってコンビニで売ってるレトルトカレーを皆で一口ずつ試食してもらい、

ミィナのOKが出たので今夜はお肉いっぱいのカレーになりました。

大量のたまねぎを料理人の皆さんにスライスしてもらい、

メイは他の野菜の皮を剥いていく、たまねぎスライスは苦手なのよ…目が痛くて。

ミィナとリックにはサラダを担当してもらい、

ウィルはトッピング用チーズの準備とデザートの果物を選別してもらいました。

野菜を切ったら肉も切っていきます、今日は豪華にバッファロー(牛肉)です。

たまねぎを狐色まで炒めたら他の野菜も炒めて、

別鍋でぶつ切りの肉も炒めてから全てを大鍋で煮込んでいく。

最初の灰汁取りは大変だったけど美味しく作るためなのでがんばる。

しばらく煮込んでからカレールーを投入し、きちんと溶けたら再び五分程煮込む。

メイは白米だが殆どの人が馴染み深い硬いパンで、

希望する人には白米をよそってあげてセッティング。

皆でテーブルに着いていただきます!

ちなみにリオンさんもインテさんも同じテーブルです。

「やっぱりこれよね~ ザ・家庭料理!」

メイはほっとする懐かしい味にうっとり。

ミィナもリックも無言でもぐもぐ勢い良く食べていく。

ウィルは普段と変わらず黙々と食べてお酒まで飲んでいた。

「これが家庭料理なのですか、とっても美味しいですね」

ウィルをダンディにしたイケオジのリオンさんは清々しい笑顔で褒めてくれた。

「家庭によって独特な隠し味を使ったり、

 その家庭オリジナルのカレーがあるくらい浸透してる料理ですよ」

リオンさんが興味津々に聞いてきたので、僭越ながら答えさせて頂いた。

「隠し味?」

ウィルが首を傾げながら。

「今回は何も入れなかったけど家によってはチョコを入れたり、

 私の国で馴染み深い調味料の味噌を入れたり様々だよ」

メイの家庭では特に手を加えていなかったようだ。

「まあこんなに豪華な肉を使ったカレーは滅多に食べたことないけど」

メイはこっそりウィルに耳打ち。

カレー用の肉は前世界でもスーパーで売っていたけれど、

ごろごろとした大きな肉は高いのであまり使ったことはない、

いつも安いコマの牛肉とか、時には豚コマや鶏モモとか。

カレールーもブレンドする人が居るくらいだしカレーは単純だからこそ奥が深い。

久しぶりのカレーに満足してウィルが用意してくれたりんごをデザートに、

食後の紅茶を飲みながら料理人達の質問に答えたり、

また作りたいと言うのでカレールーも大量に渡す、

ちなみに箱の裏の説明文をこちらの文字で別紙に書いておきました。

 

デザートのりんごを食べながら作戦会議です。

食堂で食後まったりしていたのでそのまま会議に突入。

「次のランクってCだったか? 確か隣街のダンジョンだったはず」

リックがりんごだけでなくオレンジにも手を伸ばしながら。

「もしかしてまた三十階とか言う?」

「いや、十三階のジェネラルオークだったと思う」

ウィルがサラっと答えたことでメイは青ざめてしまった、

オークって巨大な人型の豚っぽい魔物だった気がする。

ジェネラルなんて強そうな名前だとするなら、やっぱり強いんだろうな…。

しかも十三階ってことはボスですらない、と言うことは…。

つまりジェネラルオークは準ボスでそれなりに数が居るってことになる。

「今日のキマイラ三頭よりマシだぞ」

あれは本当にあかんやつだと思う。

ウィルとエドガーが居なかったら死んでたわ。

二十階で適正レベル140だったから、三十階ってことはレベル210だった訳で…。

しかしランクアップのために倒すジェネラルオークのレベルは、

およそ90くらいとのことで、キマイラよりは倒しやすいらしい。

「やっぱりキマイラは異常だったんだ!!」

「そう言うなよ、結果倒せた訳だし」

「結果論じゃないの…」

ウィルとエドガーが居なければ絶対に行かなかったし、

だとしてもレベル90の魔物を倒さなきゃいけない現実にめげそうだ。

圧倒的にメイのレベルが足りない…!

「私まだ53なんだけど…」

「じゃあしばらくはメイのレベル上げをするか、

 キマイラは確かにやりすぎだったと思うし、

 適正階層でグングニルを使って慣れればいい」

紅茶のお替りを注いでくれたウィル。

「そうだよね~ わざわざウィルに削ってもらうとか、

 ミィナとリックに手伝ってもらうのも申し訳ないし」

りんごとオレンジをたらふく食べたリックがやっと顔を上げる。

「その間に俺は素材集めしとくか、必要なの言ってくれれば採取しとくよ、

 ミィナもそれでいいだろ?」

「お肉食べられるならなんでもいいよ!」

にこっと笑うミィナに癒される。

それにしても肉に対する執着すごいな。

ただ、王都から近いダンジョンは冒険者の数も多いので、

適正階層の魔物が残っているか心配だ。

他の不人気なダンジョンでひっそりとレベル上げしたいところ。

当分の間は別邸を拠点にしてレベル上げが目標になりました。

 

次の日、朝食は相変わらず硬いパンだけど、

サラダとスープと昨日の残りのカレーと共にチーズマシマシでいただきました。

お米を食べられるようになると和食も欲しくなってくるなあ、出し巻き卵とか…。

「王都から近いダンジョンは人が多いからな、

 今日は別のダンジョンに行こうと思う」

「別ってまさか…」

ウィルの宣言にリックが嫌そうな顔をした。

「西にあるダンジョンだ、昨日のダンジョンより少し遠いが、

 不人気だから人は少ないと思うぞ」

「やっぱりあそこか…」

がっくりと項垂れるリック、メイもミィナも意味が分からずきょとんとするしかない。

何故不人気なのだろう…?

「そんな嫌な顔するくらいのダンジョンなの?」

「いや、まあ…、準備する物が増えるしめんどくさい」

めんどくさいダンジョン?

一体どれほど不人気なんだよ。

「実は今までのダンジョンはわりと親切だったんだ、

 今日行くダンジョンは足場が悪くぬかるんでいるし、

 雨が降ったり止んだりで湿度も高い。

 どうしても着替えが必要だったり体力消耗が激しくなるから不人気なんだ」

「なるほどね…」

「雨キライ…」

メイにしがみ付いて震えるミィナ。

ミィナが奴隷として飼われていた時に男爵邸から逃げ出し、

体力が尽きて雨に打たれ死にそうになったのだから、

トラウマになっていてもおかしくない。

震えるミィナを優しく抱き締めて背を撫でる。

「大丈夫だよ、一緒に居るから」

「うん…」

空気が重くなってしまったところでウィルがわざとらしく咳払い。

「ミィナ、好きなのは肉だけか?」

「え…? お肉大好きだよ」

「今回のダンジョンでは肉だけでなく魚も捕獲できるしきのこも豊富だ、

 今までとは違った食材が沢山あるんだ、食べてみたくないか?」

「魚!?」

反応したのはメイだった。

魚は市場で買ったことがあるけど機会は少なかった、

基本的に肉だけでなく魚も好きなメイとしては是非入手したい食材だ。

「メイちゃんはお魚食べたいの?」

「そうだね、いつも肉ばっかりだし」

「あたしはお肉好きだけど、メイちゃんがお魚好きなら行きたい」

「大丈夫そう?」

「うん!」

と言う事で湿地(?)ダンジョンに行くことが決まりました。

魚って言うけど釣りでもするのかな…疑問が残ったままだが、

タオルや着替えを沢山用意したり水分補給のお茶や、

軽食とおやつも準備してさっそく出発です。

 

王都から西へ、歩くと半日掛かってしまうということで馬車移動です、リッチ。

御者さんには長時間待機してもらうことになるから、

昼食のサンドイッチや飲み物、おやつを先に渡しておきます。

この世界の食事よりメイの作る食事の方が美味しいらしく、

御者の間で誰が行くかで争奪戦になったそうだ。

ちなみにサンドイッチはかつサンドです、

ウィルの好物なので朝から沢山作りました。

そのせいで出発が少し遅くなったけどな!

おやつまで手が回らなかったのでコンビニで売ってるクッキーを渡しました。

ダンジョンに入ってすぐに足場がぬかるんでいて進み難いが、

幸い雨は降っておらず若干薄らと霧が発生しているくらい。

魔物を倒して魔石を拾ったりしながら進んでいく。

順調に七階まで来てメイ一人で魔物を倒せるか試すことに。

出没する魔物はマーマン(半漁人)で倒すと魚がドロップするとか。

わざわざ川で釣りをしたり網で捕獲したりしなくていいのは楽だけど、

マーマンが持ってたと思うとちょっと複雑。

マーマン自体は普通の人型で大きくもなく食べる部分は無いそうだ。

足場が悪いからグングニルを投げる力が落ちてしまう、

メイは一般人と変わらない肩だし、グングニルの威力に任せるしかない。

「頼むよグングニル!」

言いながらマーマン目掛けてぶん投げる。

メイの投げる力が弱くてもグングニルは飛んでいく、

一体一体しか倒せないけれど確実に貫いてくれる。

全体魔法とか使えたらいいのに…と思いつつも、

グングニルの威力に今日も感謝です。

メイが戦ってる間にリックが素材を採取しミィナは雑魚を打ち落とす、

ウィルはメイが魔物を狙いやすいように敵の動きを先導してくれる。

連係プレイができててメイは戦いやすくなっていた。

しかしやはり足場がぬかるんでいるので数はこなせない、

足場さえどうにかなればいいのだけど…。

昼になってもレベルはそんなに上がらず53→54だった、

できれば夕方までにレベル60になれたら良かったんだけど。

「流石に不人気なだけあるな、効率が悪いぜ」

リックがぼやいて集めてくれた素材をメイが確認する。

上級ポーションと万能薬の素材もあまり集まらなかったようだ、

今までと違って湿地帯みたいな環境だから、

育っている素材も変化していてもっと他のポーションや薬の素材の方が集まる。

けれど、湿地帯と言う事であちこちにきのこが生えてるから、

魚ときのこだけは大量に入手することができた。

「何か対策を考えるべきか…」

「ウィルが地面を凍らせちゃえばいいんじゃない?」

「それだと滑るだろ」

ウィルとミィナに割って入るリック。

確かに足場を凍らせてしまえば硬くなってメイも槍が投げやすくなるかもしれない、

だが凍らせるということは確実に滑る、こけるメイが安易に想像できてしまう。

「土魔法使える奴とかいねーの? 土壁作って倒しちまえば足場になるんじゃね」

「そうだな…」

あれこれ作戦を立てつつ、セーフティエリアで早目のお昼ご飯となった。

ウィルがリクエストしたかつサンドと、その辺に自生していたミニトマトをつまむ、

汁物はじゃがいものポタージュ、別邸で作られたポタージュをメイが味変、

元の味付けは塩だけで味気ないからね、牛乳、コンソメ、コショウを追加しました。

飲み物はそれぞれ紅茶やジュースだがメイはコンビニコーヒーにした。

ちなみにマーマンからドロップする魚は様々で、

湿地帯なのに川魚から海水魚まで種類が豊富だった。

料理を作りたいメイや、色々食べたいミィナにはありがたいラインナップ。

(今夜はアクアパッツァかな~)

アルバート公爵の別邸にはワインが豊富にあるので作り甲斐がある。

「とりあえず今日は素材や食材を採取して戻ろう、

 このまま続けてても効率が悪い」

「「さんせ~!」」

ミィナとリックの声がハモり、メイは苦笑いしてかつサンドに被り付いた。

 

様々な素材と食材を掻き集めて帰り道、三時休憩より早くダンジョンを出ることに。

馬車の中でメイはスマホで今日集めた素材で作れそうなレシピを探していた、

メイがスマホを皆の前で堂々と使うのは珍しく、

不思議なアイテムにミィナもリックも興味津々。

転生者であることは一応機密ってことになっているから、

他国の技術だとか適当にボカして伝え納得してもらえた。

「…風邪薬?」

どうやら今回の素材はポーションではなく薬を作る素材が多かったようだ。

風邪薬なら冒険者だけでなく一般人も買い求める人が居るし、

王族から平民まで幅広く使われる薬である。

メイが作る物は質が良いので冒険者ギルドで売却するよりも、

公爵であるアレクと宰相のリオンに直接売ったほうが利益が出そうだ。

その辺はウィルに調整してもらうことにして、

メイは早速スマホで薬作り、素材の半分以上をリックに採取してもらったので、

作った薬の売り上げ10%をリックに渡すことで話しは付いた。

いくら仲間とは言え無償で手伝ってもらうには申し訳ない量だったし…。

夕方前には別邸に戻ってきた一行、メイが使っている部屋に集まって作戦会議です。

エリンが入れてくれた紅茶を飲みながらおやつのパウンドケーキをお茶請けに。

パウンドケーキはメイが作ったもので基本のノーマル、

甘いオーソドックスなパウンドケーキは使用人達の間でも人気です。

簡単すぎて逆に申し訳ないくらい…。

時間があればドライフルーツとか入れた物も作りたいな~。

「冒険者ギルドで土魔法使える奴を頼んでみるか?」

「一応知り合いには当たってみるが、居なければそうするしかないだろうな」

リックとウィルがパウンドケーキを頬張りながら渋い顔をする。

ミィナは食べることに夢中で話を聞いているのか怪しい。

「土魔法を使う人って少ないのかな」

「そうでもないんだが…」

メイの疑問にウィルは言葉を濁す。

「元々不人気で使う人がそれほど多くないのはあるんだが、

 土魔法の活用は農家の人間が殆どで冒険者では少ない傾向にある」

農家…なるほど、土を耕したりするのに便利そう。

ウィルは氷特化だし、リックは毒が使えるけど他はさっぱりらしい、

ミィナは無属性(弾の強度を底上げする)を使えても燃費が悪く、

すぐにバテてしまうし土魔法は使えない。

メイは生活魔法しか使えないし困ったな…。

「あの…」

「どうしたのエリン」

恐る恐る片手を挙げたエリンが困った顔で会話に入ってきた。

「私、土魔法使えます」

!?!?

まさかこんな近くに土魔法が使える人が居たなんて!

「もしお役に立てるなら魔法使いとして同行します!」

「いいのエリン!?」

「いつもメイ様には大変美味しい思いを…じゃなくて、

 物凄くお世話になっているので、恩返しできるなら…」

「エリンありがとう!これで問題が解決するかも!」

「いえいえこちらこそ、一介の侍女でしかない私にもできる事があるなら、

 是非お役に立ちたいです!」

エリン・マッケイは男爵家の三女で17歳、公爵家へ奉公に来ている侍女だ。

実家はそれほど裕福ではないらしく給料の半分を仕送りしているとか。

元々魔法は使えていたが冒険者になる気は無かったし、

それよりお金を稼がなきゃいけないから侍女になったようだ。

そもそも戦うことより刺繍が大好きなので戦闘向きではないと本人は思っている。

余談だが…。

マッケイ男爵家の名前を聞いてメイは唖然としてしまった。

父・エノク、長女・シータ、次女・ブナシェ、そして三女・エリン、である。

(きのこだ…皆してきのこだ…!)

マッケイ…まいけ…まいたけ、やっぱりきのこだ!きのこ一家だ!

一人で内心興奮しつつ、今夜の献立が決まりました。

夕飯まで時間があったのでパウンドケーキを量産しつつ、

ドライフルーツをふんだんに使ったパウンドケーキや、

ホットケーキミックスを使用しフライパンで簡単に作れるりんごケーキも作って、

それは食後のデザートにしようとミィナと決めました。

りんごが余ってたからってのもあるけど、

パウンドケーキばかりでは飽きてしまいそうだから。

今夜の献立は本日潜ったダンジョン産の魚を使い大量に採取できたきのこを使って、

摘んできたミニトマトも一緒に公爵家秘蔵白ワインを使用したアクアパッツァです。

ナスも採れたから半分に切って前に作ったミートソースとチーズを乗せて、

オーブンで焼き上げればナスのボート焼きができる。

肉は少ないけどたっぷりの魚と野菜を食べれるのでメイは満足、

勿論サラダや定番のポテサラだけでなく野菜スープもありますよ。

もう硬いパンに文句も出なくなった。

アクアパッツァの出汁にパンを付ければ絶妙に美味しいし、

今回ばかりは白米とは合いそうになかったから。

ミィナは初めて食べる大きな魚に大興奮で、

肉もいいけど魚も大好きになってくれました。

偏食するより満遍なく食べる方が良いのでメイも嬉しそうです。

明日はエリンも一緒にダンジョンに行きます、

エリンによるとレベルは51とメイより低く戦闘も苦手だが、

火、水、風、土の四種類を平均的に使えるとのこと。

ただし戦闘が苦手だったから実際に使うのは久しぶりで、

魔法はオールDランクだしそんなに期待しないで欲しいと土下座された。

エリンはいつもオーバーリアクションだなあとメイは手を差し伸べ、

一緒にりんごケーキを食べながら明日のことに付いて話し合いが始まった。

エリンは土魔法で土壁を作ることは可能なので足場にできるようだ、

守りではなく足場として使うので大きさは求めてないし、

今回のレベル上げ限定で付き合ってもらうので、

特別報酬としてエリンにはメイからちょっと高い焼き菓子詰め合わせのセットを、

ウィルからは特別給付を約束してもらったとか。

 

 

 

 

 

続く

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