おばさん、よくある異世界転生する   作:竹モカ

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いつの間にかリックにバレてる


⑬『ランクC』

目的の隣街にやってきました、王都からほどよく離れた街だけれど、

他の街に比べるとわりかし王都に近い場所にあるので人口は多い。

拠点となる冒険者ギルドの近くにある宿屋を確保して、

早速情報収集のため冒険者ギルドへ向かいます。

簡単なクエストもついでに受けて目的のジェネラルオークも倒せたら一挙両得。

ダンジョンは街から少し離れていて、馬車を使うほどじゃないけど…。

徒歩だと二時間と聞いてちょっと萎える。

なんとか短縮できないものか、別の乗り物はあるのか、

色々検討したけど何も案がなかったので徒歩に決まりました。

ダンジョンに着くまでに体力が無くなりそうだ…。

歩くことは身体に良いけどダンジョンのことを思うと、

できれば体力は残しておきたいし、何より先を越されては困る。

そう、ジェネラルオークの討伐はメイ達一行だけではなかったのだ。

エリアボスではないが準ボスで雑魚に比べて数が少なく、

メイ達は最低でも二体は倒すのが目的である、

メイとミィナの二人共ランクアップしたいと考えているからだ。

冒険者の登竜門と呼ばれる討伐クエストと言うことで、

ランクアップしたいと思っている冒険者が集まっていることになる。

朝早く街を出るのもそのせいで、本当なら車でも欲しい処。

まあ他の冒険者も考えることは同じで朝一で宿屋を発つ人が多い、

抜け駆けさせまいと厳しい顔をしている人達がチラホラ居るんだよね。

しかもメイの歩調は速いとは言えないし、

身体の小さなミィナも居るので先を越されてしまうかもしれない。

「リック、ミィナを担げるか」

「へ? なんだよ急に」

「俺はメイを担ぐ、走るぞ」

「えええっ!? 無茶言うなよ!!」

リックの返事も聞かずにウィルはメイをお姫様抱っこして走り出し、

遅れてリックがミィナを小脇に抱えて走り出した。

「せめて返事を聞いてから走れよ!」

「このままじゃ先を越されるだろう」

「そもそもジェネラルオークがまだ生きてるといいけどな!」

そう、一応ギルドで情報収集したがその情報が一番早いかと言うとそうは言い切れない。

情報が伝わった後に倒されている可能性もあるからだ。

ダンジョンの魔物は一週間経たないと復活しないから、

クエスト関連のボス(今回は準ボス)は早い者勝ちというのが常識だ。

ウィルはメイを抱えたまま走り、リックもそれに続く、

ずっと走っているとリックがへばってしまいそうだったから、

途中で速度を落として駆け足にしたり、それでも歩くより速く、

ダンジョンを駆け抜けて目的の十三階へとやってきた。

それまで雑魚を完全スルーしてここまであっという間、

ウィルの体力どうなってんの…リックは息切れしてるし。

「ジェネラルオークはどこだ」

「ま、待て!ちょっと時間くれ!」

ジェネラルオークを探すのはリックの役目だ、

【看視】の能力が一番優れているからリックがやれば早い。

ウィルはメイを下ろし戦闘準備に入る、

抱えられていたメイは慌てて槍をカバンから出し、

ミィナもスリングショットを手に弾となるスライムの魔石の用意。

「サーチに引っ掛からないな…ここからはゆっくり進もう」

真っ直ぐ行くべきかどちらかに当たりを付けるか…。

朝一番と言うことでどこからも戦闘の音は聞こえてこないけれど、

メイ達より先にダンジョンに着いている人も少なからず居るので、

先を越される前に見つけて倒したいため気持ちが逸る。

リックに付いて行きながら注意深く進んでいく中で、

メイは不図疑問に思ったことがあった。

それはウィルの冒険者ランクのことだ。

今メイ達は冒険者ランクDからCに上がることを目標にここへ来た訳だが、

次のCからBに上がるにはまた違うダンジョンのエリアボスを倒さないといけない、

そのボスは二十階でおよそレベル140から150だ、

そう考えると更に上のランクAになるにはレベル200くらいで、

ランクSになるにはレベル300相当の最下層ボスを倒す必要がある。

しかしウィルのレベルは700越え…どう考えても強すぎるのだ。

一体どうやって700まで到達したのか、それともランクの基準がおかしいのか、

一般的な冒険者ランクの中でウィルだけ飛びぬけているのかもしれない。

しかも普通の冒険者はランクSになる前に引退する人が多いそうだ、

ランクSに到達するまでに年齢を重ね体力的に厳しくなってくるから。

だから引退する人はレベルが200後半くらいが一般的らしい。

そもそもレベルが上がれば上がるほどレベルは上がり難くなっていく、

強い魔物を倒して経験値を稼がないといけないから時間が掛かるし、

何より強い魔物と戦うだけの信頼できるパーティを揃えるのも難しくなっていくのだ。

引退した冒険者はお店や宿屋を開いたり、

ダンジョンの浅い階層で物資を回収して売ったり、

何かしら職があるため再就職には困らないようだ。

ウィルは王族の血を分けたアルバート家の出で長寿だと聞いた、

一見20代半ばのような容姿だが実際には128歳で、

そんな年齢の冒険者はウィル以外に居ない。

王族は殆どが王宮に仕えているので(宰相や騎士団など)

冒険者で居るウィルは異質と言えるのではないか。

それとも、別の理由があるのか…。

前を歩くウィルの後頭部を見上げてメイは、

ウィルのことをあまり知らないのだと実感した。

今は自分のことで精一杯だし他の事を考える余裕がないけど、

いつかウィルのことや取り巻く環境、この世界のことを知っていけたらなと思う。

 

しばらく慎重に歩いているとリックが小さく片手を挙げ、

続くウィルが足を止めたことでメイもミィナも止まる。

「前方20メートル先に三体居る、他には雑魚が居るけど…」

「冒険者は居ないか?」

「ああ、俺達が一番乗りだぜ」

そう言うことなら遠慮は要らない。

「俺が雑魚を引き寄せるからリックはメイとミィナをサポートしてくれ」

「おうよ! メイ、ミィナ、武器を構えろ!」

大きく頷き合い、先にウィルが剣を手にして、

小さく詠唱しつつ氷魔法を使って視線を誘導させ、

雑魚を誘き寄せてから気を逸らし剣で倒していく。

気配にやっと気付いたジェネラルオークがきょろきょろと辺りを見渡した。

「毒だけ入れてやるから、後はできるよな?」

「いけると思う」

「あたしもがんばる!」

ミィナのレベルはリックより高いので心配要らないが、

問題はメイだ、やっと適正レベルだから梃子摺るかもしれない。

しかしメイにはグングニルがある、毒でHPを削ってくれるから、

きっと倒せないことはないだろう、最悪ウィルが足止めしてくれる予定だし。

「ジェネラルって鎧着てるのか…」

強いだろうと思ってたら鎧で防御が高くなっているらしい。

大きな斧を持つジェネラルオークは普通のオークの一回り大きかった。

倒した証である魔石が目当てだけど、元がオークなら肉も当然確保したい。

「あたしが先に二体倒しちゃうね、メイちゃんは残ったのよろしく!」

「分かった!」

ミィナが意気揚々とスリングショットを構えて弾を引く、

狙いを定めてまずは一体、見事に心臓を貫いて一発で倒して見せた。

ミィナは弾に魔力を込めて強度を増し、火の属性魔法も付与しているから、

弾が貫いた心臓はチリチリと焼けて煙を上げ、そのまま魔物が倒れる。

二発目も命中して二体のジェネラルオークが倒れ、

素材回収は後回しでメイが残りのジェネラルオークに狙いを定めた。

既にリックが毒を入れてくれているので落ち着いて、

そろそろ他の冒険者達にも気付かれている頃だろう焦らず慎重に。

ミィナのように心臓を貫くのは鎧が邪魔で難しいかもしれない、

だからとりあえず狙いやすい頭を目掛けて。

「当たれー!」

思いっきりぶん投げたグングニルが勢い良く飛んでいく、

メイの力は弱いけれどグングニルの威力があれば倒せるだろう。

ウィルはメイ達の邪魔になりそうな雑魚を片付けながら辺りを【看視】し、

雑魚の魔石や素材を回収、そして他の冒険者が近付けないように牽制する。

他の場所にまだジェネラルオークが居ると思うから、

そこまで気を張らなくても大丈夫だが念の為。

「お、倒せたみたいだ、ウィル回収行こうぜ」

「ああ」

メイのグングニルが三体目のジェネラルオークを倒したことを、

リックが【看視】を使って把握し、本来の目的である魔石を回収しに行く。

解体はウィルとリックに任せて、メイとミィナはドロップ素材を集める。

魔石だけじゃなくてポーション類の素材も落ちるのはありがたい。

そしてジェネラルオークを解体して肉を…と思ったが、

ここでは他の冒険者の邪魔になってしまうので、

次の階に続くセーフティエリアまでジェネラルオークを移動させる、

そのまま担いでいくのではなく魔法カバンに入れて。

これでやっと冒険者ランクが上がるのかと思うと嬉しかった。

 

セーフティエリアで解体して肉を確保、ミィナは大喜びで夕飯のメニューを考える。

ずっしりと重みのある魔石をカバンにしまって、

まだ時間はあるし次の十四階で少し狩りをしようか…。

「そう言えばリックは冒険者ランクBなんでしょ?」

「ああ、前のパーティで140のエリアボスを倒したけど、

 レベルがちょい足りなくて、理想のメンバーで行っても結構ギリギリだったな」

理想のメンバー? それは性格とかの話ではなく職業の話だ。

リックは斥候で他には前衛の剣士や防御の重戦士、

魔法使い(攻撃と回復別々の人)と言うバランスの取れたパーティだった。

まあ、男女間の嫉妬や牽制に愛想を付かしてリックは離脱した訳だが。

他にも槍を得意とするランサーや武術家、勿論弓使いのアーチャーなど、

様々なジョブが居てパーティ編成は満遍なくが基本らしい。

勿論、討伐目的の魔物に合わせて編成が変わったりもする。

「そうなると、やっぱり魔法使いとか居た方がいいのかしら…」

「何言ってんだ、ウィルが居るだろ」

「あ…」

そうだった、ウィルは剣士だけど氷魔法が使えるし何より強い、

しかし回復はメイのポーション頼りなので回復魔法を使える人が欲しい気もする。

できればエドガーみたいな強化補助が居た方が安心だが。

寧ろメイが強化補助の魔法が使えるようになれば一番いいのでは?

調合と補助ができれば完璧だよな…なんて思ったりしなかったり。

「メイのポーションは上質だから回復役が居なくても、

 大丈夫だとは思うんだがな…」

ウィルが言うならそうなのかな。

ポーションを褒めてもらえるのは素直に嬉しい、

メイは恥ずかしそうに笑ってウィル特製の紅茶を啜った。

「ねえメイちゃん、スライムの魔石ってもう使わない?」

「大量に余ったままだよ、どうしたの?」

「最近魔物のレベルが上がってきたから魔石が大きくなって、

 丁度良いサイズの弾にならないの。

 スライムの魔石が使いやすいから使わないならちょうだい」

「いいよ~使い道に困ってたし」

カバンから取り出したスライムの魔石4桁、相変わらずえげつない数だ。

ミィナに言われて確かにと思った。

魔物のレベルが上がると魔石も少しずつ大きくなる、

そうすると手が小さいミィナには弾として使うには難しくなるのは当然。

だとすると、これからは専用の弾を考えるか武器を変える必要も出てくる。

「スライムの魔石を使ってんのか、魔弾は使わねぇのか?」

「いつも弾に魔力を込めてるけど、魔弾だけだと疲れちゃうもん」

魔弾は魔力だけで作る弾のことである。

ミィナはそもそもの魔力は一般人より多いが燃費が悪いらしく、

魔弾になると魔力が必要になるので弾切れならぬ魔力切れになるのも早くなる。

「じゃあ当分は魔石が必要だな、まあ4桁もあれば心配ないだろう」

ウィルが紅茶を差し出しながら言う。

もし弾がなくなったら別の弾を探せばいいし、

なんならそこら辺に落ちてる小石でもいいのだ。

「それはそうと、素材集め続ける?

 十四階って何が採取できるのかな」

「荒地だからポーション系と野菜だな」

じゃあ決まりだね、とメイとウィルが顔を合わせて微笑む。

雑魚を倒せば魔石もドロップ品も集められる、

公爵家に卸す分も考えると素材はあって損は無い。

 

十四階に降りてウィルとリックとミィナはそれぞれ単独行動、

と言うかウィルは最下層まで行くとのことで、

まずは二十階まで降りて帰還石に触れて潜るそうで一人で行く。

リックとミィナはメイの素材集めのお手伝い、

そしてメイはセーフティエリアの近くで安全を確保しつつ素材採取。

「トマトとナスが豊富だ!ありがたいな~」

他にも果物も沢山生っている、皆十三階目当てだから十四階は穴場だった。

素材だけでなく野菜も果物も豊富だしメイはにこにこだ。

昼に一旦全員揃うからそれまでのんびり今晩のメニューを考えながら、

時には雑魚のオークを倒したりして、冒険者を満喫したのだった。

(あれ…?)

人の声が聞こえて顔を上げる。

後からやってきたのは見知らぬパーティだった。

若い子が数名、剣士と重戦士に攻撃魔法使いと回復系神官?

バランスの取れたパーティだなあと思っていたら。

「ちょっと…ババアが草取りしてるんだけど」

魔法使いらしい女の子がにやにやしながら見下してきた。

草取りって…素材採取してるだけなんだけど。

「マジかよ、ババアどっか行ってくんねぇかな」

半笑いで剣士風の男が魔法使いの女の子の肩を抱いた。

どんな世界でもカップルは居る物で、だからって見下される理由にはならない。

でもまあ、ここは邪魔者であるメイは場所を移動しようと考える。

(確かに年上ですけどね)

敬えなんて言う筋合いは無いし関わりたくなかったので、

メイは無言で場所を移動すると背後で若い子パーティのせせら笑う声が聞こえた。

世の中舐めてるとしか思えない人種だけれど、

メイにしてみれば彼等の方がこの世界の先輩なんだよなぁ…と溜息。

セーフティエリアの近くは素材を集めた後なので、

別の場所に移動するのは都合が良いかもしれない。

「キャ~怖ーい!睨んできたよあのおばさん!」

決して睨んでませんけど!?

「見たところ剣士でも魔法使いでもないし、斥候か?

 弱い奴がなんでこんな所に居るんだよ、

 どうせパーティからも邪魔者でお荷物なんだろ」

にやにや言う剣士にメイはもう一度溜息。

「本当のこと言ったら可哀相よ。

 本人も自覚してるから一人で採取してるようだし」

今度は魔法使いの後ろに居た白いローブを羽織った神官の女の子がくすくす笑う。

なんだか前世界でコンビニにたむろしてるヤンキーに絡まれている感覚だ、

無視するのが一番、メイは立ち上がって歩き出したが、

なんと背中から何かが飛んできて肩に当たった。

「忘れ物だぜおばさーん」

投げてきたのは落としてしまったトマトらしい、

メイの肩にぶつかって潰れたトマト、肩が赤く汚れてしまった。

何故ここまで絡まれなきゃいけないのだろう、

こちらから非礼があったのならともかく、

年上だから、弱そうだから、たったそれだけで絡んでくるものなの?

「それにしてもジェネラルオークも全滅してるし、

 あんなババアに出くわすし今日は最悪だな~」

「ホントよ、やっとランクCに上がれると思ったのにぃ」

そうか、メイ達がジェネラルオークを倒した後に到着したパーティだったのか、

目的が同じでランクアップのために討伐クエストを受けたらしい。

(こちとら一番乗りで倒しましたけどね!)

心の中で自慢しつつ離れると会話は聞こえなくなったが、

彼等の笑い声だけが聞こえてくる、凄く不快。

服が汚れちゃったしどうしようかな…。

以前ウィルがメイのために肩に掛けてくれたマント、

大事に使ってたのに汚されてしまった。

やり返したくてもあちらのパーティは四名だし、こっちは一人だけ、

戦うより穏便に済ませた方が良いのは分かっている。

やられっぱなしは悔しいけど問題を起こすと仲間に迷惑が掛かるだろう、

悔しいなあ、久しぶりに怒りを感じるよ。

子爵令嬢に文句を言われた時より腹が立つ。

木陰に隠れてマントを外し汚れ具合を確認する、

思った以上に汚れた範囲が広くて泣きそうだ、今すぐ洗濯したい。

泣きそうになってマントを両手で抱えてしゃがみ込む。

(ウィル、ごめんね)

改めて思うと二人の関係はとても不安定だ。

ウィルからは真っ直ぐに気持ちを伝えられたし、

きっとメイが思っている通りの感情で間違いない。

一応メイもウィルの気持ちを受け取ったものの、それからは特に何もなかったのだ。

メイが倒れた時に額への口付けはあったけど、それっきり。

特に密接な関係に発展してもないし、普段は仲間も居て恋人っぽい雰囲気は皆無。

どうしてだろう、今すぐウィルに会いたい。

「お前等いい加減にしろよ!!!」

突然大きな声が聞こえて驚いた、これはリックの声。

メイは立ち上がって恐る恐る木陰からリックを盗み見る。

「レベルもランクも同じなのに年齢が違うだけで見下しやがって!

 お前等が憧れるウィルはもっと年上だし、

 見下した女がどれだけ強いかも知らねぇで文句言いやがって!」

「な、なによ!いい歳したババアがこんな所に居るのが悪いんでしょ!

 それにウィル様とババアがなんで同列扱いなのよ!」

言い返しているのは魔法使いの女の子だ、

剣士の男の子はリックに反論できないようで黙っている。

「おい聞いたかウィル、お前の女がババア扱いだぞ」

「そうか」

驚き過ぎて息を飲む。

若い子パーティの後から顔を覗かせたのはウィルご本人様。

それにリック…もしかして気付いてたんだ…。

リックとウィルに挟まれて若い子パーティは足が震え、

魔法使いの女の子は「違うの!」を繰り返して泣くばかり。

「ババアとは誰のことだ?

 まさかメイのことだったらお前等を不敬罪でひっ捕らえるんだが」

不敬罪!? そこまでしなくてもいいのに!

メイは慌てて飛び出して汚れたマントを抱えたまま。

「不敬罪って遣りすぎだよ!もういいからウィル」

「………冒険者を続けられると思うな」

メイを一瞥したウィルは若い子達に向かって呟きパーティを掻き分けてメイの元へ。

「それを汚したのはあいつ等か」

「う、うん、まあ…、洗濯すれば大丈夫だと思うよ」

「…ああ」

おろおろしてるメイをウィルがぎゅっと抱き締める。

(俺の目の届かない所に置いておけない…)

メイの泣きそうな悲しそうな顔を見るなんてまっぴらごめんだ。

何があったのか細かいことは分からないけれど、

あのパーティにメイから手を出したとは考え難い。

つまりあのパーティがメイにトマトを投げたことになる。

抱き締められることで周りの視線が怖くなったメイは、

ウィルの腕を軽く撫でて顔を上げる。

「ウィル、最下層に行ってたんじゃないの?」

「もう倒した、戻ってくるのに十階から降りてきたんだ」

ああ、なるほどね。

わざわざ二十階から登ってくるより十階から降りたほうが早い。

「えっと…」

そろそろ離してくれないかな、恥ずかしい…。

しかしメイの思いも虚しくウィルからは更にぎゅっと抱き締められて、

息も苦しくなるくらいで混乱してしまう。

「もう大丈夫だから!ウィルまで汚れちゃう!」

「すまない、つい…。

 メイを一人にして悪かった」

「ウィルが謝ることじゃないよ」

「そうだな、あいつ等が悪いな」

メイを解放したウィルは再び若い子パーティを睨み剣を抜いた。

「お前等は国賓に対して無礼を働いた、よって不敬罪と見做す」

ウィルの声に若い子パーティの四名がガクガク震えて崩れ落ちた。

「冒険者としての資格を剥奪し、王宮の地下牢に死ぬまで入ってろ」

だからやりすぎだってば!!!

「そこまでしなくていいよ、まだ若いんだし反省してくれたらそれで…」

「なに言ってんだ、あいつ等のメイを見下した発言は胸糞悪かったんだぜ!

 地下牢はともかく…冒険者の資格剥奪は妥当だ!」

リックまで何言っちゃってんのよ!これじゃあ収集が付かなくなる!

「ああもう!二人とも正座!!!」

メイが叫ぶとウィルもリックも驚いて反射的に正座になった。

「いい大人が若い子を追い詰めちゃダメでしょう?

 大人なら導いてあげようよ、特にウィル」

「…なんだ」

「私より年上なのに大人じゃないの?」

「………」

痛い所を突かれてぐうの音も出ない。

いくら感情的になっていたとしても、ウィルの怒りはあまりにも危うい。

「私のために言ってくれたんだとしても、

 私はそれを望んでないの、OK?」

「「はい…」」

ウィルとリックの小さな返事に満足したのでメイはやっと笑顔が戻ってきた。

そこへタイミング良くなのか悪くなのかミィナが戻ってきて、

正座してる二人を見て首を傾げたのだった、何があったんだろう?

まさか英雄とも言われる冒険者ランクSのウィルを正座させるなんて、

あのBB…じゃなくて、あの女性は一体何者なのか、

若い子パーティは泣きながら土下座で謝ってくれました。

もう二度と人を見た目で判断しないように、

例え年上でも同じ冒険者なのだから頭ごなしに否定したり、

見下したりしてはいけない、それより手を取り合い助け合いましょう。

メイの説教に若い子パーティは土下座したまま何度も頷き、

結局トマトを投げた剣士にメイは一発頬を叩いて(軽く)お相子としました。

「ちょっとオーク倒してくる、ウィルとリックは素材採取よろしくね!」

「待ってメイちゃんあたしも行くー!」

元気良く反応したミィナと共に、グングニルをカバンから出して構えながら、

木々の間を走って駆け抜けた、待ってろよオーク共、ウサ晴らししてやる!

完全にとばっちりのオークご愁傷様です。

(そう言えば…)

王様から貰った腕輪を見せれば一発で諍いは収まったかもしれない…と、後から気付いた。

まあ、若い子達が王家の紋章を知っているかどうかは分からないけど。

「お前等見ただろ、あの女神はグングニルで戦うんだぜ…」

立ち上がって膝の汚れを払うリックの言葉に顔を青くする若い子パーティ、

伝説の槍を持つ女性に若い子パーティは再び震えた。

そもそも魔法カバンを持っていることすら珍しいので、

手ぶらだったメイの腰にあるダガーで斥候だと決め付けていたらしい。

まあ斥候でもなく調合師なんですけどね…。

「リック、素材集め続けるぞ」

「俺はさっき充分に集めたからウィルだけやれよ、

 そろそろ昼だし俺は美味い飯のためにメイを待つことにする。

 まあ精々がんばれ~ 昼飯はなんだろうな~」

頬を緩ませているリックを睨み、ウィルは仕方なくしゃがんで素材集め。

まさに先程メイが草むしり(採取)していた姿と同じだ、

メイの美味しいご飯のためには素材を集めた方が良い。

なんせアルバート公爵家が絡んでいるから益々文句が言えなかった。

 

オークを倒して戻ってくるとウィルが素材を集め終わったようで立ち上がる、

そのままセーフティエリアに戻り先に居たリックが火を起こしていた。

ちなみに若い子パーティは少し離れた場所で固まっている、帰れよ。

「お昼どうする? 一応サンドイッチは用意してるんだけど」

「なんか毎日サンドイッチじゃない? たまには違うの食べたい」

「ラップサンドは?」

「飽きたー!」

メイとミィナの遣り取りを聞きつつリックは小皿やフォークの準備、

ウィルはカバンから茶葉を取り出しお馴染みの紅茶を淹れ始める。

「サンドイッチもラップサンドも飽きたのか…どうしようかな。

 ニョッキは時間掛かるし…」

「甘くないぱうんどけーきは?」

甘くないパウンドケーキとは、以前作った小松菜入りのさっぱりケーキのことだ、

卵と砂糖を加えずホットケーキミックスだけの甘みで、

おやつと言うより食事に近いのでケーキと言うと変な感じがする。

子供向けの幼児食と言えばいいだろうか、

惣菜系のパンみたいだから確かに主食にできないことも…。

「オーブンがないと作れないね」

「えー!」

「贅沢言うなよ、作ってもらえるだけありがたいと思え!」

リックがミィナの頭を撫でながら言う、元孤児院出身だったリックは、

一人で生きていく中で食事のありがたみを嫌と言う程知っている。

うーんと考えたメイは何かを思い付いて内緒話。

「ちょっと買出し行ってくるから待ってて」

「うん!」

ミィナに伝言を頼んでメイは岩陰に隠れコンビニへ。

またサンドイッチになってしまうが食パンと千切りキャベツ(袋入り)を買って来た。

実は以前サハギンを倒した時に入手した肉は、

豚や鶏、牛とも違う肉で、メイ以外は嫌煙していたのだが、

メイがサハギンの肉を竜田揚げにしたら美味しいと好評だったのだ。

しっかりと下味を染み込ませて竜田揚げにしたから臭みもなかったらしい。

そしてメイが試食した時に感じた味は…鯨でした。

どんな肉とも違うし魚でもない食感、どっちとも分からない不思議な味は、

たぶん鯨に近いんじゃないかと思ったのだ。

早速食パンに千切りキャベツと共にサハギンの竜田揚げを乗せ、

タルタルソースを掛けてサンド、柔らかいパンは甘みもあって美味しいよ!

「これなら食べれる?」

「こんなパン見たことない…!」

目を輝かせるミィナ、そう言えば食パンを買ったのは久しぶりだ。

ウィルにしかご馳走してなかったっけ?

こっちの硬いパンに慣れてきたから食パンの存在を忘れてた。

「いただきまーす!」

いつもと同じサンドイッチだけどパンが違うからミィナの食欲が湧いたらしい、

口を大きく開けて食べる姿はいつ見ても豪快で清々しい。

ウィルとリックも絶賛してくれたので大成功です!

他にもキャロットラペもあるからそれをサンドしてもいいし、

じゃがいもたっぷりのクリームシチューをスープとして食べます。

サンドイッチを食べ終えて、この後はもう一度素材を集めて…と考えていたら、

いつの間にか若い子パーティが居なくなっていた。

顔を合わせ辛いよね、あんなことがあると。

再び十四階に降りて素材を集め、雑魚のオークを倒したりしていたら、

三時休憩前に若い子パーティに声を掛けられた。

「あの、本当に申し訳ありませんでした!」

剣士の男の子が叫んで頭を下げてくれた、もうお相子にしたからいいのに。

そして魔法使いの女の子が袋にいっぱいの素材を差し出してきた、

どうやらお詫びのつもりで集めてきたようだ、ここは素直に受け取ろう、

そしてメイはカバンに手を突っ込んで、上級ポーションを四つ取り出す。

「素材ありがとう、ちなみに私は調合師だからお返しにこれあげるね」

「えっでも…!」

「集めてくれた素材でもっと沢山作れるから、

 こっちこそお礼だよ、ありがとう」

一人一個ずつ手渡して、最後には笑顔でさよならがいいよね。

そこで若い子パーティはもう一度頭を下げて帰って行った。

「良かったのか?」

「うん、誰だって間違うことはあるしね」

ちゃんと調合師って訂正できたし。と笑うメイにウィルは肩を竦める。

どうやってもそこじゃないだろと思うけれど、

メイが良しとしているならもういい、ウィルが口出しできることは無い。

三時休憩になったが目的も果たしたし帰ることにした。

だってダンジョンと街は徒歩で二時間掛かるから…。

行きはウィルに抱えられたけど帰りも同じは嫌だし、

やっぱりなんか恥ずかしいし…リックにはバレてるし。

斜め前を歩くウィルを見上げながらメイはこっそり溜息。

歳のせいかどうしても先のことを考えてしまう、

後ろ向きなのは昔も今も変わってない気がする。

これでもだいぶマシになったとは思うけど。

 

街に着いたら日が暮れていた。

何よりまずギルドだ、ジェネラルオークの魔石を提出すればクエスト完了、

そして冒険者ランクがDからCに上がりました!

メイとミィナは両手を掴んで振り回し小躍りをする。

「やったね~!」

「メイちゃんおめでとう~!」

「ミィナもおめでとう~!」

微笑ましい光景にウィルは小さく笑い、リックも歯を見せにかっと笑った。

次に目指すのはランクBだけどレベル的にまだ先で、

しばらくは目的もなく旅をしてみるのもいいし、食材を求めて旅をしてもいい。

だがそこでウィルが提案してきた。

夕飯の前にメイとミィナが使っている部屋に集まって作戦会議。

「実は各地のダンジョンを巡って最下層のボスを倒して回ってるんだ、

 そうすることでスタンピードの頻度を下げることができる」

スタンピード?なんだそれ? 分からないメイのために詳しく説明してもらう。

ダンジョンを全く手付かずにしていると魔物が溢れて、

ダンジョンから大量に魔物が出てきて街を襲ったりするらしい。

そのスタンピードを防ぐためにウィルはずっと昔からダンジョンを巡り、

最下層のボスを倒すことで沈静化しているとのこと。

(もしかして…)

いつからやっているのか知らないが、ウィルが昔からって言ってるくらいだし、

きっと百年近く続けているのだろう、だとしたらレベルが異常に高いのも頷ける。

全てのダンジョンのボスを百年も倒し続けていたら、

きっとレベルなんてアホみたいに高くなるだろう。

そして冒険者と言いながら特にクエストをやっていないが、

本来ならランクが下がるのだけれど、公爵と宰相からの直々の指令だから、

ランクがSのままなのだそうだ、国からの要請なので報酬もそこそこもらっている。

つまりこの世界の冒険者で最高ランク&最高レベルなのはウィルであること。

(私、とんでもない人に助けてもらったんだ…)

今まで一人でボスだけを倒す日々、どれだけ退屈だっただろう、

しかもこの任務は国王陛下からの頼みで宰相から話しがきたらしい、

そして公爵もサポートとしてウィルをバックアップしている。

断れないし断ったところでウィル以外の適任者が居ない。

「だから、今後ダンジョンに行くなら最下層のボスを倒すことを優先させてくれ」

「それは構わないけど…どこのダンジョンに行くって決まってるの?」

「一度ボスを倒せば五年から十年は大人しくなる、

 ただ、ダンジョンの数が多いからなんとも言えないな」

のんびりしていられない時もあるということ、

テキトーにふらふら行きたい所だけを巡るのは難しいらしい。

一応ダンジョンをひとつひとつ順番に周ってうまく調節しているようで、

あっちへこっちへ飛び回るってことはないようにしているみたい。

それを百年以上も続けているからウィルにとって馴染みのルートである。

この大陸は広いので五年で一周できるルートをウィルなりに調整し、

最悪長引いても十年で一周すれば良いとのこと。

「じゃあ五年経ってそろそろ行かなきゃいけないダンジョンは?」

「ここから少し離れた南部にあるダンジョンだ、そろそろ五年になる」

「でも最長で十年だろ? 焦らなくてもいいんじゃないのか」

ウィルとメイの会話にリックが口を挟んだ、言いたいことは分かる。

十年でいいなら今すぐ向かわなくてもいいのではないか、

冒険者になったばかりのメイやミィナには厳しい旅になるのは避けたい。

「嫌なら来なくていいぞ、俺はメイと冒険できればそれでいい」

そんな言い方しなくても…。

「あたしはメイちゃんと一緒に居られればいいし、リックは嫌なの?」

「誰も嫌だなんて一言も言ってねぇだろ!

 メイの飯があるならどこにでも付いて行くからな!」

結局ご飯かよ!

と言うことで南部のダンジョンに行くことになりました。

冒険者ランクBになるにはレベルが全然足りないから、

そこはゆくゆくってことでレベルよりも素材を求めて旅を続けます。

大きな街であれば公爵家への荷物を届けてくれるので、

大量に作ったポーションは公爵家専用の馬車に頼む心算です。

御者さんが大変だからちょっと気の毒だけど…。

それが無理ならインテさんが騎士団として遣いを寄越してくれるとか、

頼んでるのはこちらだから…と提案してもらったので、

ありがたく頼らせてもらうことになった。

今夜もBBQをして一日が終わりました、おやすみなさい。

 

 

 

 

 

続く




次のお話は若干重めです、苦手な方はご注意ください。
メイの決意とウィルの覚悟。
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