ダンジョン二回目の収穫、三階まで降りたので素材の種類が1.2倍に増えた。
この素材を使って作れるポーションはあるだろうか。
寝る前にベッドに腰掛けてスマホを眺める、
膝の上にはノエルが丸くなってとても暖かい。
毎度ふかふかでもふもふで癒される。
「中級ポーションと解毒剤と麻痺解除に…」
種類が多いポーションに目が回りそうだ、
一つで全部の状態異常を治せたら楽なのに。
「あ、万能薬もあるんだ」
ゲームで登場する聞きなれた名前のポーション、もし作れるなら作っておきたい。
売却だけじゃなく自分達で使う用に取っておきたいから。
「流石に万能薬は素材が足りないか~」
もっとダンジョンを潜らないと素材が採取できないらしい。
素材の説明欄にはどんなポーションや薬に必要なのか書いてあるが、
万能薬のレシピには持っていない素材が他にもまだあるようで、
今現在何が作れるのかがすぐに分かる。
ひとまず今日採取した素材で中級ポーションと解毒剤を作ることにする。
沢山作ってギルドに売却すれば、ウィルに頼らず宿代を払えるだろう。
この世界のことを教えてくれたり冒険者としての心得や魔法のことも、
何から何まで本当にお世話になって頭が上がらない。
あと今後の目標としてお米が食べたいから、
ウィルもお米が食べられるか聞いておかないと。
もし食べられるなら朝の内におにぎりを作ったり、
炊きたてほかほかつやつやのお米を頬張りたい。
おかずに関しては見たことある肉や野菜が多いので、
きっと献立には困らないだろう、ちなみにスマホには料理のレシピも載っている。
前世界で確か海外の方は海苔が苦手だったと聞いたことがある、
真っ黒な食べ物は食欲が沸かないのかもしれない。
だったら海苔無しのおにぎりだったら可能性が…。
最悪焼きおにぎりにしてしまえば食べやすいか…?
ああ、お米が食べたい。
もしくは、せめて硬くないパンが食べたい。
朝になって身支度してからコンビニへ。
いつもの入店音を聞きながらカゴを持つ。
朝食は何を食べようか、甘くてもしょっぱくても食べられるのは…。
たまごは昨日買ったからまだ残ってるし、薄切りベーコンと牛乳を買う、
買い忘れていたソース(ウスターと中濃)やポン酢もストック用に。
あとは麺つゆと…はちみつも買おう、ついでに単品サラダも追加で買い物終了。
ウィルに声を掛けてから簡易キッチンを借りて調理開始。
たまごを溶いて牛乳と砂糖を混ぜる、食堂の硬いパンをほどよい厚みに切って、
卵液に浸して吸い込む間にベーコンを焼いておく、
ウィルにはお皿や飲み物、サラダを準備してもらう。
卵液を吸ったパンをフライパンで弱火でじっくり焼いて、
ウィルの方にはベーコンを乗せて、メイの方にははちみつを掛けて、
フレンチトーストの出来上がり、テーブルに着いていただきます。
「あまじょっぱいけど大丈夫そう?」
「ああ、とても美味しい」
朝からイケメンの笑顔に癒されるわ。
「今まで食べたことがない料理だ、
メイの作る料理はどれも珍しくて美味しいな」
「あ、ありがとう」
そんなに褒めてくれるなんて思ってなかった、ちょっと照れる。
フレンチトーストは大成功だったようで、
ウィルはお替りが欲しいと言ってきたけどお替りはありません。
それよりサラダを食べてください。
「メイ」
「ん?」
まだ食べ終わっていないメイはウィルの問い掛けに首を傾げる。
「いつまでも宿屋に泊まるのは効率が悪い。
この街にあるアルバート公爵家のタウンハウスに移らないか?」
「は…?」
た、タウンハウスってなんぞや!?
確かに毎日宿屋に泊まっていたら金銭的に厳しくなるだろうし、
貯金したくてもなかなかできないかもしれない。
「タウンハウスってなに?」
「別荘みたいな物だ、そもそも本邸はもっと北にあって、
この街の方が王都に近いから一応タウンハウスがある。
最近は誰も使ってないし俺が使っても問題ないだろう」
「いやいや、別荘って…」
やっぱり公爵ってのは金持ちなんだろうな、別荘なんて普通の人は持ってない。
まあ、公爵家の所有であってウィル個人の物ではないのだろうけど。
それにしても…。
待てよ、だったらウィルだけタウンハウスに行けばいいじゃないか、
メイを保護するために宿屋から移りたいのかどうなのか。
ウィルの意図が分からなくてメイは困惑。
確かに別荘で宿泊したらメイ的にはタダにはなるけど、
だからと言ってこれ以上借りは作りたくないし…。
「…まあ、気が進まないなら今のままでいい」
また機嫌を悪くさせただろうか、昨日の帰り道はちょっと気まずかったし、
できれば機嫌を悪くされたくないんだけど…。
するとウィルが少し笑ってメイの頭に手を添えて軽く撫でた。
(子供扱い!?)
「そんな顔するな、単純にタウンハウスでメイの料理を食べたかっただけだ。
簡易キッチンとか屋外の釜戸だと料理の幅が狭くなると思ったんだ」
「な、なるほど…?」
確かにしっかりしたキッチンなら調理器具も揃ってるだろうし、
今まで以上に品数を増やしたりはできるだろう。
でも、メイのことを凄腕の料理人と勘違いしてないか?
レパートリーなんて一般主婦並しかないし、
料理人として働いていた訳ではないからめちゃくちゃ得意って訳でもない。
料理の基本の『さしすせそ』も結構テキトーだぞ。
今日もダンジョンに行くことになった、メイとしてはポーション作りよりも、
素材集めが楽しくてちょっと危険でもスライムくらい倒せるようになったし、
できれば毎日通いたいと思い始めていた。
なんせ素材の殆どがハーブなどの香草だから料理にも使えるし、
素材集めとレベル上げと食材を求めて。
ダンジョンに行く前にメイは再びキッチンに立つ。
先日ウィルの案内で八百屋へ行った際じゃがいもを購入していたので、
じゃがいもを茹でている間に小麦粉に少量の片栗粉をボウルで混ぜ合わせる。
茹で上がったじゃがいもをボウルに入れて潰し混ぜて熱が落ち着いたら、
ウィルにも手伝ってもらって小さく丸めて並べていく。
小さく丸めたタネをフォークで平たくなるように模様を着けて、
それらに軽く打ち粉をしてジップロックにまとめて魔法カバンに放り込む。
時間経過が止まってくれるので魔法カバンありがたい。
お昼ごはんの下準備だよと教えたらウィルは喜んでくれたので、
今日も現地でお昼ご飯を食べよう。
一応今回も小松菜を採取して、クリームソースのニョッキを作る予定。
元々ガルシアの主食はパンだから、パスタ系もいけると思うんだよね…。
いきなりお米はハードルが高いかと思ってパスタ系にしました、
馴染みのあるじゃがいもを使えば抵抗も少なくなるはず。
時間があれば生パスタにも挑戦してみたいけど、
寝かせたり打ち粉(回数が多い)をしたりと面倒なのでまた今度。
とりあえず硬いパン以外を食べたい。
今日も昨日に引き続き素材を集めてスライムを倒し、
ウィルにはホーンラビットを倒して食材を集めてもらうことに。
調味料も揃ってるし採取した香草も豊富だから今夜こそ唐揚げにしようかな。
ひとまずお昼は釜戸をふたつ使ってニョッキ用のお湯を沸かしつつ、
小鍋を火に掛けバターを溶かし、スライスしたたまねぎとベーコンを炒めて、
しんなりしたら火から下ろし小麦粉を大匙一杯、
まんべんなく混ぜて馴染んできたらコンソメを入れる、
再び火に掛け牛乳を少しずつ加えて溶かしながら混ぜ、
しばらくしたらとろみが付くので、刻んだ小松菜や香草、チーズを投入。
弱火でチーズが溶けるまで温め塩コショウで味を調える。
ニョッキを茹でて浮いてきたらお湯を切って、
作ったホワイトソースにニョッキを入れて混ぜれば完成。
「ウィルってパスタ食べれる?」
「ぱすた…? 今朝下準備したこれか?」
「そう、小麦粉の料理でパスタっていう種類なの、
今回はパスタの中でもじゃがいもを使ったニョッキって言う食べ物だよ」
まるっこいパスタ(麺類という意味)なので今日はスプーンでいただきます、
ウィルが恐る恐るニョッキを口に運んでぱくり。
もぐもぐしてから目を輝かせた。
「うまい」
「良かった~!主食がパンだから小麦粉料理なら大丈夫だと思ったんだよね」
「芋の味は馴染みがあって食べやすい」
そうかそうか、良かった。
二人でニョッキを食べながら捕まえてきたホーンラビットの晩ご飯の話へ。
今夜もメイが作ってくれるのかと思うとウィルは頬が緩んでしまう、
毎回美味しいし腹持ちも良いし、メイには無限大の可能性があるのだと思っている。
単純に美味しい料理に飢えているとも言えるし、
メイが料理上手で運が良かったとも言える。
今まで食に関して深く考えたことはなく、
単純にエネルギー補給だったり空腹を紛らわし、
腹が満たされればそれでいいと思っていたのが懐かしいくらいだ。
料理を作ってもらう対価として宿代を払っているのだが、
タウンハウスへの移動は難色を示されてしまったし、今後はどうしようかと考える。
タウンハウスを使うのは遠慮なんて要らないんだけどな、
普段は誰も使ってないし、最低限の執事と侍女が建物の維持をしているだけだし。
長男アレクは北の本邸から離れないし次男インテは王国仕えで王都住まい、
三男ウィルは冒険者で国内をフラフラしつつダンジョンを巡っている。
スタンピードの兆候が感じられたら直ぐにでも駆け付けるため、
一箇所に留まっていることはなにかと不便なのだ。
国のあちこちを巡ってスタンピードの情報を集めたりしている、
それは公爵である長男アレクだけでなく宰相の父からの頼みでもある。
何はともあれメイが行きたくないと言うなら行かない方が良さそうだ。
ニョッキを食べ終えてからホーンラビットを解体し、
それぞれに素材を分けて今日は早目に切り上げることにした。
ちなみにホーンラビットからも魔石が落ちるのだが、
それはウィルが総取りと言うことになっている、
倒したのはウィルだし肉もメイが預かっているだけで、
大量に食べるのはウィルだ、メイは分けてもらった毛皮と、
素材である角が貰えるので魔石は遠慮している。
余談だが、ダンジョン内にはシャワーもなければトイレもなく、
メイはウィルが居ない間にコンビニのトイレをお借りしている。
いつ行ってもぴかぴかのトイレはありがたいです。
夕方前にはダンジョンを出て街に戻る、
メイはスマホでポーションをドラッグ&ドロップで大量生産。
ポーションに必要な聖水は手が空いている時にこっそり作っている、
こればっかりはスマホ操作で作れなくて、
大量の飲料水に手を翳して『浄化』を念じて魔力を注ぐことでできる。
やり方がオリジナルで女神様にお願いしますと祈っているだけなので、
これで本当にあっているのか分からなかったが、
コンビニで買って来たポリタンク(10リットル)に念じた水を、
魔法カバンに放り込んだら聖水と表示されたので、
多分これであってる、多分。
10リットルのポリタンクひとつで聖水が100本作れることを確認したので、
聖水単体だと一本100ミリリットルの計算になる。
聖水と一言で言ってもポーションの基本になるので、
どちらかと言えば現代の純水という考え方が近い。
更に魔力が込められているからアンデッド系の魔物にも効くらしい。
今後のためにも、もうひとつポリタンク追加で買っておこうかな…。
街の冒険者ギルドに着く頃には売りたい分を仕上げてすぐに現金化したい。
歩きスマホは危険なのでダンジョンを出て物陰に隠れ時間を頂いて作成する、
ウィルが言うにはスマホは珍しいので人目につくのは避けた方が良いだろう。
早速中級ポーションや解毒剤、ホーンラビットの毛皮を売却、
今日もたくさん稼ぐことができてメイは大喜びだ。
毎日コツコツ素材集め楽しいかもしれない。
ついでに初級ポーションと中級ポーションを必要とするクエストも合わせて完了。
本当は先にギルドに来てクエストを受けてからダンジョンに行くべきなのだが、
ポーション系の依頼は毎日張り出されるので確認しなくても基本大丈夫とのこと。
ちょっと疲れたので一度宿屋に戻ろうか、それともどこかでお茶しようか…。
この街に来て宿屋の一階にある食堂以外で食べたことがないので、
屋台とか喫茶店みたいな軽食屋とかちょっと興味あるけど…。
「ウィル」
後から声を掛けられたので振り向くと、これまた背の高い男が立っていた。
どことなくウィルに似ているような…でもウィルよりがっちりマッチョ。
銀髪でウィルより短髪、藍色の瞳はクールな印象。
ウィルよりもごつい鎧を身に着けているので余計に怖く感じる、
だって二人とも無表情で無愛想でイケメンなのに勿体無い。
メイはウィルと男を交互に見遣って無言の空気にヒヤヒヤする。
「兄上…」
あにうえ??? あ、お兄さんか、どっちだろう?
長男アレクさん? 次男インテさん?
「初めましてインテグラルと申します」
ぺこっと頭を下げてくれたインテグラルさん、と言うことは次男のインテさんか。
「あ、どうも、初めましてメイです」
メイも頭を下げたがインテは無表情で何を考えているか分からない、
おいアルバート家!表情筋仕事しろよ!
「兄上が何故ここに」
「父上経由で国王陛下から荷物を預かっている」
荷物? 直接届けてくれるなんて親切だな。
布に包まれた荷物を受け取ったウィルは不思議そうな顔をしていた。
「渡したからな、父上に言伝忘れるなよ」
「ああ…」
「ちなみに荷物はメイ殿の服だそうだ」
「えっ私!?」
突然名前が挙がったのでびっくりして声が引っ繰り返ってしまった。
「なんで服…?」
「国の客人と言うことで国王陛下が誂えたようだ、
着る着ないは自由だが、謁見する時に着たらいい」
「あ、はい…ありがとうございます」
ウィルから荷物を受け取ったメイ、お礼を言ったけど不思議でしょうがない。
いつどうやってサイズを測ったのだろう…。
言うだけ言ってインテさんは颯爽とどこかに居なくなってしまった。
せっかく兄弟と会ったのになんか素っ気無いな…。
「元からこんな感じのお兄さんなの?」
「ん? 父もアレクもインテもこんな風だが…?」
アルバート家は揃いも揃って無表情がデフォらしいです。
荷物を受け取ってしまったので一旦宿屋に帰ることにした。
服だと聞いたので部屋に戻って着替えてみよう。
包みを広げてみると紺色と白色の生地が目に飛び込んできた。
良く見てみると紺色のジャケットと肌触りの良いシャツ、
白いパンツと黒いブーツ、なんとなく乗馬用の服っぽい。
騎士ってほどかっちりしてないし、間違ってもドレスではないし、
動きやすさを重視してこの服を渡してくれたのだろうか。
高級感漂う乗馬服に冷や汗が流れ落ちる。
(待って待って、こんな高価な服もらえないよ!)
だって紺色ジャケットには銀の刺繍が綺麗に入れられてるし、
着いてるボタンには宝石らしき物が拵えて(こしらえて)あるし…。
『ご主人さま…?』
ノエルの声にハッとして飛びかけていた意識が現実に戻ってきた。
「どうしよう、こんな高級な服もらっても困る…」
『返せばいいにゃ』
「王様から贈られてきたみたいだし断れないよ」
『カバンの肥やしだにゃ』
豚に真珠って言葉がぴったりな乗馬服はカバンでしばらく眠ることになりました。
前世界でも高級ブランドの服なんて着たことなかったし、
やっすいし○むらに通い詰めていたくらいだ、
高価な物って結婚指輪くらいしか持ってなかったかも…。
ちなみに結婚指輪は普段から着けてなかったので今も持ってない。
あとはプレゼントで財布を買ってもらったことがあるくらいで、
ブランド物とは程遠い生活環境だった。
かと言って別に貧乏ではなかった、夫は大手企業(製造業ブルーカラー)だったし、
年収も平均より高くて共働きじゃなくても充分暮らしていけた。
ただ、メイも夫もブランド品に興味がなくて買わなかっただけ。
メイは自身を見下ろして…流石にそろそろ冒険者っぽい防具を揃えたい。
ウィルを誘って防具屋に行くことになった。
「兄上が届けてくれた服は着ないのか?」
「私には不相応すぎて…」
しょんぼりしてるメイを見てウィルは溜息を吐く。
似合う似合わないは着てみないことには分からないし、
国王陛下からの贈り物をここまで真剣に悩んで落ち込んでしまうとは。
(普通なら喜ぶと思うのだが…)
例えば勲章とか、褒美として何かを受け取ったり、
国王陛下からの贈り物に対して喜ばないという選択肢が存在するのか。
大変喜ばしいことなのだから素直に受け取ればいいのに。
それとも好みの服では無かったとか…?
まあメイは自尊心が低いみたいだし仕方が無いのかもしれない。
防具屋で新しくメイの服(皮の胴衣など)を揃えてお買い上げ。
次にやってきたのは武器屋だった、メイのナイフは小さくて危なっかしいので、
ウィルが槍を勧めてくれたから槍をいくつか見ていく。
「ナイフより距離を取れるし、戦闘が怖いなら槍はどうだろう」
ちなみに次男のインテは槍の名手で騎馬戦を得意としている騎士団長だ、
武器屋にあるような普通の槍ではなくかなりでかくて重く、
騎馬戦用の槍を扱うのでメイでは持つことすらできない。
「ただ、槍はナイフより力を使うから無理そうならナイフの方が良い」
「そうなんだね…」
他にも様々な武器を見て結局やっぱりナイフに落ち着いた、
だがもう少し長い短剣(ダガー)の方が扱いやすいということで購入しました。
鞘に納まる短剣を腰に差して、いかにも冒険者みたいでメイはご満悦。
今日の採取でレベルが10になったので明日はもう一段下の四階に行こう、
そこで新しく買った短剣を使ってみて、無理そうならナイフに戻せばいい。
あれこれ試して工夫して、素材集めだけじゃなく戦闘にも慣れたい。
だって冒険者って戦うことが前提だとメイは思っているから。
さて今夜はホーンラビットの唐揚げです。
一口大に切った肉をビニール袋に入れて、醤油、酒、にんにくと生姜チューブ、
軽く塩コショウもまぶして揉み込んで最低でも20分は漬け込んでおく。
副菜として小松菜とベーコンのソテーと、刻みキャベツにシソドレッシング。
余っている野菜でコンソメスープも作ろう。
ソテーとスープ、サラダの準備ができたらフライパンに油を注いで、
普通に揚げ物をする時は大量の油を使うから勿体無くて、
油は半分の量にして揚げ焼きにしていきます。
漬け込んでおいた肉に片栗粉をまぶして揚げ焼きに。
じゅわじゅわ美味しそうな音にウィルは無表情のままフライパンを覗き込む、
若干嬉しそうな雰囲気を纏っているので機嫌が悪いってことはなさそう。
兄弟揃って無表情とか…もうちょっと笑ったら可愛いのに。
出来上がった唐揚げを皿に盛り付け、昼はニョッキだったから、
夜は硬いパンで我慢します…その内やわらかいパン食べたい。
「お味はいかがですか?」
「すごく美味しい、かつさんどと同じくらい一番美味しい」
おお、大絶賛ですね! やっぱり若い子は唐揚げとか揚げ物が好きみたい。
どことなくほっこりな空気のウィル、美味しいと和んでしまうようだ。
食事の中で肉系が好きとか、デザートの果物は何が好きとか、
ウィルの好みを色々聞いてみたけど、やっぱりお米は食べたことがないらしい。
そうなるとおにぎりは難しいのかなと考える。
だったらお試しでお昼ご飯をサンドイッチとおにぎりの両方を作ってみて、
おにぎり(お米)も食べられるかチャレンジしてもらうのはどうだろう。
(冒険がしたいのかお米が食べたいのかどっちか分からないな)
まあやりたいようにやる!がモットーだから、
理由なんてなんでもいいし自分にできることをできる範囲でやればいい。
(これでお菓子やパンまで作れたら完璧なんだけどな…)
だがメイは普通の専業主婦で子供も居なかったから、
お菓子作りや手作りパンなんてやったことがなかった。
勿論お菓子作りが好きで得意な人もいるのだろうが、
基本的に面倒くさがりのメイは作るより買う派だった。
安売りのポテチやクッキー、手軽に食べられるおつまみチーズなど、
そこまで考えてメイはハッと気付いた。
(コンビニで買えばいいじゃん!!)
なんで今まで忘れてたんだろう、コンビニならやわらかいパンもあるし、
ポテチもクッキーも、なんならスフレプリンだってあるじゃないか!
今夜はコンビニの商品を一通りチェックしておこう。
当然コンビニはやや割高なので、作れそうな物は自力で作ろう。
───
数日後、ダンジョンの四階に慣れてきたので、
メイはウィルのアドバイスを受けながらホーンラビットを倒してみることに。
一体倒せば大丈夫だろうとのことで、ウィル先生の助言を心に対峙する、
ホーンラビットはジャイアントラビットくらいの大きさで、
もっと巨大な魔物だったら無理かもしれないが、
身体の小さなメイなら倒せないこともない大きさである。
と言うより、ダンジョンの素材や魔物は一週間経つと復活する仕様だ、
メイが入り口付近の薬草や野菜をあらかた採ってしまったため、
もう少し奥へ行かないと採取ができない状況になっている。
「いいか、目を合わせるんじゃなく角を意識しろ」
「はい!」
短剣を両手で握り締めてガクガクと足が震えながらもメイは立ち向かう。
ウィルがホーンラビットを一羽だけ引き寄せてくれたので、
凶暴に鼻を鳴らす巨大うさぎに向かって一気に短剣を振り下ろした。
「えい!」(震え声)
ズバ!とホーンラビットの胸を一刀し倒すことができた、
毛皮のことを考えるとあまり綺麗な倒し方ではないが、
初めてのとどめなら文句なしである。
と言うか、うさぎの鳴き声って「ブーブー」って鼻を鳴らす感じなのね。
「た、たおした…?」
「上出来だ、お疲れ」
「良かった、倒せた~」
「これで少しは恐怖心を克服できたか?」
「ちょっとだけ…」
ほっと胸を撫で下ろしたが未だに手が震えている。
これが命を頂くということなのだろう、いつも料理で肉を切っているのに、
生き物(魔物だけど)の命を奪い頂くことの重みが手に沁みていく。
前世界には居なかったスライムとは訳が違う。
メイは短剣に付着している血を生活魔法の水で洗って風で乾かす。
「これが群れで襲ってきたら無理だね」
「そんな時は俺が倒す」
流石ランクS様ウィル様ですね。
ちなみにメイはウィルが戦っている場面を一度も見たことが無い、
彼がホーンラビットを倒しているのはもっと奥で離れた場所だったから。
一度でいいから見てみたいけど、強い人の戦闘は敵も強いだろうからやっぱり怖い。
そろそろお昼時になってきた、今日のお昼はどうしようかな。
なんだかんだ言って硬いパンのお世話になっているので、
久しぶりにやわらかいパンを食べたい…。
四階の入り口広場まで戻ってきた二人、お昼ご飯を期待しているウィル。
「ちょっと買出し行ってきます」
「分かった、飲み物を用意しておこう」
「お願いします」
辺りをきょろきょろして人が見ていないのを確認した上で、
岩の陰に隠れてメイはコンビニへ。
入店してカゴを持ち、パンコーナーの下を見る。
上の棚には新商品だったり季節の商品が並べられているが、
下の方にはお馴染みの商品が置いてあることが多い。
今回欲しいのは食パンだ!8枚切りは望めなくても6枚切りなら…。
食パンがなかったら最悪ロールパンでもいい。
「あった!6枚切り!」
良かった、これでサンドイッチが作れる。
あとはタルタルソースと千切りキャベツ(袋入り)も買う。
飲み物は用意してくれてるみたいだからこれでいいかな?
お買い上げして戻ってくると、ウィルがお湯を沸かして紅茶を作っていた。
魔法カバンに紅茶の茶葉を持ってきていたらしい。
メイは買って来た食パンに千切りキャベツとタルタルソースを掛けて、
先日作ったホーンラビットの唐揚げを乗せてもう一枚の食パンでサンド。
唐揚げは出来立てをカバンに入れてあるのでほっかほか。
「ホーンラビットの唐揚げサンド、できあがり!」
「唐揚げ…」
先日食べた唐揚げを覚えていたようで目を輝かせるウィル、
しかし元々無表情だから少し目を見開いている程度で変化が乏しい。
メイとしてはそんな些細な変化だとしても、
ウィルが喜んでくれているので満足だ。
「「いただきます」」
ひとくち食べてびっくり!ウィルは無心で食べ続ける。
やっぱりタルタルソースは揚げ物に合うなあ。
キャベツのシャキシャキ感もアクセントになって素晴らしい!
「美味しい?」
「こんな柔らかいパンは食べたことが無い、美味しい」
確かパンの柔らかさは酵母菌による物で、
それがないとどうしても硬くなってしまうらしい。
酵母菌を入れて何度も寝かせて発酵させるからちょっとめんどくさい。
それに酵母菌も一日で出来る訳じゃないから、メイは手作りのパンは諦めている。
例えばどこかで定住できるならやってみてもいいけど、
今は冒険者として毎日ダンジョン通いで宿屋のお世話になっている。
酵母菌を作るとしたら一週間くらいは掛かりそうだし、
温度と湿度を一定に保つってなると難しいんじゃなかろうか。
一発で酵母菌を作れる自信がない、なんだか腐らせてしまいそうで。
「俺としては家族にも柔らかいパンを食べさせてみたいが、
メイの負担にはなりたくないし、俺個人で留めておくことにする。
もし世間にこのパンが知られたら大変なことになる…」
「そんなに大事(おおごと)?」
「………今までのパンを思い出してくれ」
ああ…ですよね…。
大事(おおごと)になるかどうかは未知数だが、
硬いパンだけじゃないという選択肢が増えるのは良いことだと思う。
食べられる種類が少ないとその内飽きてくるし。
と言うか、食パンは無理でもパンケーキみたいなのはどうだろうか。
手作りパンはハードルが高いけど、ホットケーキミックスさえあれば、
パンケーキは勿論のことパウンドケーキや蒸しパン、
がんばればお惣菜パンも作れないことはない。
(そうか、ホットケーキミックスか…)
頭の中で色々思い描いてはメイの表情が明るくなっていく。
確かスマホには料理のレシピが豊富に登録されているから、
もしかしたら探したらホットケーキミックスのレシピも…。
パウンドケーキくらいなら簡単だし久しぶりに食べたいかも、
問題は型があるかどうかだな、似たような容器があればいいけど。
ホットケーキミックスを使えば酵母菌も使わないし、
面倒な醗酵の時間も取られなくて済む。
とは言え、本格的なパンには敵わないし日本人好みの食パンは多分ムリ。
まあ、硬いパンも料理によっては食べられるしまずい訳でもない。
しっかりしてるからフレンチトーストに向いていたり、
メインではなく付け合せ程度ならクラッカー感覚で食べられる。
今夜はホットケーキミックスのレシピを調べて、
それからポーションに欠かせない聖水作りで忙しくなりそうだ。
その日の夜、ウィルは一人でメイと通うダンジョンに来ていた。
このダンジョンは一度攻略しているので最下層の50階まで行けるようになっている、
一度50階まで自力で行ってボスを倒せば帰還石が出現し戻ってこられる仕様で、
更に帰還石はダンジョン入り口にもあり、触れることで50階まで一気に潜れるのだ。
条件さえクリアしてしまえば簡単に50階へ行けるようになっているが、
50階まで到達した上でボスを倒した人は数少なく、ウィルはその内の一人だった。
ちなみにダンジョンには10刻みでボスが存在し、
倒すことで帰還石が出現して入り口の帰還石に触れることで、
10刻みの望みの階に飛べるようになっている。
ウィルが帰還石に触れてやってきた50階、目前に佇むラスボスと対峙するウィル。
最近メイと共に浅い階層をうろうろしていて、
腕がなまっていると感じて一人でやってきた。
ランクSなので初心者用のダンジョンボスなど容易い。
一撃とは行かないが特殊スキルで凍らせてしまえば簡単だ。
氷の矢を降らせて足止めし、とどめに剣で八つ裂きにすればクリア。
肩慣らしでボスを倒したかっただけでなくボスが落とすレアドロップが本命だった。
ボスが消えて宝箱が硬い音を立てて転がる、足で向きを整えて蓋を開ければ…。
宝箱に入っていたレアドロップは短剣で水の効果が付いている、
装飾にアクアマリンが使われていて実践で使うよりも装飾品としての価値が高い。
売ればそれなりに高値だが、ウィルはこれをメイにプレゼントしようと考えたのだ。
いつも料理を作ってくれてありがたいしパーティを組む仲間として感謝も伝えたい。
先日買ったメイの短剣は最低限使える程度の短剣だったので、
戦闘で使うことと解体でも使えるこの水のダガーは使い勝手が良いだろう。
それに…。
アクアマリンの装飾はとても綺麗で、鞘に使われている宝石も目を瞠る物がある。
流石ラスボスのレアドロップ品だ。
メイのレベルが20になったら記念にプレゼントしようと心に決めて、
ダンジョン50階から脱出し宿屋に戻った。
いつもメイと二人で歩いている道も、宿屋にメイが居ると思うと足取りは軽い。
メイに出会うまで長年一人でソロばかりだったから、
責任は伴うけれどメイが居る今の方がなんだか楽しい。
もうパーティなんて組まないと思っていたし、
死に行く仲間を見送るのは二度と御免だと思っていたのに…。
明日はそろそろ別のダンジョンに行ってみてもいいかもしれない、
メイの判断に任せることになるが、もっとこの世界を見せてあげたい。
続く