能力名がオノマトペはダサすぎるって! 作:スーパー・カミオカデン
晴天。より詳細に言えば快晴。
雲一つ見られない青空は、見ているだけで清々しい気分になれる。吸い込んだ朝の空気が胸を満たし、体の奥底から不思議と力を溢れさせた。
『──道を開けろ雑魚どもォ! ザイランド様のお通りだァ!!』
そんな清浄な朝の静かさを打ち破るのは、廊下を進んでいた数人の男女の集まり、その1人である。
20人程度の集まりは、ある1人を中心にして形成されていた。先頭を歩くのは少女だ。艶のある紺の髪はウルフカットに整えられ、同年代の男子と比べてもかなり高い部類に入る身長。気質か好みか別の理由か、周囲の女子生徒とは異なり男子用の制服に身を包む彼女は、獣を思わせる眼光を宿しながら廊下を進んでいく。
名前はザイランド・“99”・ヴィルリアス。──肩書はA組の帝王。
彼女の姿を目視した生徒たちが、性別問わず悲鳴を上げて通路の壁に張り付き、近場の教室へと避難していった。
少しでもその視界から外れ、僅かにでもその意識に留まらない様にする為に。
「よォ。──お前が噂の新入生クンかァ?」
人が捌け、閑散とした廊下を進んだザイランドは目当ての人物を見つけたことで笑みを浮かべた。
小柄な、しかしこれまで鍛錬を欠かさなかったことが伺える肉体を持った少年。『
「聞ィたぜェ。生徒会長と闘ッたらしィじゃん。しかも、五体満足と来た。お前強ェな? アタシとも闘ろォぜ」
入学式が終わるや否や、実質的な学園の支配者、その最高峰である生徒会長に決闘を申し込み、尚且つ無傷で闘いを終わらせたことで、ユルトは学園中から注目を集めていた。
実際のところは生徒会長側に火急の要件が生じてしまった為、勝敗をつけられないまま勝負を切り上げられてしまったのだが……どちらにせよ、
翌日からひっきりなしに行われる、決闘の申し出。
聖ラグライカ学園は実力至上主義だ。己の価値を絶対的にするには手っ取り早く他者を蹴落とせば良い。その為に生徒間では両者が合意することで決闘が行われる。
……のだが。ザイランドは学園内で設けられた序列、その最高峰たるSの階級の次点、Aの階級を与えられていた。上から2番目、格下相手のユルトと決闘を行う必要はない。
他の思惑があるのか、それとも単純な
それを聞いたザイランドの反応は分かりやすいものだった。
断られると思っていなかったのか、先ず彼女は残念そうに眉根を下げる。
それから何かを閃いた様子で笑顔を浮かべた。
「んじゃァ、これでアタシと闘ッてくれるよな?」
──瞬間、ユルトの顔面が横にブレる。発生した豪風に、顔面の皮を引っ張られたからだ。
遅れて鼓膜を劈く、轟音、悲鳴、そして最後に衝撃を認識する。
「!? ニーナぁ!!」
叫んだのは、ユルトの斜め後ろ辺りでことの成り行きを見守っていた少年・ロックスだ。銀髪のソフトモヒカン、鼻先から右頬に向けて一文字に走る傷跡が目立つ彼は、驚愕から叫び声を上げる。
ロックスが叫んだのはユルトもよく知るクラスメートの少女の名前だった。未だ状況が飲み込めていないユルトは、慌ててロックスが走った先を見る。
砕け、抉れた壁。
無数に転がる瓦礫、その中心。……誰かが倒れていた。
「に……っ?!」
「──私は大丈夫! でも……ッ!!」
最悪な想像が頭を過ぎった瞬間、それを否定する様にオレンジ髪の少女・ニーナが起き上がり、自身の無事を伝えた。
安堵したのも束の間。ニーナのすぐそばで、横たわったまま一向に動かない誰かがいることに気付き、改めてユルトは顔を青褪めさせた。
同じクラスの生徒。
名前は、シノノメ・カヅラ。
びしゃりと音を立てたのは、カヅラの口から溢れた赤色の液体だ。見るだけで寒気を覚える赤色は、辺りに鉄錆の匂いを仄かに広げていく。
「──ぐ、あがぁあああ!!?」
内臓に傷を負ったか。急いで救助しようとしたユルトだが、その身に襲いかかった激痛によって思考が寸断され、意識が強制的に逸らされる。
激痛の発生源、己の足先。
捉えたのは、踏み抜かれた自分の足。そして、砕け、僅かに陥没した廊下の床だ。
「今はアタシと話してんだ。アタシ以外に意識を割いてんじゃねェ。──さて、アタシと闘る理由は十分、出来たよな? それじゃァ早速、決闘場イこう……ッぜ!!」
突如、ユルトの視界は目一杯に広がる青空を捉える。
──窓の外へと投げ飛ばされた、と理解するのに僅かに時間を要してしまう。
「──『
ユルトは自身に宿る能力の名を叫び、その力を行使した。
その手に生み出された、光り輝く一振りの刀剣。強く掴んだそれを地面や壁、目に映るものに突き立て続け、何度も何度も転がりながら、ようやく勢いを殺すことが出来たユルト。
擦り傷まみれになった彼の目前に、ザイランドが轟音と共に現れる。
「あそこから……跳んで来たのか!?」
「正ッ解」
先ほどまで両者がいた場所。そこから既に数百メートルは離れた筈だ。驚愕を露わにするユルトと、対照的に楽しそうに笑うザイランド。
……拳を振るえば嵐を起こし、一歩踏み出せば大地を砕く。
ザイランド。──またの名を、『
それが今、ユルトの眼前に立っている。明確な害意を胸に宿しながら。
「さァッて、楽しませてくれよ新入生。簡単に潰れんじゃねェぞッ!!」
♭
オレの名前はシノノメ・カヅラ。ワイルド系ボーイッシュお姉さまにぶっ飛ばされそうになってるクラスメートを庇った結果、結構な重傷を負って保健室に運び込まれた一般通過生徒だ。
「頭がくらくらする……」
「少なからず血を吐き出した所為だろうな。損傷部位は粗方治したが、俺の『
「ごぼぉああああッ!!」
「!? なっ、どうして突然吐血を!?」
「あ、アレルギー反応で……」
「一体何の?!」
顎先に無精髭を生やした、垂れ目でロン毛の渋めな白衣男性(デフォルメ調のクマちゃんのイラスト付きマグカップ愛用)の口から、ダサいというか、なんとも間の抜けた効果音が漏れ出たことにより、オレの体が拒否反応を示してしまった。
く……っ。密かに学園内にファンクラブが出来上がってる程度にはオトナなお兄さんも、一度でも能力名を口にしてしまえば途端にダサさに飲まれてしまう。
なんだ『パァーッ』って。耳にしただけで言語能力が衰退してしまいそうな間の抜け方だ。
どんな美男美女。経験を積み重ねた老人も、1本でも鼻毛が飛び出していれば全てが台無しになるのと同じ。
オレがこの、
我がクラスの有名人、『聖剣』使いのユルトくんには是非とも革命を成功させていただきたいところだ。
「さてさて。決闘はどんな具合かな……??」
清潔感溢れるベッドから転がり出て窓際に寄ると、懐から取り出した望遠鏡で辺りを探る。暫く動かし続けて、ユルトとワイルド系の女子生徒の姿を見つけた。
女子生徒が拳を振るう度に光り輝く『聖剣』が砕け散り、そして都度『聖剣』が生み出されていく。
女子生徒、記憶が確かなら自身の筋力を増強させる能力者だ。能力名は確か──。
「……ザイランドか。『
「おぼろろろろぉ…!」
「また!? くっ。『
先生に担ぎ上げられたオレはベッドに寝かされ、そしてその能力を発動される。どこからか降り注ぐ温かな光。柔らかな癒しの力によって、オレの体が癒されていった。
主に、ダサ単語を聞いた精神が不思議と安定していく。
……ぐぐぐ、クソダサい単語を聞く度にこんな拒絶反応を引き起こしていたら、その内本気でぶっ倒れてしまいそうだ。
「──負けるなよ、ユルト……っ!!」
何としても革命を引き起こし、学園の運営方針を君が変えるんだ。そして是非、新たな言語による統制を!
オレの精神安定の為にも……!!
祈りを捧げる様に、オレは自然と彼の勝利を切望するのだった。
♭
「ユルト…。『
「げぼぉッ!!」
「またぁ!? なんで!?」
主人公の性別が定まっていなかったりする。