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空中庭園都市・スティア。
そこに佇む男がいた。
くすんだ銀髪に夜空のような瞳。
学者然とした服装に、少し猫背気味の体格。
茫洋と宇宙を映すその瞳は、一体どこを見据えているのだろうか。
彼の目の前には大きなモニュメントが設置されている。
十五メートルはあろうかというほど巨大なモニュメントには、魔術じみた紋様が光っている。
ある光は消え、また浮かび、消えていく。
ある種の渾天儀のようだ。
男の隣には一人、少年が立っている。
目元を黒い布で覆われており、表情は見えない。
アンティーク調の行儀のよい服装。
ショートパンツによって露出された膝関節は球体で出来ている。
よくみれば、肌は陶器のように青白く光っていた。
彼は機械人形、いわゆるオートマタであった。
静寂。
部屋の中には、男の吐息だけが微かに響いていた。
オートマタの少年は、微動だにせずそこに在る。
まるで電源を落とされているかのようだった。
ふいに、男がオートマタのほうを向く。
「ヴィンス。あれをここへ。」
「はい、父上。」
ヴィンス――――ヴィンツェンツィオと名付けられたオートマタは、部屋の奥から二つの箱を持ってくる。
そして、片方を「父」と呼んだ男に渡し、残りは自分で蓋を開ける。
ヴィンツェンツィオの開けた箱の中には、何やらガラクタとしか思えないようなものが入っている。
石板の欠片、梅の枝、日本語が書かれた古文書、海図…。
少年はそれらを丁寧に、一つずつ円卓の上へと置いていく。
一つ、また一つと願いを込めて。
男はもう一つの箱を開けた。
赤いビロードの内布が縫い付けられた箱の中にあったものは。
黄金に輝く願望機、聖なる器、現実の全てを塗り替える圧倒的な力。
――――聖杯であった。
男は聖杯を手にすると、しばらく惚けたように見つめた。
「これは儀式だ。」
男は呟く。
「かの神が、私をご覧になり、そして祝福を与えるための、その下準備に過ぎない。」
男はうっそりと微笑むと、聖杯をモニュメントの中央へとはめ込んだ。
彼の目にあるのは、憧憬と、恍惚と、甘美と、祈り。
モニュメントは起動する。
舞台装置としてのスティアは、これにて完成した。
スティアは回る。
小さな宇宙を取り巻いて、聖杯すらも取り込んで。
黄昏の島は起動する。
祈りは全てを超越する。
正義、享楽、願望、喪失、英雄、恐怖、慕情。
時に聡明に、時に愚直に。
人は天への憧れを隠さない。
空を見上げよ。
そこに必ず星はある。
「ああ、どうか。」
どうか、この力がかの神へと届くよう。