伸ばしたその手は届かない
「っ....」
耳郎と別れて森の中を走る、ガスが濃くなってきやがった...先に進んだ奴らは大丈夫か...?「ホークアイ」でこのガスの情報は見た、吸っても死ぬようなガスじゃないが...それ以上にヤバいモンが見えた...
ラグドールの近くに「ヘドロみたいな」個性因子が見えた...一度だけ見た事がある...ありゃ脳無の物だ、となると...ヴィラン連合が来てるのか...?万全を期したはずじゃあ...
いや、今はそれどころじゃない、早くラグドールの元へ...!!
俺はキャパなど考えず、ラグドールの元へ瞬間移動する、多少の酔いなど気にするな、一人でも多く救けるんだ、瞬間移動をすること数回、少し吐き気はあるが、まだまだ動ける!!
「ラグドール!!」
「っ...回能君!!」
「ネホヒャン!!」
「危ない!!」
青い肌の脳無が、ラグドール目掛け、無数に生えた腕の一本、そこから生えたチェンソーを振り下ろす、咄嗟に飛び、ラグドールを抱えて回避する、あと一瞬遅けりゃミンチだった...
しかしなんだコイツ...今までの脳無と違う...?黒いのと比べても明らかに弱い、俺の目がそう言ってる...色によって強さが違う...?
いや、今はそんな事どうでもいい、この状況をどう切り抜けるか...ガスがある以上、多少毒素に耐性がある俺はともかく、ラグドールを長時間この場に置いておくのは危険だ、どうすれば...
「っ!!」
思考の途中、一瞬にして目の前に踏み込んできた脳無、無数に生えた腕が俺達に向けて振り下ろされた、咄嗟に回避するが、腕の一本が俺の頬を掠める、一瞬の判断の遅れが死を招くこの状況、出来ればさっさとぶっ飛ばしたいが...生憎今はどちらも戦闘には向いていない能力持ちだ、能力を再抽選しつつ、ラグドールを庇いながらここから逃げるのが最善、しかし、ガスで視界が塞がれ逃げ道がわからない
加えてこの戦力差、いくらこちらの人数が多いとはいえ、攻撃できないのでは意味がない
「チッ...」
思わず舌打ちが漏れた、黒い奴ほど速くないが...それでもギリギリじゃなきゃ反応できない速度、加えて個性が攻撃特化すぎる、いくら毒素に耐性があるとはいえ、ここで激しく動き回れば身体に毒素が回って動けなくなる、圧倒的不利なこの状況、打開するにはどうすれば良いか...
簡単だ
「強い能力を引けば良い」
前髪で隠された右目が回転を始める、抽選された能力は...
「当たりだ、運がいいのか悪いのかわからんな」
襲い来る武器の間を縫い、俺の指先から射出された何かが脳無の額を穿った、俺が引いた能力は「飛爪」、文字通り爪を飛ばすだけの能力
だが、俺が持つ能力の中でも特に「殺傷能力」に特化した能力だ、爪の飛ばし方は、貫通性、切断性、非殺傷性の三種類、今回使用したのは貫通性だ、厚さ5mの鉄板すら軽々貫く異常なまでの貫通性能を誇る、いくら改造を施された人間であろうと所詮人は人、人の肉など豆腐のように簡単に貫ける
「...急ぎましょうラグドール、おそらく、いや、確実にヴィランが来ている」
「わかったにゃん!」
俺達は口元を押さえながら、倒した脳無の確認もせずに施設に向かって走り出す、それがいけなかった
「...!!ラグドール!!」
「にゃっ!?」
ガスの向こうから、倒したはずの脳無がラグドールめがけてチェンソーを振り下ろした、とっさにラグドールを突き飛ばすが...俺は回避ができなかった
「っがぁぁぁぁ!!」
「回能くん!!」
チェンソー特有の音を響かせながら振り下ろされたそれは、俺の体を斜めに切り裂いた、幸い骨までは到達していなかったが体に激痛が走る、いてぇ...!!クソッ...!!なんで...!!さっき倒したハズじゃ...!!
「っ...!!」
そういうことかクソが...!!俺が倒したはずの脳無の方を見ると、そこには脳無の死体はなく、泥のような何かがあった、偽物だったのか...!しくじった...!!せめてラグドールだけでも...!!
しかし...
「がっ...!?」
「っ....」
突然頭部に衝撃が走り、視界が黒く染まっていく、殴られた...?いつ...?どこから...ダメだ...意識が....
◇
「....!!」
「んーん!?」*1
「...なんでもない、先を急ごう」
「!!回能さん!耳郎さん!」
「八百万!!良いところに!!」
しばらく走っていると八百万に出会った、ペアだった青山が居ない、一体どこに...
「青山は?」
「葉隠さんを施設に運んでもらっています!それよりもコレを」
八百万が三つガスマスクを創造してくれた、それを受け取り、全員装着する、一先ずこれでガスの心配はしなくて良い
「...よし、耳郎、俺と一緒に施設に走れ、俺は八百万と他の奴らの救助に行く」
「ウチも行く!」
「ダメだ、ヴィランの目的がわからない、仮に会敵したとして...恥ずかしい話、俺だけで二人を守り切れる自信がない、施設の守りも必要だ」
「でも...!」
「大丈夫だ」
「っ...」
俺がそう言うと、耳郎は拳を握り締め、俺の方を力強い目で見る
「...わかった、その代わり絶対無事に帰ってこい!」
「....わかった」
そう言葉を残し、耳郎は俺の分身と施設に走る
....悪い、耳郎、約束は守れない
「...行くぞ八百万、ヴィランと会ったら逃げろよ」
「わかりましたわ、その時は回能さんも一緒に!」
....約束はできかねるな
取り敢えず今は俺の安否はどうでも良い、まずは他の奴らを救けなければ、俺と八百万はその場を離れ、指定されたルートを探す
走り回ること数分、B組の生徒三人...鉄哲、泡瀬、塩崎と合流できた、塩崎は意識を失ってしまっているが...
「アンタらは...A組の!!」
「B組!!ちょうど良かった!」
ひとまず合流できたことを喜びつつも、手短に要件を伝える、B組の生徒が居る場所を教えて欲しいと、すると泡瀬が案内してくれるとの事、ならそちらは任せよう
「なら俺は鉄哲と一緒に別のメンバーを探す、そっちは任せるぞ八百万」
「お任せください、回能さんもお気をつけて!」
八百万からガスマスクを大量に受け取り、二人と別れて鉄哲と共に動き出す、あまり大人数で動いているとヴィランにバレる可能性がある、動くなら少人数だ、より多くの場所に散らばって生徒たちを救けなければ
出来るだけ急がなければ...
◇
「...!オイアレ!」
「拳藤!!」
「鉄哲!茨!それに回能まで!!何そのマスク!?」
森の中を走っていると、小大、骨抜を抱えた拳藤と合流できた
「A組の八百万が近くにいて創って貰った!あっちは泡瀬がB組らの待機位置を案内して救助に当たってる!」
「拳藤も使え、余分にもらってきた」
「ありがと!早く施設に戻ろう、ヴィランがどこにいるかもわからないし危ない...」
拳藤が受け取ったガスマスクを装着しながらそう話す、確かにそうだな、どこからヴィランに襲われるかわからない以上、この場で止まっているのはマズイ、しかし
「いや!俺は戦う、塩崎たちの保護を頼む」
「は!?交戦はダメだって...」
鉄哲が拳藤に二人の保護を任せて戦いに行こうとする、ダメだ、ここではぐれたら探すのが面倒になる
もしヴィランの目的が生徒の抹殺だったら?いくら防御能力の高い鉄哲とはいえ、今はガスが立ち込めている、もしガスマスクを破壊されたら...
確実に殺される、ダメだ、ここでコイツらとはぐれたら...まだ最悪の事態じゃない、今ならまだ間に合う
「いや、行く必要はない」
「なんでだよ!!今行かねえと他の奴らが!!」
「ヴィランの目的がまだわからない、もし生徒の抹殺だとしたら...俺はお前らをはぐれさせるわけにはいかない」
「じゃあ!!」
「鉄哲、お前の個性は何のためにある」
「俺の個性...?」
ヴィランを倒すため?民間人を救い出すため?どちらも正解だろう、だが、今この状況での答えは否だ
「...お前の個性で、コイツらを守るんだ、お前がはぐれてヴィランに出会ったらどうする、守れたはずのお前が居なかったら...」
「!!」
「...安心しろ、ガスを出してるやつは俺がやる」
鉄哲を宥めながら、俺が取り出したのは弓矢、矢を一本取り出し、キリキリと音を立てて弓を引く
俺が引いた能力は「スナイパー」、弓矢、或いはスナイパーライフルの使用が可能になり、狙撃能力が大幅に上昇する能力
正面戦闘には向かないが、援護射撃や遠距離戦において無類の強さを誇っている、俺が気に入っている能力の一つだ
「ホークアイで位置は捉えた、一歩も動いてない、ここからなら充分当たる」
と、その時
『A組B組総員!!プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!』
良いタイミングだ、これで心置きなく撃てる
何故スナイパーライフルを使わないのか、という疑問を持った読者の皆様に理由をお伝えしよう、確かに、威力で言えば例え非殺傷弾だとしても、スナイパーライフルの方が高いだろう、しかし、場所はこの森の中、木が無数に生い茂っている、木に阻まれて仕舞えばヴィランまで届かない可能性がある
しかし、スナイパーライフルより「貫通力」のある弓矢ならば、木に阻まれることなくヴィランに矢を当てることが出来る、つまり...
障害物が意味をなさないのだ
「フーッ...」
一息つき、矢を離す、パヒュンッ!と独特な音を響かせながら放たれた矢は、進行方向上にある木を貫いてなおスピードを落とさず真っ直ぐ目標に向かって飛んでいく、矢を離して数秒、ガスが晴れていく
「...よし、行こうか」
「...回能!」
俺が施設に向かおうとすると、鉄哲が俺を引き留めた、なんだ急に?
「...すまねぇ!お前のおかげで頭が冷えた!!目を覚させてくれてありがとう!!」
「...礼なら今のこの状況をどうにかしてからにしろ、行くぞ」
「おう!」
俺がそう言い、拳藤達と共に施設に走ろうとすると...
『ヴィランの狙いの一つ判明!!生徒の「かっちゃん」と「回能くん」!!わかった!?二人はなるべく戦闘を避けて!!単独では動かないこと!!』
「回能が狙われてる!?」
「爆豪もか...!!」
「取り敢えず回能は大丈夫なはず...取り敢えず早く施設に急ごう!」
....少し遅かったか...多分もう
◇
〈緑谷side〉
「開闢行動隊!!目標回収達成だ!!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後五分以内に「回収地点」へ向かえ!!」
「幕引き...だと...」
「ダメだ...!!」
目の前にいる仮面を被ったシルクハットのヴィラン、Mr.コンプレスがそう通信を入れた、てことは...回能くんも...!!
「させねえ!!絶対逃すな!!」
轟君が大氷結を放つけど、軽々回避されてしまった、速い...!このままじゃ見失っちゃう...!!
「ちくしょう速え!あの仮面...!!」
「飯田君居れば...!!」
ヴィランとの距離がどんどん距離が離れていく、ダメだ、このままじゃ三人とも救けられない...!!!
「.....!!」
マスキュラーと戦った時の怪我がズクズクと痛む、この程度の痛みで根を上げてちゃ...誰も救けられないぞ...!!考えろ...考えろ...!!何か...何かないか...!!
...そうだ...!!
「諦めちゃ...ダメだ...!!っ...!追いついて...取り返さなきゃ!!」
「しかしこのままでは離される一方だぞ」
だから...策は考えた...!僕は考えた作戦を皆に伝える
「麗日さん!!僕らを浮かして!!早く!!そして浮いた僕らを蛙吹さんの舌で思いっきり投げて!!僕を投げられるほどの力だ!凄いスピードで飛んでいける!!障子くんは腕で軌道を修正しつつ僕らを牽引して!麗日さんは見えてる範囲で良いから奴との距離を見計らって解除して!!」
「成程、人間弾か」
「まってよデクくん!その怪我でまだ動くの...!?」
「お前は残ってろ、痛みでそれどころじゃあ...」
「痛みなんか今知らない...!動けるよ...!早くっ!!」
そうだ、動け、動くんだ緑谷出久、救けるんだろ!!
「....!デクくんせめてこれ!!」
麗日さんが僕の腕を固定してくれる、ありがとう、これでまだ動ける
「いいよ梅雨ちゃん!」
「必ず三人を救けてね」
蛙吹さんが僕らを投げ飛ばす、凄いスピードだ、目を開けてられない...でもこれなら...!!追いつける!!
◇
〈no side〉
Mr.コンプレスを捕え、回収地点であろう場所に着地する轟、緑谷、障子の三人、目の前にはツギハギ顔のヴィラン、全身タイツのヴィラン、そして制服を着た女性のヴィランが居た
「知ってるぜこのガキ共!!誰だ!?」
「Mr、避けろ」
「!ラジャ!」
ツギハギ顔のヴィランが指示と同時に炎を飛ばす、轟の炎とは違う、高温の青い炎、放たれた炎は障子と緑谷の腕を焼く
上手いこと分断された轟と緑谷達、障子はともかく、満身創痍の緑谷にこのダメージはかなり堪えるだろう
「トガです出久くん!さっき思ったんですけどもっと血出てたほうがかっこいいよ出久くん!!」
「はあ!!?」
緑谷に襲い掛かる女性のヴィラン、名はトガヒミコ、緑谷を押し倒し、持っているナイフを緑谷に突き立てようと腕を振り上げた
「緑谷!!」
咄嗟に障子がトガを突き飛ばし緑谷を庇った、しかし依然状況は変わらない、戦力人数共に負けているこの状況、どう切り抜けるか...
「いってて...とんで追ってくるとは!発想がトんでる」
Mr.コンプレスが個性を解除し、体についた土をはらう
彼の個性は圧縮、触れた物をビー玉のような物に圧縮できる個性だ
「爆豪は?」
「もちろん....ん?」
右ポケットに手を入れ、中に入っているであろう圧縮した常闇と爆豪を荼毘に渡そうとするが、ポケットの中身が空っぽなことに気がついた、それを見た障子が勝機を得たと言わんばかりに声を上げた
「二人とも逃げるぞ!!今の行為でハッキリした...個性はわからんが、さっきお前が散々見せびらかした━━右ポケットに入っていたこれが、常闇、爆豪、回能だな、エンターテイナー」
「障子くん!!」
障子の手の中には、三つのビー玉サイズの物があった、Mr.コンプレスのポケットの中から掠め取ったのだ
「ホホウ!あの短時間でよく!さすが六本腕!!まさぐり上手め!」
「っし!でかした!!」
「アホが...」
「いや待て」
緑谷達が走り出すと同時に、森の中から脳無が、そして目の前には黒いモヤのヴィラン...黒霧が出現した
「ワープの...」
「合図から5分経ちました、行きますよ荼毘」
黒霧がゲートを開きながらそう話す、目の前に開いたゲートに入っていくトガとトゥワイス、しかし、ヴィラン側の目的は達成されていない
「まて、まだ目標が...」
「ああ、アレはどうやら走り出すほど嬉しかったみたいなんでプレゼントしよう、悪い癖だよ、マジックの基本でね、モノを見せびらかす時ってのは...
仮面を外し、舌に乗った圧縮した二人を見せびらかす、それと同時に個性が解除され、障子が持っていたビー玉が轟の氷に変化した
「ぬっ!?」
「俺の氷...!!」
「氷結攻撃の際にダミーを用意し、右ポケットに入れておいた、右手に持ってたモンが右ポケットに入ってんの発見したらそりゃー嬉しくて走り出すさ」
その言葉と同時にゲートに消えていくコンプレス、完全にしてやられた
(回能も言ってた事だ!!クソッ!なんで警戒してなかった!!アイツもコイツもエンターテイナー...!!本質は同じなのに...!!)
「くっそ...!!」
「そんじゃーお後がよろしいようで...」
このままでは二人とも誘拐されてしまう、この距離では間に合わない、万事きゅうすかと思われたその時
THOOOOOOM!!
「!?」
突如空間を切り裂くように放たれた光るレーザー、近くに潜んでいた青山が、Mr.コンプレス目掛けて個性を放ったのだ、臆病者なりに最善の一手、その攻撃が、Mr.コンプレスの仮面を破壊し、爆豪と常闇が口の中から零れ落ち、咄嗟に飛び出た轟と障子が手を伸ばす
伸ばしたその手は、かろうじて常闇には届いたが...爆豪は寸での所で奪い取られてしまう
「哀しいなあ、轟焦凍...確認だ、解除しろ」
「っだよ今のレーザー...俺のショウが台無しだ!」
Mr.コンプレスが指を鳴らすと、障子の持っていた玉が常闇に、奪い取られた玉が爆豪に変化した
「問題なし」
目の前から徐々に消えていくヴィラン連合と爆豪、緑谷はただ見ていることしか出来なかった
「━━━━━━かっちゃん!!!」
「━━━━━━来んな、デク」
伸ばしたその手は届く事なく、炎で照らされた夜の闇に消えていった
「あ....」
緑谷の悲痛な叫びが辺りに木霊する
完全敗北、彼らは、ヴィランに負けた
はいどうも猫耳の人です
林間合宿編、これにて幕引きです
いやー、やっぱ自分で考えて書くのって難しいですね
でも楽しい、これからも精進していく所存です
次回もお楽しみに
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回能彩目は
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攻め
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受け