9
踊るように戦場を駆けるカルメンは、美しくも妖艶で、力強かった。
私にできることはほとんどが支援ばかりで、しかも、狙われるのは私で。
それをランサー様が助けてくれる形で…。
何処までも無力で、弱い存在であることを実感する。
「っ…、どいて、よっ!」
「ふふふふ!きみ、戦うの下手だなぁ、ランサーのくせに?」
「わかってるよ、そんなことっ!」
片手に槍、もう片手にはトーチのようなものを持つランサー様。
トーチからあふれ出る光の粒は、敵へ攻撃しつつ攪乱する。
私にできることと言えば、彼女に与えられる攻撃を防ぎつつ、どうにか自分が生き残るようにするだけ。
分かってる。
この場でランサー様が倒されれば、私はターゲットを倒したことになる。
…でも、でも、私に彼女を殺すことは……。
「あら、余裕ね?」
「っ!?」
不意に真後ろから蹴りが飛んでくる。
避けつつ、彼女に向けて攻撃を繰り出す。
私の杖の先から放たれる星のような光の球はすぐさま避けられてしまう。
「悩める女は魅力的だけどぉ…あたしが目の前にいるのに考え事をされると、ちょっと妬けるわねぇ?」
「っ…。わたしは、」
「隙を見せたら死ぬわよ、お嬢さん。」
キスをするか、あるいは踊りの相手をするかのように。
甘い甘い声と瞳のまま、彼女は踊るように攻撃を続ける。
そうして、私に攻撃を…するのではなく、真後ろにいた春のランサーに向けてダガーのような武器を振り下ろす。
咄嗟に防護の陣を形成して春のランサーを守る。
…それが隙だった。
「残念だねぇ、キャスター?」
私の背後にいたのは、影のアサシンだった。
10
断言する。
俺、今回の聖杯戦争に来たことを……。
死ぬほど後悔している!!!!!
三時間前の座にいる俺!!
頼むから「おっ、聖杯戦争か~いっちょ波、乗ったりますか…。」みたいな気持ちで参加するな!!!
波ないから!!!
目の前で行われているのは神話だ。
間違いなく、神同士の戦いだ。
どちらも、魔力リソースを気にして宝具を使ってない。
だというのに、ここまでの威圧感と、踏ん張ってないと地に足をつけることすらままならない暴風と轟音と爆発。
これが神話じゃなかったら何だって言うんだ。
暁のアーチャーの一撃は、弓兵とは言えないくらい重い。
おおよそただの矢ではない。
あれは、もはや隕石だ。
輝く星を撃ち落とし、崩壊させるためのものだ。
おかしいだろあれ。
そういう意味で言うなら、おかしいのは陽のセイバーもだ。
そんな全部が渾身の一撃みたいな矢を浴びながら、時には打ち返し、時には避けて俺たちに突っ込んでくる。
どうやら、海のライダーの支援は時間とともに強くなるらしい。
おかげで、俺もそこそこ打ち合えるようになってきた。
マジで怖いよこのマスコット。
なんなんだよほんとに。
なんでちょっと強いの?
「うおっ!?」
陽のセイバーがぶん投げてきた大剣が、俺の立っていた地盤ごと吹き飛ばさん勢いで突き刺さる。
間一髪、避けるものの、その爆風で吹き飛ばされる。
「っ……痛ってぇ…………。」
身体が壁に打ち付けられる。背中どころか臓物まで響く痛みだ。
「あ、相棒…、無事か?」
頑張ってしがみつく俺の肩に海のライダー。
一応無事か、なんて安心する。
目の前の神話は止まらない。
俺を置き去りに、戦場の炎は燃え盛る。
「…なーんか、腹立ってきたな。」
どうせ、俺の宝具は魔力消費が少ないんだ。出し惜しんだって意味がない。
ここで殺されるくらいなら、いっちょ派手に踊ろうか。
「アーチャー!今どんな感じ!?」
「ん……まあ、肩慣らしと言ったところでしょうか、お互いに。」
これで!?
爆風と轟音のオンパレードなんですけど!?
「なあ、相棒。」
「うん?どうかしたか?」
「俺もちょっと頑張っていいよな?流石になんかこう、情けねぇわ。」
「!お、おう!やったれ相棒!」
よし、一応、魔力共有してるからな。気合入れて、かましてやるか。
11
鐘は鳴る。
ある者は、愛するものを庇う。
ある者は、今にも打ち倒される。
ある者は、決意を決める。
しかし、無常に、しかし深い情を持って――――。
鐘は、鳴った。
「お疲れ様、諸君。戦闘終了だ。」
戦場にヴィンツェンツィオの声が響く。
ステラから流される音声だった。
「この後は、好きに過ごすといい。次の戦闘開始時間は十二時間後だ。」
その声は淡々と告げる。
サーヴァント達が持つ落胆も、安堵も、失望も、ちょっとの恥ずかしさと無念も、全てを飲み込んで。
次回以降、1ヶ月程度のお休みをいただきたいと思います。