Ⅰ
1
ステラが赤く煌めている。
戦いの鐘が鳴り響くときを、今か今かと待ちかねている。
僕は鐘塔に上り、庭園を見下ろした。
「君は、どれほどの時間をかけてこの舞台を整えたのかな。」
数日、数週間、数か月、数年。
常人には考えも及ばないような長い時の果てに、君はこの舞台を作り上げ、演者を選び、シナリオを紡ぎあげた。
そこにはどれほどの覚悟がある?
そこには、どれほどの願いがある?
「キャスター、ガリレオ・ガリレイ。」
その名を背負った君は、一体何を見ているのだろう。
「ヴィンツェンツィオ。」
ふと、振り向けばルシファーが立っていた。
彼は…いや、彼女と呼ぶべきだろうか?どちらでも構わない。
とにかく彼は透徹した眼をしていた。いつもの意地の悪いそれとは違う。
君は僕に似ている。
あるいは、この場においては僕の方が君に近づいているというべきかな。
あまり喜ばしいことではないけれど、仲間がいるというのは、いつだって心強いものだね。
「夜はいつ明ける。」
「…君にそんなことを聞かれると困ってしまうな。堕ちた明星の子。
君も知っているだろう?僕はただのオートマタだ。君に何もかもを話すことはできない。残念ながらね。」
僕の言葉に、ルシファーはくつくつと笑った。
全く、やりにくいなあ、もう。
けれど、変数はいつだって奇跡をもたらす種になる。
「それで、何か用かな?」
「用がなけりゃ来ちゃいけないのか?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、そろそろ鐘を鳴らす時間だからね。」
「そう思ってここに来たんだ。」
彼は床に腰掛け、こちらをじっと見た。薄暮の元に佇む彼は美しい。
流石は元天使だね。
「因果なものだな。他でもない、
「ふふ……。」
やっぱり、バレていたか。まあ、分かるに決まっているね。君は聡いから。
「お前、俺を呼ぶためにあえて椅子を開けただろう。」
「どうだろうね。僕は
「きっひひ…よく言う。」
彼は立ち上がり、背を向けた。
ふむ。どうやら本当にお話しに来ただけみたいだ。
「もう行くのかい?」
「ああ。」
君は戦場が好き、と言うわけでもないだろうに。スティアがそんなに気に入っているのかな。
それとも、ギネヴィアを救いたいから?あるいは、この物語をこそ楽しんでいるのかな。
分からない、彼の考えることはいつだって人間には理解できないから。
「おい。」
「ん?…おっと。」
「やるよ。」
彼が投げて寄越したのは、赤く熟れた林檎。
「精々励めよ、監督役。」
そう言って、彼は姿を消した。
「まったく…。この身体じゃ食べられないんだけどな。」
折角ならありがたくいただくよ。
昏い黎明さん。