Fate/Last waltz   作:高堂でにむ

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スティアを駆け抜けていく。

 

ああ、こうしていると昔を思い出すな。

私たちがまだ、どちらがどちらでもなかったころ。屋敷を抜け出して野山の中で遊んでいたら雷君が転んで、私が負ぶってやったことがある。

あの時も、こんな風に雲一つない夕暮れだった。

 

スティアの端、庭園の中。噴水の傍に雷君を座らせてやる。肩を揺らしても返事はない。

 

 

「おい、しっかりしないか。」

「……っ…。」

 

 

依然として苦し気に歪む顔。鏡写しの、同じ顔。

雷君は本来、呪いと祈祷を生業とする人間である。精神汚染の類にはめっぽう強いはずであるが…。悪のアサシンの宝具はよっぽど相性が悪いらしい。

 

これは困ったな。私は政ばかりにかまけていたから解呪(こういうの)はからっきしだ。いかんせん、と言ったところか。

 

 

「なんで、?」

 

 

ふと、後ろを振り向けばかぐやが立っていた。

先ほどからずっと、私に声をかけようと機会を伺っていることには気づいていた。

 

やはり私の忠告は聞いてくれなかったか。……まあ、そうだろうとは思った。そもそも私が書いたのだ。人の話を聞く娘ではない。血は繋がらぬとはいえ、私の生んだ娘なのだから。

 

 

「なんで、って?」

「な、なんで助けるの?だってさ、雷君はママのこと殺そうとしてて、ウチのことだって……。」

 

 

月の瞳に困惑が浮かぶ。きっと、彼女が理解することはできないだろう。人ならざる化生である彼女が、高貴な月仙女たる彼女が本当の意味で人の心を理解することはない。

私がそう作ってしまったから。

 

 

「それでも。」

 

 

私は彼女に語りかけた。

 

 

「私と兄上は同じだ。たとえ兄上が私を殺そうとしていても、私は兄上を助ける。だけどもし兄上がかぐやを殺そうとするなら、殺してでも止める。」

「っ意味わかんないよ!殺そうとしてきた人を助けて、助けた人を殺すの!?そんなの変だよ、わかんないっ!」

「……そうだな、変だ。」

 

 

きっと、この感覚が分かる人間は少ないだろう。かぐやどころか、普通の人間だって私が何をしているのか分からないはずだ。

 

そもそも私と雷君は一人の人間である。どちらか一方だけで存在することはできない。雷君だってそれを分かっているはずだ。

だが、彼の魂を焼くほどの呪いと怨嗟はその認識を歪めている。そして本人もそれを理解していて、その上で私を殺そうとしている。

双方の愛は自己愛に繋がり、自己への愛は相手への愛に繋がる。それが私たち双子の在り方なのだ。

 

ならば私は、そのすべてを抱きしめるしかない。彼が私を殺そうとするように彼を助け、彼が私を愛するように彼と戦おう。

 

 

「っ…なんで、好きなのに殺すの、?殺すのに、好きなの?」

 

 

かぐやは混乱したように逃げて行った。

 

 

「……まったく、面倒な人間だな。私も、お前も。」

 

 

未だ押し黙る兄上を見て、私もその場を去った。

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