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絶え間ない剣戟の音。まとわりつく呪いすらも跳ね返すほど踏み込み、悪のアサシンは攻撃を続ける。
受ける、踏み込む。踏み込む、受ける。進展しない戦いだった。
やりにくい。こいつには癖がない。情念もなければ恨みもない。
血腥さのない、無味無臭の殺意だけ。それは断頭台が首を刎ねるのに似ていた。悪のアサシンは淡々と急所を狙う。
この男の首を断つのは容易い。おそらく、悪のアサシンは戦闘の逸話がある英雄ではないのだろう。捉えどころのない殺意も、優秀なだけの剣筋もそれを表している。
だというのに、何故自分はこいつを殺せない?殺してはならぬという強い直感が、殺意を凌駕する。
距離を取り、睨みつける。悪のアサシンは涼しげな顔をしている。
「……貴様は…。」
「何者か、と?」
男は鋭いだけの瞳でこちらを見た。
ああ、ああ。腹立たしい。言い様のない不快感と、それに伴う怒りが胸の奥を満たす。
悪のアサシンは僕の敵だ。何を知っていて、何を裁くというのか。分からない。腹立たしい。
「俺はお前の罪を映す鏡だ。」
背筋を這う悪寒。胃の奥を蠢く強烈な怒り。
知らず、膝をついた。呪いではない。毒でもない。ただ、この身を震わせる裁きへの恐怖。
「――――《十王審判》」
清浄の光が肺を焦がす。玻璃の鏡を掲げる審判者は、笑うことなくただ告げる。
「六道輪廻で待っている。」
――――――――――――
菅原道真は大宰府で死んだ。
藤原時平の讒言によって左遷され、その地で非業の死を遂げた。
その死すらもよくあるものとして片付けられ、平常通りに太政官の会議が開かれることになったある日のこと。
会議の最中、次第に空を薄黒い雲が覆い始めた。暗雲立ち込める空の下、一人の近衛が断末魔も上げずに死んだ。
首を刎ねたのは、死んだはずの官人であった。
男はただ、邪魔する者を斬り殺した。切創は火傷のようにただれ、元来穢れの許されない清涼殿は焼け焦げた血の匂いで満たされていた。
輝くはずの神刀は強すぎる呪いによって歪み、ねじれ、黒洞洞たる殺意を放っている。
近衛の首を帝の前に投げる。
「菅原道真は死んだ。」
薄墨の唐衣を纏った男は告げた。
「この呪いはお前たちを取り巻き、骨も許さないだろう。」
藤の瞳をした男は自らの腹を切り裂くと、怒りに満ちた目で天を仰いだ。
「僕はお前たちを許さない。」
たとえこの魂が永劫の穢れと呪いに蝕まれることになろうとも、彼女がそれを望まなくとも。
これは後に「清涼殿落雷事件」として世に語られることとなる内裏襲撃事件であり、菅原道真が怨霊となった、そのきっかけである。
【宝具開示】
悪のアサシン
《十王審判》
浄玻璃鏡を使い、相手の生前の罪に応じた精神汚染と弱体化を与える。また、この宝具を使用することで相手の過去の一部始終を覗き見ることができる。もちろん時間はかかるが、逆に言えば時間さえあれば相手の真名を特定することも可能である。