ルディ子SS集   作:まりん!!! in ICE

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c107で頒布予定の、ゾルダート×後天的女体化ルディ子小説本が書き終わったので、宣伝代わりのSSを投稿します。

本編の内容としては、泥沼時代に呪いで女体化したルーデウスが、エリナリーゼの報告を受けて、女体化しているがゆえにヒトガミの介入を受けず、そのままラパンへと旅立つというストーリーです。迷宮のプロとしてゾルダートも帯同します。

ゾルダートも加えたパーティで転移迷宮に挑み、しかし力及ばずパウロを喪い、ゾルダートの支えで立ち直ります。ラパンを後にしたあとは、ゼニスを実家へ送り届ける&ラトレイア家に預けられている妹たちを迎えに行くためにゾルダートと共にミリシオンへと向かいます。

このSSは、その後ルディ子とゾルダートもラトレイア家に滞在しているという設定のゾルルディ子CP小説です。
ラトレイア家なんかに預けたら妹たちの情緒が大変なことになるのでSS以外で描くことは無いネタですが、ゾルルディ子をいちゃつかせたくて書きました。
本編ではエピローグ以外であまりいちゃついてないので…。

BLっぽいNLですが、諸々大丈夫だよという方だけお読みください!


夜のカフェテラス

 夜更けのミリシオン。

 昼の喧騒が嘘のように静まり返り、街灯のランプが石畳を黄金色に照らしていた。深い群青の空には、細い月がかかり、湖から吹く風が街路樹の葉をかすかに鳴らしている。遠くの大聖堂から微かに聞こえる鐘の余韻が、夜の静寂をいっそう深くした。

 屋敷の廊下に足音がひとつ。妹たちが寝静まった頃、ゾルダートが扉の影からそっと顔を覗かせた。

 

「なぁ、少し外の空気でも吸いに行かねぇか?」

 

 ルーデウスは読んでいた本を閉じ、首を傾げる。灯りの下、ページの白がまるい頬を照らしている。男の一人称を使う癖は、もう四年も女の姿で生きてきた今でも抜けない。けれどその声は、かつてのものよりずっと柔らかい。長い茶色の髪にかかる光が艶を帯びて、丁寧に手入れされているのが伺える。どこか線の細い儚げな顎は、母ゼニスを思わせる輪郭をしていた。すらりとした肩の下には、丸みを帯びた体の曲線。胸元の膨らみが、どこか乱暴な言葉遣いとのあいだに、妙なギャップを生んでいる。

 

「……こんな時間にか? どうした?」

 

 ゾルダートは答えず、気まずそうに頭をかいた。強面の彼には珍しく、どこか心細げな表情だった。

 

「アイシャに教えてもらったんだ。……“デートに誘うならここ”ってな」

 ルーデウスは思わず吹き出し、肩をすくめる。

「まったく、あいつったらおせっかいを……。でも、まあ、行くか」

 

 ふたりはそっと屋敷を抜け出した。扉が閉まる音は、夜気にすぐ吸い込まれて消える。

 ミリシオンの夜道は、静寂の中に命の灯を散らしていた。ランプの光が柔らかく石畳に滲み、カフェのテラス席では、片付けをする老店主の姿が見える。赤銅色のテーブル、琥珀の灯り、甘い菓子の香り。まるで絵の中の世界のようだった。

 ゾルダートはルーデウスより一歩先を歩きながら、何度も空を見上げた。その背中には、わずかな不安と安堵が同居している。

 この穏やかな夜が、いつまで続くのか――

 そんな考えが、心のどこかで離れなかった。ルーデウスはその気配を感じ取りながら、ただ静かに並んで歩いた。ふたりの影が、金の光と夜の群青のあいだにゆらりと揺れた。

 通りの端にある、小さな喫茶店。木の扉を押すと、鈴がちりんと鳴り、店内の老婦人が顔を上げた。

 

「もうすぐ閉めるけど、テラスなら好きなだけいらっしゃい」

 

 そう言って微笑む彼女に軽く会釈し、紅茶と菓子を注文して二人は外へ出た。石畳の上に並んだ丸いテーブルが四つ。テラス席のランプが橙に揺れ、風が湯気と一緒に紅茶の香りを運んでいく。

 ルーデウスは椅子に腰を下ろし、空を仰いだ。ミリシオンの夜空は深い群青で、王城ホワイトパレスの白い尖塔が遠くに浮かんで見える。その光が湖面に反射して、街の明かりと混ざり合っていた。

 ゾルダートは運ばれてきた紅茶を注ぎ、湯気の立つカップを彼女の前に滑らせた。カップの縁に手が触れそうになって、慌てて引っ込める。

 

「こういうの、慣れてねぇんだよな。……なんか、落ち着かねぇ」

 

 ルーデウスは小さく笑って、カップを手に取った。

 

「戦場と違って、敵もいないしね」

「俺の柄じゃねぇんだよな」

 

 ゾルダートは視線を紅茶に落とした。ランプの灯りがカップの中に揺れ、彼の瞳にもその光が映る。戦いの炎ではなく、ただ穏やかな灯。店の奥から、老婦人が静かにカーテンを下ろす音がした。通りの喧騒は遠のき、夜風が花壇のミントを揺らす。金色の灯りの中、ふたりの世界だけがそこにあった。

 

 沈黙が落ちた。

 風がカップの縁をかすめ、紅茶の湯気をさらっていく。通りの灯りが少しずつ消えて、世界が二人だけになったように静まり返った。

 ゾルダートは指先でカップを転がすように撫でながら、ふと呟いた。

 

「……俺、こういう時間が一番怖ぇんだ」

 

 ルーデウスは顔を上げる。月光が彼の横顔を淡く照らし、頬にある微細な傷跡を浮かび上がらせた。

 

「なんで?」

「ガキの頃から戦いの世界にいた。剣と血の中で生きてきた。戦いが終わって、何事もねぇ夜に紅茶なんか飲んでると、……不意に、これが全部幻なんじゃねぇかって思う。またあの日みたいに、この幸せが全部壊れるんじゃねぇかって、怖くなる」

 

 その声には、戦場で剣を振るっていた頃にはなかった、かすかな震えがあった。松明の音も、怒号もない夜。ただ紅茶の香りと、遠くの湖の波の音だけが彼らを包んでいる。

 ルーデウスは少しだけ笑って、湯気の向こうで彼を見つめた。かつて、死と隣り合わせの冒険をした男が、こんな風に怯えるなんて。でも、そんなゾルダートを可愛いと思ってしまう自分がいた。

 

「怖がる必要はねぇよ。俺は戦えない貴族じゃない。赤竜だって一人で倒したし、ヒュドラも……まあ、みんなの力だけど倒した」

 

 ルーデウスの言葉に、ゾルダートは目を伏せ、わずかに口角を上げた。その笑みは、力強さよりも、どこか安堵の滲むものだった。

 ルーデウスがそっと紅茶を差し出す。白い指先から立ち上る湯気が、夜の冷えた空気に溶けていく。

 

「ほら、温かいうちに飲めよ。アイシャおすすめの銘柄なんだろ? 帰ったら“デートはどうだった?”って聞かれるぞ」

 

 ゾルダートは苦笑しながらカップを受け取った。その指先が一瞬だけルーデウスの手に触れる。

互いの体温が伝わる。その温もりは、紅茶よりもずっと熱かった。

 ランプの灯りが、ゆっくりと弱まっていく。

 風が看板を揺らし、金属のきしむ音が夜気の中に溶けた。遠くで鐘が鳴り、街が眠ろうとしている。

 ゾルダートは静かに息を吐いた。肩の力が抜け、戦場でしか見せなかった男の顔から、張り詰めたものがすっと消えていく。紅茶の湯気が頬をかすめ、金の髪が少し乱れて額にかかった。その目は、どこか疲れたようで、でも――穏やかだった。

 

「……お前といると、怖いのが少しだけ、どうでもよくなる」

 

 声は掠れて、まるで自分に言い聞かせるようだった。その弱さに、ルーデウスの胸が静かに締めつけられる。

 

「それはよかった」

 

 ルーデウスは微笑み、テーブル越しに指先を伸ばした。触れた瞬間、紅茶の香りがふわりと揺れる。そのぬくもりに、ゾルダートは少しだけ目を細めた。

 彼は立ち上がり、ランプの灯りの下でルーデウスを見つめた。いつもの鋭さはそこになく、ただ、守りたいものを見つけた男の目だった。そして、静かに身をかがめる。

 唇がそっと重なり、夜の世界が一瞬だけ止まった。風が看板を揺らし、遠くで鈴のような音が鳴った。紅茶の香りが、ふたりの間に、甘く残った。




お読みいただきありがとうございました。
当落もまだですが、c107でこちらのネタの本編をルディ子アンソロを頒布される3pondさんで共同サークルとして頒布させてもらう予定です。(受かれば)

では、小説は書き終わりましたが、この後表紙を描く一番辛い作業が残っているので私は狂うから消えていいよ(チェンソーマン二部ネタ)

さようなら
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