Fate/Last waltz   作:高堂でにむ

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開演
1-1


空中庭園都市・スティア。

そこに佇む男がいた。

 

くすんだ銀髪に夜空のような瞳。

学者然とした服装に、少し猫背気味の体格。

 

茫洋と宇宙を映すその瞳は、一体どこを見据えているのだろうか。

 

彼の目の前には大きなモニュメントが設置されている。

十五メートルはあろうかというほど巨大なモニュメントには、魔術じみた紋様が光っている。

ある光は消え、また浮かび、消えていく。

 

ある種の渾天儀のようだ。

 

男の隣には一人、少年が立っている。

目元を黒い布で覆われており、表情は見えない。

アンティーク調の行儀のよい服装。

 

ショートパンツによって露出された膝関節は球体で出来ている。

よくみれば、肌は陶器のように青白く光っていた。

 

彼は機械人形、いわゆるオートマタであった。

 

静寂。

 

部屋の中には、男の吐息だけが微かに響いていた。

オートマタの少年は、微動だにせずそこに在る。

まるで電源を落とされているかのようだった。

 

ふいに、男がオートマタのほうを向く。

 

 

「ヴィンス。あれをここへ。」

「はい、父上。」

 

 

ヴィンス――――ヴィンツェンツィオと名付けられたオートマタは、部屋の奥から二つの箱を持ってくる。

そして、片方を「父」と呼んだ男に渡し、残りは自分で蓋を開ける。

 

ヴィンツェンツィオの開けた箱の中には、何やらガラクタとしか思えないようなものが入っている。

石板の欠片、梅の枝、日本語が書かれた古文書、海図…。

 

少年はそれらを丁寧に、一つずつ円卓の上へと置いていく。

 

一つ、また一つと願いを込めて。

 

男はもう一つの箱を開けた。

赤いビロードの内布が縫い付けられた箱の中にあったものは。

 

黄金に輝く願望機、聖なる器、現実の全てを塗り替える圧倒的な力。

 

 

――――聖杯であった。

 

男は聖杯を手にすると、しばらく惚けたように見つめた。

 

 

「これは儀式だ。」

 

 

男は呟く。

 

 

「かの神が、私をご覧になり、そして祝福を与えるための、その下準備に過ぎない。」

 

 

男はうっそりと微笑むと、聖杯をモニュメントの中央へとはめ込んだ。

彼の目にあるのは、憧憬と、恍惚と、甘美と、祈り。

 

 

モニュメントは起動する。

舞台装置としてのスティアは、これにて完成した。

 

スティアは回る。

小さな宇宙を取り巻いて、聖杯すらも取り込んで。

黄昏の島は起動する。

 

祈りは全てを超越する。

正義、享楽、願望、喪失、英雄、恐怖、慕情。

時に聡明に、時に愚直に。

人は天への憧れを隠さない。

 

空を見上げよ。

 

そこに必ず星はある。

 

 

「ああ、どうか。」

 

 

どうか、この力がかの神へと届くよう。

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