5
「こんにちは、歌のランサー。気持ちのいい時間ですね。」
「……あら、こんにちは、暁のアーチャー。」
ヴィーナの音は、穏やかに響く。
それは心地よい、川の流れのようであった。
黄昏の下で歌とともに聞こえる音楽は、昔話の天女のそれである。
「こんなところで何をなさってるんです?」
「ふふ。それはこちらの台詞だわ、アーチャー。どうしてここに?」
彼女がいるのは、庭園の外れ。
わざわざ来ようと思わなければ来れない場所であるし、わざわざ来ようとも思わない場所だ。
「いやなに、あまりに美しい音色が聞こえたもので、つい。惹かれてしまいました。」
「あら、嬉しい。よく、聞き取ってくださったのね。」
「狩人は耳が良いものです。鼻も、目もね。」
暁のアーチャーは静かに目を閉じる。
それはあまりに優しい音色だった。
まるで、この戦いを憂うかのような。
「…戦いはお嫌いですか?」
「ええ、そうね。私自身がすることも…。誰かが争うことも、好ましくないわ。」
「では貴女、どうしてここに。」
「頼まれたら断れないの、私。」
「はははっ、貴女もですか。」
彼は機嫌よく笑う。
ふと、遠くから轟音が響いた。
すでに戦いは始まっているのだ。
「僕はあなたを殺しません。理由がありませんから。」
「あら、そう。」
「ですが、貴女を守る理由もない。……戦いたくないのなら、お気をつけて。」
「…ええ、ご忠告感謝するわ。」
暁のアーチャーは背を向け、瞬きの間に消えた。
優しい男だ。
その優しさが、凶と出るか吉と出るか。
はたまた…。
「…悲しいわね、戦いは。」
ヴェーナは止まない。
6
剣戟は響く。
時折、銃声。
俺、もとい船のライダーは、相棒である海のライダーからもらった支援を得て善戦…。
できるわけもなく。
「っ…!」
「君たち、両方とも支援系だろ。そろそろ諦めてもいいんじゃない?」
いやこれ無理だが!?!?!??
遊ばれてるもん俺!!
完全に!
陽のセイバーと対峙しつつ、心の中は嵐だ。
だって目の前にいるのは、完全に「人間を超越した者」の威圧。
戦ってるっていうか、日照りに一人で立ち向かっているような心地だ。
『サーヴァントの接近を感知』
「は!?!?」
この状況でもう一騎…!?
いやいやいや、俺死んじゃうって!
が、しかし。
矢を弾いたのは陽のセイバーの方だった。
俺の背後から、俺ではなく彼のほうを的確に攻撃する。
…もしかして、助けられてる?
「助太刀しましょうか、船のライダー。」
「お願いします!!!!」
誰だっていい。
俺を助けてくれるなら、マジで誰だっていい。
声の主は、あの時暁のアーチャーと呼ばれていた男だった。
細身だが芯のある体格。
成程、アーチャーとは納得だ。
「……成程ね。面白くなってきた。」
ぶっちゃけ三対一でも勝てる気はしないけど。
だって一人はミニミニマスコットだから。
とはいえ、助太刀してくれるならありがたい話だ。
そもそも俺、支援のほうが得意だし。
暁のアーチャーは一歩前へと進み出る。
互いに、静かににらみ合っている。
しかしそこには静けさなどない。
耳が痛くなるほどの、獲物と狩人の無言の戦いがあった。
「分かるか?セイバー、僕が何者か。」
「分かるさアーチャー。お前は私を殺す資格がある。私を殺すとしたら、それはお前の矢だろう。」
……なんでこんなバチバチなのこの人たちは!?!?
「おお、新入りか!すけだち助太刀!」
そう言いつつ、俺の相棒はさらなる支援を始めた。
…つっても、俺の肩で歌ってるだけなんだけど……。
踊ってるし…。
しかし、コミカルな見た目とは裏腹に、体にはさらなる力が宿る。
「おお、これはありがたい。礼を言います、海のライダー。」
「うむ!構わん!」
「狙われてるのお前なの分かってる!?」
ったくこのマスコットくんはほんとにもう…。
片手に剣、片手に銃。
しっかりと握り直し、俺は再度、陽のセイバーと対峙した。
背丈ほどある大剣を軽々と持ち上げ、陽のセイバーは穏やかに笑う。
「では、はじめようか?」