悪の組織の一般派遣戦闘員奮闘記   作:TATAL

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悪の新人派遣戦闘員、田崎誠二

 近年は就職市場は売り手市場だなんて言ったのは一体誰なんだ。少なくとも俺は就職に明らかに失敗した。

 売り手市場だからと就活を舐め腐っていた俺は、見事に無い内定状態に陥ったまま各社の採用が締め切られる秋を過ぎていたのだ。見栄張って都会の大学に出たは良いものの、このまま就職出来ないと田舎に帰ってご近所だけでなく家族の白い目に晒されると恐怖した。そんな俺は、コンビニで酒を買って帰る途中、たまたま貼られていた謎の会社の求人に何を思ったか飛びついてしまい、あれよあれよと内定をもらって今日という日を迎えてしまっていた。

 

「時間になりましたので、本年の新入社員入社式を開催いたします」

 

 そのアナウンスと共に真っ暗だった会議室の前方に設置されたスクリーンに映像が投影される。その光を頼りに前後左右をこっそり確認してみれば、周囲にいるのは真っ黒な目出し帽にスーツ姿なこれ見よがしに怪しい連中ばかり。何なら俺もそのうちの一人だったりする。

 既にこの時点で俺の就活が失敗に終わったことは明らかだと分かってくれるはずだ。入社式に使うからと送られてきた封筒の中でひと際存在感を放っていたのがこの目出し帽。同封されているマナー教本はどうやら何の役にも立たないということが社会に出る前に分かった瞬間だった。この会社の人事は新入社員に目出し帽を配るのが正しいマナーだと思っていたんだろうか、それってテロリスト集団くらいでしか通用しないマナーじゃないですかね。

 

「皆さん、はじめまして。今日から新たに我が社、チョイワルーの一員となった皆さんを心より歓迎します。私はこのチョイワルーの社長を務めております、阿久井です」

 

 そう告げるのは、スクリーンに映ったスーツ姿の男性らしき人物。らしき、と言うのはその人物も例に漏れず顔を隠しているからだ。しかも俺やその周囲が被っているような真っ黒な目出し帽じゃなく、白地に黒い複雑な模様が付いた光沢のある仮面。偉くなるほど顔を隠すものが上等になっていく社内ルールがあるんだろうか。駄目だ、もう社長からして触れちゃいけない空気が出てる。帰ったら転職サイトに登録した方が良いのかもしれない。

 

「我が社は『野心に寄り添い、共に野望を追求する』をビジョンとしている悪の組織専門の人材派遣会社です」

 

 駄目だ、就活中の過去の俺に言ってやりたい。周囲が内定を取って焦ったからってなんでこんな会社の内定を受けたりしたんだ。そもそもなんでエントリーシート出したんだよ馬鹿! 

 

「このビジョンを実現するため、飽くなき挑戦、折れない心、ちょっと(ワル)でも良いじゃないの三つをバリューとして事業活動に励んでいます」

 

 その言葉と共に映像ではビジョンを頂点として三つのバリューが下に配置された三角形が社長の前に表示される。

 悪の組織とか平気で言うくせになんでビジョンだったりバリューはしっかり設定してるんだよ。映像も編集頑張ってちょっとカッコよく見せようとするんじゃないよ。

 

「我々は世界という広いフィールドを見据え、地域という細かな領域でも活動を欠かしません。一地域の支配権確立を目指す地域密着型組織から、世界征服を目指す野望型組織まで、我々が支える悪の組織は様々です。一方で、近年の人手不足により、特に一般戦闘員の不足はどの組織でも大きな課題となっているわけであります」

 

 そこで、という言葉と共にカメラアングルが変わり、仮面の横顔がアップになる。ちょっとカメラワークまで凝ってくるのやめろ。冗談みたいな社名のくせにしっかりした課題意識と経営ビジョンまで持ち出すのホントやめろ。というか世界進出までしてるのかよこの会社。どんだけ悪の組織があちこちに潜んでるんだよ、世紀末じゃねえか。

 

「お客様のニーズに沿った最適な戦闘員リソースによる社会的課題の解決が求められています」

 

 求められてない。悪の組織の課題解決を社会は望んじゃいないよ。喉まで出かかったツッコミは周囲が不気味なほど静まり返っているせいでそのまま俺の腹の中に戻って行ってしまった。周囲の異様な雰囲気に気圧されたのだ。決してこの静かな空間で目立つのが恥ずかしいとかではない。

 

「皆さんには、我々の仲間として共にこの課題の解決に取り組んで欲しいと思っています。皆さんには常に、先ほど述べた三つのバリューを意識しながら、日々の業務に取り組んで頂ければと思います。我が社が寄り添うのはお客様の野心だけではありません。全てのステークホルダーであり、そこには当然社員の皆さんの野心も含まれています。この会社で皆さんが共に野望を追求することを、私は望みます。以上で、私からの挨拶とさせて頂きます」

 

 社長がそう言ってお辞儀をすると、一瞬の沈黙の後に会議室中に響く拍手の音。周囲の黒頭巾スーツが全員スタンディングオベーションしていた。社長の演説のカリスマが強すぎたらしい。もしやこの周囲の同期達は俺のように切羽詰まり、トチ狂ってこの会社に入ってしまったのではなく第一志望だったりするんだろうか。俺は帰ったらすぐに転職サイトに登録することを決めた。

 

「以上を持ちまして入社式を終了いたします。新入社員の皆さんはこのまま全体研修となります」

 

 そのアナウンスと共にスクリーンの映像が切り替わり、正面には新入社員研修の文字。社名から何から全部ふざけてるくせになんでイベントは常識的に進むんだ。頼むからふざけるなら最後まで貫いて欲しかった。お陰で途中で抜け出して逃げるのも小市民の俺にとっては気が引ける。というかさっきの周囲の熱狂を見ていたらここで逃げようとしたら俺が真っ先にホラー映画にありがちなサバトの生贄になる未来しか見えない。ここに来た時点で詰んでたんじゃないだろうか。

 

「最初に当社の事業に関しての説明、その後社内規定、および給与その他福利厚生に関しての説明となります。明日からは皆さんの配属先に向かっていただき、早速OJTが始まりますので、今日の説明をしっかりと聞いて明日以降に備えてくださいね」

 

 そうして最後まで説明を聞き終えた俺は、とりあえず夏のボーナスが出るまでは頑張ってみるかと思いながら転職サイトに登録したのであった。

 

 


 

 

「今日こそ貴様らを始末してやるぞ、ダイオウジャー!」

 

「そんなことはさせない! そうだろ、皆!」

 

「その通りだ! 俺達がいる限り、お前達の好きにはさせないぞ、スペクターズ!」

 

「僕達の心に正義の炎がある限り!」

 

「私達が諦めない限り!」

 

「あなた達の勝利はあり得ない!」

 

 イカの化け物といった様相の怪人を前にした赤、青、緑、黄、桃の五色のスーツに身を包んだ戦士という、いかにもニチアサな目の前の光景。何かの撮影かと少し前の俺なら思ったかもしれない。だが、今の俺はそんな暢気なことを考えていられる立場じゃない。

 

「ハッ、その強がりがいつまで保つかな? 行け、お前達!」

 

 イカ怪人がそう言って触手をプルプルと目の前の五人組に突き付ける。その命令が下された先は、他ならぬ俺、いや俺()だった。

 

「「「ヤー!」」」

 

 間の抜けた掛け声を上げて五人組に突っ込んでいく全身黒タイツにドクロの仮面をした人間達。

 

「イヤァァァァァ!」

 

 その中でもひと際気合の入った悲鳴を上げて突っ込んでいくのが俺だ。

 

「ハッ、そんな雑魚がいくら来たところで!」

 

 俺が向かう先はブルー。余裕綽々と言った様子で突っ込んで来る俺達を見て鼻で笑った。俺も本当は突っ込みたくなんかない。だが、この黒タイツに身を包んだが最後、俺はイカ怪人の命令に従わざるを得ないのだ。たとえ手に持っているのがただの鉄パイプであろうと。

 

「甘いな!」

 

 俺が滅茶苦茶に振り回した鉄パイプは見事にブルーが持つ槍のような武器に弾き飛ばされ、勢いを付けた槍の柄が俺の胸をぶっ叩く。

 

「イヤァァァァァ!!」

 

 そして俺はそんな情けない悲鳴と共に見事にぶっ飛ばされ、地面にどしゃりと落下した。明らかに無事で済まない吹き飛ばされ方をしたというのに、死ぬほど痛いだけで血とかは出ていないのはこの黒タイツを構成する謎の科学力のお陰なんだろうか。だが頭から地面に落ちたせいか視界がグワングワンとして立ち上がることは出来そうにない。

 

「クソ、どうして就職に失敗しただけでこんな目に……」

 

 目の前で俺と同じように吹っ飛ばされていくモブ戦闘員を見ながら、俺の口からはそんな恨み節が漏れる。

 

「チィッ! 所詮は間に合わせの雑兵か!」

 

 俺達をけしかけた側のイカ怪人もこの言いようである。ヒドい。こっちは仕事だから来てるだけなのに。

 

「だが雑魚に集中したのが命取りだ!」

 

 イカ怪人さん、どうやら両手の触手を自在に分裂させたり伸ばしたり出来るらしく、俺達モブ戦闘員が吹っ飛ばされている隙にダイオウジャーの五人の首に触手を巻きつけていた。いいぞ、もっとやれ。そのまま倒してくれたら特別手当が付くんだ! 

 

「がっ!?」

 

 イカ怪人さんの触手がダイオウジャーの首を絞め上げる。俺は地面に無様に突っ伏しながらそれを内心応援していた。応援するくらいなら援護しろ? そんなこと言われたって鉄パイプくらいしか武器ないし、それもどっか弾き飛ばされちゃったし……。俺に出来ることはこのままイカ怪人さんがダイオウジャーなる正義の五人組を何とか打倒してくれることだけだ。

 

「こ、こだぁっ!!」

 

「ぐおっ!?」

 

 だが、俺の願いも虚しく、機転を利かせたグリーンの放つ弾丸によって拘束は解ける。なんならそのままピンクやイエローも加わった攻撃でイカ怪人さんは大きく仰け反り、致命的な隙を晒してしまう。ま、マズい、このパターンは!? 

 

「今だ!」

 

 レッドのその掛け声に、五人がそれぞれの武器をガチャガチャと組み合わせて一つの大きなバズーカ砲を構築する。

 

「ダイオウキャノン!」

 

 五人の息の揃った声と共にバズーカ砲から発される目を灼くほどの閃光。

 

「ば、馬鹿な! この私がぁぁぁぁぁ!」

 

 そしてお決まりな台詞を吐きながら閃光に飲まれていくイカ怪人さんの後ろ姿。……後ろ姿? 

 

「こ、こっちに来るなぁぁぁぁぁぁ!」

 

 イカ怪人さんを姿焼きにして尚有り余る威力を誇っていたらしいバズーカ砲の光が地面に寝転がっていた俺に襲い掛かる。周囲の地面を巻き込みながら突き進んで来るその光に俺のか細い悲鳴があっさり飲まれ、俺は今度こそ意識を手放す羽目になった。

 

 絶対に転職する、絶対にだ! 

 

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