おばさん、よくある異世界転生する   作:竹モカ

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前半重い話しです、メイの決意とウィルの覚悟。


⑭『夢で逢えたら』

素材が沢山集まったので大量のポーションを作る、

注文は中級と上級ポーション、それから万能薬、後は風邪薬と痛み止め。

調合師のランクがAになったことで作れる種類が凄く増えた、

従ってメイが作れる物の中から注文を受けて作ることになったのだ。

あれこれ全部作っていたら余ってしまうこともあるし、

受注生産の方が無駄がなくメイも作り甲斐がある。

誰かが必要としている、使ってもらえるのは本当に嬉しい。

勿論怪我をすること自体は喜ばしいことじゃないけど、

誰かの役に立てるのが心の底から嬉しかった。

 

ポーション作りで疲れて寝落ちしてた、変な時間に寝ちゃったせいで、

夜明け前に目が覚めてしまった、ちょっと散歩してこようかな。

一応南部に向かうことが決まったけれど、出発するのはしばらく先。

何よりもまずポーションと薬を作るのが先決で素材を消化しないと…。

魔法カバンは無限大だから持ったままでもいいが、

なんとなく作っておかないと不安になってしまって…。

寝巻きとして着ているスウェットの上にブランケットを羽織って、

宿屋の外に出て裏庭にあるベンチに腰掛けた。

一人になって考えてみる。

ウィルの気持ちが嬉しいと思う反面、このまま答えていいのかまだ迷っている。

夫に対して申し訳ないという気持ちも勿論あって、

踏ん切りが付かないと言うか、決定的な何かが分からない。

メイとしてもウィルのことは好意的に思っているし、

恋人になることもちょっと濁したりして、本当にいいの?と言う気持ちもある。

最近は冒険者ランクを上げるためにレベル上げや採取で忙しかったから、

じっくり考える暇もなかったので一人になって考える時間が作れたのは良かった。

(嫌いではないんだけど…)

好きかと聞かれると好きだと思う、でもなんか違うような。

仲間として好き、師弟関係として敬える、異世界に落ちてきてお世話になって、

とても助けられたし心から感謝している、けど…。

それが恋愛の意味で好きかと聞かれると…分からない。

夫に対しては私より素敵な人と幸せになって欲しいと思っているし、

ウィルのことも幸せになって欲しいと思っている、

そこに違いはあるのだろうか。

「…あ、そうか」

罪悪感が残るんだ。

夫とは突然別れることになってしまってケジメを付けていないから、

ウィルに対して真っ直ぐに答えることができないのはそういうこと。

せめて夫に本心を伝えられたらいいのに…。

(ちゃんと離婚してないから踏ん切りがつかないんだ)

死んだことで強制的にお別れをしてしまって、

最後の挨拶もできなかった、その心残りがいつまでも消えない。

普通に考えて夫と婚姻関係が続いているのに恋人を作ってしまったら、

それは浮気になるし人として倫理に悖る。

別々の世界に居るから会話すらできないし、

死んでしまったから身体がなくて離婚届にサインもできない。

早く夫を解放したいのに何もできない…。

(どうしたらいいの…イナンナ様)

膝の上で両手を握る、俯いて目を閉じ心で祈る。

『気持ちが固まっているなら夢として会うことはできますよ、

 ただし最初で最後、一度きりになるけど』

え!?

聞こえてきたイナンナ様の声。

(夫に会うことは可能なんですか!?)

『良く考えてね、一度だけだから』

一度だけ、でも夫に会えるんだ。

夫とウィルのことを天秤に掛けるのではない、

二人のことを思うからこそ会わなければならない。

メイは立ち上がり部屋に戻る、徐にベッドに潜り込んで目を閉じた。

(お願いしますイナンナ様)

『分かりました、メイ…幸せになってね』

イナンナの言葉が耳を優しく撫でて睡魔に襲われた。

 

───

 

いつの日か見た芝生の上に居た。

前世界で着ていた服のままで、死んだ日に戻ってきたみたいだった。

「明…?」

「!!」

そこに居たのはちょっと白髪交じりの懐かしい姿。

ひょろっとしてるけど若干メタボ気味で泣きそうな顔をした夫だった。

「久しぶり…だね」

「ああ…今日は四十九日だからなのかな」

そうか、もうそれだけ月日が経っていたんだね。

前世界と異世界では時間の流れが違うのか、

ちょっとズレてるけど今はそんなことより。

「私、伝えたいことがあるの」

「なに?」

怖くて足が動かず二人の距離は縮まらない。

「あのね、あなたには幸せになって欲しいの」

「…ああ」

「私よりもっと素敵な人と出会って、

 もっと幸せになってくれなきゃ死に切れない」

「…うん」

頬を濡らす涙の意味は最後のさようならだから。

「明、今までごめんな」

謝らなくていいのに、謝るのは私の方なのに。

「ずっと言えなかったんだ、意気地なしでごめんな」

「違う、謝るのは私の方で…」

優しい風が濡れた頬の涙を乾かしてくれる。

「明がうつ病で苦しんでた時に、

 俺は自信がなくなって寄り添うことしかできなかった。

 仕事で色々あって、やっと向き合おうと思ったら職場が変わって、

 出張ばかりになって明との時間が取れなくなって…。

 それも俺が逃げてたからだと思う」

メイがうつ病になり夫に支えられ、なんとか立ち上がって料理が作れるようになり、

結婚してすぐに夫の職場が変わったのは覚えている。

お互いに燃えるような恋をした訳でもなく、

友達関係のまま延長線上で結婚をした、一緒に居て楽だったし、

無言で居ても痛い空気になったこともない。

まるで兄妹(きょうだい)のような、寧ろ老夫婦のような関係がずっと続いていた。

しかし結婚したら問題は山済みだった、

二人の時間が減ってお互いに遠慮していたり自信がなくて、

今までずるずると来てしまったのはどちらが悪いということは無いと思う。

「ずっと…ずっと…何もできなくてごめん」

がっくりと膝を折り芝生の上で夫が土下座みたいに蹲った。

夫が言いたいことが痛いほど分かる、

何もできなかったとは…セックスレスだったからだ。

お互いに愛してなかった訳じゃない、精神的に二人とも気が乗らなかっただけ。

こればっかりは当事者にしか分からないことだろう。

「ううん、しょうがないよ、私に問題があったんだし」

「違う、俺が勇気を出せれば良かったのに…」

長年レスだった夫婦関係、期間が長ければ長いほど手を伸ばす勇気は目減りする。

レスだったことにより周囲からの子供の催促という言葉は、

二人の心をどんどん磨り潰して余計にレスに拍車を掛けた。

嫁姑問題だけでなく、陰でメイに対して親族からの嫌がらせがあったり、

気付いたら夫が盾になってくれたこともあったけどチクチク嫌味は良く言われた。

夫も職場で後輩が結婚して子供の写真が送られてきたり、

メイの心の病だけでなく夫は仕事の異動や環境、ストレスのせいでEDになったり、

治るのに時間が掛かって気が付けばレスの期間は伸びに伸びてしまった、

結婚していることで二人は窮地に追い込まれてしまったのだろう。

勿論身体の関係だけが絶対ではないし、付き合ってから全くのレスだった訳でもない。

だが本当にタイミングが悪かったとしか言えない、

結婚した途端に環境が変わってしまったのだ。

悪いのはどちらでもない、本人達にはどうにもできなかった。

愛し合っているのなら問題は無かっただろう、

しかし二人して相手を思い二人して相手の幸せを願っていた。

自分と一緒に居ると相手は幸せになれない…そんな棘を抱えたまま。

そして離婚に踏み切る決定打も無く、結局レスのまま婚姻関係を続けていた。

依存に近かったと言ってもいい。

「もう大丈夫だよ、謝らなくていいんだよ」

「でも…」

涙を零し芝生で蹲る夫の姿を見ていると胸が締め付けられる。

「私ね、死んじゃったけど別世界で幸せになろうと思ってるの」

「別世界…? 天国とかそういう場所か?」

「分かりやすく言うと異世界? 剣と魔法のファンタジー!」

「なんだそれ」

やっと夫が笑ってくれた。

「しかもね、なんと私が冒険者になって仲間と一緒に旅をしてるの」

「ゲームみたいだな」

前世界とは全く違う世界、だからこそメイは必死に前を向くしかなかった。

夫に依存するのではなく、仲間と共に助け合いながら。

「だからさ、もう辛い思いは捨てていいよ、

 いつまでも覚えてなくていいんだよ、

 私のこと忘れろとは言わないけど、幸せになってよ」

「じゃあ、明も異世界で幸せになってくれるか?」

「うん、約束する、だから…姻族関係終了届を出して欲しい」

「!」

それは配偶者が死後に役所へ届け出る離婚届だ。

驚く夫を他所にメイは笑顔を見せた。

芝生に座ったままの夫に手を差し伸べて立ち上がらせる。

「私達の婚姻関係は終わるけど、きっとここからがスタートだと思う、

 今までずっと支えてきてくれてありがとう、

 あなたが居たから私は生きてこられたし、

 あなたが居なかったらきっと心が死んでた」

「………」

見詰め合いお互いの瞳は揺れているがメイの決意は伝わってきた。

「本当にありがとう、だからあなたには幸せになって欲しい」

「…明も、幸せになってくれ、今までありがとう、

 そして、申し訳なかった…本当に…」

きっと、二人はやっと前を向くことができたのだろう。

親友として励まし合うのは最後になる、だからちゃんと向き合って。

メイが右手を差し出す、夫もそれに応じて手を重ね握手した。

「もっと素敵な人って言っても、俺もう50過ぎてんだぞ?」

「なによ、私だってもう45歳だよ」

あなたは本当に素敵な人だから、きっと良い人が見付かるよ、

ちょっと遅くなったかもしれないけど、見付かる予感がする。

いくつになっても、遅すぎるってことは無いと思う。

(私の一番の親友だもん)

(俺の一番の親友だから)

最後は笑顔でさよならしよう。

今までの結婚生活は無駄ではなかった、辛い時期もあったけど、

親友の幸せを願う気持ちは本当だから。

「まあ、たまには墓参りくらいしてよね」

「当たり前だろ、明も幸せになってくれ、絶対だぞ」

「うん!」

世の中には色んな形の夫婦が居る。

二人はたまたまこんな形になったけれど、

お互いの幸せを願える関係と言うのも悪くない。

人間関係に正解なんてひとつも無い、人それぞれに解が違って当然だ。

二人は依存からの脱却ができたのかもしれない。

「これは夢の中なんだろ? 今日は四十九日で親族が集まるから、

 その前に姻族関係終了届を出して親族全員に説明する、

 それは俺の責任だからな」

「押し付けちゃって悪いね~」

(お前を苦しめた原因のひとつは俺だったからな…)

レスだけじゃない、嫁姑問題や環境によるストレス、

お互いの苦しみを分かち合うことしかできなかった。

やっとその苦しみからメイを解放できるのだ。

(心から願うよ、明の幸せを…)

涙を拭いて見詰め合う、最後は笑顔で。

またいつかどこかで。

握手していた手の感覚が薄れていく、見詰め合う姿が徐々に見えなくなって、

女神様のような温かい光が身体を包んだ。

 

夢を見ていた、最後に見た明の顔が笑顔で良かった。

ずっと言えなかった謝罪ができて良かった、

これでやっと前に進めるような気がする。

俺と言う足枷から解放されて、絶対に幸せになってくれ、

それが俺の…親友としての最後の願いだ。

 

───

 

なんかザラザラする…。

目が覚めるとノエルに頬を舐められていた。

猫の舌ってザラザラ感すごいな。

『ご主人さま、大丈夫かにゃ?』

「…うん」

ちゃんとお別れができたから、大丈夫だよ。

ノエルがメイの涙を舐めてくれていたのだろう、

メイはノエルをぎゅっと抱き締めて布団の中で丸くなる。

「ノエルありがとね」

にゃ~

寄り添ってくれるノエルのぬくもりがありがたい。

いつだって安心させてくれるぬくもり、ノエルの存在、ずっと一緒に居ようね。

しばらくするとノックの音が聞こえてきた、

寝坊している訳ではないが、誰かが起こしにきたのだろう。

なんとなくウィルだと直感して身が硬直する。

改めて考えると寝起きの姿なんて見られたくない。

一応返事だけするか。

「はーい」

「起きたか? それとも寝てないのか?」

やっぱりウィルの声だ。

明け方に起きたことがバレてんのかな。

「まだ着替えてないから、もうちょっと待って」

「………入ったらダメか?」

ダメに決まってんだろ。

返事をしようと思ったけど声が出ない、

ウィルの好意を知っているからこそ今は顔を見たくない気もする。

夫とさよならをした直後だからってのもあるけど、

ウィルに対しての気持ちが不安定で恋人になる自信が無いから、

返事を濁したままの状況…。

「ダメ」

ガチャ

言った瞬間にドアを開けられ、ウィルと目が合ったメイは布団を被る。

「ダメって言ったのに!!」

ウィルは答えずベッドに近付きメイを見下ろしながら。

「胸騒ぎがして…大丈夫ならいい」

何を察知したのか不明だが、大丈夫です。

恐る恐る布団から顔を出してウィルを見上げたメイは、

その美しい姿のウィルに鼓動が早鐘を打つ。

いつもと変わらない姿なのに突然美しさが際立って見えるのは何故だろう。

(分かったかも…)

なんとなくウィルの好意を素直に受け取れないとか、

恋人になることを濁したままで、けれど断れなかったのはきっと…。

だって、この感じは恋じゃないと気付いたからだ。

(いや、恋じゃないけど限りなく恋に近い)

憧れと尊敬と幸せを願う気持ち、それはまさしく…。

(アイドルを応援する気持ちだ!!!)

そりゃそうだ、ウィルは前世界だったらアイドルに居てもおかしくない美人だし、

寧ろ絶世のイケメンと言われてもおかしくない程の美貌を持っている。

更に言えば強いし金持ちだし血筋も素晴らしい。

出会ってから感じていたのはアイドルを崇拝するような感覚で、

そんなアイドルから告白されたら誰だって戸惑うのは当たり前!

私なんかでいいのか?という気持ちの一部はそこから来ている、

返事を濁したままだったのは勢いもあったしその場の空気もあったし、

断るという選択肢が存在しなかったからだ。

だってアイドルに()

「あの、ウィルさん…」

「なんだ?」

「ウィルさんは幸せになってください」

「…どうした突然」

急に「さん」付けで呼ばれてウィルは動揺する。

「本当のことを言ってもいいですか」

「ああ」

「ウィルさんはイケメンだし強いし金持ちだし公爵家だし、

 どう考えても私は釣り合わないんですが、そこんところどうなんですか」

「………」

かなりの直球でウィルは驚きみぞおちがキュっとなった。

「それをメイが言うのか…?」

「いや、あの、ウィルさんの外側のことだけを見てる訳じゃないですよ、

 中身だって優しいし頼りになるし尊敬できるし心もイケメンで」

するとウィルは片手を額に当てて大袈裟に溜息を吐いた。

「それを言うならメイもそうだろ」

「えっ イケメンじゃないです、どこに目が付いてるんですか」

「そうじゃなくて」

何故メイがこんなことを言ってくるのか意味が分からないけれど、

ここはきちんと伝えておかなければならないだろう。

ウィルは気合を入れてしっかりとメイを見詰める。

「まずメイは異世界人だろ、この世界とは違う知識があり国が保護する対象だ、

 そして飯が美味い、奴隷エルフを無条件で助けた優しさもある、

 本当なら知らない世界で心細いはずなのに前向きで、

 誰よりも強いと俺は思ってるんだ」

「………エッ」

「もっと言うと、俺なんかじゃ釣り合わないとすら思ってる」

「そんなまさか!!!」

メイはウィルの本心にびっくりして思わず布団から起き上がり、

抱き締めていたノエルが振り落とされベッドに転がった。

「まさかって何だ!俺がメイを好きになったのはそういう所なんだぞ!」

「アイドルに告白されるとこんな感じなのかな…」

いよいよ現実逃避し始めたメイ。

ウィルの手が伸びてメイの肩をがっしりと掴んだ。

「信じられないならそれでもいい、今後信じてもらえるように努力する。

 俺はいつだってメイと共に在りたいから」

「………ウィル、すごい口説き文句」

メイに突っ込まれてウィルは顔を真っ赤にしてしまった。

冷静に指摘されると居た堪れない。

「夢じゃないよね?」

「現実だ。 分からせて欲しいか?」

「遠慮しておきます」

単純に考えれば推しに告白されるなんて経験はなかなか無いことだ、

毎日推しと一緒に居られるだけでも幸せなのに、

これが夢じゃないとか…軽く頬を抓ってみても目の前にウィルが居る。

「夢じゃない…?」

「現実だと言っているだろ」

真っ赤な顔で睨んでくるウィルが可愛く思えてくる。

「ウィルはアイドルであり推しだったのに」

「…?」

知らない単語にウィルは『?』を頭に浮かべる。

恋人になることを濁してしまったのは、本当に恋人と言うより、

友達以上恋人未満みたいな、そんな感じがメイの妥協点だったのかも。

それをどうやって伝えたらいいだろうか。

「100%恋人じゃなくて、50%くらい恋人でもいいですか」

「半分!?」

「いや…えっと…」

おろおろと視線を泳がせるメイを見てウィルは落胆する、

婚約を断られて恋人になったと思ってたのに、

張本人のメイは半分くらいしか恋人だと思ってなかったのか…。

けれど、こちらの好意を受け取ってくれているみたいだし、

これ以上を望むのはおこがましいのかもしれない。

「友達以上恋人未満…的な」

「…分かった」

メイがそう言うなら仕方ない、これからは努力しよう。

そもそも恋愛なんて記憶にないくらいしてないし、

ここまで好きになったのも初めてだし、

新たな試練だと思って精進しようじゃないか。

がっくり項垂れるウィルにメイは慌てて腕を掴む。

「ワガママ言ってごめんね、私も真面目に考えるから」

今までが真面目じゃなかったとかそういうことでもなく、

恐らくやっと何かの踏ん切りが付いたのだろう。

恋人(ウィルはそう受け取っていた)と言いながら、

メイの雰囲気は何も変わってなかったし、

前世界に残してきた夫のこともあっただろう。

心の整理が付いたのならメイの気持ちが固まるまで見守ろう。

しかしせめてこのくらいは許してくれ。

ウィルがメイの手を取りその甲に口付けを落とす。

貴族同士の挨拶と言えばそれまでだが、ウィルには最大限の譲歩だった。

「俺はメイのことを待つ覚悟がある、だからゆっくり考えてくれ」

「…うん、ありがとう」

何度も頷くメイがおもしろくてウィルは自然と笑った。

時間は沢山ある、ウィルはメイのステータスを覚えていた。

 

■サブスキル■

【女神の祝福】

《状態異常耐性、物理耐性など一般人の倍くらい耐性がある

 それに伴い身体がやや丈夫、長生き、補助魔法の上乗せは可能

 筋肉痛や眼精疲労になり難い、四十肩やぎっくり腰とは無縁

 自律神経が整いホットフラッシュも最小限

 残念ながら見た目や身長体重は前世界からの引き継ぎ

 勿論、油断していると太る》

 

それはつまるところ。

 

■サブスキル■

【竜の守護】

《建国から紡がれる伝説の守護、女神の祝福に匹敵する

 状態異常耐性、物理耐性など一般人の倍くらい耐性がある

 それに伴い身体がやや丈夫、長生き、補助魔法の上乗せは可能

 竜の血のお陰で魔力が豊富、魔法使いとしても戦える

 反射神経がズバ抜けている、とても耳が良い》

 

ウィルは自分のサブスキルを思い出して笑顔になった。

恐らくメイはウィルと同じく長寿である。

だからきっと考える時間は二人とも多い。

どのくらい長寿なのか不明だけれど特に説明もないし、

二人の寿命についての説明が同じなので、

きっと同じくらいだとウィルは推測している。

あと300年から400年は考える時間があるのだから、

じっくりゆっくり考えて悩んで答えを出して欲しい、

ウィルとしてはできれば早い方がありがたいのだけれど。

 

 

───

 

 

南部に向けて出発する前に納品のために作った大量のポーション&薬、

王都から近い街だから公爵家の馬車に直接運び込む。

インテさんから指示があったのか騎士団の方が直接来て、

馬車に乗せてその場で数に応じた現金払いが行われた。

数が数だっただけに大量の稼ぎとなり、人生で初めてインゴットを触った。

「こ、こんなにいただいていいんですか!?」

基本的にインゴッドは100万の単位と1000万の単位が存在する、

今回受け取ったインゴッドは100万の物を5本、つまり500万だ。

「何を言うんですか、こちらの要望に対し、

 速やかに対応して下さって心から感謝しております。

 団長からはもっと差し上げろと言われましたが、

 ひとまず納品代だけ先にお渡しすることになりました」

えっ てことは本当はもっと払う予定だったの?

お礼とか要らないのに…これは仕事だから。

ちなみに公爵家の馬車に運び込んだが先に王家へ納入なのだそう、

必要数を宰相であるリオンさんが振り分けるそうだ。

もっと数を確保できれば街に卸したりも考えているらしい。

「それじゃあもう街に行く度に売り歩いた方がいいのかな」

「辞めてくれ」

思わず呟いたらウィルに突っ込まれた。

「なんでよ、困ってる人に直接売った方が良くない?」

「メイが薬を持ってると分かれば襲われかねない」

「そこまで!?」

薬と言うのはどの世界でも高価であることに違いはなく、

貴族は大枚を叩いて購入するくらいだ、

それ以下の平民には手にする機会が少ないのだそう。

「王家と公爵家と教会に卸すってのはどうよ」

「教会か…」

教会は慈善活動などで、身寄りの無い子を預かったり孤児院を併設していたり、

人道的支援をしているのが殆どなので、

メイが決めるなら教会に無償で渡してもいいとは思う。

ただ、無償で渡してしまうと薬の相場が値崩れしてしまう可能性もあるので、

慎重に考えなければならない。

「だったら、教会が必要とする数を国から配給という形で渡してもらうか」

「それならいいかもね、私が無償で渡すよりも、

 国が費用を持って教会に渡した方が世間的にも良いと思う」

どちらもウィンウィンになるだろう、国としてはお金が掛かってしまうけれど、

世間からの風当たりは悪くならないはずだし。

走り去る馬車を見送りながら、隣に居るウィルの存在をひしひしと感じる。

まだ100%恋人になることは考えられないけど、

ゆくゆくはそうなれたらいいなと思う。

そして…夢もできた、メイの夢、それはエリクサーを作ること。

「素材のために世界中を旅するんだ、時間は沢山あるし後回しでもいい」

本当は直ぐにでも答えを聞きたいウィルだが、強制はできない。

メイが思うように生きてくれたらそれだけで満足だった。

夢を追い求める中で、ついでにウィルのことも考えてくれたらいい、

そしていつでも頼ってくれていいし、いつでも守りたいと考えている。

メイの隣に居られるならなんだっていいよ。

幸せを願う形は人それぞれで、苦しくても構わない。

先延ばしされて落胆したのは本当だけど。

「お腹すいたー!」

「朝飯は何にするんだ?」

ミィナとリックの声に振り返り、メイは笑顔を浮かべた。

いつもの毎日が始まる、朝食は何にしようか、出発は何時にしようか、

次の街はどんな所なのか、特産品はなんだろう。

この世界を見て回って『好き』をいっぱい探そうと思う。

朝食の準備をしようと一歩踏み出したら、

後からウィルに抱き締められて立ち止まる。

「え、どうしたの?」

恐る恐る振り向き見上げるとウィルの自然な笑顔があった。

「たまには甘えさせてくれ」

「それ今じゃないとダメなの!?」

ミィナとリックにニヤニヤされてメイは真っ赤になってしまい、

あたふた暴れてウィルの腕から逃げ出した。

「ウィルは朝ごはん抜きだから!」

「それは勘弁願いたいな」

メイを追い掛けウィルが素の笑みを浮かべて、

ミィナとリックに茶化されるのは嫌だけど、皆で一緒にご飯を食べよう。

 

 

朝は簡単サンドイッチ(特産品のベーコンサンド)にして昼食の準備をします。

パウンドケーキを焼くオーブンを借りられなかったので、

おやつは前に作った残りを消費することになった。

次の街でオーブンを借りられたらいいなあ…。

まあコンビニのお菓子だけでなくたまにはスイーツもいいかも。

昼はラップサンドでバリエーションを増やす、

毎回同じだと流石に飽きてくるしミィナは食いしん坊だし。

南部に向かいつついくつかの街を経由して行くから、

その土地の特産品が何か考えるだけでもわくわくする。

なにより、各地に点在するダンジョンに潜るのも楽しみだ、

今度はどんな素材と巡り合えるのか、夢の素材の手掛かりだけでもあったらいいな。

各地を繋ぐ乗り合い馬車での移動、大きな馬車だから乗ってる人数も多い。

会話を楽しむ人も居れば寝てる人も居る、ダンジョンの情報交換も欠かせない。

次の街には近くにダンジョンが二つあるらしくて、今から楽しみで仕方が無い。

ひとつは普通のダンジョン(?)で、もうひとつは上級ダンジョンみたい、

そっちは階層×12くらいと珍しいようだ。

そもそも適正階層が上級のダンジョンは珍しいとのこと、

ウィルは既に討伐したことがあって、その話を聞いてみる。

「各地にいくつか上級ダンジョンはあるが、

 今回行く街の上級ダンジョンは三年前に討伐したから行く必要はない」

一度討伐したら五年から十年はスタンピードの猶予があるらしい。

行かなくていいとのことでメイはほっと一安心だ。

ミィナもリックも興味は無いみたいで誰かが行きたいと言い出さなくて良かった。

メイはまだレベルが高くなく、レベル上げするにしてもせいぜい十五階くらいまで。

「でも確かもうひとつの方のダンジョンにレッドボアが居たよな」

もうひとつのダンジョンにリックは過去に行ったことがあるようだ、

レッドボアって確かスモールボアの三倍くらいデカイ奴だったっけ?

「何階だったか記憶が怪しいが…居た様な気がする」

ウィルは各地のダンジョンを巡っているので記憶が曖昧で、

最下層のラスボス以外のことはあまり覚えていないのかも。

「豚肉…」

メイの小さな声にミィナが反応する。

「お肉?」

豚肉で作りたい料理がひとつある、あるけど…。

「時間が掛かるしキッチンが使えるかも分からないから、

 またコテージタイプの宿だといいけど…高いんだよね~」

ちなみに、王家及び公爵家に薬を卸した御代のインゴットは崩してなくて、

魔法カバンの中でひっそり眠っています。

素材の報酬としていくらかリックに渡したので、

メイの手持ちは若干心許無い状況だ。

手持ちのポーション&薬を売ってもいいが、

冒険者ギルドで売り過ぎると目を付けられるかもしれないと、

ウィルに止められたのでメイの稼ぎは魔石一本になってしまった。

いや、大量に売らなければいいんだ、少しだけなら大丈夫なんだけど。

寧ろ経費は全てウィルが持つと言ってくれたが、

できれば少しは旅費を出したい、一人だけ甘える訳にはいかないから。

だが、ミィナは今まで一度もお金を出していない、

一応まだアルバート家預かりとなっているからウィルは納得している。

メイだけがあれこれ言い訳をして甘えていないだけ。

(いやでも、流石にどうなんだろうな…)

前世界で心も金銭的にも夫に支えてもらってたし、

ウィルには助けてもらったり槍をもらったり数え切れないくらい支えてもらっている。

勿論甘えられるのならすごく楽になるしありがたいんだけど…。

自立してない自分と言うのがもやもやする。

「今後の宿は全て俺が持つ、どの道ダンジョンを巡るのは俺の役割だし、

 公爵家と宰相からの指示で予算をもらってるからな」

「そうなの?」

当主のアレクさんと宰相(父上)のリオンさんから直接指示されているらしい。

もう百年以上も続けているからいつものことで、

宿に泊まるのが一人から四人に増えただけで特に問題はないとのこと。

「逆に、俺の役割にお前達を巻き込んでる状況だからな、

 せめて宿くらいは豪華にしないと上から文句を言われ兼ねない」

「なんせメイは国賓だからな~ ぞんざいに扱ったらどうなることか」

リックがニヤリと笑って言うからメイは身を縮めた。

国賓だなんて…未だに慣れない。

確かに異世界からやってきた転生者ではあるけど、ミィナもリックもそれを知らない。

ただの外国出身者だと思われている。

どっちもあながち間違ってはないような気がしないでもない?

「メイちゃんはどんな料理を作りたいの?」

ミィナのいつもと変わらない食べ盛りな言葉にメイは我に返る。

「豚の角煮って言って、豚肉の塊を煮込んで作る料理だよ、

 すごく時間が掛かるけどすごく美味しいよ」

「すごく美味しいの!? 美味しいお肉食べたい!!」

素直だなあ、可愛い。

「じゃあレッドボア倒すの必須だな。

 ウィルが最下層に行ってる間に俺達で倒そうぜ」

「さんせー!」

「お前達、しっかりメイを守れよ。

 ラスボス倒したら俺も直ぐに戻るからな」

三人の会話に置いてけぼりのメイ、分かってますよ一番弱いですから。

冒険者のランクアップのためにジェネラルオークを倒したことがあり、

その時にレベルが上がってメイは今レベル93になっている。

弱くはないがメンバーの中で最下位だから引け目を感じてしまう。

いつも手伝ってもらったり魔物のHPを削ってもらったり、

お膳立てしてもらうことが情けないし手間を掛けさせてしまって、

申し訳ない気持ちが本当につらい。

できれば自分でしっかり立ち回りたいものだ。

いつの日か胸を張って皆と一緒に対等に戦いたい、

せめて足手まといにだけはなりたくないと強く思った。

その分、ご飯で恩返しできてたらいいんだけどな…適材適所で。

ミィナとリックはご飯の話で盛り上がってて意識が逸れてるから、

落ち込んでるメイの頭にそっと手を添えて優しく撫でるウィル、

俯くメイに言いたいことは山ほどある。

落ち込む必要はないし、皆それぞれに好きでメイと冒険することを選んでいる、

足手まといとか面倒とかひとつも思ってないし、いつでも頼っていいんだ。

それが仲間ってものだろう、ウィルもミィナもリックも同じ気持ちなんだ。

甘えすぎは考え物だけれど、メイは甘えなさ過ぎる、

いつもがんばり過ぎているメイが危うく見える時もあるし、

もう少し力を抜いて楽しめばいいと伝えてあげたい。

「次の街で豚の角煮を楽しみにしている。

 ゆっくり時間を掛けてのんびり楽しめばいいさ」

「…うん」

今のところスタンピードの兆候は報告されていないし、

次に五年を経つダンジョンはしばらくないから、

ゆっくりのんびりできる余裕があるのは本当だ。

俯くよりも顔を上げて、情けないと思うなら努力しよう。

メイはちょっとだけ顔を上げてウィルを見る、

隣にあなたが居てくれると勇気が湧いてくる、

掛け替えの無い存在ってこういうことなのかな。

 

 

 

 

 

続く

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