能力名がオノマトペはダサすぎるって! 作:スーパー・カミオカデン
少年と少女が居た。
少女が攻め、責め、迫る。少年が防ぎ、拒ぎ、塞ぐ。
「どうした! 私に勝負を申し出た威勢の割に、逃げ惑うばかりでは無いか。貴様が持つその剣は飾りか? 変革を齎すと言ったあの言葉は偽りだったのか!?」
「く……っ!!」
少女。青と銀の2色が混じった長髪を編み、鎖の様に垂れ下げている。背は高く、少年と比べると頭1つ分ほど高い。女性特有の丸みとしなやかさを合わせ持った肉体は、最小限の動きでもって少年の剣戟を躱し続ける。
名前はエバルス・“ピオ”・リトリー。──肩書は生徒会長。
少年。短く切り揃えられた黒髪は一房だけ長い。背は低いが、纏う学生服に包まれた肉体は筋肉質であり、日頃から鍛錬を繰り返していることが分かる。しかし、目前の少女にその刃が届くことはない。
名前はユルト・“ギア”・レオハート。──肩書は新入生。
「………つまらん。口先ばかりの理想を語る者に、時間を割くほど私も暇ではない」
それまで続けられていた攻防が、その一言と共に崩される。ぞわりと背中に走った怖気に従い、半ば本能的に少年が飛び退いて距離を取るものの、そんなことは無意味であると数瞬遅れて理解することとなった。
いつのまにか自身の周囲を取り囲んでいた、無数の氷塊。1つ1つが人間を超える大きさのその全てが、鋭利な先端を少年へと向けている。
「──沈め」
刹那の空白の後、氷塊が動いた。速度と質量による単純な攻撃が、爆撃の様な轟音と共に地響きを引き起こす。
技術、経験、知識──そして
あらゆる要素で、両者は差がありすぎたのだ。
「──こんなところで、負けるわけにはいかないんだ」
「………ほう?」
──だからこそ。晴れた土煙の中から少年が姿を現した時、驚愕による騒めきが生まれる。
声は、2人が立つ円形状の
『馬鹿な。相手は
『エバルス様の階級はSSS……最高階級よ。あの男の子、それに届いているってこと……??』
『へぇ…。面白いね、彼』
『──だが勝負はここからだ』
口々に、思ったことを。
周囲から間断なく飛び出す言葉の群れは、中心点である当人たちには届かない。
……それほどまでの、集中。
「……力だけで決定付けられる序列。生まれ持った能力だけで階級を分けられる。上であれば富み、下であればただ奪われ続ける…!!」
「そのとおり。それこそがこの学園での絶対的規則だ。例外はない。所詮、この世は弱肉強食。貴様ら最低階級者は、我々上位階級者に黙って搾取されていれば良い!!」
「そんなふざけたことは許さない!! 皆、懸命に生きてる。互いに支え合って、励ましあって。……皆は、あんたたちのおもちゃとして生まれてきた訳じゃない!!」
その手に握られていた剣が光を放つ。
少年の怒りに呼応する様に、少年の覚悟を現す様に。
「問答はこれまでだ。さあ、来い。この私を楽しませてみせろ、弱き者よ!」
「必ず、あんたに勝つ。勝って、ニーナやロックス。F組の全員が笑える様に、この学園のルールを僕が変えるんだ!!」
少年はそこで区切る。
改めて決意を固める様にして、剣の柄を強く握り締めた。
「僕のこの──『
叫ぶ少年に、少女は邪悪な笑みを深め、同じ様に叫ぶ。
「私のチカラこそが至高にして究極。幾ら言葉を並べようと、貴様がこの『
1本の剣と、辺りを埋め尽くす冷気。
戦いは、激化していく──!
♭
「……………」
入学式が終わるや否や、何やら新入生が生徒会長に向けて啖呵を切り、なんだかんだそのままタイマンすることとなり、急遽、新入生VS生徒会長のカードで決闘が開かれることになる。
まんま
周囲に人は居ない。全く、という訳ではないが、ほとんどはまだ決闘に夢中でこちらには戻って来ていないだろう。
それを見計らって、オレは伽藍堂となった校舎の廊下、そのど真ん中で立ち止まり……そして、叫んだ。
もう、堪えられないといった感じで。
「──能力名がオノマトペなのはダッッッせェええってばァああああああああああ!!!!!」
絶叫と共にオレは膝から崩れた。泣き崩れたのだ。
ここ、聖ラグライカ学園は弱肉強食を絶対的校則として掲げている。弱者は家畜同然に扱われ、強者に絶対服従だ。そしてこの階級分けは、その人物が生まれ持った『能力』を基準にして行われる──。
能力。それは現代に於いて絶対的価値を持つ。
ある者は火を操り、ある者は空を飛ぶ。
多種多様にして千差万別。担い手によって自在に姿を変えるそれに、人々はいつしか1つの名を与えることになった。
言葉と共に放たれ、音として顕現する──即ち、『オノマトピア』と。
「いやもうこの時点でダサいんよな。んだよオノマトピアって。もっとあるだろ。…もっとこう、あるだろォ……!!」
半ば憎しみを込め、血涙を流しながら独り漏らす。もし今オレの能力が覚醒したならば、多分ここら一帯が更地になりそうな勢いの憎しみを込めて。
「大陸全土に名を馳せる有名学園! しかしその実態は能力至上主義! 強能力者による恐怖政治の敷かれた巨大な監獄! そこにやって来た新入生! 学園の実情を知った彼は仲間の為立ち上がり、現状を打ち破ろうと強敵たちに挑んでいく!」
絵に描いた様な下剋上物語。誰もが心躍らせる革命劇の幕開け。それが目前で引き起こされたというのに……なのにっ!!
「──なんでその口から飛び出してくるのがクッソダサい
どうしようもない怒りの矛先を、むき出しの柱に頭突きという形でぶつけるオレこと、シノノメ・カヅラ。
がつん、がつん、と発散を続けるオレの耳が、ふと声を拾った。
『ひッ。──嫌だわ、またシノノメさんよ』
『放っておきなさい。所詮は最低階級の田舎者、私たちとは住む世界が違うのだから』
『いやねぇ、学園内では如何なる時でも
3人の女子生徒が、わざとだろう。こちらに聞こえる声量で嫌味をこぼしながらオレの背後を通り過ぎて行った。
──さて。
大陸で最も栄えた国の、最も由緒あるラグライカ学園には、大陸内だけではなく、その外からも人が集まってくる。オレもその内の1人。遥か東の地、ギリギリ2桁の住民が住まう小島も小島から、海を超えてやって来たのだ。
大陸ではポピュラーな能力持ちも、向こうでは異端扱いである。忌子として生まれ落ち、そんな生まれを呪い、そこから脱しようと死に物狂いで努力を重ね、無数の幸運が重なったことで、遂に大陸へ上陸したオレは──。
「なぁにが共通言語だ、カッコ悪いんじゃクッソがああああァ……ッ!!」
──言葉の壁にぶち当たった。
もう、この共通言語というのが全部悪い。大陸内外から人が訪れる為に言語を統一しないと色々と面倒なので仕方ないのだろうが、幾らなんでもあんまりである。
だって想像してみろ。眼鏡の爽やかイケメンが、
「やれやれ、ボクの『
だとか。
露出の激しい色気ムンムンのお姉様が、
「あら、ごめんなさいね? 私の『
──だとか。
言うのだ、皆。真剣に、それはもう真剣にっ。当たり前の様に、何の気なしにッ!!
「ぬぐゥあァァアあああ……!!」
人以下に生まれ、人並みを望んで訪れた彼の地。友達を作って馬鹿みたいに騒いで美男美女とあれやこれやとなんかこう、頭の良い会話を広げながら毎日を過ごす、描いていたオレの未来は儚く砕け散った。人の夢と書いて儚い、と考えたやつは天才である。
イケメンが、美女が。
子どもが、大人が。
聖人が、悪人が。
周囲の人間が、誰彼問わず、皆がクソダサいオノマトペを口にする毎日。描いていた理想の日々とは遠くかけ離れた毎日に、いつしかオレの体は拒否反応を示す様になってしまった。もはや、擬音語を耳にするだけで奇声を上げてしまうほどに。
「おおお、神よ。オレはアンタを恨むぞマジで……」
呪詛を吐き出し、遂に床に倒れ込む。
嗚呼。神はどうしてオレたち人から言葉を奪って言語をバラバラにしたのだろうか。割と真剣に、冷たい床で苦悩する。
♭
『──向こうで決闘だ! 『
『なんだって、急いで向かわないと!』
「に゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
続かない。