「では、次は私の番だ。」
彼が口を開いた次の瞬間、ひどく部屋の空気が重くなる。
陽のセイバーは、燃える瞳のまま笑った。
「私はシャマシュ。メソポタミアの神だ。
太陽と正義、法を司る。」
彼は美しかった。
そして、その名が示す通りの正しさを背負っていた。
……暴力的なほど。
部屋の中は茹だるほどの緊張感で満たされている。
潜在的な死への恐怖なのか、私の体は微かに震えていた。
息が詰まるほどの沈黙。
ふと、掌が触れ、指が絡まる。
ペルセフォネ様だった。
彼女のほうを見る。
ペルセフォネ様はにっこりと微笑んだ。
まるで、大丈夫だと言うように。
「シャマシュさん。すこーし、怖いかも。」
「おっと、失礼。名乗りを上げるのは慣れないのでね。少し威嚇してしまった。」
ペルセフォネ様の言葉をきっかけに、ぱっと息ができるようになる。
張り詰めていた部屋の空気はようやく落ち着いた。
「そうね。気持ちは分かるけれど…。
今は戦闘禁止時間。皆、心構えができていないわ。
過ぎた威嚇は卑怯よ。」
サラスヴァティ様が咎めるように、柔らかい瞳で睨みつける。
「……ああ、すまない。」
想像よりずっと素直に、シャマシュ様は言った。
拗ねているわけでもなく、彼は心の底からの謝罪を口にしているみたいだった。
「すまないね、皆。驚かせるつもりはなかったんだ。」
「ふふ、仕方ないねぇ?きみは上に立つ者。
威圧は呼吸よりも容易いだろうから。」
影のアサシンが嘲るような口調で笑う。
それに対しても、シャマシュ様はにこりと答えた。
「ああ、君の言うとおりだ。何せ、正義を名乗る以上侮られては困るからね。」
「だろうな。罪の抑制にならない軟弱な正義など意味がない。」
「君の言うとおりだ、悪のアサシン。君も、場所や管轄は違えど私と似た立場だろう。」
悪のアサシンはそれには答えなかったけれど、微かに頷いた。
高めのスツールに座っているにもかかわらず、地に足がついている。
…大柄だから、少し怖いな。
「さて、次は誰が?」
「では僕が。」
手を挙げたのは暁のアーチャーだった。
彼はにこやかに名乗る。
「僕は后羿。」
その瞬間、空気がしんと冷える。
澄んだ暁のような静けさ。
后羿。
羿射九日の逸話で知られる中国神話の英雄。
九つの太陽を射殺した狩人。
「僕は君を殺す者だ、シャマシュ殿。」
「……ああ、そうだろうね。」
シャマシュ様は微かに目を細める。
その瞳には僅かな愉しみが滲んでいる。
太陽を射る狩人と太陽の神。
その二人が、同じ戦場にいる。
その事実を知った私たちは、すでに未来を予感せざるを得なかった。
――――この二人は、この戦いの最後に神話を再現するだろう、と。
真名開示
陽のセイバー
真名 シャマシュ
古代バビロニアにおける太陽神であり、正義の神であり、占い、冥界の神。
正しさと太陽の温もりを平等に与える者。
暁のアーチャー
真名 后羿
中国神話における射日神話の英雄であり、数多の魔性を屠ってきた狩人。
中国神話を代表する悲劇の英雄である。