コードギアス 亜人のルルーシュ   作:螺旋螺旋

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キャラ崩壊注意!


第一話

【ああ、俺は、世界を壊し、世界を創る…】

 

最後に脳裏に響いたのは、自らの決意の言葉だった。スザクの剣が腹を貫く、燃えるような痛み。ナナリーの涙の温かさ。全てを受け入れ、俺は確かに、ゼロ・レクイエムを完遂したはずだった。完全なる調和の世界の礎となり、永遠の眠りについたはずの俺が、なぜ思考している?

 

「……ここは?」

 

意識が、ゆっくりと浮上する。呟いた声は、掠れることなくはっきりと響いた。軋む身体を起こすと、湿った土と腐葉土の匂いが鼻腔を突き刺す。見渡す限り、日の光もほとんど届かない、鬱蒼とした森。死後の世界とは、随分と生々しく、五感に訴えかけてくる場所らしい。

 

自分の喉に触れ、ルルーシュは息を呑んだ。その滑らかな皮膚の下に、まるで烙印のように刻まれた、見覚えのある鳥の紋様。

 

「コード…?なぜ俺が。C.C.から直接譲渡された記憶はない。まさか、ゼロ・レクイエムの過程で、父シャルルか母マリアンヌから間接的に…。いや、今は詮索している場合ではないか」

 

ともかく、生きている。いや、死ねない身体になった、というべきか。死の安息すら与えられず、再びこの世界に引き戻された理由は何だ。ルルーシュが立ち上がった時、足元に無骨なジェラルミンケースが置かれていることに気づいた。まるで誰かが用意したかのように、不自然にそこにある。警戒しながら蓋を開けると、中には見慣れた、しかしここにあるはずのない衣装が、完璧な状態で収められていた。

 

「ゼロの衣装…。なぜここに」

 

まるで、悪趣味な神が俺の再起を望んでいるとでもいうような、あまりに出来過ぎた偶然。だが、感傷に浸る暇はない。ルルーシュは近くにあった水たまりを覗き込んだ。濁った水面に映る自分の顔。その紫の瞳が、ふいに赤紫の光を帯び、中央に見覚えのある鳥の紋様が妖しく浮かび上がる。

 

「ギアスも健在か。コードとギアスが両立するとは…俺の身体は特別製、というわけか」

 

どちらにしても、好都合だ。手札は多いに越したことはない。ルルーシュはゼロの衣装をケースに戻すと、森の木々の隙間から遠くに見える、最も高いビルを目印に、まずは文明社会への復帰を目指し、歩き始めた。

 

 

数時間後、森を抜けた先に広がっていたのは、見慣れた、しかしどこか違う都市の風景だった。建物の様式はエリア11のゲットーを彷彿とさせるが、そこに漂うべき絶望や停滞した空気が希薄だ。

 

(まずは情報だ。ここがどこで、今はいつなのか。俺の知る世界とどれほど違うのか…それを知らねば、次の一手は打てない)

 

ルルーシュは通行人の中から、気の弱そうな、それでいて身なりの良い男に狙いを定め、計算された角度でぶつかった。

「あっ、すみません」

「あぁ、いや、こちらこそ」

男が立ち去ろうとするのを、ルルーシュは呼び止めた。そして、その目を真っ直ぐに見つめ、意識の深層に語りかけるように、言葉を紡いだ。

「できればでいいのですが、そのスマートフォンと、財布の中身を全ていただけませんか?」

瞳に宿る、抗いようのない紅の光。男は一瞬虚を突かれたように目を見開いたが、すぐに恍惚とした表情を浮かべた。

「もちろんだとも。パスワードは4649だ。大切に使ってくれ」

 

疑いもせず全てを差し出す男を一瞥もせず、ルルーシュは路地裏へと姿を消した。手に入れたスマートフォンで、貪るように情報を吸収していく。そして、ニュースサイトのトップに躍る見出しに、彼の思考は一瞬停止した。

 

『亜人・永井圭、トラックに轢かれ死亡後、蘇生。現在も逃走中』

 

(…亜人?)

 

記事を読み進める。『亜人とは17年前にアフリカの戦場で発見された、決して死ぬことのない新生物である。国内で確認された亜人は、速やかに政府の保護下に置かれることになっている』

 

(死なない新生物…政府による保護。聞こえはいいが、その実態はどうだ?イレブンが「名誉ブリタニア人」として、どんな扱いを受けてきたか。この世界の政府が、それ以上に高潔である保証などどこにもない。むしろ、研究対象として、あらゆる非人道的な扱いを受けると考えるのが自然だ)

 

確証はない。だが、支配する側の人間の醜さを、ルルーシュは骨の髄まで知っている。

 

(それにしても、亜人などという生物、俺のいた世界には存在しなかった。17年前…俺がまだ幼かった頃か。あり得ない。……まさか、別世界か?パラレルワールド…?)

 

思考が高速で回転する。コードを持つ人間は、時空を超越した集合無意識であるCの世界にアクセスできる。情報が足りないなら、そこから引き出せばいい。ルルーシュは意識を集中させ、精神の深淵へと潜った。

 

瞬き一つで、風景が変わる。そこは、彼の記憶が収蔵された、巨大な美術館。自身の記憶だけでなく、コードを通じて流れ込んでくる、名もなき人々の無数の意識。ルルーシュは足早に目的の情報を探し当て、閲覧する。世界の構造、歴史の流れ、そして「亜人」という存在の真実。

 

「なるほどな…」

 

Cの世界からログアウトし、現実に戻る。記憶美術館で得た情報は衝撃的だった。元の世界で肉体が死んだ後、Cの世界を経由した精神が、何らかの要因でこのパラレルワールドに弾き出された。そして、この世界のどこかに遺棄されていた「ルルーシュ・ランペルージ」の肉体に定着し、蘇った。その肉体が、なぜか亜人としての特性を持っていたのだ。

 

(そして、俺が最初にいたあの森…あの山には、何かがある。俺の魂は、偶然あそこに流れ着いたわけではない。この世界の法則が、あるいは何者かの意思が、俺をあの場所へと引き寄せた…)

 

ルルーシュは顎に手を当て、考えを巡らせた。

(さて、これからどうする。俺の推測通りなら、亜人は実験動物同然の扱いだろう。俺自身がそうなるのは御免だ。かといって、このまま隠遁生活を送る柄でもない)

 

スマートフォンの画面をスクロールする。飢餓、紛争、汚職、差別。世界の形は違えど、人間の本質は何も変わらない。この世界もまた、腐っている。

 

(結局、俺のやることは変わらないらしい)

 

唇の端が、自然と吊り上がった。それは諦観か、あるいは新たな覚悟か。

 

(亜人は、人間から虐げられている。ならば、彼らは最高の駒になる。ギアスを使わずとも、俺に靡くだろう。まずは亜人を組織し、黒の騎士団を再興する。圧倒的な力で独裁国家を築き、世界を征服する。全ての憎しみを俺一身に集め、そして…)

 

ゼロ・レクイエム。一度は成し遂げた、あまりに歪で、しかし完璧な平和への方程式。

「世界平和か。また、長い道のりになりそうだな」

呟きは、しかし確かな熱を帯びていた。

 

(まずは、亜人との接触が必要だ。ニュースによれば、永井圭という亜人が逃亡中。彼自身に接触するのは難しいだろうが、その周辺から探ることはできる。妹がいるらしいな。永井慧理子…病院に入院中か)

 

ルルーシュはすぐさま行動を開始した。白衣を拝借して医師になりすまし、病院に潜入する。慧理子の病室で、彼はその瞳にギアスを宿した。

「君の兄、永井圭について知っていることを全て話してもらおう」

少女の抵抗は、絶対的な王の力の前には意味をなさなかった。永井圭の協力者、「海斗」という男の存在と、その連絡先。だが、その情報を得た直後、事態は急変した。

 

窓ガラスが粉々に砕け散り、黒い影が嵐のように室内に侵入してきた。人型をした、全身が黒い粒子で構成されているかのような異形の何か。それは幽霊のようでありながら、物理的な質量と存在感を確かに持っていた。

「なっ…!?」

ルルーシュが反応するより早く、黒い影は慧理子を乱暴に抱え上げた。咄嗟に少女を助けようと踏み出したルルーシュの腹を、影の腕が槍のように貫いた。

 

「ぐふぅっ…!」

 

内臓が焼けるような激痛。視界が急速に暗転していく。これが、死。意識が途絶える寸前、黒い影を操っていたハンチング帽の男の冷酷な目と、目が合った。

 

意識が途絶え、数秒後、再び閃光のように覚醒する。全身の細胞が一度破壊され、再構築されるかのような、言語化しがたい激痛。

「がはっ…!なるほど、これが…死なない、ということか…!慣れるものではないな…!」

蘇生直後の苦痛に耐えながらも、ルルーシュは即座に思考を切り替える。

(今の黒い影…あれは何だ?ギアスとは違う、未知の能力。そして、あの男は亜人、田中。となれば、あの影は亜人が使う能力の一種と考えるのが妥当か?そして、それを操っていたハンチング帽の男…彼も亜人、あるいは協力者か)

 

犯人たちの目的は、永井圭との接触。そのために妹を拉致した。

(厄介だが、好都合でもある。奴らを追えば、他の亜人に繋がる可能性がある)

 

窓から飛び降り、二度目の死と蘇生を経て、ギアスで奪った車に乗り込む。犯人の車を追跡しながら、先ほど手に入れた海斗の電話番号に、一つのメッセージを残した。

『私はゼロ。君の友人が、黒い幽霊に攫われた妹を心配している』

これなら、永井本人が聞いても不審には思うまい。

 

佐藤と名乗る男と永井圭の接触、そして研究所への連行。ルルーシュはその全てを影から追跡し、把握していた。佐藤が永井を見捨てたのを見て、彼の真意を即座に見抜く。

(わざと捕まらせ、人間への憎悪を植え付けるつもりか。狡猾な男だ。だが、そのやり方は凡庸だ。憎しみは、もっと効率よく、戦略的に利用するべきものだ)

 

佐藤が研究所を襲撃し、永井を奪還する。その混乱に乗じて、ルルーシュもまたゼロの衣装を纏い、研究所へと潜入した。警報が鳴り響き、死体が転がる無人の研究施設で、彼は解放されたばかりの永井圭と対峙した。

 

「お前が永井圭か」

「! あなたが…ゼロさんですか?なぜここに…?」

「ゼロで構わない。お前に会いに来た」

 

ここまでは、計算通り。だが、永井圭との短い会話で、彼が他の亜人と何ら繋がりを持たない、純粋な「被害者」であることを知る。

(当てが外れたか。いや、問題ない。組織がないなら、俺が創ればいいだけの話だ。白紙のキャンバスの方が、俺の色に染めやすい)

 

永井と共に研究所を脱出したルルーシュは、彼に一つの提案をした。

「俺と共に来い。俺の下でなら、お前が化け物でないと証明する道を作ってやれる。お前がただの被害者で終わりたくないのならな」

その言葉は、絶望の淵にいた少年の心に、深く突き刺さった。

 

 

数日後。ルルーシュは永井と、彼の唯一の信頼できる友人として合流した海斗を連れ、再びあの「始まりの山」に戻っていた。

 

「ゼロさん、どうしてこんな山奥に?食料も何もないのに」

海斗が不安げに尋ねる。永井も、この仮面の男の意図が読めず、警戒を解いていない。

ルルーシュは答えず、苔むした巨大な岩壁の前で立ち止まった。

「永井。先日、君の妹君を攫った黒い影…あれと同じものを、君も出せると聞いた。やってみろ。この壁を殴れ」

「え…?な、なんでそれを…」

永井は驚愕に目を見開いた。自分がその力を使えることは、海斗以外には話していないはずだ。

「俺には俺の情報網がある。いいからやれ。これは命令だ」

永井は戸惑いながらも、意識を集中させる。彼の背後から、黒い粒子が渦を巻き、包帯に巻かれた人型の幽霊が出現した。

幽霊は永井の命令に従い、岩壁に拳を叩きつける。ゴッ、という鈍い音と共に、岩壁の表面が崩れ、その奥から人工的な金属の地肌が覗いた。

 

「やはりな」

ルルーシュは満足げに頷くと、金属の扉に刻まれた旧日本軍の紋章を指でなぞった。

「海斗、君の力が必要だ。ここをこじ開けろ」

海斗がバールを使って扉の隙間に力を込めると、七十年以上の時を経て、錆びついた扉が軋みながら開いた。

 

カビと埃に満ちた闇の奥へと、三人は足を踏み入れる。そこは、まるで時が止まったかのような、広大な地下空間だった。

「すごい…なんだ、ここ…」

海斗が息を呑む。

時代遅れの発電設備、古びたが頑丈そうな工作機械、そして、化学実験用と思われる様々な器具。壁は、ただのコンクリートが剥き出しになっているだけだ。

「旧日本軍の秘密研究所だ。表向きは化学兵器の研究施設だったらしいが、その実態は違う。ここでは、『不死』に関する研究が行われていた」

ルルーシュは、ギアスで得た情報を元に、澱みなく語る。

「今日から、ここが我々の城だ。黒の騎士団の、最初の拠点となる」

「黒の騎士団…?」

永井が問い返す。

「そうだ。力なき者たちのために戦う、正義の味方だ」

 

ルルーシュは懐中電灯を手に、施設の探索を始めた。永井と海斗も、不安と好奇の入り混じった表情でそれに続く。埃っぽい通路を進むと、いくつかの部屋があった。ロッカールーム、仮眠室、そして資料室。

資料室のキャビネットは固く錆びついていたが、海斗がこじ開けると、中から大量のファイルが雪崩のように落ちてきた。そのほとんどは湿気で読めなくなっていたが、ビニールで厳重に保護された数冊のファイルは、奇跡的にその内容を留めていた。

 

「これは…」

ルルーシュがその一つを手に取り、ページをめくる。そこには、亜人の身体能力に関する、常軌を逸した実験記録が記されていた。再生能力の限界を探るための、凄惨な破壊と蘇生の繰り返し。

「ひどい…」

永井がその内容を覗き込み、顔を青ざめさせる。それは、彼が研究所で受けた仕打ちを、より体系的に、何十年も前から行っていたことの証明だった。

「これが、政府の言う『保護』の正体か」

ルルーシュが冷ややかに呟く。

「いや、これは旧軍の記録だ。だが、この国の本質は何も変わっていないということだろう」

 

さらに奥へ進むと、巨大な空洞に出た。天井はドーム状になっており、地上へと続く巨大な搬出口が固く閉ざされている。その広大なスペースの片隅に、無数の鉄屑や資材が山積みになっていた。

「工作機械も、電力も生きている。資材もある。そして、俺の頭の中には設計図がある」

ルルーシュは、何もない空間を指し示した。

「ここに、我々の剣を造る。鋼の騎士…ナイトメアフレームをな」

「ナイトメア…?」

「人型自在戦闘装甲騎。既存のどんな兵器をも凌駕する、戦いの概念を変える存在だ」

永井と海斗には、彼の言葉の意味が理解できない。だが、その声に含まれる絶対的な自信は、二人を圧倒するには十分だった。

「だが、この世界の技術レベルでは、一つ大きな問題がある。動力源だ。俺の知るナイトメアは、サクラダイトという特殊な鉱物によって駆動する。だが、この世界にそれはない」

ルルーシュはそこで言葉を切り、永井を見据えた。

「永井、君のその黒い幽霊…あれは物理的な干渉力を持つ。つまり、エネルギーの塊だ。もし、その未知の粒子を制御し、動力として変換できたとしたら…?」

「え…?そんなこと…」

「可能だ。いや、可能にしてみせる」

ルルーシュの脳裏には、新たな方程式が組み上がりつつあった。亜人の力と、彼の知識。二つの世界の理が融合した時、常識を超えた兵器が生まれる。

「君たち亜人の力は、単なる戦闘能力に留まらない。この世界を変えるための、革命のエネルギーそのものだ」

 

「だが、まずは君たちの力を正確に把握する必要がある」

ルルーシュは永井に向き直った。

「その黒い幽霊、もう一度出せるか?」

「ええ、まあ…」

「君は、自分が亜人だと分かってから、何人の人間を信じた? 何人の人間に裏切られた?」

「それは…」

言葉に詰まる永井に、ルルーシュは仮面越しに静かに語りかける。

「疑うのも無理はない。だが、俺は結果で示す。俺を信じろとは言わん。俺の創る未来を、その目で確かめろ」

彼は、施設の入り口へと続く闇を見つめた。

「黒の騎士団は、理念だけで戦う烏合の衆ではない。力を持つ。圧倒的な、暴力を覆すための暴力をだ。その力の一つが、君たち亜人だ。永井圭、君には俺の剣になってもらう。そして、俺はお前たちの王になる」

 

その言葉に、永井は反論できなかった。佐藤の狂気とも、戸崎の冷酷さとも違う、第三の選択肢。それが正しいのかは分からない。だが、この仮面の男が描く未来に、一縷の望みを賭けてみたいと、そう思ってしまったのだ。

海斗もまた、友人の隣で固唾を飲んでいた。目の前の男は、正義の味方には見えない。むしろ、王や魔王といった、物語の中の存在のようだ。だが、圭が初めて見せた、誰かに従うという意思。それを見届けたいと思った。

 

その時、ルルーシュはふと、施設の最奥、ひときわ厳重に封鎖された扉に目をやった。そこだけ、空気が違う。何か、この施設の根源的な秘密が眠っているような、濃密な気配。

(あれは…なんだ?)

今はまだ、それを開ける時ではない。ルルーシュは直感的にそう判断し、踵を返した。

「さて、やることは山積みだ。まずは、この城を快適なものにするところから始めようか」

仮面の下で、ルルーシュは不敵な笑みを浮かべていた。

反逆の歯車は、今、確かに回り始めた。世界の誰からも忘れ去られた山の奥深くで、静かに、しかし確実に。新たな伝説の幕が、上がろうとしていた。




飽きっぽいので多分エタります。いろいろおかしいですけど細かいところは気にしないでください。
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