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花のアーチャーは、ひときわ高い塔に上り黄昏の町を見つめていた。
「本当に変わらないんだな…。」
黄昏の橙に染まる町は、普段なら哀愁漂う美しいものだっただろう。
しかし今となってはあまりに無機質である。
それはある種のおぞましさや空虚さを孕んでいた。
「姉上。」
ふと、塔の後ろに聞き馴染みのある声。
振り返らずとも分かる。
しかし、きちんと振り返って確認する。
やはり想像通りの人物が立っていた。
「よっ、
「……その呼び方はやめてくださいと再三申し上げたはずですが。」
薄墨の衣を纏った黒髪の青年。
光のない紫の瞳は、どこか怒りに染まっていた。
雷のセイバーだった。
「姉上、僕は…、」
「何、まずは座れよ。話し合おう。昔みたいに。」
なあ、兄上。
相も変わらずそう呼んでくる姉に、微かな苛立ちを覚える。
昔とは全く違う当世風のジャケットとパンツ。
深紅の装いに身を包んだ彼女だったが、その美しさはなにも変わらなかった。
剣を抜く。
「……へえ。」
よいとも悪いとも思わぬ、平坦な声。
それは決して悪い意味ではなく、ただ自分を受容する声だった。
いつもそうだ、姉上は。
僕がすることをよいとも悪いとも言わない。
ただそうやって受け入れてくれる様が、ずっと苦しかった。
いっそ嫌って、憎んでくれればいいとすら思った。
彼女、花のアーチャーは立ち上がる。
「始めようか、兄上。」
そう言うと、花のアーチャーは後ろ向きに倒れるようにして塔から飛び降りた。
それを追い、雷のセイバーも塔から飛び降りる。
塔の壁を走るように落下しながら、花のアーチャーは攻撃を放つ。
爪紅に彩られた指が弓の弦に触れるたび、瞬きのような速度で矢が放たれる。
ある矢は目に、ある矢は肩に。
一見無規則で意図の感じられない攻撃は、それぞれ的確な弱点を狙いつつ放たれる。
それを太刀でいなしながら、雷のセイバーもまた、徐々に距離を詰めていく。
花のアーチャーは、ふと思う。
自分で射た矢なのだ、当たり前だが…。
全て中たると思って放っている矢。
しかしそれが一つも中らない。
流石にそれは、アーチャーとしての沽券にかかわるというものだ。
しかし雷のセイバーは、放たれた矢がどこにあたるかを理解しているかの如き正確さで矢をはじく。
否、花のアーチャーがどこに中てようとしているのかを理解している、と言った方が正しいか。
「……流石にか、兄上。」
地上に降り立つ寸前、雷のセイバーは花のアーチャーに向けて刀を振り下ろす。
彼女は弓でそれを受け止めながら、蹴り飛ばすようにして攻撃を防ぎ、地上に降り立つ。
狭い路地裏の中で彼女は壁を駆ける。
セイバーの刀を弓で受け止めながら、時折蹴り技を放つ。
攪乱として射られる矢が羽虫のようにまとわりつく。
回避の拍子に宙に浮き、彼女は周囲を見渡す。
「弱ったな、これだと分が悪い。」
そう呟くと同時に、花のアーチャーはついと体を捻り眼前から消えた。
雷のセイバーは全神経を集中させて周囲を探索する。
しかし、反応はない。
「ステラ。姉上は。」
『周囲にサーヴァントの反応はありません。』
今の一瞬で撒かれたらしい。
「……チッ。」
無意識のうちに溢した舌打ちは、黄昏の空に消えた。