Ⅰ
1
戦いの鐘は鳴る。
それは、美しくも儚い音。
あまりに強く、まっすぐに、始まりだけを告げる音。
鐘を鳴らしたのはヴィンツェンツィオだった。
此度の聖杯戦争の調停役であり、観測者。
「君たちのターゲットを教えよう。」
優雅な仕草で、ステラに触れる。
ステラは清らかな光を放ちくるくると回り、情報を伝達する。
ピン、と張り詰めた空気の中、それぞれのサーヴァントにターゲットが告げられる。
ある者は陽を落とす。
ある者は花を手折る。
それが運命であると、ステラは告げるのだ。
ヴィンツェンツィオの掌の上で、ステラはただ煌々と輝いている。
「今日はターゲットの告知をもって『使命』の代わりとしよう。『手札』の配布はない。」
風が吹いた。
冷たい風が。
名もなき花は泣いていた。
この戦いを憂いていた。
「それでは諸君。頑張ってくれ。」
鐘が鳴り終わった瞬間……それが、始まりの合図だった。
高い高い鐘楼の塔の上で、ヴィンツェンツィオの瞳は見えない。
この戦いを憂うでも、喜ぶでもなく…。
彼はただ、この黄昏を見下ろした。
「しかしね、君たち。この舞台は、地獄ではない。」
だから、どうか頑張って。
ワルツの最後の音色が終わる、その時まで。
2
「いやあ、どうすっかなぁ、コレ。マジで。」
俺はとぼとぼとスティアの中を散歩しながら呟いた。
さっき鐘が鳴ったから、俺たちの戦いは始まってるはず、なんだがな。
本当に水辺がない。
マジで。
探しに探し回って、ようやく見つけた水場が噴水だった。
ここにどうやって船を呼べってんだ。
小舟じゃねーんだぞ俺の船は。
「どうする、相棒?」
「いやいや、どうするもこーするも」
『敵性存在を感知しました。』
ステラの警告。
刹那、殺気。
身の毛もよだつほどの、ある種の自然災害を感じさせる強い気配に、咄嗟に回避行動をとる。
その直後、先ほどまで自らがいた場所に白金の大剣が突き刺さっているのを目にする。
なんっだあれ、あんなん、人間が振り回すもんじゃないだろ!?
「へえ。今のを避けるんだ。意外とやるね。」
そこに立っていたのは、圧倒的な威圧感と殺気を放つ陽のセイバーであった。
うっそだろお前。
嘘すぎるだろオイ。
何でよりによってコイツ!?
一、二を争うくらいヤバそうだったじゃんあのメンツの中で!!!!
絶句。
しかし陽のセイバーは続けた。
「海のライダーを置いていってくれたら、私も君のことは殺さずにいてあげられるんだけど。」
どう?と、全く譲る気のない瞳がまっすぐに、鋭く問うてきた。
……この感じ、懐かしいねぇ。
「っは、生憎と、仲間を見捨てるほど落ちぶれちゃいないんでね。」
「そうか…。残念だよ。」
走り出す。
それはほんの紙一重の差で、陽のセイバーが放った一撃よりも速い行動だった。
肩に乗っかったミニマムマスコットくんは必死にしがみついている。
「あばばばば、おぼぼぼっぼ、あいぼう、おれ、しぬぬぬぬ」
「しっかり掴まってろバカ!!!」
都市の中を駆け抜ける。
ステラってこういう時も使えるのか!?
「っなあ、おい!ステラ!俺どっち行けばいい?」
『目的地を指定してください。』
「ごめんなさいね雑な指示で!!!いいよもう!!」
しかし残念ながら、俺は地図のない島を走破できるほどの幸運を持ち合わせた人間じゃない。
くっそ、よくわかんねぇとこ来ちまった。
『敵性存在を感知しました。周囲を警戒してください。』
「知ってるよそんなこと!」
ああクソ、どうすっかな。
なーんて思っていると、肩にしがみつく海のライダーが俺の頬をぺちぺち叩いた。
「おい、相棒。」
「ったくなんだよ!」
「いいか、俺はこんなんだが、多少戦闘には覚えがある。」
「その体でどうやって戦うんですか!?」
「だから、ちょっと手伝ってやるくらいしかできん。」
なにやらもにょにょと呟いた海のライダー。
体の感覚が鋭くなったのを感じる。
これは支援の…。
肩のマスコットはふう、と息を吐くと、やってやったぞ!みたいな意気揚々とした顔でにっこり笑った。
「がんばれ!」
「っあーもう、ありがとな!やってやるよ、もう!!!」