目を細めて形だけの微笑みを浮かべながら、影のアサシンが近寄ってくる。
「雷君も呼ぶなんて、一体何の御用?」
「ちょっとねーぇ、いいこと思いついちゃった。」
「……いいこと?」
ちらりと影のアサシンを見れば、目が合う。わざとらしく首を振って、上目遣いでこちらを見つめて来る。いやに背筋がぞっとした。
目を逸らし、カルメンに向き直る。彼女はドレスの裾に下から手を入れると、ゆっくりとした動作でたくし上げた。ぱさり、と紙束が落ちる。
拾い上げると、図面のようなものが描かれている。
「これ、なんだと思う?」
「……水路の図面に見えるが。」
「でも、スティアの水路にしては細かすぎる。それに、層が重なってる。作ったのは素人?」
「さあ?」
「お前が持ってきたんだろう。」
カルメンは楽しげにしている。赤い髪を指先で弄びながら、くすくすと微笑んだ。
「これねぇ、天文台から取ってきたの。」
「へえ、ガリレオの?」
影のアサシンの瞳が邪悪な光に煌めいたのが見えた。今すぐ切り捨ててやろうかと柄に手をかけたが、アサシンは楽しそうに笑うだけだった。
「最初に天文台にいた時面白そうなのが見えたから、つい、ねぇ。」
「何故俺たちに?」
「だって、偉くて頭が良さそうだから。得意でしょ、きっと。」
「…………。」
カルメンとはもともとこういう女なのだろうか。バーサーカーの狂化でこうなっていると思えない。
「あたし、盗賊の女だから。こういうのわくわくしちゃう。」
「きみは金や宝に興味があるようには見えないけど、ねえ?」
「お宝は探してる時が一番楽しいの。恋が成就するまでが楽しいのと同じ。」
「これを僕たちに渡してどうしたいんだ。」
カルメンはうーん、と唸った。決めていなかったらしい。
手の中の図面を見る。何層にも分かれた図面は、一見水路のように見える。
だが、水路としては成り立たない。深い地層から何かをくみ上げているように見えるものの、排水と給水が分かれていない。ただ、枝分かれして巡らせてあるだけ。
スティアの端に行けば行くほど、水路は細かく、入り乱れていく。
ちょうど、人間の毛細血管がその隔たりを失っていくように。
「そういえば、もう一つあったのよねえ、地図。」
不意に思い出したのか、カルメンが言った。うんと伸びをしながら話し続ける。
「多分、スティアの地図なんだけど。あたしが思ってるより広いみたい、ここ。」
「へえ、きみ、意外と物覚えがいいんだ。」
それが何を意味するのかを問うより先に、カルメンは歩き出した。
「わかんないなら、いいわぁ。どうせ、他の子たちにも見せる気だったし。」
帰りましょ、と言って歩き出す彼女の髪が、黄昏に煌めいて炎のように揺れていた。