地下施設の再起動は、驚くほどスムーズに進んだ。ルルーシュがギアスで「調達」してきた高度な機材と、海斗の器用な手際、そして永井圭の冷徹なまでの合理的判断。この三者の組み合わせは、奇妙なほど機能的だった。
「IBM……目に見えない未知の粒子。これ自体が物理的な質量を持ち、かつ特定の波長で崩壊・再構成を繰り返している。ならば、その崩壊エネルギーをこのコンデンサに集束させれば……」
ルルーシュは、かつてのラクシャータの理論を脳内で再構築していた。サクラダイトが存在しないこの世界において、唯一の「超常的なエネルギー源」は亜人が放出する黒い粒子しかない。
彼は自らも「亜人」としての特性を得ている。だが、彼が呼び出すIBMは、他の者とは一線を画していた。
「……出てこい。俺の『騎士』よ」
ルルーシュが命じると、彼の背後から黒い霧が噴出し、一体の幽霊が形を成した。しかし、それは永井の持つ人型とは異なり、どこか中世の甲冑を思わせるフォルムをしていた。背中にはマントのような粒子がなびき、右目にあたる部分には紅いギアスの紋章が刻印されている。
「ゼロさん、あなたの幽霊……僕たちのとは、密度が違う」
永井圭が、分析的な視線を向ける。
「当然だ。これは俺の意志、そして『ギアス』という力の残滓が形作ったものだからな。さて、永井。実験を開始する。その幽霊の腕を、この試作型駆動骨格(フレーム)に差し込め」
ルルーシュが指し示したのは、ジャンクパーツを組み合わせて作り上げた、ナイトメアフレームの脚部ユニットだった。
永井のIBMがユニットに触れた瞬間、火花が散り、古びた油圧システムが異常な速度で駆動を始めた。
「――っ、動いた!?」
海斗が声を上げる。
「理論通りだ。IBMを動力伝達媒体(スレーブ)として利用する。パイロットの脳波とIBMを同調させれば、機体は文字通り『自分の体』として動く。神経電位駆動システムを、IBMで代用するわけだ」
ルルーシュは不敵に笑った。
「サクラダイトに代わる新動力、『IBM共鳴ドライヴ』。これが完成すれば、この世界の軍事バランスは一瞬で崩壊する」
◇
その頃、外の世界では「佐藤」と名乗るハンチング帽の男が、全国家に向けた宣戦布告を行っていた。
「亜人の権利を認めろ。さもなければ、この国を解体する」
テレビ画面の中で、佐藤は愉快そうに笑い、無慈悲な大量虐殺を肯定してみせる。
地下施設のモニターでその映像を見ていた永井圭は、不快そうに目を細めた。
「あいつは……ただ楽しんでいるだけだ。世界を壊すことに大義なんてない」
「そうだ。あれはテロリストだ。独りよがりのゲームに世界を巻き込んでいるに過ぎない」
ルルーシュはマントを翻し、モニターを見据えた。
「だが、永井。奴の暴力に対抗するには、対話ではなく、より強大な暴力が必要だ。世界を正しく作り変えるための、秩序ある暴力がな」
「……それが、あなたの言う『黒の騎士団』ですか?」
「左様。佐藤は混乱を望む。俺は、その混乱の先にある再構築を望む。永井、お前に選ばせてやる。佐藤の狂気に飲み込まれるか、それとも俺と共に、この腐った理(ことわり)を破壊し、新たな平和を創るか」
ルルーシュは右目を晒し、永井を見つめた。ギアスは使っていない。しかし、その瞳には、何万人もの運命を背負ってきた男特有の、圧倒的な質量があった。
永井圭は、しばらく沈黙した後、小さく息を吐いた。
「……あなたのやり方は、佐藤と同じくらい傲慢だ。でも、少なくともあいつよりは、僕にとってメリットがありそうだ」
「賢明な判断だ」
ルルーシュは、奥底に眠っていた「あの扉」へと歩み寄った。
旧日本軍の施設で、最も厳重に封印されていた場所。そこには、17年前にアフリカで最初に発見された「神の兵士」に関する極秘資料と、ある「物」が保管されていた。
ルルーシュが扉を開けると、そこには巨大な試験管のようなカプセルが鎮座していた。その中に満たされた液体の中に、一人の少女が眠っている。
「……C.C.?」
いや、違う。その少女は、彼が知る魔女ではなかった。しかし、その肌には、ルルーシュと同じ「コード」の紋様が、より複雑な幾何学模様となって刻まれている。
「この世界の『亜人』の起源……それがこれか。集合無意識から切り離された、最初の『個』」
ルルーシュの手がカプセルに触れた瞬間、彼の脳内に膨大な情報が流れ込んできた。
この世界の亜人とは、かつて「Cの世界」との接続を断たれた人類が、生存本能のみを抽出して作り上げた、出来損ないの「不死」のシステムだったのだ。
(ならば、俺のコードとギアスの力で、このシステムを正常化(アップデート)できるはずだ。IBMをただの武器ではなく、新たな文明の礎として……!)
「ルルーシュ」
ふいに、背後から聞き覚えのある声がした。
振り向くと、そこには存在しないはずの、緑色の髪の女が立っていた。
「……C.C.! なぜここに」
「言ったはずだ。お前がどこにいようと、共犯者だと。この世界の歪み……なかなか面白そうじゃないか」
C.C.はいつものように不敵な笑みを浮かべ、ルルーシュの隣に並んだ。
「亜人とギアス。この二つが混ざり合えば、どんな地獄(あるいは天国)が生まれるのか。見届けてやろう、ルルーシュ」
「ふっ……。相変わらず、趣味の悪い女だ」
ルルーシュは仮面を手に取った。
役者は揃った。
駒も揃った。
今、この瞬間、この世界における「反逆」が、真に幕を開ける。
「全軍に命ずる! 本日より、我々は『黒の騎士団』を名乗り、この世界の正義を執行する! 亜人を道具として扱う者、そして亜人の名の下に無辜の民を傷つける者……その全てを、俺が裁く!」
ルルーシュの声が、地下施設に、そしてCの世界を通じて、世界中の亜人たちの意識に共鳴した。
「世界は、俺が変える……!」
高らかな笑い声と共に、一機目のナイトメアフレーム――IBMを纏った漆黒の機体「ガウェイン・レザレクション」が、その紅い眼光を点灯させた。
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