「ルシファー。」
ぴたり。足を止める。
振り返れば、影のアサシンが立っていた。
いつもの不気味な微笑みではなく、冷ややかな無表情。
微かな風の音だけがする高台で、そいつはひどく冷たい目をしていた。
いつだって欲望を満たせない、渇望することにすら飽き飽きした達観の瞳。
見目麗しい容姿の中で、瞳だけが異質だった。
「なんだよ。逢引の誘いなら……」
「どうして、真名を明かした?」
俺の言葉を最後まで聞くことなく、影のアサシンは問うた。
首を傾げ、続ける。その姿は操り人形のようにどこか不自然だった。
「君、ギネヴィアを守ったろう。堕天使たる君が、叛逆者の具現たる邪悪の王が、何故そんなことをしたのか。おれにはとんと検討がつかない。
ねえ、なんでかなあ?なんでかなあ?」
「…………。」
この男は知りたいだけだ。知らないことを知りたいだけだ。
「お前のそういうところはどうしようもない業だが、美徳だな。」
探求心、好奇心。あるいは、自己実現欲、出世欲、征服欲……。
この男は、精神的な欲求が人一倍強い。
それは、この男が快感と享楽、安寧を得られる場所が闘争の中にしかないからだ。
混乱と波乱に満ちた諍いの中にしか、居場所を見いだせないからだ。
そして、そのような欲求は俺が最も好む類のものだった。
「お前に一つ教えてやるよ。俺は悪を好むわけでもなければ、人間の堕落を好むわけでもない。」
「へえ!ふふふ、それは意外だったなあ?」
「むしろ逆さ。人間が自分に正直に生きる姿を、俺は好む。だからお前のように、欲を隠さない人間は好ましい。
…そして、己の欲を恥じつつもそれに縋ってしまう哀れな女も、な。」
俺の答えに納得したのか、影のアサシンはケタケタと笑った。糸車が回るような、ある種無邪気ともいえる笑いだった。
「随分いい相棒みたいだねえ、ルシファー?」
「ああ。」
この男がギネヴィアを殺そうとしていることは知っている。
ターゲット云々を抜きにしても、生まれながらの地位を持った権力者と言うのは、この男が最も好むタイプの
「悪のアサシンはつまらない男だろう。」
「とってもね。だからいい。」
「へえ?」
「彼奴は俺を嫌っているのに、俺に頼ることを選んだ。確実な勝利を得るために。
本能を理性で押し殺せるのは、良い犬の証さ。」
影のアサシンはやはりケタケタと笑った。
「女の茶会に、お前。何か仕掛けただろう。」
「ふふふふ!気づいていたなら何故止めなかった?」
「暁はまだ遠い。お前含め、ここにいるサーヴァントはまだ何も気がついちゃいないからな。」
だから、精々掻き乱せよ。陰謀者。