エヴァの世界がポケモンと同じ世界だったら   作:リロイド

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前回、次はトウジとの話だと書きましたが、その前に少し話を入れました。
トウジの話は次回に。


エヴァの世界がポケモンと同じ世界だったら③

◆あらすじ◆

 

エヴァンゲリオン初号機のコクピット――

シンジは父の命令と、守りたいもののために、初めてパイロットとして出撃する。

しかし、エヴァはあまりにも巨大で、未知の感覚が全身を支配し、シンジはまともに操作することすらままならない。

 

やがて第三使徒が迫り来る。

ネルフ本部を守るため、シンジは必死にエヴァを動かそうとするが、動きは鈍く、未熟な彼の操縦ではまるで歯が立たない。

 

第三使徒の圧倒的な攻撃――

その巨体に翻弄され、初号機は何度も地面に叩きつけられ、シンジもまたコクピット内で無力感に苛まれる。

 

ついに意識を手放すシンジ。

だが、その瞬間、初号機が突如暴走――

シンジの意志とは無関係に、エヴァは凶暴な咆哮とともに第三使徒を圧倒し、殲滅するのだった――

 

 

 

 

――夢の中だった。

 

重い、ぬるい闇が全身を包み込む。

その闇の奥に、ふいに強烈な光が射し込んだ。

 

目の前いっぱいに広がる、眩しすぎるほどの光。

それは形も境界も持たず、ただ「存在」としか呼べない何かだった。

シンジは息を呑み、その光をじっと見つめるしかできなかった。

 

――何だろう。

――これは……何?

 

言葉にならない不安と、言いようのない畏敬が、心の奥から湧き上がる。

光は脈打つようにゆっくりと揺れながら、次第に「何か」へと姿を変えていく。

 

輪郭が、色が、少しずつ明確になっていく。

ただの光ではない。

どこかで見たことがあるような、しかし決して思い出せない“形”。

それは神々しいほど荘厳で、現実と夢の狭間にだけ存在する幻影のようでもあった。

 

――ポケモン……?

 

そんな直感が胸をよぎる。

シンジの唇が、無意識のうちに、ひとつの言葉を紡いでいた。

 

「アル……セ……ウ…ス……?」

 

その響きが闇に溶けた瞬間――

景色が音もなく消えていく。

 

――カチ、カチ……

 

「ハッ!?」

 

シンジは突然、身体を跳ね起こした。

目を開けると、そこは白く、無機質な天井だった。

 

「……知らない天井だ……」

 

ぼんやりと見慣れぬ天井を見上げたまま、シンジは小さく呟く。

 

(夢……?)

 

 

 

 

暗闇に浮かぶ無数の円卓。

壁も天井もなく、虚空に映し出された巨大なホログラムモニターの上――ゼーレの会議が静かに始まる。

 

並んだ椅子のひとつに、碇ゲンドウの姿。

彼を囲むように、ホログラムの中で顔の判別もつかない老人たちが何人も座っている。

その姿はぼんやりと輪郭を揺らし、全員が無表情のまま彼を見据えていた。

 

「碇君、ネルフとエヴァ、もう少し上手く使えんのかね?」

 

「零号機に引き続き、君らが初陣で壊した初号機の修理代……国が一つ傾くよ」

 

「オモチャに金をつぎこむのもいいが、肝心なことを忘れちゃ困るよ」

 

「君の仕事はそれだけではないのだぞ」

 

老獪な声、冷たい声、皮肉たっぷりの声――

ゼーレの面々が代わる代わる嫌味を浴びせてくる。

だが、ゲンドウは一言も発さず、黙ってその視線を受け止めている。

 

やがて、中央の座席で異様なデザインのサングラスをかけた老人が口を開く。

 

「左様」

 

その声には、他とは違う重みがあった。

 

「人類補完計画。我々にとってこの計画こそが、この絶望的状況下における唯一の希望なのだ」

 

低く厳かな宣言に、ゲンドウは静かに頷いた。

 

「承知しております」

 

サングラスの老人はしばし沈黙し、

「とにかく、使徒襲来におけるスケジュールの遅延は認められない。予算については一考しよう」とだけ言い添える。

 

他の老人たちも順に、

 

「では、あとは委員会の仕事だ」

 

「碇君、ご苦労だったな」

 

と次々に口を揃える。

 

ゲンドウは最後に深々と一礼し、

 

「それでは、失礼します」

 

そうだけを告げて、ホログラムから姿を消した――。

 

 

ホログラムの中からゲンドウの姿が消えた瞬間、ゼーレの場は重苦しい沈黙に包まれた。

無表情な仮面のような顔が幾つも、静かに互いを見やる。

 

「……どう思う?」

ひとりが低く呟く。

 

「まぁ、間違いなく何か企んではいるだろうな」

また別の者が短く返す。

 

「そのために“あの男”をネルフへ送る予定なのだ」

冷たい響きが輪の中を巡る。

 

「……あの男、信用できるのか?」

疑念を隠そうともせず、別の者が重ねる。

 

だが中央――あの異様なサングラスの老人は、少しも動じない。

 

「問題ない。万一の事があっても、始末は簡単だ」

感情のない声音。

だがその唇がわずかに歪み、続けて苦々しげに吐き捨てる。

 

「それに……あまり我々が派手に動きすぎると、『あの者』に計画を勘づかれる可能性がある」

 

その言葉に、全員がピタリと言葉を止め、しばしの沈黙。

 

やがて、また誰かが呟いた。

 

「アダムでも、リリスでもない、第三の祖……」

 

「文書の外にある存在……」

 

重く、掠れた声がひとつ、またひとつと漏れる。

 

そして、静かなため息のように――

 

「まったく、やっかいなものだな。ポケモンという存在は……」

 

不気味な静けさが、再び場を包み込んだ。

 

 

 

 

ネルフ本部・医療棟――

 

消毒液の匂いが薄く漂う白い廊下。その静けさは、遠く機械の作動音と、時おり誰かの足音だけが破っていた。

 

シンジはひとり、壁に背を預けて立っていた。

昨日の戦いの記憶――第三使徒の恐怖、初めてエヴァに乗り込んだときの混乱、そして気絶。

その後、どうやって帰ってきたのかも曖昧で、断片的な夢の記憶がぼんやりと心に残っている。

ただ、その夢に何が現れたのか、何を見たのか、はっきりとは思い出せなかった。

 

(……何だったんだろう、あの光……)

 

言葉にならない不安だけが、静かに胸の奥でくすぶっていた。

 

その時、廊下の奥から車輪のきしむ音が近づいてくる。

 

「らきらき」「はぴはぴ」

 

明るく響く、ポケモンたちの声。

ふと振り返ると、ラッキーとハピナスが並んで医療用ベッドを押している。

ベッドの上には、包帯で細い身体を巻かれた少女――昨夜、戦いの前に目にした綾波レイの姿があった。

 

ベッドがシンジのすぐ脇を通り過ぎる。その刹那、レイの瞳とシンジの視線がぶつかる。

 

無表情なはずなのに、どこか痛みを抱えたような透き通る瞳。その一瞬の揺らぎに、シンジは何か言いかけたが、言葉にはならなかった。

 

ふと、ベッドのそばにもう一人の人影が付き添っているのに気づく。

 

碇ゲンドウ――

静かにレイのベッドの横に立ち、そのままラッキーとハピナスに導かれるまま、一緒に歩いていく。

 

すれ違いざま、ゲンドウが一度だけシンジに視線を投げる。

冷たいガラスのようなその眼差しは、やはり父親であるはずなのに、どこまでも遠いものだった。

 

ベッドを押すポケモンたちは、「はぴはぴ」「らきらき」と小さな声を響かせながら、ゲンドウとともに病室の奥へと消えていった。

 

シンジはしばらく、その背中を複雑な思いで見送っていた。

胸の奥で、何かが静かにざわめいていた。

 

 

ーーーその時だった。

 

「ピッカー!」

 

廊下の向こうから、ピカチュウが勢いよく駆けてきた。

小さな体を目一杯使って、全速力でシンジの足元へ飛び込んでくる。

 

「ピ、ピカチュウ!?」

 

シンジは思わず声を上げた。

ピカチュウはそのままシンジの足にしがみつき、心配そうに彼の顔を見上げてくる。

 

「……大丈夫だよ、ピカチュウ。怪我もしてないし……心配かけてごめん」

 

シンジがそっと撫でてやると、ピカチュウは「ピカァ」と安堵したように鳴いた。

その顔にはようやくいつもの明るさが戻っている。

 

「……ありがとう」

 

静かにそう呟いたシンジの肩を、ピカチュウはちょこんとよじ登る。

 

「やっぱり君がいないと落ち着かないよな……」

 

そんなやり取りの最中――

 

「シンジくん、もう動き回って大丈夫なの?」

 

廊下の奥からミサトの明るい声が響く。

隣には、つぶらな瞳でこちらを見上げるペンペンの姿もあった。

 

「あ、ミサトさん……。はい、怪我とかはなかったので……」

 

シンジは気まずそうに返事をする。

 

ミサトはじろりとシンジを見つめ、ふっと肩をすくめる。

 

「あれだけの目に合ったのに……見た目の割には頑丈よね、シンジくん」

 

呆れたような、それでいて感心したような調子で言う。

 

「は、はぁ……」

 

シンジは曖昧に返すしかなかった。

 

ミサトは柔らかく微笑む。

 

「まぁでも、無事で本当に良かったわ。これなら今日からでも大丈夫ね」

 

「え?」

 

思わずシンジは聞き返す。

 

ミサトが少しだけ意味ありげな微笑みを浮かべる。

 

「シンジくん、あなたは今日から――」

 

 

 

 

――夕暮れどき、第三新東京市の住宅街。

 

その一角、ミサトが住むマンションの薄暗い廊下の突き当たり、古びた扉の前に、シンジとピカチュウが立っていた。

 

「さぁ、入って。ピカチュウもどうぞ♪」

ミサトが軽やかに扉を開き、振り返って手招きする。

「はぁ……」

シンジは気のない返事をして、重い足取りで扉を見つめた。

だが、その隣でピカチュウは「ピカピカ♪」と満面の笑みで、元気よくミサトの後を追って部屋の中へ駆け込んでいく。

 

そして――

ペンペン(ポッタイシ)は、当然のように先頭で部屋に入る。

振り返ることもせず、ずかずかと我が物顔で玄関を通り過ぎ、まるで“ここは自分の縄張りだ”と言わんばかりのふてぶてしい態度。

ちらりとシンジのほうに冷たい視線を送りつつ、「ポッ」と短く鼻を鳴らして、堂々とリビングへ消えていった。

 

――こうして、シンジは突然ミサトと一緒に暮らすことになった。

理由はいろいろと説明された気がするが、どれも要領を得ないものばかりだった。

職員寮がいっぱいだとか、未成年の単身生活は駄目だとか、ポケモンの管理の都合だとか――

結局、シンジ自身はこの展開に戸惑いが消えないまま、ここまで連れてこられていた。

 

ミサト、ピカチュウ、そしてペンペンの三人(?)が先に部屋へ入っていく。

シンジはひと呼吸遅れて扉をくぐった。

 

「ちょっと散らかってるけど、気にしないでね~」

 

ミサトの明るい声がリビングから響く。

続いて、先に入ったピカチュウが「ピカピッカ……ピ!?」と、絶句したような声を上げた。

 

(ん……?)

 

シンジもリビングの入口まで進み、何事かとピカチュウの顔を見やる。

 

「ピカチュウ、どうし――いっ!?」

 

シンジも、リビングに足を踏み入れた瞬間、思わず声を詰まらせて立ちすくむ。

 

そこは“ちょっと散らかってる”どころではなかった。

テーブルの上にはビールの空き缶が何本も転がり、床には空になった酒のボトルや、潰れたコンビニ弁当のパック、油染みのついたピザの箱まで散乱している。

カーペットの隅にはポテトチップスの袋や、読んだまま放置された雑誌などなど。

「これが……ちょっと……?」

呆然と呟くシンジ。

 

「ピカ……」

ピカチュウもまた、目を丸くして尻尾を垂らしている。

 

ミサトは全く気にした様子もなく、バッグをソファの上に放り投げて「まあまあ、気にしない気にしない!」と笑顔を見せる。

 

(きょ、今日からここで過ごすのか……)

 

シンジの心に、不安がじわじわと広がっていくのだった。

 

 

 

 

夕暮れがすっかり落ち、ミサトの部屋には人工照明の温かい光が広がっていた。

 

リビングのテーブルには、ラーメン、カップ焼きそば、レトルトカレー、ポテトサラダ、インスタントの味噌汁、そしてポケモン用のインスタントフードが無造作に並べられている。

それを前に、ミサトはすっかりリラックスモードだった。

 

「グビグビグビッ!ぷはぁっ――」

 

ミサトがビール缶を一気に傾ける。

喉を鳴らして飲み干すと、空になった缶をテーブルに叩きつけるように置き、大きく息を吐いた。

 

「カーッ! この時のために生きてるようなもんよねぇ!!」

 

どこか天井を仰ぎながら、全身で“幸福”を表現するミサト。

その姿を、シンジとピカチュウは呆けたような顔でじっと見ていた。

ピカチュウの耳がぴくりと揺れ、尻尾がちょこんと揺れる。

 

「ん? どうしたの? 遠慮しなくていいのよ、食べて食べて!」

 

ミサトはご機嫌でシンジたちに促す。

 

「……あ、じゃあ……いただきます」

 

慣れないインスタント食品を前に、シンジはしぶしぶと手を伸ばす。

箸でカップ焼きそばを摘み、慎重に一口――味はまぁ悪くない、でも家の食卓とはあまりにも違う。

ピカチュウも、用意された“ピカチュウ専用ポケモンフード”をおそるおそるつついている。

 

「うんうん、若い子はたくさん食べないとね♪」

ミサトはニコニコしながら次のビールを開けている。

 

その隣、ペンペン(ポッタイシ)が、器用に手際よくビール缶をつかんだ。

そして、何の迷いもなく――

 

「ポッ……」

ゴクリ、ゴクリ。

 

ペンペンは器用に缶の飲み口をくわえ、そのまま中身を飲み始めた。

 

「え……ちょ、ちょっと! ポケモンにお酒を飲ませていいんですか!?」

 

シンジが思わず声を上げる。

 

「大丈夫、大丈夫! ペンペンは昔から飲んでるし、強いのよ~」

 

ミサトは何の迷いもなくあっけらかんと笑う。

 

呆気にとられるシンジをよそに、ペンペンは至福の表情でさらにビールをあおっていた。

 

「ピィ…」

 

テーブルの上で、ピカチュウは黙ってペンペンの様子をじっと見つめていた。

その視線に気づいたペンペン(ポッタイシ)が、ふと横目でピカチュウを見やる。

 

「ポッ?」

まるで「お前も飲むか?」と言いたげに、ビール缶を差し出してみせる。

 

「ピ……カ……?」

 

ピカチュウはおそるおそる缶を両手で受け取ると、じっと中を覗き込んだ。

ペンペンが満足そうに頷くと、ピカチュウも勇気を出して――

 

「ピカッ……」

 

ごくり、ごくり。

 

小さな口で器用にビールを飲み始めてしまった。

 

「ピカチュウ! だめだよ、それは――!」

 

シンジが慌てて止めようと声を上げるが、もう遅い。

ピカチュウはもう一度ぐびぐびと飲み、そのまま缶をテーブルに戻した。

 

数秒後――

ピカチュウの頬がほんのり赤く染まり、瞳が潤みはじめる。

 

「ぴか~……ぴかぴか♪」

 

酔っぱらったらしいピカチュウは、陽気に尻尾を振って上機嫌。

テーブルの上をよろよろ歩き、ミサトやペンペンの周りを駆け回る。

 

「はぁ……あっちゃぁ……」

 

シンジは頭を抱え、呆然とその光景を眺めるしかなかった。

 

「お、ピカチュウ、あなた結構いけるのね! よし、今日は歓迎会ということで飲み明かすわよ!」

ミサトが声高に宣言する。

 

「ぴっかー♪」

ピカチュウはすっかり上機嫌で、ミサトの言葉に元気よく鳴いた。

 

「ポッ!」

ペンペンも負けじとビールをグビグビ飲み干し、どや顔でシンジを見る。

 

「ちょっとぉ~……」

 

シンジはもう、完全にお手上げだった。

 

こうして、ミサトの部屋には、夜が更けるまで賑やかな声と笑い声が響き続けるのだった。

 

 

 

 

朝の光が、第三新東京市の住宅街を淡く照らしていた。

 

ミサトのマンション近く、ひっそりと建つポケモンセンター。その自動ドアが静かに開き、シンジとピカチュウがとぼとぼと外に出てきた。

 

「……いっぱい叱られちゃったね……」

「ピカ……」

 

二人ともゲンナリした顔で肩を落としている。

 

昨夜の歓迎会で、ピカチュウは調子に乗ってペンペンとビールを飲みまくった。

そのせいで、今朝になって頭を抱え、ふらふらのまま布団から起き上がれなかった。

慌ててポケモンセンターへ駆け込んだシンジだったが、診察したジョーイさんに告げられたのは――

 

「ただの二日酔いですよ。まったく、ポケモンにお酒なんて飲ませて……何を考えてるんですか!」

 

ジョーイさんは怒髪天を衝く勢いで、シンジをこれでもかと叱りつけたのだった。

 

 

「止められなかった僕も悪いんだけどさ……もう勘弁してよね。怒られるのはいつも僕なんだから……」

 

シンジはため息混じりに呟き、ピカチュウの頭を軽く撫でる。

ピカチュウは「ピカピカ……ピィ……」と力なく鳴き、ぺこりと頭を下げた。「ごめんごめん……もう気をつけるよ」と言いたげだった。

 

「ミサトさんも今日は二日酔いでグロッキーみたいだし……やっぱり一緒に暮らすなんて、止めとくべきだったのかなぁ……」

 

シンジは小さく首を振り、独り言をこぼす。

 

ふと、そのままマンションへ帰ろうとした足が止まる。

ポケモンセンターに併設された、バトルコート――ガラス越しにちらりと視線を送る。

 

ポケモンセンターの横に広がるバトルコート。

そこでは朝早くから、何組かのトレーナーたちが、すでにポケモンバトルに興じていた。

 

「いけ!コラッタ、でんこうせっか!」

「やめるな、マダツボミ、たいあたりだ!」

 

コートの片側では小柄な少年と少女が向かい合い、それぞれコラッタとマダツボミを繰り出していた。

コラッタが俊敏に地面を駆け、マダツボミがもつれ合うようにぶつかり合う。

別のコートではポッポが空中を舞い、キャタピーが懸命に糸をはいて応戦している。

どれも、冒険の始まりを思わせる、小さな命と小さな勇気のぶつかり合いだった。

 

「ナイスだよ、コラッタ!」

「がんばれ、マダツボミ!」

 

明るく飛び交う声、ポケモンの小さな鳴き声、足音、土埃。

 

……そんな光景を、シンジはしばらくじっと眺めていた。

目の奥には、羨望と不安、そして拭いきれない戸惑いが交錯している。

 

(……どうして、みんなポケモンバトルなんかやるんだろう)

 

そう心の中で呟く。

 

ポケモン同士がぶつかり合い、傷つけあい、そして誰かの命令で勝敗を決められてしまう――

他人から傷つけられることを、何よりも恐れて生きてきたシンジには、どうしても受け入れ難い現実だった。

 

(僕は、ピカチュウと出会うまで……ずっと、自分の殻に閉じこもっていた。

もしピカチュウに会わなかったら、たぶん今でも……誰とも関わらず、傷つかないように一人きりで生きていたんだろう)

 

そう思うと、無意識のうちにピカチュウへ視線を向ける。

 

だが――なぜか、今の自分はこの光景から目を逸らせない。

(……なんでだろう。ポケモンバトルなんて好きじゃないのに。気になる……どうして、こんなに……)

 

自分でも理由のわからない、胸のざわめき。

 

シンジはそっと小声でピカチュウに問いかけた。

 

「ピカチュウはさ……ポケモンバトル、してみたい……?」

 

ピカチュウはぼんやりとした表情でシンジを見上げ、「ピ?」と小さく鳴く。

二日酔いが抜けきっていないせいか、問いかけの意味を理解していない様子だった。

 

「あ、いや、なんでもないよ。さ、帰ろう、ピカチュウ」

 

シンジは苦笑してピカチュウの頭を軽く撫でる。

 

そのまま、二人は朝のポケモンセンターを後にし、ミサトのマンションへと歩き出した。

胸の奥に、消えない疑問と、何か新しいものが芽生えかけているのを感じながら――。




作ってて改めて思うのですが、現代舞台の作品だとポケモンって本当にすんなり日常シーンに馴染んでくれるんですよね。
間違いなく、現代が舞台なら、どんなジャンルとでもポケモンは合います。
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