Fate/Last waltz   作:高堂でにむ

38 / 50


 

「なあ、姫さん。どっか変なとことかねえ?」

「私、ですか?少し意識が混濁しているようですが、特には……。」

「うーん、気のせいか?」

 

 

クック様は私をじっと見つめると、ううむと唸った。何か変なところでもあるのだろうか。

 

 

「まあいいや。念のため、な。」

 

 

彼は柔らかく微笑むと、海のライダー様を持ち上げて自らの肩に乗せた。

私の前に跪いたまま、胸ポケットからコンパスを取り出す。

 

 

「針路問題なし、風は穏やか。波はなく、敵影もなし。」

 

 

ふいに、潮の匂いがした。穏やかな風は私たちの周囲を取り巻いていく。魔力の渦が集まるのを感じる。

それは明確な意思を持っている。

 

間違いない。宝具詠唱だった

 

 

「まだ知らぬ夢を踏破し、新たな希望を抱く。雲間に活路を見出せば、旗は白く輝く。」

「クック、さま?」

「《エンデバーよ、海を、彼方を越えていけ(ビヨンド・ザ・コンパス)》」

 

 

パキィン、と何かが砕け散るような音がした。

瞬間、思考を覆っていた靄が晴れていく。自分の胸に巣食っていた濁った不安も、歪んだ恐怖も、夢だったみたいに消えていく。

 

 

「お、効いたみたいだな。顔色が戻ってきた。」

「っあの、これは…。」

「俺の宝具。つっても大したことないけどさ。派手な攻撃はできねえけど、毒とか病気とか呪いとか、そういうのに結構効く。

姫さん、アイツに何か盛られてたっぽかったから。」

「うむ。見るに、毒の類だったようだな。」

 

 

影のアサシンが、何かをしたのだろう。

おそらくは、お茶会をした時。様子がおかしかったのはあの後からだ。

 

 

「助けてくださりありがとうございます。」

「いいよ。俺たちは特に争う理由もないんだし、こういうのって助け合いだろ?」

「お礼、と言うわけではありませんが……。影のアサシンの宝具について、共有させてください。」

「おお!あのネズミ小僧の!して、なんだった?」

「彼の宝具は《白く、粉雪のような甘美(カンタレラ)》。詳細は不明ですが、おそらくは精神に作用するものかと……。毒はその前段階、あるいは、発動条件に値するものと思われます。」

 

 

私の言葉を聞いたクック様は、大きく息を吸い、そして吐いた。

 

 

「……アイツって、チェーザレ・ボルジア?」

「宝具から察するに、おそらくは。」

「成程ね、納得。俺も詳しく知ってるわけじゃねえけど…。まあ、姫さんのこと付け狙うのも分かるわ。姫とか王とか好きそうだもん、アイツ。」

「とはいえ、奴が姫さまに執着してるのはそれだけじゃないと思うぞ。」

「なんで。」

「勘だ!」

 

 

その言葉の、直後。

 

 

『敵性存在を感知しました。』

 

 

強い衝撃と爆風、轟音とともに訪れた強い光。

 

 

「やあ、海のライダー。探したよ。」

「うげぇっ…!」

 

 

あからさまに嫌な顔をする海のライダーを見つめ、シャマシュ様はにこりと微笑んだ。

 

 

【真名開示】

影のアサシン チェーザレ・ボルジア

異例の若さで枢機卿へ上り詰めた人物。

ボルジア家に伝わる秘伝の毒「カンタレラ」を使っていたとされる。

陰謀論者、大犯罪者、裏切りと肉欲と途方もない残忍さを持った人物と評価される。

一方で支配者としては有能であったとも言われている。

 

 

【宝具開示】

船のライダー ジェームズ・クック

エンデバーよ、海を、彼方を越えていけ(ビヨンド・ザ・コンパス)

目の前にさし迫る恐怖や脅威を「乗り越えるべき障害」とみなすことでそれらを踏破しようとする宝具である。味方を災いから守り、生き残るための支援。

病、呪い、毒などの状態異常や精神異常に対し強い浄化作用を持つ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。