おばさん、よくある異世界転生する   作:竹モカ

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ポーション作成と一般的な主婦の手料理


③『パーティ』

教会を出て一旦宿屋に戻ってくる。

今夜も同じ部屋を取る予定なので一日中部屋を使えるようにしてくれていた。

ウィルはアルバート領の関係者で顔が利くらしく、

宿屋側が融通してくれたことになる、ありがたや。

部屋に戻ってきて試しにポーションを作ってみる。

ノエルが言うには素材を全て魔法カバンに突っ込んで、

スマホのアイテム一覧でドラッグ&ドロップで作れると聞いていたから、

実際に作れるかどうか試してみたかったのだ。

ご飯の前に作っておかないとギルドで売ることもできないから宿屋で実践。

スマホの中には【神域の眼】で登録した薬草だけでなく、

ポーションなど様々なレシピが登録されているので、

指示に従ってドラッグ&ドロップすると、

簡単にポーションがアイテム欄に増えていく。

数を指定すれば素材がある限り増やせるので物凄く便利。

隣の部屋に居るウィルに見てもらおう。

ドアをノックして室内に引き入れてもらいテーブルセットに着く。

「できました」

前もって特別な施設や器具は使わずスマホで作れると説明した上で。

できた初級ポーションをひとつ取り出してウィルに手渡すと、

ウィルは初級ポーションをじっくり眺めて。

「質の良い初級ポーションだな、これなら高値で売れるぞ」

それにしてもスマホの操作だけでポーションが作れるなんて、不思議。

二人してびっくりしつつ、次に中級ポーションも作ってみる。

初級ポーションのレシピに他の薬草を追加すれば作れるっぽいので、

勢いで中級ポーションも作ってウィルに確認してもらう。

やはり女神様のオプションで上質な調合結果になるようだ、

マジで女神様万歳。

素材全てを使うのは勿体無いので、素材を半分残して半分はポーションに。

と言うことでそろそろギルドに売りに行こう。

 

街の中心部に戻って冒険者ギルドへ。

ポーションの買取をしてくれるので初級ポーションと中級ポーションを取り出す。

カウンターに並べた数は結構な数、受け付けのお姉さんが確認のため裏に持って行き、

全て確認するのに時間が掛かるのでしばらく待っていると、

全部上質なので高価買取と相成りました。

ついでに、初級ポーションと中級ポーションを募集している依頼があったので、

必要数をギルドに渡すことで冒険者ランクがFからEに上がることになった。

冒険者ランクには期間が設定されており、Fランクで依頼を全く受けなかった場合、

一定期間を越えると冒険者カードが没収されるらしい。

再び冒険者ギルドに所属するには追加料金が掛かるため、

なるべくクエストは受けた方が良いと聞いた。

ランクに応じて期間が延びていくからランクを上げるに越したことはない。

ポーション売却とクエスト完了の報酬でほくほくのメイ、

それなりの金額になったので半分をウィルの報酬として渡したが、

ウィルが思うよりかなりの金額だったので受け取った半分を返されてしまった。

「護衛の依頼だけじゃなく色々教えてもらったので、

 そのお礼も含めた報酬なんですけど…」

「充分だ、昼のサンドイッチもうまかったし」

そうだ、コンビニでは日本円を使ったがこれからはどうなるんだろう、

こっちの硬貨(銅貨や銀貨)は使えるのか分からない。

試すのは明日にして晩ご飯を考えよう。

採取や戦闘で身体を使ったのでお腹が空いた、

服や武器は後で考えることにして晩ご飯をどうしようか。

「そうだウィルさん、もし良かったら明日も護衛を頼めますか?」

「しばらく暇だから構わない」

「じゃあお願いしますってことで、ちょっと手伝ってください」

「了解した」

せっかくお金を稼いだのだからちょっと豪華なご飯を食べよう。

とは言え、この世界の料理はどこも食堂みたいな味付けが大半なのだと聞いた、

宿屋でキッチンを使えるかどうか聞くとレンタルで時間貸しが可能とのこと。

買出しをしてから一時間だけキッチンを借りて晩ご飯を作ろう。

ウィルの案内で八百屋や精肉店を回って宿屋に戻り、採取した薬草を眺める。

(チキンソテーが無難だけど、昨日からファ○チキばっかりだし…)

まずは豚肉(っぽい何かの肉)の塊をステーキの大きさに切って塩、

ローズマリーをまぶしてしばらく置いておく。

付け合せのトマトやきゅうりを切って用意する。

たまねぎをスライスして小鍋でバターと炒め、

しんなりして色が付いてきたらベーコンを加えて更に炒める。

香りが甘く変わってきたところで水を加えて沸騰したら塩で味を調える。

スープができたらフライパンで肉をじっくり焼いて、

お皿を出して付け合わせを並べたところに焼けた豚肉を乗せて出来上がり。

「ポークソテーと簡単オニオンスープです、召し上がれ」

流石にこの短時間でパンは作れないので、

宿屋にある食堂から硬いパンを頂いて一緒に食べる。

先にウィルが食べ始めて美味しさに驚いている姿を見てから、

メイも食べて舌鼓、コンソメがないからちょっと味気ないけど、

この世界にしては丁度いいんじゃなかろうか。

コンソメならコンビニで売ってると思うし、

もしこの世界の硬貨が使えるなら夜の内に一通り調味料を揃えたい。

前世界にあるような味塩コショウが無いとなにかと不便だ…。

「料理のジョブ持ちだからなのか? すごく美味しい。

 ローズマリーを料理に使うなんて初めて見た」

「ありがとう」

仏頂面のイケメンで冷たい印象だが素直で優しい青年だ。

「いや本当に…今まで食べた中で一番だ」

「褒めすぎですって」

絶賛してくれて嬉しいやら恥ずかしいやら。

メイとしては副菜が少なくて申し訳なく思っている、

せめて葉物野菜の和え物とか漬け物が欲しいところだ。

主食が米じゃないからちょっと慣れないけど、やっぱり野菜が足りないと感じる。

一気に食べ終わってしまったウィルは何やら考え込んでいる様子、

メイは気にせずしっかり噛んで完食しごちそうさま。

お皿を片付けて洗っていたらウィルが紅茶を淹れてくれた、

どこに茶葉があったのか謎だったが茶葉は宿屋のサービスらしい。

テーブルで紅茶を挟んで差し向かい、何故か沈黙が続く。

明日はどうしようかなーと考えていたらウィルが切り出した。

「もしよかったらこの先も一緒に行動しないか?」

「えっと…ダンジョンに慣れたら一人で採取しようと思ってたんですけど…」

「それは勿論賛成だが、【転生者】を一人にしておくのは心配だし、

 いざと言う時に俺が守ることもできる。

 二人でパーティを組めばある程度の旅は楽になると思うぞ」

なんとも魅力的な提案だ。

でもそれってウィルのことを縛り付けることにならないだろうか。

いくら国への報告や保護の責任があるのだとしても、

彼は元々冒険者で弱いメイと一緒に行動するのはレベル差がありすぎて、

行ける範囲も限られてくるし確実に迷惑を掛けるだろう。

「…と言うのは建前だ」

「へ?」

建前?なんのこと?

俯いてしまったウィルの顔が若干赤いような気がしないでもない。

イケメンがもじもじしてるの可愛いなオイ。

「その、飯が本当に美味しくて…」

「胃袋掴んじゃった?」

「できることなら今後も食べたいと思っている」

「いやーこちらこそ願ったり叶ったりなんですけど、

 本当にいいんですか? 私まだまだ弱いですよ」

するとウィルがしっかりと顔を上げて。

「これでも冒険者ランクSだ、メイを守ることなど容易い」

「ランクS!?」

おいおい天と地ほどの差があるぞ、本当に大丈夫か?

勿論メイとしては強い人に守って貰えるなら万々歳だけれど、

足を引っ張ってしまわないか心配になる。

そして一人立ちが目標のメイにとってパーティなんて考えてもなかった。

だが、この世界の冒険者の殆どがパーティを組んでいると聞いて一応納得した。

今までウィルは一人でソロばかりだったようで、

初めて自分からパーティを組みたいと思ったのがメイだけだったのだ。

お互いに初めてのことばかりだけど、

一人でできないことも二人なら何とかなるかもしれない。

いろんなことに挑戦するにしてもウィルのような先生が居れば安心できる、

と言うことでメイはウィルとパーティを組むことになった。

「これからよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく」

ぎゅっと握ったウィルの手は本当に大きくて力強い。

仲間が居るって素敵なことだ、ひとりぼっちじゃない。

ノエルも居るし賑やかになりそう、益々冒険が楽しみだ。

 

晩ご飯を終えて宿屋で取った部屋にそれぞれ引っ込む。

まずは【コンビニ】でこちらの世界の通貨が使えるかどうか確認したい、

ベッドで毛づくろいしているノエルに留守番を頼んで、いざコンビニへ!

入店の音は毎回気が抜ける。

商品を購入する前にレジを確認してみると、

なんとこちらの通貨も使えるようになっていた。

支払いを日本円とこちらの通貨を選べるボタンがタッチパネルに増えてる。

お会計でこちらの通貨が使えるならレッツお買い物!

まずは調味料、醤油、酒、みりん、砂糖、塩、塩コショウ、

コンソメ、ブラックペッパー、ついでに七味も。

マヨネーズとケチャップも忘れずに、何かと便利な鶏がらスープの素や、

にんにくチューブと生姜チューブも見つけてカゴへIN。

あとはゴミ袋とキッチンペーパー、ジップロックと布巾も何枚か買っておこう。

次に店内をうろうろしながら探してみると包丁も売ってた、文化包丁、

家庭で良く使われている一般的な包丁、助かるわーこれも買おう。

もしかしてと思って近くの棚を見るとカセットコンロまで売っている。

田舎のコンビニだとBBQ用品も少し売っていたりするので、

コンロとボンベのセットをみつけてなんか安心した、今回は買わないけど。

生活魔法が使えないような場面があればお世話になるかもしれない、

一応売っていることを覚えておこう。

とりあえずこんなもんかな。

夜食のおにぎり(ツナマヨ)とペットボトルのお茶、

そしてデザートのシュークリーム。

寝る前に食べるのはよろしくないが、今日は結構運動したしたぶん大丈夫。

シャワーの前におにぎりを食べてお茶を飲むと、

日本人だったことが懐かしく感じる、いや今も日本人ですが。

シャワーを浴びてブラを手洗いし、生活魔法の風で乾かしてから部屋に戻る。

生活魔法って本当に便利!もうこれなしじゃ不便で仕方ないよ。

風呂上りにシュークリームを食べて再びお茶。

今日一日でいろんなことがあって本当に疲れたけど、

前世界に居た時よりも充実していると言うか、

余計なことを考える余裕もなくていっぱいいっぱいで、

寧ろそれが良かったのかなと思う。

前世界で夫が幸せになってくれたらそれで良い、私も精一杯がんばるからね。

 

別に仲は悪くなかったし、周りからはおしどり夫婦だと言われていた。

喧嘩も無かったし不満も…多分なかった。

でも、他人とは違って愛し合っていたかと言われると分からない、

間違いなくお互いを思い合ってはいたけれど…、

それが一般的な夫婦愛かと言われると違和感があった。

元々友人で、その延長線上で結婚したから未だに親友だと思っているし、

どちらかと言えば夫婦ではなく家族、まるで兄妹(きょうだい)みたいな。

二人で幸せになりたい!と言うよりも、相手に幸せになって欲しい気持ちが大きい。

夫がどう考えていたかはもう分からないけれど、

少なくともメイは夫の足枷にはなりたくなかったのだ。

夫婦の愛には様々ある、全ての人が恋愛結婚かと言われればNOだし、

政略結婚やお見合いする人だって居る。

相思相愛で結婚できたとしても子供ができたら関係も変わってきたり、

怪我や病気で苦しむ人だって居る、全ての人が円満な結婚生活とは限らない。

勿論円満であることは良いと思うけれど。

メイと夫はそれぞれに問題を抱えていて、

そのせいでメイは臆病だし夫に強く主張することもなかった。

死んでしまったので本当のことはもう伝えられないし、

夫の気持ちを知る術は無い、なんだか中途半端なところで途切れてしまった感じ。

でも、今でも夫の幸せを心から願っているのは本当だ。

私よりもっと素敵な人と出会って、もっと幸せになって欲しい。

それは紛れも無くメイの本心だった。

 

───

 

次の日、ウィルとパーティを組んで一日目。

朝食をどうしようか悩む、宿屋の一階にある食堂で食べてもいいんだけど、

昨日と同じく硬いパンにレタス&チーズのサンドイッチだけでは物足りない…。

本当はお米を食べたいけどウィルの好みが分からないし、

この国の主食はパンらしいのでお米は避けた方が良さそう。

早目に起きて宿屋の女将さんに声を掛けてキッチンを少し借りることができた。

昨日食べた豚肉(っぽい何かの肉)を薄切りにして塩コショウ、

たまねぎの無い生姜焼き風に焼いてレタス&チーズもパンに挟んで出来上がり。

お皿に載せてウィルの部屋をノックして入れてもらって、

二人で向かい合わせでいただきます。

「昨日の肉と同じか?」

「うん、生姜焼き風」

「生姜焼き…? ジンジャーのことか?」

「そうそう、生姜を使うと肉が柔らかくなるんだよね」

もぐもぐしながらウィルが真剣な顔で生姜焼きについて聞いてきた、

余程美味しかったのか目がキラキラしてる。

銀髪イケメンに見詰められるとおばちゃん困るわ。

なんだか息子ができたみたいでうっかり笑顔が浮かんでしまった。

本当はメイの方が年下なのだがメイは知らない。

ウィルの見た目は確かにイケメンだし冷たい雰囲気を纏っている、

街を歩けば女性にナンパされることも度々あったようだ。

だがランクSの冒険者としての名が知られているので、

あからさまに色仕掛けの女は居ないし、

寧ろアルバート公爵家に目を付けられたくない人が多数で、

たまに街中で頭を下げてくる人も居る。

パッと見は20代半ばくらい、銀髪で藍色の目、キリッとしたイケメン。

こんなモデルみたいな人の隣を歩くのは勇気が必要だと改めて思った、

でもパーティを組んでいるのだから諦めるしかない。

イケメンな息子と思えば得をしたような、そうでもないような。

そもそも出産経験が無いから想像でしかないけど。

「生姜は風邪薬に使われる素材じゃなかったのか…」

「それ昨日から思ってたんだけど、もしかして薬草もその他も、

 料理には使わないの? 風味付けとかできて美味しいのに」

「あまり聞いたことはないな…基本的に味付けは塩だ」

ああ、だから味気なかったんだ。

この世界でもコショウは貴重でなかなか手に入らず高価だそうだ、

他のスパイスもポーションや薬の原料として先に使われてしまうから、

料理に使うことはなかなか無いらしい。

主食として使われている小麦と芋はガルシア全土で育てられているので、

小麦と芋以外は入手が難しいのかもしれない。

そして良く使う砂糖はコショウに負けないくらい貴重で、

殆ど貴族が独占している状況だと言う。

甘いお菓子は平民にとって手が届かないとか。

芋が作れるならてん菜(ビート、大根の一種、砂糖の原料)も作れると思うんだけど、

主食となりえる小麦や芋の方が優先順位が高いのかもしれない。

母方の故郷が北海道でてん菜を作ってたから記憶に残っている。

そう考えると食料事情は前世界の五百年以上前くらいなイメージだろうか。

歴史とか詳しくないメイは頭の中で首を捻る、

分からないことを考えても仕方が無いので、

ウィルが入れてくれた美味しい紅茶を飲んでごちそうさまでした。

 

昨日ポーションを売ったことで懐が潤ったので、

今日はダンジョンではなく服を買いに行きます。

とは言ってもズボンはそのままでいいしトップスを新しくする程度、

それから着替えの予備を揃えられたら充分。

防具屋に入ってサイズの合いそうな服を数点買って、

次に武器屋、安いのでもいいからナイフが欲しい。

一応包丁は買ったけど料理専用だから他で使いたくない。

魔物を倒した包丁で料理とか考えただけでゾッとする…菌とか怖い。

ちなみにメイが借りていたウィルの小型ナイフは、

魔物の解体をする時に使っていた物なので衛生的に料理では使わない。

武器屋おすすめの小型ナイフを眺めてウィルの解説を聞きながら、

ひとつひとつ手に取ってグリップの握り具合や、

使いやすそうかどうかをじっくり確かめていく。

今後魔物の解体も考えて、戦いだけでなく兼用できそうなナイフにしよう。

前世界で鶏の血抜きさえしたことがないメイは、今から解体できるのか不安しかない。

買い物を終えて全てを魔法カバンに放り込んで昼になった。

お昼ごはんはどうしようか…隣のウィルを見上げる。

「どうしようか?」

「適当に屋台でも行くか」

朝食をメイに作ってもらったのでウィルは昼食ぐらいは出そうと思っていた。

しかしメイは首を横に振る。

屋台が嫌なんじゃない、実は宿代をウィルに払ってもらっているので、

これ以上迷惑を掛けたくなかったのだ。

昨日買った豚肉もどきが残っているから、

それでなんとか賄えないか考えていたらしい。

「小麦粉とたまごが欲しいので買えるお店を教えてください」

「分かった」

豚肉と言えば…あれを忘れちゃならない!

 

再び宿屋で簡易キッチンを借りることができた。

宿泊客が使えるようになっていて食堂とは別になっている、

宿泊客は自分で作るより食堂を利用する人の方が多いので、

予約したいと言えば高確率で借りることができる。

ちなみに食堂を併設している宿屋は多いらしい、

食堂の代金も宿泊代と一緒に払うそうだ。

今回お借りしたキッチンの代金も宿泊代と共にお支払いです。

朝食と同じく硬いパンとレタス&チーズを食堂で分けてもらい、

まずは余分にもらった硬いパンをおろし金で摩り下ろしパン粉作り。

肉を切り分けて塩コショウ、溶いた卵液に小さじ一杯の小麦粉を混ぜ、

その後にパン粉を纏わせてあとは揚げるだけ。

本当は小麦粉→卵液→パン粉の順がベストだが、

めんどくさがりの主婦だったメイは卵液に小麦粉を先に混ぜて、

工程をひとつ減らして作る癖が付いていた。

できれば卵液とパン粉を二度付けした方がサクサクになるけれど、

めんどくさい&かつサンド用なのでパン粉は一回で充分。

日本のパン粉のように粗めではなくサラサラで、

二度付けすると逆にどうなるのか不安だったのもある。

コンビニでパン粉買い忘れたのもそうだけど、

できればなるべくこの世界の食材でご飯を作りたい。

熱した油の中に投入してじっくりと火を通す。

とんかつなんて久しぶりだな~。

これをパンとレタス&チーズで挟んで、仕上げにケチャップを掛けてできあがり。

と言うか、ソースを買い忘れていたのでケチャップで代用です…。

紅茶はウィルの担当に決まったので淹れてもらって、

二人で向かい合わせでいただきます。

被り付いたウィルが目を見開く。

「う、うまい…っ」

「かつサンドって美味しいよね」

「かつさんど と言うのか」

ふむ。と真剣にサンドイッチを見詰めながら味を噛み締め、

じゅわっと広がる肉のうまみと油、ケチャップのハーモニーにウィルはご満悦。

これからもこうしてメイのご飯を食べられるなら願っても無いことだ、

毎食頼みたいところだがそこまで言うのは図々しいので、

せめて食材と宿代はウィルが持とうと心に決める。

もしメイが食堂で働いたらとんでもなく大人気になりそうだ。

使っている調味料だけでなく前世界の料理の知識だけでも珍しいし、

更に美味しいのだから有名店になってもおかしくない。

(本気で美味しい…)

全て食べ終わったウィルは、もうなくなってしまったのかと落胆する、

もう少し食べたかった、美味しかったかつサンド…。

 

食後の紅茶を飲みながら今後のことを話し合う。

「メイのことは既に国王陛下に報告した」

「いつの間に!?」

「言伝を魔法で送る手段があるんだ、

 まずは父である宰相に伝えて、それを国王陛下の耳に入れてもらった。

 俺が一緒なら安全だとお墨付きを貰ったから、

 暇な時に王都に来て謁見してくれとのことだ」

「暇な時…? 急がなくてもいいの?」

するとウィルは紅茶を啜って不敵に笑った。

イケメンがそうやって笑うと怖い以上に美しいです。

「メイは冒険者になったと言ったら焦らず国を見て回り、

 様々なことを知ってほしいと言っていた」

本当なら一番に国王陛下に謁見した方が良いのだろうが、

恐らくウィルが急かすなと釘を刺したに違いない。

まだこの世界に慣れていないし常識も知らない、

いきなり王様とご対面なんてメイには荷が重いと判断したのだ。

「できれば今日はダンジョンの三階に行きたい」

「え…なんで?」

「食材になる魔物が居るから晩飯代が浮く」

「あー…」

作るのは構わないけど、ウィルの目がマジでちょっと怖い。

三階からスライム以外にホーンラビットという魔物が出現するらしい、

うさぎの肉は鶏肉に近く柔らかいのが特徴、

煮ても焼いても美味しいし唐揚げにしても良さそう。

ちなみに素材や魔物は一週間で復活するらしい、ダンジョン謎すぎる。

誰が作ったんだ、神様か? イナンナ様か?

「まあ理由はそれだけじゃない、三階から果物が生っている木も増えるんだ」

「果物!食べたい!」

「よし、決まりだな」

この世界に来て果物なんて食べてなかったし、

どんな果物があるのか気になってたから見てみたい。

ついでにポーションの素材や魔物退治でレベルアップも期待できる、

ちょっと楽しみになってきた、冒険者ってすごくドキドキワクワク。

 

やってきましたダンジョン三階。

ホーンラビットと呼ばれる魔物が居るとのことでメイは緊張が頂点。

毎日緊張してるからホント疲れる。

倒したことがあるスライムを倒しつつ薬草も摘んで、

お目当てのホーンラビットとご対面。

「なんか思ってたのと違う…」

「違う?」

「もっと可愛いと思ってたのに!」

ふわふわ可愛いうさぎだと思ってたのに!

めっちゃ凶悪な野性味溢れるジャイアントラビットだよ!!

「ホーンラビットは弱いが使える部位が多く人気がある」

「現実的な話を聞くとちょっと可哀相になってくる…」

肉は勿論のこと、皮は毛皮として重宝されるし角も薬の素材になるのだそうだ。

スライムとは違ってすばしっこく凶暴で、

メイのナイフでは致命傷を与えることは難しい。

役割分担でメイはスライム、ウィルはホーンラビットと決めて、

危険を避けるために三階の入り口付近でメイはスライムを倒していく。

ウィルは狩りをするため離れることになったけれど、

入り口付近なら直ぐにセーフティエリアに逃げ込めるので安心だ。

ホーンラビットはウィルに任せてこっちはこっちでのんびりやろう。

スライムを倒しつつ薬草など充分に集めたので、

ひとまずセーフティエリアで待っているとウィルが戻ってきた。

両手で五羽ずつホーンラビットの耳を持って…持ち方…まあいいか。

何を言うでもなくウィルは黙々とホーンラビットを綺麗に捌いていく、

生活魔法を活用して肉も毛皮もぴっかぴかに綺麗だった。

メイが肉と角を全て受け取り、毛皮は半分ずつで後でギルドに売却予定。

素材と肉を確保したので次は果物だ。

木に成るりんごは手が届かないからウィルに任せて、

低い場所にあるミカンや野いちごやブルーベリーをレジ袋に摘んでいく。

ベリー系のソースでチキンソテーとか食べたい…。

改めて三階の景色を眺めていると小川が流れていたので、

ウィルと二人で見に行くと、なんと…。

「小松菜だ!!!」

野菜まであるのか!思わずデカイ声が出ちゃったよ。

「葉っぱにしか見えないが…」

「立派な野菜だよ、ああっシソもある!」

街の市場でも売っているけど自生してる小松菜なんて初めて見た。

シソは割りとどこにでも生えている印象、香りが強く天ぷらもうまい。

小松菜とシソをせっせと回収して(シソは薬の素材にもなる)

メイはほくほく顔で嬉しそうだった。

 

夕方になったしさて帰ろうかと思ったらウィルの目が輝いている。

ちなみに朝の生姜焼きや昼に作ったカツの残りは、

魔法カバンに入れているので出来立てのままです、

魔法カバン本当に便利、中身がどうなってるのか考えると眠れなくなりそう。

「ここで食べないのか?焼くくらいなら簡単だろう」

「ここで食べるの???」

宿屋でゆっくりした方がいいんじゃないかと思ってたのに…。

(あ…もしかして早く食べたいのか)

ウィルがいそいそとバッグから硬いパンを取り出して、

キラキラの目を向けてくるので断れなくなってしまった。

食べ盛りの子供かよ…。

「ホーンラビットの肉で何か作るよ」

「ありがとう」

小さく笑ったウィル、元々無表情がデフォだから破壊力が凄まじい。

セーフティエリアは誰かが作って使った釜戸が放置されているので、

それを使って火を起こし調理することにした。

周りにも冒険者が居るからキャンプ場に来た気分になる。

初めからここで料理を頼む前提だったのかウィルはフライパンを持ってきていて、

木のヘラまで用意周到である、そんなに食べたかったのか。

まずはホーンラビットの肉を一口大に切って塩コショウと酒、

ローズマリーをまぶして下味を付け、ジップロックに入れてしばらく放置。

お昼は揚げ物だったから唐揚げは辞めておこう。

ちなみに屋外での食事は基本的にフォークなので、

室内で使うナイフは不向きだから肉は一口大にしました。

小松菜を洗って適当に切る、面倒だからこのままサラダでいいか、

自分で食べるならお浸しにするけどウィルの好みがまだ分からないし。

ビニール袋に油と塩コショウ、お酢に砂糖にバジルとオレガノを刻んで混ぜる、

これでドレッシングの出来上がり、食べる直前で小松菜に掛けた方が良いだろう。

ウィルにはパンを切ってもらって、そろそろお肉を焼いていこう。

肉を焼いている間にウィルには野いちごとブルーベリーを潰してもらい、

焼き上がった肉を皿に取り分けてからフライパンに残った油で潰したベリーを煮詰める。

塩コショウと酒、醤油、野いちごとブルーベリーソースを作り肉に掛ければ、

ホーンラビットのソテーベリーソースの出来上がり~。

小松菜のサラダにも忘れずにドレッシングを掛けていただきます。

まずはソテーから、ベリー系のソースなんて初めてらしくウィルは嬉しそうだ。

パンに染み込むホーンラビットの味わいとベリーソース、

小松菜サラダも一緒にパンに乗せれば豪華なサンドイッチに早変わり。

「程好く甘酸っぱくて美味いな」

「良かった」

気に入ってもらえたみたい、小松菜のサラダももりもり食べてくれて、

あっという間に完食したウィルはバッグの中からコップを取り出し、

飲料水をメイの近くに置いてくれた。

デザートのりんごはうさぎりんごです。

「あの…なんかすごく美味しそうな匂いがしたんだけど?」

メイとウィル以外の冒険者が匂いにつられて周りに集まってきたようだ、

残念ながら二人分しか作っていないのでお裾分けはできない、ごめんなさい。

申し訳ないとメイが頭を下げている間にウィルは後片付け。

辛うじて残っているイタリアンドレッシング(小瓶入り)を、

欲しいと言う人数名に分けてあげて撤退することになった。

 

ダンジョンから街に帰る道すがら、どことなくウィルの機嫌が悪いような…。

どうしたのか聞きたいけど怖くて無理、どうしよう。

美人が怒るとマジで怖い。

せっかく料理を作ったのに好みじゃなかったのかな?

それともやっぱり宿屋で作った方が良かったのかな?

ウィルの機嫌が悪い原因がさっぱり分からない。

だが理由は簡単だ、ウィルはメイの料理が気に入っていて、

周りに群がってきた冒険者に不満を持っているだけである。

料理を作る上で香りはどうしようもなくて仕方ないけれど、

最後にメイがドレッシングを無償で分けてあげていたのが気に食わなかっただけ。

あんな貴重で美味い味をタダで提供するなんて考えられない、

貴族だったら惜しみなく金を払うだろう味だったと思っているウィルは、

お人好しなメイが心配でしょうがない。

だからと言ってメイに直接注意するのも違う気がして、

胸がもやもやしてなんとも言えない。

メイの料理を独占したい気持ちが少しでもある自分の器が小さくて情けない。

料理に関してはメイが決めることであって自分が決めていいことではない、

分かっているのにもやもやする、これからもこんな気持ちを抱えていくのか、

冒険者として生きてきたウィルにとって、

今まで感じたことのない初めての不安だった。

隣を歩く小さな彼女(150センチ)をチラと見下ろして内心溜息を吐く。

彼女を守りたいと思ったのは本当だ、でも…独占したいだなんて馬鹿げてる。

異世界からやってきた彼女は心細いだろうし、これからも助けてやりたいと思う。

本来なら国の保護を受けるべき存在で個人が口を挟むべきではない、

できることならメイが傷付かず冒険者として楽しく生きて欲しい。

他人に対してこんなことを思うのは初めてで、

それがどんな感情でどんな意味を持っているのかウィルには分からない。

客人としてなのか、生徒としてなのか、はたまた仲間としてなのか。

ここ何年もパーティを組まずにソロばかりだったから、

仲間の存在なんて恐ろしく過去の話しだ、久しぶりの仲間…。

メイから視線を外して遠く沈む夕日に視線を投げる。

せめてメイがこの世界に慣れるまで見守ろう。

(俺にはそんなことしかできないから)

 

 

 

 

 

続く

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