――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。
まばゆい程の光。
身体が、肉体があるという実感。
目を開ける。
自分は椅子に座らされているようだった。
目の前には、自分の召喚に使われたらしい遺物が置いてある。
まるで、捧げもののよう。
…わざわざ、私を呼び出したのだろうか?
それとも、他に目当てのサーヴァントがいたのだろうか。
きっと後者だろう。
ふと、異変に気が付く。
これは円卓だった。
丸く、中央に穴の開いたタイプの大きなテーブル。
その席には、自分以外にも座っている者がいる。
サーヴァントだ。
あたりを見回せば、自分を含めて十三のサーヴァントがいた。
ある者は驚き、またある者は堂々とした眼差しでそこに座る。
どうやら、一つ席が空いているみたい。
「天文台か…?」
ぽつり、と、隣に座る男性が呟いた。
彼をちらりと見ると、上を見ている。
つられて上をみやれば、そこには巨大なモニュメントが浮いていた。
美しい、天球儀のような形をしている。
魔術的な文様が浮かんでいるのを見るに、魔術師によって作られたことは明らかだ。
「お目覚めかな、諸君。」
その、モニュメントのすぐ隣、吹き抜けになっている二階からひょっこりと顔を出した青年があった。
星の色を映した白銀の髪に、捉えどころのない闇色の瞳。
十四騎目のサーヴァントだった。
彼は二階からひょいと飛び降りると、一種の不気味ささえ覚えるほどの穏やかな笑みを浮かべた。
「おはよう。私はとあるキャスター。聖杯を使って君たちを呼び出させてもらった。」
こんなにたくさんのサーヴァントを召喚するなんて、一体どういう了見だろうか。
他のサーヴァントが口を開くより前に、キャスターと名乗った青年は続けた。
「私の目的はただ一つ。君たちには、とある実験に付き合ってもらいたい。聖杯戦争に関する研究だ。」
「しかしながらキャスター殿。ここにはマスターが見当たらないようですが。」
白緑の髪をした青年が問う。
キャスターは、相変わらず真意の読めない眼で応える。
その質問が来ることを予知していたかのようだ。
「ええ。そうですとも。今回の聖杯戦争は通常のそれとは少々異なっています。ゆえに…あなた方にはマスター無しで戦っていただくことになる。」
「…ってことはぁ、聖杯戦争のために呼ばれたぁってこと?マスターもいないのにぃ。」
残念だわぁ、と間延びした声がする。
声の主はうんと伸びをして、つまらなさそうに口を尖らせた。
赤い髪をゆらゆらと靡かせる、色っぽい目元の女性サーヴァントだった。
「そう言わないでくれ。なに、いくつか変更点はあるが、大元は通常の聖杯戦争と大して変わらない。」
キャスターの声は凛と響く。
「聖杯を手に入れるために、他のサーヴァントと殺し合う。」
その言葉に、周囲の空気がピリと張り詰めるのを感じた。
殺気、焦燥、恐怖。
それらが渦巻く中で、キャスターは続ける。
「まあ、先ほども申し上げた通り今回の聖杯戦争は通常とは違う。今からそれを説明…。」
そう、キャスターが言った時。
突然、周囲に強い風が吹き荒れる。
それはサーヴァントの魔力特有の重みと威圧を放ちながら次第に強くなっていく。
建物がミシミシと崩れ始めるほどの暴風は、
ふと、止んだ。
穴の開いた円卓の、その中央には一人の少年が立っていた。
…いや、実際には少女かもしれない。
上下黒のクラシックな服装だが、背中はぱっくりと開き、背徳的な露出がある。
少年とも少女ともつかぬ、身震いするほど美しいサーヴァント――仮に「彼」とするが――は、妖しい緑に光る瞳を蛇のように細めて嗤う。
「よぉ。遅くなったな。」
主宰であるキャスターにとってもこれは想定外だったのか、苦々しげに眉をひそめている。
「…お前は……。」
「いやあ、なに。面白そうなことをやっていたもんでな…。つい、参加枠を奪っちまった。ほら、話を続けろよ。」
彼は行儀悪く、けれど気品すら感じるような軽やかさでひょいとテーブルを飛び越える。
そして私の隣に座り、早くしろ、という風に首を傾げてキャスターを促した。
キャスターはしばらく黙った後、はあと深いため息をついて話し始める。