Fate/Last waltz   作:高堂でにむ

33 / 50
5

「ルシファー。」

 

 

ぴたり。足を止める。

振り返れば、影のアサシンが立っていた。

 

いつもの不気味な微笑みではなく、冷ややかな無表情。

微かな風の音だけがする高台で、そいつはひどく冷たい目をしていた。

 

いつだって欲望を満たせない、渇望することにすら飽き飽きした達観の瞳。

見目麗しい容姿の中で、瞳だけが異質だった。

 

 

「なんだよ。逢引の誘いなら……」

「どうして、真名を明かした?」

 

 

俺の言葉を最後まで聞くことなく、影のアサシンは問うた。

 

首を傾げ、続ける。その姿は操り人形のようにどこか不自然だった。

 

 

「君、ギネヴィアを守ったろう。堕天使たる君が、叛逆者の具現たる邪悪の王が、何故そんなことをしたのか。おれにはとんと検討がつかない。

ねえ、なんでかなあ?なんでかなあ?」

「…………。」

 

 

この男は知りたいだけだ。知らないことを知りたいだけだ。

 

 

「お前のそういうところはどうしようもない業だが、美徳だな。」

 

 

探求心、好奇心。あるいは、自己実現欲、出世欲、征服欲……。

この男は、精神的な欲求が人一倍強い。

 

それは、この男が快感と享楽、安寧を得られる場所が闘争の中にしかないからだ。

混乱と波乱に満ちた諍いの中にしか、居場所を見いだせないからだ。

 

そして、そのような欲求は俺が最も好む類のものだった。

 

 

「お前に一つ教えてやるよ。俺は悪を好むわけでもなければ、人間の堕落を好むわけでもない。」

「へえ!ふふふ、それは意外だったなあ?」

「むしろ逆さ。人間が自分に正直に生きる姿を、俺は好む。だからお前のように、欲を隠さない人間は好ましい。

…そして、己の欲を恥じつつもそれに縋ってしまう哀れな女も、な。」

 

 

俺の答えに納得したのか、影のアサシンはケタケタと笑った。糸車が回るような、ある種無邪気ともいえる笑いだった。

 

 

「随分いい相棒みたいだねえ、ルシファー?」

「ああ。」

 

 

この男がギネヴィアを殺そうとしていることは知っている。

ターゲット云々を抜きにしても、生まれながらの地位を持った権力者と言うのは、この男が最も好むタイプの獲物(にんげん)だろう。

 

 

「悪のアサシンはつまらない男だろう。」

「とってもね。だからいい。」

「へえ?」

「彼奴は俺を嫌っているのに、俺に頼ることを選んだ。確実な勝利を得るために。

本能を理性で押し殺せるのは、良い犬の証さ。」

 

 

影のアサシンはやはりケタケタと笑った。

 

 

「女の茶会に、お前。何か仕掛けただろう。」

「ふふふふ!気づいていたなら何故止めなかった?」

「暁はまだ遠い。お前含め、ここにいるサーヴァントはまだ何も気がついちゃいないからな。」

 

 

だから、精々掻き乱せよ。陰謀者。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。