能力名がオノマトペはダサすぎるって! 作:スーパー・カミオカデン
誰か昇華してくれないかな。
聖ラグライカ学園は実力至上主義を絶対的校則として掲げている。
これにより学園内では階級制度が出来上がっており、上位階級の者によって下位階級の者は虐げられる日々を送っていた。
理不尽な暴虐に晒され、理不尽に搾取される。
助けを求めたところで無意味だ。何故なら学園は実力至上主義、如何に非道な行いであろうと実力が伴っていれば許されるのである。
そんな毎日を生きる下位階級の生徒が生き残る方法は、自然と限られた。
挑んで勝利するか。
或いはひたすらに媚を売るか、である。
……後者の彼ら彼女らの姿は悲惨の一言に尽きた。自分の身を守る為、必死に上位階級者の命令に従事する姿は人としての尊厳のほとんどを失っていることが大半。獣の方が上等なのかもしれない、そう思えるほどだった。
「なぁ、ちょっと良いか?」
銀髪のソフトモヒカン。鼻先から右頬に走る大きな裂傷が特徴の少年・ロックスも、そうした自ら尊厳を捨てた者の1人だった。
かつての幼馴染、少し前に学園へとやって来たユルトによって救われた彼は、同じクラスに在籍しているある生徒へと声をかける。
髪色は夜を思わせる黒だ。粗雑に伸ばされたそれが顔のほとんどを覆い、口周りも布で覆い隠されている。露出しているのは鼻付近の僅かな部分だけだ。
服装は通常の指定された制服の上からローブを被っており、ゆったりとしたそれが体の線を隠すことで外見から性別を判断することを難しくしている。
なに、とぶっきらぼうな──中性的な──声がロックスに向けて返された。
「ああ。大したことじゃないんだ。ただお前が、その……S組の生徒と最近、よく会ってるって聞いて…」
学園では、最上位のSから始まり、最低のFまでの階級に分けられている。基本的に階級が上がればそれだけ強力な能力を保持していることになり、それに比例して人格破綻者であることが多い。
最たる例は現生徒会長のエバルスが当て嵌まるだろう。
「革命を起こす」というその一言と共に、当時の生徒会長を打ち倒した彼女はその席に座ると、力による順位付けを
そんな危険人物の一員と、目の前にいるクラスメートは関わりを持っていた。
脅されてか、或いはより悍ましいことが原因でか。
詳細はロックスには分からない。それでも声をかけた。かつての自分が、ユルトに助けられた、救い上げられた時を思い出しながら。
「──頼りないだろうし、信用も出来ないと思う。でも、俺は絶対に見捨てたり、差し出された手を振り払ったりしない。……言いたいのはそれだけだ、悪いな時間を取っちまって」
言葉を幾ら重ねても、相手が受け入れてくれるとは限らない。必要なのは時間だ。何度も何度も繰り返すことで、鬱屈し、傷つけられた心を少しずつ取り戻す。
(──先ずは情報収集だ。どのS階級の人間と接触してるかを、知らないと)
♭
おっすオレ、シノノメ・カヅラ。最近知り合ったS階級のお姉さまにお茶会へ誘われ授業をブッチした一般通過生徒。
ここに来る途中で同じクラスのロックスくんに、割と真剣な表情で引き止められたけど、彼の制止を振り切ってここに来ている。
数学なんてやってられるか! なんで距離の単位が悉く違ってるんだ! あんなことに頭を働かせるくらいならオレは他のことに全力になるぜ!
我らが革命軍のリーダー──オレが勝手にそう呼んでるだけ──ユルトくんと幼馴染らしい彼は、過去に高位階級の生徒に奴隷同然の扱いを受けていた過去があるらしく、その経験からか、オレのことを心配してくれたみたいである。
──高位階級に近づくほどチカラに溺れて能力者はイカレポンチになる、というのが生徒間での一般的考えだ。そしてほとんどの場合がこれに当て嵌まるのだが、何事にも例外は付きもの。SだろうとAだろうと、学園の現状に嘆きユルトくんの様に改革を目論んでいる生徒は一定数いるのだ。
階級なんて関係ない。誰かが勝手に決めつけた順位に左右されない心根を、彼ら彼女らは持ち合わせている。
オレが最近知り合った彼女──バビロニカ・“P”・ラホーも、S階級の生徒ではあるが他者を思いやることの出来る、優しい心の持ち主だ。故に、彼女と交流することには何も危険性は生じない。
「でゅえへへへへ。続きましっ、ましてはこちらのドレスを着ていただきたくてですねぇそっ、それではお服を脱ぎ脱ぎしましょうふふふふ」
前言撤回。危険かもしれない。
……さて場所は学園内に数多くある空き教室の1つ。最上位階級の生徒は存在そのものが正義でありルール、教室の1つや2つ、私物化しても誰も文句は言われないのである。
くっ、なんて羨ましい。授業サボり放題ってことじゃないか!
「折角ならもっとサボタージュに最適な空間にしない? という訳でここに劇場を建てよう」
「さっ、流石にそれはスペースが足りないですねぇ…」
苦笑されてしまった。
いい案だと思ったんだけどなぁ、と顎先をさするオレは、彼女の手によって着せ替え人形の様に衣服を着せては脱がされてを繰り返される。……ちょっと誰かに目撃されたら、絵面的にマズイ気がする。
「ふ、ふひぃーっ。──ぉぉ、お着替えはこのくらいにして……お茶会をしましょう! 美味しい茶葉をい、いっぱい用意しましたので!」
「オレお茶の味とか分からんけど」
「良いんです! 味が分からなくともおしゃっ、お喋りが出来れば! ぉぉ、お菓子もご用意しましっ、しましたので!」
言いながら、テキパキとテーブルやら食器やらなんやらを用意していくバビロニカちゃん。
トポトポと音を立てて、カップに茜色の液体が注がれていき、差し出されたそれを受け取る。外界の常識のほとんどをこちらに来てから学んだオレは、好奇心半分恐怖半分といった感じで未知の液体を啜り──熱っツ!
「ふー…っ。ふー……っ」
「あっ、熱かったでっ、ですか? クッキーもありますのでっ、ので。そちらを先にどうぞ。……そそっ、そう言えば。ユルトくんでしたか? 『
「ふう゛ぅ゛ぅ──ッ!!!」
「ぎゃあ──っ!?」
予期せぬダサ単語の到来に、吹きかけていた息が途轍もない勢いとなり、正面のバビロニカちゃん目掛けて吹き飛んだ紅茶が襲いかかってしまった。
「あちあちあち! とっ、突然ですがどうしてっ!?」
「ごめん、アレルギー反応」
「一体なんのです……?」
紅茶塗れになってしまった彼女だが、瞬きをした次の瞬間には濡れた髪も衣服も全てが元通りとなっていた。能力を行使したらしい。
ごめんねー、とオレが言えばお気になさらず、と返ってくる。
「にしても、凄いですねぇ。この学園の階級制度は嫌いですが、采配自体は確かですから。F組でありながらAぐみっ、組の生徒に打ち勝つというのは、並大抵のことではないですよ」
感心した様子でクッキーを頬張る彼女。
昨日、我らがユルトくんはザイランドなる怪力馬鹿と決闘を行ったのだが、見事に勝ち星を上げている。
しかもそれだけでなく、戦いを通じて彼女に触れ、その能力故に幼少の頃から恐怖と破壊でしか他者とコミニュケーションを取れないでいたザイランド嬢の心を解きほぐすという、びっくり仰天の偉業を成し遂げていたりした。
暴君そのものだった彼女も今ではユルトにベッタリである。1人の少女を救うと同時、強大な戦力を手に入れたことで革命劇も1つ次のステージへ移動した。
良いぞユルト。そのまま生徒会長を倒して言語統制してくれ。
「あ、美味いねコレ」
「でしょう? いっぱいありますので、お好きにどうぞ!」
誰か昇華してくれないかな。