場違いに思えるほど根明な青年だった。
それだけ彼の態度は丁寧で邪気がなく、だからこそ異常なモノとして目に映る。人食いの猛獣が入った檻の中で平然と暮らしているようなものだ。未だ怪異の存在に対して猜疑的である筍介すら、あの子供を怖れずにはいられないというのに――その横で平然と振る舞い、あまつさえ寝ていられるとは。
「……あの、先輩。この人達は」
「さっきも言った通り、俺達零課のアドバイザーだ。化け物退治の専門家って言えば分かり易いか。名無しの方は陰陽師だか坊主だかの末裔で、そっちの糞餓鬼はお察しの通り化け物そのものだ。―――『化け物には化け物をぶつけんだよ』って訳だな」
事務机の上に置かれていた灰皿に咥えていた煙草を押し付け、郁彦は懐から新しい煙草を取り出した。
ライターで火を着け、新鮮な紫煙を吸い込む。
「叔父さん、その言い草じゃあ僕まで化け物の括りになっちゃうじゃないですか。ヤダナー!」
「おじさん……?」
「はい! 僕はフミヒコ叔父さんの甥なんです。貴方は……警察の人ですよね? 確か叔父さんは前に組んでたミヤシタさんと一旦コンビを解消して、それぞれ新人を受け持つようになったんでしたっけ。じゃあ貴方は新しいバディの方ですか?」
「あ、ああ……はい。今日から公安零課に配属された、伊織筍介っていいます」
「イオリさんですね、よろしくお願いします!」
名無しと名乗った青少年が敬礼をする。慌てて筍介は答礼した。
半ば条件反射だった。警察法七十条において、『敬礼された場合には、相手が何者であろうと答礼しなければならない』と定められている。他意はない。
「ところで叔父さん、今日はなんの御用ですか?」
「甥の顔を見に来た。生きてるか心配だったんでな」
「ははは、またまた御冗談を! そう簡単に死んだりしませんって!」
ペカー、と間の抜けた後光が指して見えるほど陽気な青年。その相手をする郁彦の表情は、やはり能面の如く虚無である。少なくとも冗談を言っている風には見えない。
「……用件はまあ、こいつの顔見せだ。怪異を知らねぇ新入りには、まずここの空気を吸わせるのが手っ取り早い洗礼になるだろ」
「なるほど。理に適ってますね。―――それではイオリさん。どうです、
笑顔で指差す名無し。
その先には――ソファーに横たわる子供の姿が。
筍介は無意識に固唾を飲み、言葉を選びながら口を開く。
「…………見た目はただの女の子に見える……んスけど、正直ここには長居したくないッスね。……一体なんなんスか、あの子。さっきから聞いてれば人間じゃないみたいな口振りッスけど……その、マジで?」
「マジです。『真剣』と書いて大マジです。あとあいつは男ですのでご注意を。あちらに見えるロクデナシの飲兵衛の名前は
「よろしゅうね、筍介君。あと名無し君は減俸」
「鬼かよ……」
「鬼やけど?」
はんなりとした、上品な声音。
筍介が思わず視線を向けると、子供――酒呑あとらの笑みにかち合った。瞬間、怖気を感じて慌てて目を逸らす。
無作法だが、当の酒呑に気にした様子はない。
酒呑は盃に酒を注ぎ、静かに呷っている。
「怪異の現物って……なんでそんなのが、ここで野放しに?」
「言っただろ。『化け物には化け物をぶつける』ってな。端的に言えばこいつは、化け物退治の為に国のお偉方が囲ってる化け物ってとこだ。……殺してやりたいのは山々だが、そういう事情で今は手が出せねぇ」
無表情のまま、しかし心底忌々しそうに郁彦は吐き捨てる。
それから即一転。空気を換えるように、筍介へ水を向けた。
「それで、新入り。怪異を信じる気にはなったか?」
「まあ、一応……文字通り半信半疑ぐらいですけど」
「それだけ飲み込めたなら上出来だ。それじゃあ名無し、二つ目の用件だ。お前ら、明日から
「えー……どうだったかな。シュテン所長、なんか予定とかありましたっけ?」
「別にあらへんよ。ほんま、退屈で敵わんわぁ」
「だそうです。あっ、もしかして警察の方からお仕事の依頼ですか?」
「まあ、そんなところだ」
そう言って、郁彦は手にぶら下げていたアタッシュケースを床に置いた。
留め金を外し、蓋を開けて中身を取り出す。
現れたるはベルギー産のミニミ軽機関銃。七キロ近い大型の銃火器だ。
下部に備わった二百発容量のプラスチックボックスから、ベルトリンクに収まった弾薬を引き摺り出して給弾口に押し込む。そしてフィードカバーを閉じて機関部を閉鎖、滑らかに稼働するコッキングレバーを引き初弾を装填した。
堂々と違法火器を抱え、一言。
「