「さて、あと真名を明かしていないのは…。
五人、かな。
罰のキャスターはいないが…。」
「俺はパス!ちっちゃいからな!」
「理由になってねぇけど…?」
海のライダーは、葡萄を口いっぱいに頬張りながら笑った。
「俺もだ。今回は様子を見る。」
「ふふ、おれは言ってもいいけど…。全員言ってもつまらないからね。」
アサシン陣営は、互いを見ることもなく告げた。
…仲、悪いのかしら……?
「罪のキャスターはどうする?」
「とはいえ、相棒いないんじゃ相談もできないわよね。」
ペルセフォネ様とサラスヴァティ様が微笑んだ。
私、わたしは…。
膝の上で握りしめた拳に、ぎゅうと力を籠める。
声が、体が、魂が震えるのが分かった。
罰のキャスターの言葉が、頭に響く。
『俺を見ろ。』
…私は、この罪と向き合わなくてはいけない。
たとえそれが何の意味もない告白であっても。
名を告げるという、それ自体が…。
私にとっては罰になり得るのだから。
「……私は、ギネヴィアと申します。」
不貞の王妃。
不義の王妃。
日和見主義で自分勝手な罪の女。
たった一つの願いで国を滅ぼした愚者。
「ギネヴィアさん!アーサー王伝説の!」
「お姫様だったか。なるほどな。」
春のランサーと船のライダーは納得するように笑った。
その名が持つ罪の重さを、彼らはきっと真の意味では理解していない。
もしかしたら、私の罪など彼らからしてみればなんてことのない、至極つまらないものなのかもしれない。
彼らが普通に振る舞うたび、喉が痛かった。
いっそのこと罵ってくれればどれほど良かったろうか。
「…そっか。」
唯一、恋のバーサーカーの瞳だけが悲し気に揺らいで…。
それが、また、苦しかった。
「残念だったな、ギネヴィア?」
その瞬間、背筋がぞっと粟立つような、浮足立つような、矛盾した恐怖と歓喜が体を支配する。
嘲りの色を隠そうともしない声だった。
声の主は、行儀悪くバーカウンターの上に足を組んで座っていた。
果物籠に置いてあった林檎を一つ、齧る。
それが人間へ対する揶揄いであることを、私だけが知っていた。
「罰のキャスターか。遅かったね。今は」
「皆まで言うな、シャマシュ。俺は知ってる。」
彼が林檎を齧るたび、沈黙の部屋に瑞々しい音が響く。
「残念って、どういうこと?キャスターさん。」
ペルセフォネ様が問う。
罰のキャスターは意地悪く笑った。
「ギネヴィアは罰を望んでる。
だが、寛大なお前らはギネヴィアを罵ったりはしない。そいつの罪を暴いたりはしない。
だから余計に、そいつは惨めな気持ちになるのさ。なあ?」
「……分かっているなら、言わないでください。」
「おっと失敬?俺はお喋りなんでな。」
けらけらと笑いながら、彼は言う。
まるで詩人が歌うように。
「さて、真名だったか?キャスターも随分意地の悪いことを考えるもんだ。」
いくらその思惑が知れないとはいえ、キャスターも彼にだけは言われたくないだろう。
罰のキャスターは林檎をかじりながら、何をするでもなく座っている。
バーカウンターに座るだなんて、本来なら咎めるべきこと。
けれど、罰のキャスターの行為というだけで許されてしまうような…、そんな美しさと威圧感が、彼にはあった。
「貴様、何をしに来たんだ。」
「用がなけりゃ来ちゃいけないのか?雷君。」
「だけど、ねぇ?真名を告げに来たんじゃなければ、きみ。
いったいどうしてここに来たのかな。」
影のアサシンの言葉に、罰のキャスターはつまらなさそうに口を尖らせた。
さも、面倒だというかのように。
「ルシファー。俺の名だ。」
彼はそう言うと、瞬きの間に消えた。
後に残されたのは林檎の芯だけだった。
皆が、黙っている。
……彼がここに来たのは私のためだったのではないか、と思った。
真名開示
罪のキャスター
真名 ギネヴィア
アーサー王伝説における「不貞の王妃」。ランスロット卿との不倫が、円卓の騎士とブリテンを崩壊させる原因となった。
罰のキャスター
真名 ルシファー
悪名高き堕天使の王。サタンの上司にして悪魔たちの王。かつては高位の天使であったはずだが……。