ミィナにとってメイはどんな存在?
やっとのことで目的までの中継である街に到着した、今回は大きな宿があって、
四人用の部屋を借りることができました、部屋は大部屋ではなくて、
部屋の中に個室が二つあって中央のリビングにキッチンダイニングまで付いている。
まさに理想のお宿だった、料理の匂いがどうなるか心配だったけど一安心。
相乗り馬車で街までやってきたけれど、それまで他の中継場所である村や集落では、
小汚い宿しかなかったしキッチンもなくてまともなご飯を作れず、
ミィナの機嫌はMAXで低下していた、やっと普通にご飯が食べられる…。
ミィナもリックも泣きそうな顔でメイに縋り付いたのは言うまでもない。
今日は初日と言うことでダンジョンへは行かずご飯の仕込みに時間を使う、
約束していた豚の角煮は肉を入手してから作ることになって、
数日は手持ちの素材でやりくりします。
ちなみに今夜はずっと馬車に揺られて疲れてるので(主に尻が)
簡単にシチューとサラダ、甘くないパウンドケーキをパンの代わりに、
それだけじゃ足りないかな…ってことで、コンビニのホットスナックも、
ファ○チキにコロッケに焼き鳥、ついでに肉まんも買ってきた。
見たことも無い商品にミィナもリックも目を輝かせたのだった。
美味しいご飯にミィナもリックも無言で黙々と食べてくれました。
明日になったら仕込みがんばるぞー!
朝からのんびりと肉や野菜を切ったり様々な料理のストックを増やしていく、
一日を仕込みに費やし準備万端になったので、
寝る前に明日潜るダンジョンについて話し合い、目的はレッドボアの肉だ。
ウィルはレベルが上過ぎるので除外し、残りの三人で話し合う。
と言うかレベルいくつなのか聞いたら791だそうで、
もう少しで大台の800じゃないですか…恐ろしい。
強い強いとは思ってたし伝説(?)として街でちらほら聞いたりしてたから、
レベルを聞いても驚かないと思ってたけどやっぱりマジで強くて宇宙かと思った。
メイのレベルが93、ミィナが146、リックが131とのことで、
間を取ってリックの適正階数を目指そうと言うことになった。
ミィナとリックに着いて行けばメイも自然とレベルが上がるだろう、
素材集めは余裕のあるミィナと、ラスボスを倒した後は暇なウィルに任せた。
「解体はウィルとリックに任せるとして、他にやることある?」
「素材集めの他に? 特にねーな」
「お肉が食べられるならなんでもいいよ」
リックもミィナもこれといって意見はなくて、
最大の目的であるレッドボアの肉さえ手に入れられたら満足らしい。
魔石についてはウィル以外の三人で等分するとして、
メイは様々な薬草だけでなく、今度は鉱石も入手したいと考えていた。
相乗り馬車で情報を得たところ今度行くダンジョンは鉱脈があるらしい、
なので冒険者が多いかもしれない、しかも手頃なボア肉も手に入るとあって、
そこそこ人気のダンジョンとのこと。
なにより定期的に肉を確保するために街全体で積極的にボアを狩っているとか。
ある意味それがその街独特の特産品になるのだし頷ける話だ。
「てことはハムやベーコンが売ってたりするかな?
あれって自分で作るとなると大変で私は無理なんだよね…」
「メイちゃんでも無理なの?」
「調理以前の問題で、加工するには場所も機材も必要だし、
出来上がるまでに数日掛かったりするからね~」
「そうなんだぁ…」
塩漬けにして熟成させるとか、スモークさせたりと様々だが、
メイは元々マンション住まいだったので作る気は更々なかった。
寧ろ面倒くさがりで作るという発想すら持っていなかったのだ。
あれは庭付き一戸建ての丁寧な暮らしができる人じゃないと…。
「でもさ、メイちゃんのご飯って美味しいからさ、
お店で売ったらすごくお金持ちになりそう」
「定住できるならそれでもいいけど、私は冒険者だからね?」
勿論、どこかの街に定住して近くのダンジョンだけ限定して狩りをするなら、
それもひとつの冒険者としての生き方と言えそうだけど、
メイはウィルや仲間と共に世界各地のダンジョンを巡りたいから、
定住するのはずっとずっと先の話しになるだろう。
「じゃあ屋台は?」
おやつのフライドポテトを摘みながらリックが提案してきた。
お前等どれだけメイを働かせる気だ。
「屋台か~ うーん…」
例えば街に滞在している時だけどこかのお店に商品を置いてもらうとか、
それこそリアカーみたいなので屋台として売り出してもいいけど…。
(正直めんどくさいな…)
何より、大食らいが三人居ますからね…仕込みだけで一日が終わると言うのに。
「駅弁みたいに人が居る所で売ってもいいけど、
その材料確保と仕込みの時間を考えると、
ダンジョンに行く時間がなくなると思う」
「えきべん?」
きょとんとするミィナ、可愛い。
「分かりやすく言うと相乗り馬車に乗る場所って人が集まるでしょ?
そこでお弁当とか軽食を売ったりするの」
「それいいじゃん」
え?
リックの目が輝いてますが。
「つまりあれだろ、俺達が普段食べてる昼飯を売るってことだろ?」
「まあ駅弁の種類はいくつかあるけど」
と言うか、ミィナもリックもメイの料理をどうしたいのだ。
売り出して儲けたいのか、それともメイの料理を広めたいのか、両方なのか?
「てかさ、私は一般的な主婦で料理人じゃないからね?」
「主婦なのか?」
「あ………」
驚いたリックの手からフライドポテトが落ちた。
そう言えばウィルには言ったけどミィナとリックには言ってなかった…。
実は夢の中で夫に会って、姻族関係終了届を出して欲しいと伝え、
竹内明の四十九日だったこともあり夫は届出を出したらしい。
後日、ふとした拍子にステータスを確認したら苗字が変わっていたのだ、
今の苗字は旧姓に戻っている。
「元・主婦でした」
そう、過去形なんだ。
夫から卒業したのだ、依存から卒業できたのだ。
お互いにお互いの幸せを願って踏み出したばかり、
未来のことは分からないけどいつかは幸せになりたい。
ウィルの大きな手がメイの頭に乗っかった。
「詮索するな、仲間には変わりないだろ」
「ま、そりゃそうか、俺だって秘密のひとつやふたつあるし」
「秘密って訳じゃないんだけど…」
ウィルの声にリックが答え、メイは俯いたまま呟く。
メイには秘密が多い、転生者であったり女神様のオプションだったり、
だがそれはウィルもリックも同じことだ、
あえて言わないだけで言っていないことのひとつやふたつある。
「メイちゃん! かつサンドはすっごく売れると思う!」
ミィナは黙ってたと思ったら売り出すメニューを考えていたらしい、本当にブレない。
「じゃあ試しに少し売ってみる?
アルバート公爵家がオススメって宣伝文句付けて」
「それいいな!使えるモンは全部使えって言うし!」
「味も何個か用意したらいいんじゃないかな!
あたしは全部味見するからね!」
わいわいと盛り上がる三人にウィルは苦笑い。
メイに暗い顔は似合わない、顔を上げてくれて良かった。
「しかし勝手にアルバート家の名前を使うのは許さん」
「いいだろ別に~ 作って売るのはメイなんだし」
「そーすとけちゃっぷとたるたるそーす~!」
小躍りするミィナを捕まえてメイも嬉しそうだ。
まあ、もし本当に売り出すならなるべく前世界の調味料は使いたくない、
この世界で作った物だけで売り出せたらいいなと思う。
だってどんな味付けなのか聞かれても説明できないから。
特にウスターソースは個人で作るのは無理な気がする、
そもそも材料が集まるかどうか微妙だし。
マヨネーズとタルタルソースはなんとかなりそうだけどね。
「明日のお昼はかつサンドにしようか、
試してみたい味付けもあるし、試食してくれる?」
「もちろん!!」
両手でガッツポーズをするミィナ、満面の笑みが眩しいです。
ラタトゥイユベースの味とかトマト系は合うと思う、
チーズも一緒にサンドしたら絶対美味しい。
自分達だけで食べるならウスターソースや中濃ソースでもいいんだけど。
できれば柔らかいパンで食べたいな…。
そんな訳で次の日。
ここのダンジョンは階層×6くらいのダンジョンみたいです。
リックの適正だと二十二階くらいがベストだろう、
できれば二十階のエリアボスを倒して帰還石を使えるようにしたい。
ちなみに二十階まで普通に歩いていくと数時間かってしまうので、
人によってはセーフティエリアで一泊(テント泊)する人も居るらしい。
そう言えば以前どこかのダンジョンで三十階に行って、
鬼畜キマイラ三頭を倒したことがあったけど、
あの時はエドガーが居て補助魔法を掛けてくれたから、
あまり疲労を感じず三十階まで休憩なしの駆け足だった気がする。
今回はエドガーは居ないし普通に歩くことになるだろう。
「二十階のエリアボスってどんなの?」
「なんだっけな…ケルベロスだったような?」
素朴な疑問にリックが答えてくれた、なんか聞いたことある名前だな。
ケルベロス…てことは、犬なのか?
「犬は食べたくないな」
「肉が硬いから食用には向いてないぞ」
思ったことが口から吐いて出て、ウィルが難しい顔で答えた。
「固体によっては食えないこともないがお勧めはしない」
だから食べないってば。
恐らく食用に家畜化すれば食べられるのかもしれないが、
あえて犬を食べようとは思わないし、なんか気分も嫌になりそう。
「ひとまず十階を目指してできれば帰還石を使えるようにしたいな、
レベルのことを考えると俺は手を出さない方が良さそうだ、
三人で大丈夫そうか?」
「ミィナもリックも居るし大丈夫だと思うよ~」
笑顔のメイを見てウィルは頷きまずは十階を目指す。
特に用事もないので魔物はスルーして素材を拾いつつ進む、
本当はじっくり素材集めをしたいが、帰還石のためにエリアボスを倒すのが先決。
後からウィルが合流したらじっくり考えればいい。
雑魚を倒しつつ到着した十階、エリアボスはケルベロスだった。
「え?ここで既にケルベロス?」
「もしかして二十階は強いケルベロス三頭とか言う?」
メイとリックの顔が引き攣る。
キマイラの再来か。
「倒していいの?」
ミィナがスリングショットを構えながら言う。
「できればメイがトドメを刺した方がいい」
「なんでー?」
ウィルの台詞にミィナがちょっと拗ねる。
きっとミィナなら一発で倒せるだろう。
だがレアアイテムを考えるなら可能性のあるメイが倒した方がいいかも。
メイがグングニルを構える。
「一発でいけるかな」
「レベル考えたらいけるだろ」
確かに…!
リックはダガーを構えることすらしてない。
とにかく一発投げてみるか。
「いけー!」
ぶん投げたグングニルはケルベロスに一直線、
まだこちらに気付いていないケルベロスは、
気付くことなくグングニルによってあっさり倒された。
「一発でいけた!」
「ドロップ品見てくる」
リックが駆け出して確認しに行く、肉は要らないから魔石だけ取り出す。
「残念ながらレアはねーな、先行こうぜ」
ドロップしたのは薬草だけ、一応ケルベロスの牙や爪、尻尾だけ回収してきた。
素材は後で山分けなのでリックが預かる形になる。
エリアボスを倒して帰還石に触れて先に進む、
雑魚を倒しながら順調に進み徐々に魔物のレベルが上がっていく、
さすがに数が多いと足止めされてしまうけれど、
だいたい一発で倒せるので特に苦労はなかった。
しかしメイは鉱脈が気になるので後でしっかり見てみたい、
宝石が欲しい訳ではなく、素材として少しだけあればいいなと思っている。
特殊な鉱石は薬の素材としても使える物があるし(軟膏とか塗る系)
中には化粧品の材料になる鉱石もあったりする。
詳しく言えばセリサイト(絹雲母)という天然素材でファンデーションが作れるので、
メイ自身で手作りしてみたいとなあと思う、大量に採取できたら商品化してもいい。
そもそも化粧品だけでなくスキンケアやシャンプーやコンディショナーなどは、
全てコンビニで入手できるので困っている訳ではない。
そしてあらゆる素材を集めればいつかエリクサーも…。
いよいよやってきました二十階、目指すは二十二階だけど帰還石のための目的地だ。
「やっぱり三頭居るし…」
「もっと強いのが居るよりマシじゃね?」
そうとも言う。
二十階のエリアボスはレベルが120なのでメイにはきついが、
ミィナとリックならすんなり倒せるだろう。
今回もメイがトドメを刺すことになり二人に削ってもらう。
ウィルに氷魔法で足止めしてもらいつつ一頭ずつ倒していく。
運が良かったのか一頭からレアドロップ品が出てくれた。
「なにこれ?」
「特殊な種だ、ここのケルベロスは力の種をドロップするらしい」
ウィルの手には種がひとつある、種と言っても大きくてそれこそ梅サイズ。
これが種かよデカイな、実って言った方が信じられそうだ、もしくは球根。
帰還石に触れて目指すは二十二階。
ウィルとはそこで別れて最下層へ行くことになり、
残った三人で二十二階でのんびり狩りをすることになった。
「ここでレッドボアを狩ればいいんだよね?」
「ああ、トドメだけ頼むわ」
「おっけー」
リックとミィナが手当たり次第そこらじゅうに居るレッドボアに攻撃して、
HPを削った状態のレッドボアを手前から一頭ずつ倒していく。
解体はウィルが戻ってきてからやるので死体はメイの魔法カバンへ。
素早いリックがドロップ素材だけ回収して次々と倒す。
やっぱりHPを削ってくれると楽だわ、一発で倒れてくれるから。
お陰様で昼前にはレベル96になったし良かった。
適正から離れているため上がり方は遅いけど、上がらないよりはマシ。
ウィルも既に戻ってきていて優先的に解体して肉を確保。
かなりの数を倒したことでレアドロップもちょいちょいあり、
メイとしては素材が多く落ちるのが嬉しい。
そして肉が確保できるのもありがたい。
昼になったのでセーフティエリアに戻り、
予め用意していたかつサンドとラップサンドを食べることに。
ラップサンドの具材は豚肉の甘辛炒め、たっぷりのリーフレタスとマヨネーズ、
そして試作品であるかつサンドのラタトゥイユ添えはなかなか好評でした。
片手で食べられるので便利、トラウトのマリネ風サラダとオニオンスープも食べてね。
足りなければおやつもあるよ。
「今まで冒険者続けててこんなに美味い飯食える日が来るとは思わなかったな…」
しみじみ零すリックにウィルも頷く。
美味い飯って言うのは貴族だけの物だと思っていた、
貴族だったとしてもここまで美味い飯は早々お目に掛かれないらしい。
「メイちゃんが作るから美味しいんだよ!」
いや、前世界のレシピだから…とは言えないメイだった。
付け合せとして野菜チップスを食べて、ウィル特製の紅茶をいただく。
「この後また二十二階に行くの?」
「レッドボアの肉は充分確保できたが、
魔物が減ったことで素材集めがしやすくなってるだろう、
メイはそっちの方が目的じゃないのか?」
「うん、素材もそうなんだけど鉱石も気になる」
鉱石か…。
ウィルは少し考えてメイに助言をする。
「鉱石が目的なら岩を砕かないと難しいと思うぞ」
「そういうもんなのか…」
確かに前世界でも鉱石は山を掘ったりするもんね。
少しでも鉱石を手に入れたいメイは悩む、
実際この目で見てみたいし、自力で採取してみたい。
「これで我慢しろ」
言いながらウィルが懐から取り出したのは綺麗な石…宝石だった。
それはウィルの掌サイズで結構大きな宝石、ピンクダイヤである。
魔石ではなくドロップ品なので普通の宝石で魔力は宿っていない。
「でかっ!!!」
「ラスボスが落とした」
「ちょ エッ でかすぎない!?」
前世界でも見たことがないような大きさ、
こんな大きな宝石が目の前にあるなんて信じられない。
「要らないならカバンの肥やしになる」
ちなみにミィナとリックもあまりに大きな宝石を前に口が開きっぱなし。
「しかもこれって…」
「ピンクダイヤだな」
こんなの貴族でも持ってる人少ないんじゃ…。
ウィルには必要無い物だし、メイが貰ってくれると嬉しいのだが。
売ったとしてもお金なんて困ってないからウィルには不要な物なのだ。
だからと言って素直に受け取るのも…うーん。
じっと真剣な表情(無表情とも言う)で見詰めてくるウィルに負けて、
結局メイが受け取ることになってしまった。
だって断れない雰囲気だし…ウィルがしょんぼりするのも可哀相だし…。
実はウィル、このダンジョンでピンクダイヤが出るのを知っていた、
普通のドロップでレアでもないし出るだろうと踏んでいたのだ。
ピンクダイヤをメイに贈りたくて最下層まで潜ったとも言う。
だってスタンピードの兆候はないのだし本来なら潜る必要はない。
もっと言えば岩を削ったりして鉱石を見つける苦労よりも、
ラスボスを倒して宝石を得る方がウィルには簡単だったから。
ウィルはメイの手を掴んでピンクダイヤを掌に乗せた。
(重い…!)
「いつものお礼だと思ってくれ」
「でも、宿代だって払ってくれてるのに」
「あれは公爵家と王家から出てる金だからな、
メイにはいつも食事を作ってもらっているし、
個人的にもお礼くらいさせてくれ」
そこまで言うなら…。
なんか分不相応すぎて眩暈がする。
しかもウィルはどことなく柔らかい空気でちょっと甘い笑顔だ、
こんなの断れる訳が無い、もしかして狙ってやってる?
まあそんなウィルも嫌いじゃないけど。
「あ、ありがとう」
手で持っていると何故か怖いので急いでカバンにしまう。
あんな高価な物を持ってるなんて緊張しちゃう。
昼食を終えて再び二十二階に降りて今度は素材集めを集中して行う、
ポーションの材料がたっぷり採取できたので満足。
さて今夜は豚の角煮の準備をしよう。
晩ご飯はレッドボアの肉を使ったポークソテーです。
ステーキサイズに切って酒と塩コショウをしたら少し寝かせて、
その間にサラダや野菜スープを作り、フライパンでにんにくと肉を焼いていく。
味付けはケチャップ大匙3とウスターソース小匙1に少々の砂糖。
ケチャップだけだと物足りないからウスターソースを追加しました。
これなら主食がパンでも大丈夫な気がする、メイは白米です。
後は副菜としてきゅうりとキャベツの旨塩和えなど、
できれば一汁三菜を目指したい。
出来上がったので早速いただきます。
「おいしー!お肉好きー!」
ミィナにお墨付きを頂いたのでメイも笑顔。
洋食っぽいおかずを作ればだいたいパンに合うだろう、
まあ米が主役のオムライスはまた別になるけど。
ウィルもリックも気に入ってくれたみたいで良かった。
デザートの果物を食べた後は明日の準備です。
ボア肉をブロックでフライパンに入る大きさに切る、
まずはフライパンに油を敷いて肉を焼きます。
大きな鍋に水を張り青ネギと酒、焼いた肉を入れて火に掛ける。
沸騰したら弱火にして下茹で、40分から1時間くらい。
時間が掛かるからあんまり作れないけど、
明日になれば食べられるようになるから待っててね。
下茹でが終わったら肉を取り出し食べやすい大きさに切る。
人によっては茹で汁を使う場合もあるけどそこはもう好き好きだと思う、
メイは茹で汁を捨てて同じ鍋を使う。
鍋に水、酒、しょうが、醤油、みりん、砂糖、肉を入れ、
落し蓋(クッキングペーパーを丸く切った)をして弱火でことこと煮込む。
だいたい一時間半くらい、煮汁にとろみが付くまで煮詰めます。
時間が来たら火を止めて放置、ついでにゆで卵も漬け込んで煮卵にしよう。
そろそろ寝る時間になってもキッチンでごそごそしてるから、
気になってミィナがそわそわしてる。
「食べられないの?」
「明日になったら食べられるよ」
「えー!早く食べたいのに!」
文句を言うミィナだがメイが作るものは全部美味しいから我慢、
早く明日にならないかなー!
朝早くに起きて出来上がっている角煮を食べやすい大きさに切って、
ジップロックに漬け込んでいた卵も一緒に汁ごと入れて魔法カバンへ。
角煮だからお米とか肉まんみたいな生地で食べたいけど無理そうだから、
仕方なくいつものラップサンドで我慢、とは言えそれでも合わないことはないだろう。
その日も昨日と同じダンジョンへ行ってレッドボアの肉を狩りつつ、
目ぼしい薬草など素材を採取しミィナお待ちかねのお昼ご飯です。
トルティーヤもどきにレタスと角煮を巻いていただきます!
「おいしい…やわらかい…」
目をうるうるさせて感動しているミィナ、
ウィルもリックも同じ気持ちなのか無言でしっかり味わいお替り。
「味も風味も最高だね!メイちゃんすごーい!」
美味しいと前日から聞いていたミィナは納得の味だったらしい、
ただ、出来上がるまでに時間が掛かるのであまり頻繁には作れるものではなく、
次に作るとしたら特別な日になっちゃうかも、ごめんねとメイは困った顔になった。
ミィナとしては知らない味を教えてくれる神様みたいな感覚で、
この大陸ではイナンナが女神だけどもう一人の女神だと本気で思っているらしい。
どちらかと言うとイナンナは姿を見たことがないし、
隣に居て撫でてくれたりご飯を作ってくれたり…まるで母親みたいだ。
実はミィナの家庭は少々複雑で物心付いた時からお爺さんと暮らしていた、
親兄弟の存在はあまり聞かされておらずミィナから聞いたこともないそう。
もしお母さんが居たらこんな感じなのかな…とちょっとだけ思っていたり。
お昼ご飯の後はどうしようかと話し合っている三人を見てミィナは不図メイを見る。
お母さん…とは違うかもしれない、でも女神様のように優しいこの人は、
きっと理想のお母さんなんじゃないかと考えたりもした。
ミィナの視線に気付いたメイがキョトンと顔を覗き込んできた。
「ミィナどうしたの?」
「…なんでもないよ、おかわりー!」
にこにこ笑顔のミィナにメイも笑顔になる、
お替りの角煮ラップサンドを手渡しておやつのフルーツも出してくれた。
この世界には美味しいものが沢山あるんだ、それを教えてくれたのはメイだ、
これからも、もっともっと美味しいものをいっぱい食べたい!
そう言う意味ではリックも同じ気持ちなのかもしれない。
どうやらメイは他国からの冒険者のようだし(ミィナとリックはそう思っている)
知らないことを教えてくれる、美味しい料理も味わえるなんて最高だ。
───
南部の街に辿り着いたご一行。
どんな所か噂を聞いていたメイは大喜びだった、それはミィナも同じらしい。
「「海ー!!」」
乗り合い馬車から見えた景色に二人は大きな声を上げた。
ミィナは海を見たのが初めてだったし、メイはこちらの世界に来てから初めての海。
「海と言えば美味しい魚介類!」
「前に食べた魚とは違うの?」
「同じ物もあると思うけど、なにより貝類とか甲殻類を食べたい」
「かいるい…?」
こうかくるい???
ウィルは貴族だけあって貝類も甲殻類も食したことがあるようだが、
ミィナもリックも内陸出身であまり馴染みがないらしい。
昼過ぎに到着したため何よりもまず初めに宿を確保して四人で海岸へ行ってみることに。
綺麗な砂浜が続いているが、もう少し歩けば岩場もある、
素潜りしたら貝類だけでなく運が良ければ蟹も居るかもしれない。
砂浜を歩いて岩場まで来た一行は景色を堪能したり、
波打ち際で遊びながらじゃれあって、笑顔が溢れて輝いていた。
岩場に到着してメイはきょろきょろ。
(岩牡蠣は怖いからアサリとかカニとか…)
食材を考えながら装備していた皮の胴衣を脱いだ。
突然のことに焦るウィルとリック。
「と、突然どうした!?」
「潜ろうと思って」
「潜るのか…?」
慌てたリックの声に答えたらウィルが難色を示した。
しかしメイはお構いなし。
「ノエル、荷物お願いね~」
「にゃ~」
カバンや胴衣やマントなど、メイの荷物の傍に座るノエル。
身軽な格好になったメイが岩場に入って行って男二人は青くなるばかり。
そんな二人を気にすることなくミィナはメイに着いていく。
「ちょっと潜ってみるから、ミィナは待っててくれる?」
「わかったー」
メイは岩場に立つと目を閉じて両手を目の前に突き出した。
(シュノーケルなんてないから風魔法でなんとかなるかな?)
シャボン玉をイメージして自身に風の膜を張り、
岩場なのでブーツを履いたまま試しに足を海水へ入れてみる。
シャボン玉が弾けるってこともなさそうで成功かな?
ゆっくりと海水に入って風の膜の強度を確認。
「よし、行ってくるね~」
軽く言ってメイが海の中に入ってしまった。
鎧を着ているウィルは勿論、泳いだことのないリックは恐る恐るミィナの所へ。
大丈夫なのか心配だけどここで鎧を脱ぐのも違う気がして、
ウィルはメイが上がってくるまで待つしかなかった。
暫くして戻ってきたメイはにこにこしながら両手で何かを持っている。
いつの間に用意したのか軍手をはめた手で掴んでいるのは…ワタリガニだった。
「小ぶりだけどカニが居たよ~」
「メイ!」
思いっきりウィルに叫ばれて驚いたメイは顔を引き攣らせた。
「前もって説明してから行動してくれ」
「あ… ごめん、どうしても海産物が気になっちゃって…」
「これ食べられるの?」
「茹でたり煮込んだりしたら美味しいよ」
「食べたい!!!」
喜んでいるのはミィナだけのようで、男二人はメイを心配してハラハラ。
「じゃあもうちょっと獲ってくるよ、ミィナは私のカバン持ってきて」
「はーい!」
「おいおいまた海の中に行くのかよ…」
呆れるリックだがカニを食べたことが無いので味が気になる…。
しかし隣に居る男の焦れたような気配に何と言えばいいのやら。
メイが心配なのは分かるし、メイの好きなようにさせたい気持ちも分かる、
ミィナが喜んでるからメイが素直に引き下がることも無さそうだし…困った。
「ウィルも行けばいいんじゃね?」
「なんで俺が…」
「メイが溺れたりしたら助けられるのお前だけだろ、俺泳げねーし」
「そうなのか!?」
「早く行け」
リックは溜息を吐きながらウィルに蹴りを入れて、
不安定な岩場でウィルがこけそうになったがなんとか踏み止まった。
「しかしメイはどうやって呼吸してるんだ?」
「言われてみれば…」
ウィルもリックも訝しげにメイを観察することに。
自身に風を纏わせているようだが理屈が分からないしイメージも沸かない、
一体何をどうやってすんなりと海に入ったのだろうか。
海と言えば船だし、漁と言えば釣りや網を使うことしか分からない、
まさか素もぐりなんて素人がやれるとは思ってもなかった。
メイはカニを捕まえてはミィナが構えているカバンに向かってぽいぽいと放り込む、
ただ、生き物を捕まえるのは両手しかないのでカニを二匹までが限度、
五分くらいで戻ってきてを繰り返してある程度確保し、岩場で休憩することに。
「メイ、どうやって海の中で呼吸してるんだ?」
メイの隣に腰掛けたウィルが純粋に質問した。
「風魔法を纏ってるだけだよ」
顎に手を当てて考え込むウィル、美形の考える姿も素敵です。
「ウィルは小さい頃、シャボン玉ってやったことない?」
「しゃぼん…?」
どうやら知らないらしい。
これは文化の違いなのか、それとも公爵家と庶民の違いなのか…。
メイはカバンから財布を取り出して岩場に隠れてコンビニへ。
聞き慣れた入店メロディを耳にしながら探してみると運よく発見、
子供向けのシャボン玉で遊べる商品、見た目はフルーツの形をしている。
イチゴやレモンなど四つ購入して戻ってそれぞれに手渡して。
「こうやって使うんだよ」
キャップを外して溶液が付着しているそれに勢い良く息を吹き掛ける。
「わぁあ~!きれい!」
「口に入れないでね、それだけは気を付けて」
「はーい!」
一番乗りでミィナがシャボン玉で遊びだし、ノリの良いリックも追い掛ける。
三人がはしゃいでいるのを見てウィルは手にしたイチゴの容器を持ったまま、
楽しそうに遊んでいる三人を見て胸の底がそわそわした。
知らないことを教えてくれる、学問とは関係ないし生活の知恵でもない、
死に繋がる訳でもない…いっそ無駄な知識と言えなくもない。
そんな知らない世界を教えてくれるメイがとても眩しかった。
「ウィル~!シャボン玉わかった~?」
笑顔を向けてもらえるだけで嬉しくて、名前を呼んでもらえるだけで嬉しくて、
急に泣きそうになって慌てる、誤魔化すようにウィルもシャボン玉を吹いた。
「シャボン玉のイメージで風を身体に纏えば海の中でも呼吸できると思って、
試してみたらイケたから素もぐりしたんだよね。
水も綺麗だしカニもいっぱい居たし夢中になっちゃった。
心配掛けてごめんね」
「…ああ」
岩場に腰掛けて二人でシャボン玉を吹く。
綺麗で不安定な玉がふわふわと漂い、岩場に落ちて弾けて消えた。
「他の魚介類は獲れる自信がないから、市場に行ってみんなでお買い物しようね!」
もっともっと知らない世界を教えてくれる、ずっとずっと見守っていたい。
ウィルは自分でも気が付かない内に自然と笑顔になって頷いた。
捕獲したカニだけでは心許無いので、その後市場へ行って買い物し、
大量の魚介類を購入し今夜は海産物パーティーです。
基本的にパンが主食なのでそれに合わせてメニューを考えます。
メイはカニの味噌汁が食べたかったようですが、
味噌は人を選びそうなのでまたいつか。
硬いパンは主食とあってどこの街でも入手可能なため、
市場では魚介類だけでなくパンも購入しストックを増やしておきます。
まずはメインになるカニ…具沢山のスープにしよう。
カニだけでなく市場で買った貝類や魚などをトマトベースのスープに仕立て、
副菜として白身魚のカルパッチョや地産野菜のサラダなど。
ここまできたらパエリアもいけるのでは…と思ったけれど、
初日はこんなもんでいいでしょう。
宿として借りたコテージで美味しい料理に舌鼓、
がっつくミィナとリックを横目にウィルは秘蔵のワインと共に。
みんなが笑顔になってくれてメイは嬉しそうにカニを頬張った。
うまく言えないけど、仲間意識はちゃんとあるしそれぞれの役割も理解している、
けれど、なんとなく…家族みたいだ。
出会って間もない頃はウィルを息子なんて思っちゃったけど、
今は仲間であり先輩であり…恋人?
ミィナもリックも血の繋がらない姪っ子甥っ子みたいで、
こんな家族があってもいいかもしれない、なんて思ったりしなかったり。
続く