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所詮、付け焼き刃。私の守りなんて、もって数秒。それでも私は、何も成せずに散りたくなかった。
どこに行くかなんて分からないまま走る。
「きゃあ、っ!?」
不意に、地に足のつかない浮遊感。手を引いて走っていたはずのクック様に抱き上げられる。
「守ってくれてありがとな、ほら行くぞ!」
「っあ、あの!自分で走れます!」
「あのねえ!言っちゃ悪いけど姫さんめっちゃ足遅いの!!後ろ走ってたら俺ら死んじゃうから!!」
刹那、背後から爆風。その爆風を利用して勢いをつけ、クック様は更に加速する。
「はは!鬼ごっこは苦手なんだけどなぁ!」
シャマシュ様は、闘志を隠そうともせず追ってくる。さながら、燃える山そのものが追いかけてきている気分だ。
クック様の腕の中で、なぜ彼がシャマシュ様に襲われていながらここまで生き残ったのか、理解した。
ただ、ひたすらに速いのだ。
彼はおそらく、このスティアのどのサーヴァントよりも速い。それに加え、街中の裏道を縦横無尽に駆け抜けていく。
大仰な大剣を振り回しながらのシャマシュ様では、どうしたって動きが制限される。
経路選択の直感と俊敏な動き。堅実で、それゆえに強力なアドバンテージ。
ジェームズ・クックという男が英霊として持つ武器。
ふと、肩ごしに見えるシャマシュ様は楽しげに笑った。子供が悪戯を思いついたときのような、心の底から楽しそうな顔で。
「来るぞ!」
海のライダー様が叫ぶがはやいか、シャマシュ様は大剣を頭上に向けて投擲し、全速力でこちらに近づいてきた。
大剣すら捨てて、ただこちらを追跡することを優先したらしい。
とはいえ、それでもクック様の方が速い。右へ左へ、駆け抜けながら鐘塔の方へと向かう。
あちらはさらに建物が密集しているから、今よりもっと逃げやすく…。
瞬間、いつの間にかシャマシュ様の手に
「っ伏せてください!」
クック様の反射的な回避は、僅かな差で間に合わなかった。
けれど、私が作り出した身体を覆う繭のような防護陣は、間一髪でそれを防いだ。
「っな……!?」
その斬撃は、私たちを取り巻く
耳を劈く轟音とともに石畳に亀裂が入り、私たちは地面に転がった。
「今のは結構、本気だったんだけどな。」
砂煙の中、先ほどと寸分たがわぬ穏やかな笑みで彼は現れた。
私の前にしゃがみ込むと、指先一つで顔を上げられる。神聖な深紅は私をじっと見つめる。目を逸らすこともできずにいると、彼は問うた。
「ギネヴィア。君のそれはなんだ?」
「……?」
質問の意図が分からない。首を傾げていると、彼は優しく語る。
「君の持つそれは…杖の形をしているが、実際には異なる本質を持つはずだ。宝具を使った私の攻撃を詠唱もなしに魔術のみの力で防げるサーヴァントは、全世界に君を含めて三人もいないだろう。」
私は黙った。それが今よりも破滅に近くなる行為だと知っていて、それでも黙った。私ですら、この力をどのように説明すべきか分からなかったから。
目を伏せると、彼は困ったようにため息を吐いた。
「まあ、それについては休憩の時にでもじっくり聞くよ。」
彼は立ち上がり、クック様と海のライダー様に向き直ろうとして、
「っ!」
直前で剣を構え、不可視の攻撃を受けた。
ピストルの銃声のような乾いた軽やかな破裂音とともに訪れたそれは、おおよそ短銃とは思えぬ威力でもってシャマシュ様を跳ね飛ばした。
「随分楽しそうだな。」
「……ぁ……。」
「俺も交ぜろよ。」
弾丸の主、蛇の瞳を持つ堕天使は意地悪く微笑んだ。