エヴァの世界がポケモンと同じ世界だったら   作:リロイド

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エヴァの世界がポケモンと同じ世界だったら②

ネルフ本部・セントラルドグマ――

 

そこは第三新東京市の地下にあるジオフロント――そのさらに下層、暗く深く広がる迷宮のような空間だった。

巨大な金属の骨格と冷たいコンクリートが縦横無尽に入り組み、延々と続く通路がその内臓のように巡っている。

蛍光灯の淡い光が天井から照らすなか、金属の床に靴音がカツンカツンと反響する。

 

ミサトは、シンジとピカチュウ、そしてポッタイシのペンペンを引き連れて、その通路の一角を歩いていた。

焦げ跡のついた上着のまま、長い脚で軽快に進む彼女だったが、その歩みにはどこか不自然な迷いがあった。

 

「おっかしいなぁ……確かこの道のはずなんだけど……」

 

片手で頭を掻きながら、ミサトが眉をひそめる。

壁に貼られた「D-14」「第2封鎖区画」などの表示が、どれも彼女の期待するものとは違っていた。

 

「……ここ、さっきも通りましたよ」

 

シンジが静かに言った。

ピカチュウも彼の肩に乗ったまま、「ピカ」と短く鳴き、どこか呆れたように耳を倒す。

 

「だ、大丈夫よ! すぐに――ほら、思い出した! ここを右だったわ、右!」

 

自信満々な調子を装いながらも、ミサトの額には薄く汗が滲んでいた。

 

そのとき。

 

「ポッ」

 

ペンペンが低く短く鳴いた。

そして、誰に促されるでもなく、ずいずいと前へ歩み出る。

 

「ちょっと、ペンペン!? 勝手に行動しちゃダメ……あ」

 

ミサトの言葉が途中で途切れる。

ペンペンが進んでいた通路の先、わずかに開いたドアの上に――「司令部・第3エレベーター区画」と書かれた表示が見えた。

 

「……うわっ、ほんとにこっちじゃないの……」

 

思わず呟いたミサトは、咳払いを一つしてから振り返る。

 

「そ、そうそう! こっちよ、こっち! ペンペンもたまには役に立つわね~うんうん!」

 

笑顔を浮かべて誤魔化す彼女の後ろで、シンジは肩を落とした。

ピカチュウも「ピカー……」と鳴いて、呆れている。

 

(……やれやれ)

 

そんな空気が、一人と二匹の間に流れていた。

 

そのまましばらく歩を進めると、金属の壁が開けた先に広めの交差路が現れた。

その中央に、腕を組んで立っていたのは――

 

白衣に身を包んだ金髪の女性だった。

 

「……遅かったわね、葛城一尉」

 

低く、張りのある声。

リツコの視線が真っすぐにミサトを貫く。

 

「あ、リツコ……」

 

ミサトは気まずそうに視線を逸らしながら声をかけた。

その表情はどこかバツが悪く、髪の一房を無意味にいじりながら、足を止める。

 

「……あんまり遅いから、迎えに行こうと思ってたところだったわ」

腕を組んだまま、リツコは鋭い視線でミサトを見据える。

「人手も時間も足りないのよ。グズグズしてる暇はないって、分かってるわよね?」

 

「ごめんごめん、テヘヘ……」

 

ミサトは軽く舌を出して、気まずそうに笑った。

だがその姿に、リツコの眉はさらにわずかにひそむ。

 

するとその間に、ペンペン――ポッタイシが一歩前に出て、「ポッ」と短く鳴いた。

 

リツコの表情がふっと緩む。

 

「あら、久しぶりね、ペンペン」

 

その声音には、明らかに親しみがこもっていた。

どうやら彼女とペンペンの間には、それなりの面識があるようだ。

 

「ポッ、ポッタッポッ」

 

ペンペンが少し長めの鳴き声を発する。

少し首を傾げながらも、口調にはどこか期待のようなものが滲んでいた。

 

それを聞いたリツコは、すぐに察したように返す。

 

「あの子なら今日はここにはいないわ。……留守番してるの」

 

「ポッ」

 

ペンペンはつまらなそうに鼻を鳴らすと、プイと横を向いてしまった。

 

そのやりとりを見ていたシンジは、不思議そうにミサトを見上げた。

 

「……ミサトさん。あの人って、ポケモンの言葉が分かるんですか?」

 

ミサトは小さく笑いながら肩をすくめた。

 

「いや、たぶん分かってないわよ。私もそうだけど、リツコもペンペンとはそれなりに付き合いが長いからね。なんとなく、言いたいことは察せられるのよ」

 

「へぇ……」

 

シンジが感心したように呟くと、ミサトは少し悪戯っぽい顔をして言い添えた。

 

「ちなみに今のは――そうね、“あのエテ公はいないのか?”的なことを言ってたんじゃない?」

 

「え、エテ公……?」

 

シンジはその言葉の意味がよく分からなかったが――

汚い言葉であることだけは、なんとなく伝わってきた。

 

リツコがそのやりとりを聞きながら、くすりと笑い、それからゆっくりとシンジの方に視線を向ける。

 

「その子が――例の子ね?」

 

リツコの言葉に、シンジは思わず背筋を伸ばし、ピカチュウが「ピカ?」と彼の肩で小さく鳴いた。

ミサトは「そうよ」と頷きながら、口を開いた――

 

「あ、初めまして……。碇シンジです」

 

シンジは少し緊張したように背筋を正し、ぎこちなく名乗った。

その声は小さくはあったが、礼儀正しさはしっかりと伝わるものだった。

 

リツコはその姿をじっと見つめ、微かに頷く。

 

「私は技術開発部・第一課の赤木リツコ。よろしくね」

 

声に無駄な感情はなく、それでいて確かな威厳と落ち着きがあった。

まさに“ネルフの科学者”としての顔そのものだった。

 

そのままリツコの視線が、ちらりとシンジの肩に乗ったピカチュウへと移る。

ピカチュウはその視線に気づいたように、体を少し起こして胸を張ると――

 

「ピッカ、チュウ♪」

 

元気よく、少し高めの声で鳴いた。

まるで自己紹介をするような調子だった。

 

リツコの口元が、わずかに緩む。

 

「このピカチュウ……あなたの?」

 

「はい」

 

シンジは頷きながら、そっとピカチュウの背を撫でる。

その仕草に、ピカチュウは満足げに目を細めた。

 

「ふ~ん……」

 

リツコは小さく呟きながら、もう一度ピカチュウをじっと見つめ、そしてぽつりとこぼすように言った。

 

「これも――運命の一つということかしら……」

 

その声はあまりにも静かで、シンジの耳には半分しか届かなかった。

 

「え?」

 

思わず聞き返したシンジに、リツコはすぐに表情を戻し、首を横に振る。

 

「なんでもないわ」

 

そう言ってから、一歩前へと歩き出す。

白衣の裾がふわりと揺れ、彼女の声が背中越しに響いた。

 

「それより、いらっしゃい、シンジくん」

「お父さんに会わせる前に――見せたいものがあるの」

 

リツコの言葉に、シンジは一瞬戸惑いながらも頷いた。

ピカチュウが肩の上で「ピカ?」と首を傾げる。

 

ミサトとペンペンも、その後を追うように歩き出した。

 

沈んだ地下通路に、三つの足音と、ポケモンたちの小さな鳴き声が、静かに響いていった。

 

 

 

 

ジオフロントのさらに深部、そこは――

 

まるで地底湖のような空間だった。

光の届かない巨大なドームの底に、濃い赤黒の液体が静かに満たされている。

水……いや、それに似た何か。重たい表面張力を持つその液体は、ただそこに在るだけで、息苦しさを伴う圧迫感を与えていた。

 

その液面を滑るように、一隻の移動用ボートがゆっくりと進んでいく。

機械音をほとんど立てず、浮かぶように滑る小さな船の上には、ミサト、リツコ、シンジ、そしてピカチュウとペンペンの姿があった。

 

周囲には幾何学的な鋼鉄の柱やケーブルが迷路のように張り巡らされており、時折、警報の電子音が遠くからけたたましく響いてくる。

ミサトとリツコはその間にも、小声で何やら専門的なやりとりを交わしていたが、シンジには内容はまったく分からなかった。

 

ピカチュウも、肩の上で耳を揺らしながら、落ち着かない様子で周囲を見回していた。

 

やがて、ボートはより奥――

完全な闇に包まれた巨大な空間へとたどり着いた。

 

「……ま、真っ暗……」

 

シンジは思わず呟き、ピカチュウも「ピカァ……?」と不安そうな声を漏らす。

空間の広さは感じるのに、何も見えない。

その異様さに、肌が粟立つような感覚があった。

 

「リツコさん……ここ、どこなんですか……?」

 

シンジの問いに、返事はなかった。

代わりに、リツコは無言のまま手元の端末に操作を加える。

 

――カチッ。

 

小さな音とともに、天井の高所に設置された照明が一斉に点灯した。

 

ギィィィィ……

 

重く、機械的な音を立てながら、徐々に照明がその全貌を露わにしていく。

浮かび上がる鋼鉄の柱、装甲、リフト、ケーブルの網。

 

そして、光が正面を照らした瞬間――

 

「……ッ!」

 

シンジの目の前に、巨大な“顔”が現れた。

 

硬質な紫色の外殻に包まれた輪郭、橙色の瞳、突き出た角。

鋼鉄とも有機物とも判別しがたい、異様な存在感。

それは無言で、無表情に、ただそこにあった。

 

「ひっ……!」

 

ピカチュウがシンジの肩の上で縮こまるように鳴く。

 

「ピカッ! ピカチュ……!?」

 

シンジもまた、後ずさりながらその“顔”を見上げた。

膝が震え、息を呑む。

 

「こ……これ……ロボット……? ……いや、さっきの大きなポケモンもどきの怪物……?」

 

呟いたその言葉に、リツコが横目でちらりと彼を見た。

 

(へぇ……)

 

内心でわずかに驚きの感情が揺れる。

だが、それを顔に出すことも、言葉にすることもない。

 

リツコは静かにシンジに向き直り、まっすぐな声で告げた。

 

「いいえ、これはロボットでも、ポケモンでもないわ」

 

「……?」

 

「これは――人の造り出した究極の人型汎用決戦兵器」

「人造人間エヴァンゲリオン。その初号機よ」

 

その言葉は、重く、静かに、闇に沈む空間へと響いた。

 

シンジの瞳が揺れる。

ピカチュウも、まるで何かを感じ取ったかのように、その瞳で初号機をじっと見つめ返していた――。

 

「……これも、父の仕事ですか……」

 

初号機の巨大な顔を見上げながら、シンジはぽつりと呟いた。

その声には怒りも憎しみもなかった。ただ、乾いた、感情の死んだような響きだけがあった。

 

――その瞬間、静寂を切り裂くように。

 

 

「そうだ」

 

 

低く、鋭い男の声が空間に響いた。

 

シンジが顔を上げると、初号機の頭部のさらに上――制御プラットフォームの奥、照明の落ちた監視フロアのような高台に、その男の姿があった。

 

冷たい眼鏡の奥から鋭く見下ろしてくる――碇ゲンドウ。

 

「……久しぶりだな、シンジ」

 

「……父さん……」

 

シンジの肩がわずかに揺れた。

視線が合わせられず、思わず顔を逸らしてしまう。

その胸の内にあるものは、戸惑い、怯え、そして……捨てられたことへの深い痛み。

 

「ピカ……」

 

肩の上のピカチュウが、そっと彼の頬を見つめた。

言葉を持たぬその小さな瞳が、シンジの震えを感じ取っていた。

 

その静寂を断ち切るように、ゲンドウは言い放った。

 

「――出撃だ」

 

「……え?」

 

シンジは目を瞬かせた。

その言葉の意味が、すぐには理解できなかった。

 

「出撃!? 零号機は凍結中では……」

 

ミサトが驚愕と共に声を上げる。

その表情には困惑と怒りが入り混じっていた。

 

「……まさか、初号機を!?」

 

「そうだ」

 

ゲンドウは即答する。

 

「そのために、シンジを呼んだ。初号機には、シンジを乗せる」

 

「そんな、無茶です! 来たばかりのこの子に、エヴァなんて……!」

 

ミサトは一歩前に出ながら叫んだ。

守らなければという感情が、言葉に火を灯していた。

 

だが、ゲンドウは一瞥するだけでその声を受け流す。

 

「座っていればいい。それ以上は望まん」

 

冷たく、突き放すような言い方だった。

その言葉に、ミサトは言い返そうとしたが――

 

「……他に方法はないわ」

 

その横から、リツコの冷静な声が飛び込む。

 

「今は使徒撃退が最優先事項よ。わかっているはずでしょ、葛城一尉」

 

声の調子は落ち着いていたが、強い意志が込められていた。

その言葉の重さに、ミサトは言葉を失い、唇をかみしめた。

 

「……父さんは……これに乗って、僕に戦えって言うの?」

 

沈黙のなか、シンジの声が低く響いた。

問いかけというにはあまりにも静かで、それでも絞り出すような重みがこもっていた。

 

ゲンドウはわずかに顎を引き、無表情のまま応える。

 

「そうだ」

 

短く、冷たく。まるで事務的な確認事項を伝えるように。

 

「無理だよ、そんなの……!」

 

シンジが急に声を荒げる。

ピカチュウがびくりと肩の上で身をすくめた。

 

「見たこともない、聞いたこともない……! そんなのに乗って戦えって……出来るわけないだろ!!」

 

怒気をはらんだ声だった。

いつもは内に押し込めているはずの感情が、今は抑えきれずに噴き出していた。

 

「説明を受けろ」

 

ゲンドウの声は変わらない。

シンジの動揺など、一片も興味を示さないように淡々としていた。

 

「そ、そんな……!」

 

唇を震わせながら、シンジはさらに叫ぶ。

 

「こんなの……! こんなの乗れるわけないよっ!!」

 

その声はケージ内に反響し、まるで心の底からの悲鳴のようだった。

ピカチュウも肩の上で固まったまま、シンジの叫びを聞いていた。

 

だが、ゲンドウは――まったく表情を変えずに言い放った。

 

「乗るなら早くしろ。でなければ、帰れ」

 

静かでいて、切り捨てるような冷たさだった。

 

シンジの顔がぐしゃりと歪む。

怒り、悲しみ、絶望。複雑な感情が一気に噴き上がり、言葉にならぬまま喉元で詰まる。

 

 

だがその瞬間――

 

 

「ピカ!! ピカ! ビカジューーーーー!!」

 

甲高い、叫ぶような声が鳴り響いた。

 

「えっ……!?」

 

シンジは驚いて振り返る。

自分の肩の上にいたピカチュウが、いつの間にか腕を伝って前に飛び降りていた。

そして、ゲンドウの方へ向かって、目を剥き、耳を逆立て、全身を震わせながら吠えていた。

 

「ぴかっ! ビカッ!! ビカッチュウゥゥゥゥウウウ!!」

 

その鳴き声は、今まで聞いたことのないほどの怒りと激しさを含んでいた。

まるで、シンジの代わりに――彼自身が言えなかった想いを、ピカチュウが代弁しているかのようだった。

 

バチバチバチッ!!

 

黄色い火花が、全身から一気に弾け飛んだ。

怒気を帯びた叫びと共に、電撃が空間に拡散する。

 

「きゃっ!」

ミサトは咄嗟に身を縮め、思わず目を閉じて後ずさる。

 

「ピカッ! ビカッ!! ビカッチュウゥゥゥゥウウウ!!」

 

その体から迸る放電は、怒りそのものだった。

小さな足元にひび割れるように光が走り、空気がピンと張り詰めたように震えた。

 

しかし、ゲンドウは、それでもまったく動じない。

ただじっと、その小さな生き物の叫びを見下ろしていた。

 

「だ、だめだよっ……!」

 

シンジは慌ててしゃがみ込み、火花の中心に手を伸ばす。

そしてピカチュウを抱き上げようとした、その瞬間――

 

ビリリッ!!

 

「っ……ぐぅっ!!」

 

青白い電撃がシンジの両腕を走り抜けた。

指先から肩にかけて一瞬で痺れが走り、膝が崩れかける。

だが、倒れなかった。気を失いもしなかった。

 

――普通の人間であれば、即座に意識を手放すような電圧だった。

 

けれど、シンジは慣れていた。

 

子供の頃。出会ったばかりのピカチュウが感情をうまく制御できなかった頃。

何度も、何度も感電し、そのたびに一緒に泣いて、また仲直りして――

だからこそ、今の痛みは「驚き」ではなかった。

 

「……平気、だよ……」

 

震える手で、シンジはピカチュウの身体をしっかりと抱きしめる。

その胸に顔を埋めるようにして、そっと囁いた。

 

「僕はもう……怒ってない。だから……ね、落ち着いて……」

 

ピカチュウの体が、ぴくぴくと小さく痙攣しながらも、やがてその放電を止めた。

全身にまとわりついていた怒りの火花が、ゆっくりと消えていく。

 

呼吸が浅く、熱っぽく残る余熱のなか、ピカチュウはようやくシンジの腕の中で落ち着いた。

小さく「ピ……カ……」と、掠れた声で鳴く。

 

 

「えと…」

 

その様子を見ていたミサトは混乱していた。

ミサトは、本当はこの場でシンジに「エヴァに乗ってほしい」とか「乗りなさい」と言うつもりだった。

けれど、ピカチュウのあまりの迫力と電撃に、頭の中が一瞬真っ白になり、何も言葉が出てこなかった。

 

呆然と見つめているうちに、シンジが感電しながらも必死にピカチュウを抱き上げる姿が目に飛び込む。

 

「……はっ!」

 

ミサトはようやく我を取り戻し、慌ててシンジに駆け寄った。

 

「だ、大丈夫なの、シンジくん? 今、思いっきり電撃浴びてたけど……!」

 

息を切らしながら、心配そうに覗き込む。

 

だが、シンジは腕にピカチュウを抱えたまま、困ったように微笑んだ。

 

「だ、大丈夫です。割と慣れてますから……はは」

 

シャツの袖が少し焦げ、肩口から薄く煙が立ち上っていたが、本人は本当に平然としていた。

体に異常がないどころか、むしろ慣れた様子さえ漂わせている。

 

「け、結構ワイルドなのね、あなた達……」

 

ミサトは呆れるように、それでいてどこか感心したように目を細めた。

 

 

ピカチュウとシンジの一連の行動を、リツコとペンペンは黙って見つめていた。

 

ペンペンは、まるで人間のように「ふっ」と口元を歪め――

いや、確かに笑ったような仕草で、小さく鼻を鳴らした。

 

リツコは無表情を保ったまま、内心で思考を巡らせていた。

(報告では“ポケモンバトル”はやらせていなかったはず……なのに、あの電撃の質――。あのピカチュウ、まさか……)

 

何かを見抜こうとする冷静な瞳が、じっとシンジとピカチュウに向けられている。

 

 

――その時だった。

 

 

ドォン……! グォオオォン……!!

 

ジオフロント全体に地響きが走る。

鋼鉄の骨格がうなるように軋み、天井の砂利がぱらぱらと音を立てて落ちる。

 

(使徒――)

 

ミサトもリツコも反射的に顔を上げた。

 

 

――使徒が両目からビームを放ち、ついにネルフ本部のあるジオフロントへと攻撃を始めたのだ。

 

 

「……やつめ、ここに気づいたか」

 

ゲンドウは静かに眼鏡を押し上げ、すぐさま通信を開く。

 

「冬月、レイを起こしてくれ」

 

画面の向こうで、白髪の副司令官が渋い顔をして答える。

 

「使えるかね?」

 

「死んでいるわけではない」

 

「……わかった……」

 

短く通信が途切れる。

 

すぐに、今度は別回線で通信を繋ぐ。

 

「レイ、予備が使えなくなった。もう一度だ」

 

「……はい……」

 

少女のかすれたような声が、静かに返ってくる。

 

ゲンドウはリツコの方へと顔を向ける。

 

「初号機のシステムをレイに書き直せ」

 

リツコは一瞬だけ目を細め、淡々と問い返す。

 

「……よろしいのですね?」

 

「かまわん」

 

短い言葉に、決断の重みだけが込められていた。

 

リツコは無言で頷き、すぐさま作業端末に手を走らせる――

 

ジオフロントの空気が、ますます張り詰めていく。

 

その時、背後の自動ドアが機械的な音を立てて開いた。

金属の重い扉が左右に割れると、そこから何かが――いや、何匹かが姿を現した。

 

「らきらき」「はぴはぴ!」

 

ピンク色の丸い体、愛嬌たっぷりの顔。ラッキーとハピナスだった。

二匹は息を合わせるように、医療用のベッドを丁寧に押しながらこちらへと運んできた。

 

「え? なに……?」

 

シンジは思わず驚きの声を漏らす。

そのベッドの上に視線を落とした瞬間――

 

「……あ……ん……」

 

包帯をぐるぐる巻かれた細い手足。

短く切りそろえられた薄青色の髪。

苦しそうにうめきながら、少女がそのベッドの上で身じろぎした。

 

(女の子……?)

 

シンジの心に、言いようのない困惑が広がった。

 

少女は、顔をしかめながら必死に上半身を起こそうとする。

けれど痛みが強いのか、すぐに力尽きてしまう。

 

見かねたラッキーが、丸い手で助けようと一歩踏み出す。

 

「らき……?」

 

だが、すぐそばのハピナスが「はぴはぴ!」と小さく苦い顔で首を振り、止めに入った。

ラッキーは少し悲しそうに顔を曇らせる。

 

(こ、こんな怪我だらけの少女が……)

 

シンジは悲痛な面持ちで、その少女を見つめるしかなかった。

 

 

その時――

 

 

再び使徒の攻撃によって、ジオフロント全体が大きく揺れた。

床が突き上げられ、天井の一部が激しく崩れる。

崩れた破片が音を立てて落下し、その衝撃にベッドが横倒しになった。

 

「危ない!」

 

思わずシンジは駆け寄り、ベッドから投げ出されそうになったレイを両腕で抱きとめた。

細く軽い身体が、彼の胸の中に収まる。

レイは苦しそうに息を切らし、目が焦点を失いかけている。

 

「しっかりして……!」

 

シンジが必死に声をかけるが、レイは「はぁ……はぁ……」と、今にも昏倒しそうなほど消耗しきっていた。

 

(こんな子が……この子が、パイロットをやってたなんて……)

 

シンジは悲痛な面持ちでレイを見つめるしかなかった。

 

その背後で、ミサトの声が響く。

 

「あなただって、お父さんとの再会を喜び合うためにここまで来たわけじゃないって、分かってたんでしょう?」

 

シンジは苦い顔をして俯いたまま、答えられない。

 

「なんのためにここまで来たの? お父さんに言われて、黙って帰るつもり?」

 

痛烈な言葉に、シンジはさらに眉根を寄せ、沈黙する。

 

「あなたが乗らなければ、傷ついたその子が――また乗ることになるのよ」

 

その言葉が、胸の奥を鋭く貫いた。

 

(逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……)

 

シンジは心の中で繰り返す。

だが、恐怖と混乱と迷いで、どうしても踏み出す決心がつかない。

 

ミサトはその躊躇にさらに追い打ちをかける。

 

「さっき、あなたはN2地雷でたくさんのポケモン達が蒸発したところを見たでしょ? あの使徒を放っておいたら、世界中がああなるのよ」

 

「くっ……」

 

シンジは奥歯を噛み、唇を引き結ぶ。

 

「そうなれば、あなたのピカチュウだって……」

 

ミサトの言葉を最後まで聞く前に、シンジは顔を上げた。

 

「――やります。僕が、乗ります」

 

その決意は、震えながらも確かなものだった。

 

その姿を、ピカチュウは心配そうに、けれどまっすぐに見つめていた。

 

 

 

 

「やれやれ……何とかなりそうだな」

 

中央管制室のモニター越しに、一部始終を見守っていた冬月副指令は、真っすぐ立ったままそっと息をついた。

 

腕を軽く組み、シンジとピカチュウの姿をじっと見据える。

シンジの決意、その肩に寄り添う小さな黄色い相棒――

その光景に、冬月はしみじみとした思いを抱いた。

 

「碇のやつめ……自分の息子を乗せるために、あそこまでやるとはな……」

 

呆れとも諦めともつかぬため息が、口をついて漏れる。

 

「……それにしても……」

 

冬月の目が、シンジだけでなく、その隣のピカチュウにもしっかりと向けられる。

 

「運命の子には、運命のポケモン……という事なのかねぇ」

 

誰に聞かせるでもなく、静かに、ひとりごとのように呟いた。

 

重く張り詰めた指令室の空気のなか、その声だけが、不思議な余韻を残して響いていた――




【あとがき】
とりあえずここまで。
次回があるとするなら、使徒との戦いのシーンは飛ばし、トウジとの屋上でのシーンです。
あくまでエヴァキャラとポケモンの絡みが基本なので、ポケモンとの絡みがあまりない所はジャンジャンカットしていきます。
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