「あ、いたぁ。」
鐘の音とともに思考の混濁から解放され、自らの失態に目を伏せていたとき。ひどく嬉しそうに、カルメンはこちらに歩いてきた。
「何の用だ。」
「あら、冷たいじゃない。女が男に会いに来るのに、理由が必要?」
この女は自分のターゲットではない。殺す理由はない。だが、慣れ合う理由もない。
バーサーカーというクラスは本来、弱い英霊に狂化を付与して戦闘力の増加を図るというクラスである。理性を失う代わりに強大な力を得る。
此度召喚されている二騎のバーサーカーは、会話が可能である。しかしそれは彼女たちが理性的であるということを示すものではない。
彼女らは最初から己が欲望のままに動くもの。会話や駆け引きは意味を為さない。
「要件があるならさっさと、」
「ねーぇ、雷君。」
「……なんだ。」
「あたしね、あなたの目が好き。全部見てるみたいに深いのに、一番大切なことを見ないふりしてる。」
顔を上げ、カルメンを見た。彼女は目が合えば静かに微笑む。その微笑みが意図的なものか、あるいは無意識的な投げかけなのかを判断するのは難しかった。
戦略などではない、恋の駆け引き。
この女は、この戦場にあってもなお恋することを手放さずにいる。
「でも、皆そうよ。本当に大切なことを見つけるのは難しいもの。」
「改めて聞くが、僕に何の用だ。」
「手伝ってほしいことがあるの、他でもないあなたに。」
カルメンはほんの少し背伸びをして、接吻をせがむように首を傾げた。
「あたしのお話、聞いてくれる?」
甘い声だった。誘う音色だった。魔術の類ではない。この女の人を惑わす言葉は、ただの技術だ。
息を吐いた。言い方はともかくとして、敵でない相手から助力を乞われたのならば手を貸すのが人情と言うものだろう。
「聞くだけなら構わない。手伝うかどうかは内容を聞いてから判断する。」
「ふふ、優しい。断られるって思ってたわぁ。」
この女は、自分を魅せることに慣れすぎている。会話の主導権を握ったままこちらに委ねるようなやり方が腑に落ちないと言ってしまえばそれまでだろう。それでも話を聞いてやらなければと思わせる何かが、この女にはある。
一言一句を着飾らなければならないほど、安心できない状況で過ごしてきたのだろうか。そんなことを思った。
「それじゃあ、ちょっと移動しましょ。ここは深い話をするには明るすぎるから。」
「……普通に言えないのか?」
「あら残念。あたし、こういう女なの。」
「そうだねぇ、おれを呼びつけておいて他の男と逢引なんてひどい女。」
声色だけ真似た嫉妬をぶら下げて、薄暮の中に影のアサシンが滲んでいた。