空気が重い。
それをぱっと切り替えたのは、花のアーチャーだった。
カラカラと風車が回るような、爽やかな笑い声。
「せっかく皆集まってるんだ、もっと明るく行こう。」
彼女はにっこりと笑う。
陽のセイバーと暁のアーチャーも、それを見て空気をほんの少し緩めてくれた。
「せっかくなら名乗るかい?花のアーチャー。」
「そうさね…。実を言えば、私は名乗るほどの名を持たないんだ。歴史に名を遺したわけじゃな」
「菅原道真。」
凜とした声。
物静かだというのに、どこか怒りに震えている。
その声は雷が闇夜を切り裂くように、このラウンジに響いた。
「……自分の名もお忘れですか、姉上。」
「それは私の名じゃない。お前の名だろう、道真。」
…?
どういうことだろう。
他の皆も首を傾げている。
唯一、かぐや様だけが何かを知っているかのように俯いていた。
「あの…。お二人は、ご家族なのですか?」
「ああ。僕は彼女の弟だ。」
「違う違う。私が妹。」
私の質問にも、二人は真逆の答えを返してくる。
一体、この二人は何者なのだろう?
それに、先ほど言っていた「菅原道真」という人物。
彼は史実では男性だったはずだ。
それに、彼に姉や妹がいたという記録はなかったはずだけれど…。
混乱していると、シャマシュ様が口を開く。
「少し落ち着け、二人とも。二人で否定しあっていても何もわからない。」
「……………僕は彼女の弟だ。」
「君なぁ。素直に話を聞いた方が可愛げあるよ?」
「……必要なら俺が話すが。」
不意に、声が響く。
悪のアサシンの声だった。
水の入ったグラスを片手に、静かな瞳で花のアーチャーと雷のセイバーを見やる。
シャマシュ様は目を丸くした。
「驚いたな、知り合いだったのか?」
「いや。生前に会ったことはない。だが、そいつらの生涯はよく知っている。」
「人のことを勝手に話すつもりか?」
「お前たちが話さないからだろう…。」
ひとつ小さなため息をついて、悪のアサシンは問うた。
「俺なら中立な立場からものを言える。
お前たちがどう思うかではなくな。」
「そりゃいい。私は構わんさ。
寧ろ、私や道真が話すよりよっぽど早く終わるだろうし。」
雷のセイバーは拗ねたように目を逸らしたまま黙っていた。
シャマシュ様は深いため息を吐いて悪のアサシンを促した。
「もういい、話してくれアサシン。」
軽く頷き、悪のアサシンは話し始めた。
「まず、どちらが姉でどちらが兄か。
生まれた時は花のアーチャーが姉だった。
だが、その後家督の問題で雷のセイバーが兄になった。
簡単な話だ。」
「なるほどね。それで、どうしていまだにどっちも妹だとか弟だとか名乗ってるわけ?」
「それに関しては知らん。」
「まあ、いずれにせよ、だ。」
花のアーチャーは語り始めた。
「菅原道真という人物は、私であり、雷のセイバーでもある。
そして、私ではないし、雷のセイバーではない。」
「僕は名を貸しただけに過ぎない。」
「お前はちょっと黙ってな。
……とにかく、私たちは二人で一つってことだ。簡単に言うと。」
ということは、どちらも菅原道真で間違いがない、ということかしら。
悪のアサシンは話すのも疲れたという風にため息を吐いた。
「名が同じで面倒だな。」
「なら、私のことは
「姉上が道真と呼ばれないなら、僕のことは道真と呼ぶな。」
「わがままな坊ちゃんだな…。」
クック様がぽそりと呟いた。
雷のセイバーは、さらにむっと眉間にしわを寄せる。
「じゃあ分かった、お前のことは
それでいいな道真?ほら、ちょうど漢と和で分かれるし。」
カンとワで分かれる…?
「……どういうことでしょう?」
「さ、さあ?」
ペルセフォネ様と首を傾げる。
雷のセイバー……もとい雷君はまだすこし不服そうだったけれど、観念したのか頷いた。
「姉上がそう言うならそれでいい。」
真名開示
雷のセイバー
真名 菅原道真
日本三大怨霊の一人に数えられ、今では雷、豊穣、詩歌、学問など様々なものを司る日本の天神信仰の主神。かつては右大臣を務めたものの無実の罪によって太宰府へと左遷され、その地で死を迎えた。
花のアーチャー
真名 菅原道真
詩歌、政、学問など、様々な分野で活躍した平安時代の人物。かつては右大臣を務めたものの無実の罪によって太宰府へと左遷され、その地で死を迎えた。
詩歌と花を愛した歌人であり、歴史上もっとも非業な死を遂げた文化人の一人である。