今回はドワーフ王国編の、カイジン達との出会いです。
少し、鍛冶場の様子が何かおかしくなってる気がします。
気のせいだといいですが。
それではどうぞ!
『HAHAHA!実に見事な投降だったよ、リムル君!3次元の住民らしく、重力に負けてあっけなく捕まった姿と言ったら...最高のコメディだ!』
私は警備隊の詰め所、そのど真ん中の空中に浮きながら、腹を抱えて笑っていた。
ドワーフの連中は、私という「黄金の幾何学的存在」を前にして、捕獲の手を止めるべきか、それとも拝むべきか迷っているような滑稽な顔をしていたよ。
さて。
床をチーズケーキに変えてやろうかと悩んでいる私の横で、リムルが必死に嘘を並べていた。
「実はですね…、僕、魔法使いに呪いをかけられたのです。多分、僕の才能に嫉妬したのでしょう…。僕は幻覚魔法の使い手だったのですよ」
私は宙返りしながら、彼の脳内で響く「ミス電卓」の呆れた気配を楽しんでいた。
だが、スライム君の嘘はあまりにパンチが足りない。だから少し、味付けしてあげよう。
『やれやれ、リムル。いつまで隠し通すつもりだい? 観念して真実を話してしまいなよ』
「おい、ビル!余計なことを——」
『HAHA!仕方ない。私が説明してあげよう!』
私はパチンと指を鳴らした。
影が歪む。床に落ちたリムルの影が伸び、ねじれ、やがて1人の少女の輪郭を形作った。
『実はね、隊長さん。この哀れなスライム...元々は、天才美少女魔法使いだったのさ!』
私は、スラスラと頭の中にストーリーを作っていく。
『彼女はあまりに才能に溢れていた。それに嫉妬した邪悪な北の魔女が、瑞々しい肉体を奪い、ドロドロの不定形に変える呪いをかけたんだ!』
影の少女は崩れ、スライムへと形を変える。
「「……はぁ?!」」
隊長とリムルの声が重なる。
いい反応だ。
『そして私は——』
影が私と繋がる。
『その魔女に使わされていた呪いの監視役。彼女が二度と人間の姿に戻れないよう、こうして四六時中付きまとっているのさ! 』
「監視役...だと?」
「そ、そうなんですよ!実は、その呪いを解くために——」
それからの2時間は、まさに喜劇だった。
リムルが話を盛り、隊長が補強し、私が捻じ曲げる。
気付けばそこには——
「僕っ娘の天才美少女魔法使いが呪いを解く旅に出る物語」が完成していた。
10巻はいけるね。
『HAHAHA!傑作だ!』
「…俺たち、何やってんだ?」
『創作活動さ。誇りたまえよ』
リムルと隊長が、妙な達成感を共有している。
...私は仲間外れかい?
『そんなにその姿が嫌なら、中身を本物の美少女に詰め替えてあげようか? 歯茎の代わりにピアノの鍵盤を埋め込むのもオシャレだぞ!』
「絶対にやめろ!!」
おっと、口に出して断られた。相変わらず冗談の通じないスライムだ。
「よし!調書が完成した!協力感謝する!しかし、君達の身柄は…」
そこへ、バッターン!と1人のドワーフが飛び込んできた。
彼の話を聞くと、鉱山でアーマーサウルス、という魔物が暴れたらしい。
私は目を細めた。
『おやおや、いい匂いがしてきたじゃないか。恐怖、焦燥、そして...絶望の匂い』
ドワーフの慌てぶりって言ったら...最高だったよ。
薬が無い。治癒士もいない。
彼らの知人に「死」が迫っていると言うのに、右往左往するばかり。
そこで、我らが天才美少女魔法使い(笑)が動いた。
ペッ!と吐き出された回復薬。
「…?あ、何だこれは?」
「回復薬ですよ。飲んで良し! 掛けて良し! の優れものですよ!」
「は?何でスライムのお前が、回復薬なんて持ってるんだ?」
HAHA!さっきの設定はどこへ行ったのやら。
髭面の隊長は、藁をも掴む思いでそれを持って走り去っていった。
私は暇つぶしに、彼の影を通して少し見させてもらった。
あの薬、ただの癒着じゃない。
細胞の時間を強引に巻き戻すような、この世界の理を無視した高純度のエネルギーの塊だ。
千切れた腕がくっつくどころか、ついでに持病の腰痛まで治るとはね!
『...いいね、さっきの回復薬』
「だろ?死んでなかったら、大体の怪我は治る特注品だ」
『今度もらおう』
「やらんぞ?」
ケチな神様もいたもんだ。
1時間後。
待ってる間暇だったので、リムルと一緒にゴブタをサイコロ代わりに遊んでいると、隊長が帰ってきた。
「助かった!ありがとう」
部屋に入ってくるなり、頭を下げて感謝をリムルに述べてきた。
さらに、3人のドワーフも感謝を述べる。
「あんたが、薬をくれたんだってな!ありがとよ!!!」
「正直、腕が千切れかけてて、生き残れても仕事なくなるとこだった…ありがとう!!!」
「………」
彼らの目には、確かな光が宿っていた。
...つまらない。
だが、同時に興味深い。
「救い」というやつも、悪くない材料だ。
翌日。
感謝の嵐の中で、リムルは解放された。
さらには、金色の金属25枚を手に入れてね。
回復薬5個と交換したようだ。
「……なあ、ビル。あの話、結局あいつら信じてなかったろ」
『当然さ。だが、問題はそこじゃない』
「?」
『あの隊長は「悪魔付きのスライム」という厄介払いができるし、君は「恩人」として街を歩ける。嘘は、真実よりも世の中を滑らかにする潤滑油なのさ』
私は金貨をジャグリングしながら、空中でくるくると回転した。
「...まあ、結果オーライか。でも、いつかボロが出そうで怖いな……」
『安心したまえ。ボロが出たら、その時は街全体を燃えるチーズに変えてリセットしてしまえばいいんだから!』
「させるか!!」
ドワーフ王国の裏通り。
古びた、だが重厚な佇まいの工房の前に着いた。
昨日の髭面隊長...もといカイドウがそこへ入る。
「おい!兄貴、いるかい?」
何故か私達とカイドウは打ち解けていた。あんな話を一緒に作っただけはある。
「お邪魔しま〜す!」
「どうもっす!」
『失礼するよ』
各々セリフを言いながら、カイドウに続いて工房へ入る。
「「「あ!!!」」」
昨日のドワーフ3人組がこちらを見る。まさかまた会うことになるとは!
「何だ?お前達、知り合いか?」
「カイジンさん!このスライムですよ!!!昨日俺達を助けてくれた!!!」
「そうそう!隊長さん、旦那の弟さんだったんですね!」
「………」
「おお…!さっき話してたスライムか!昨日こいつらを助けてくれたそうだな、感謝する!」
「いやいや!それ程でもあるような、ないような?はっはっはっはっはーー!!!」
『おやおや、少し調子に乗りすぎじゃ無いかい?』
「それで、どうして今日はここへ?」
若干引きながら、私達に聞くドワーフ。
すると、我らがカイドウが手短に話してくれた。流石だな!
「話は判った。だが、スマン。力になれそうもない…。実はな、こっちも、とある国から依頼を受けててな…」
事情を聞けば、実にくだらない。
「ベスター」とかいう小役人が、王の前で彼に無理難題を押し付けたらしい。
材料もないのに、20本の剣を5日で作れ、だと?
『3次元の人間関係というのは、どこまでも陰湿で退屈だね。相手を困らせたいのなら、脳味噌をトウモロコシに変えるくらい大体にやればいいのに』
「お前にしかできないわ!」
いいツッコミだ。
「ふっふっふ。はっはっは!はぁーーーっはっはっは!!!おいおい、小物っぽい会話してんじゃないよ?親父!これ、使えるかい?」
ドン!と、リムルの胃袋から取り出されたのは、ただの石ころじゃない。
魔力を含み、怪しく脈打つ金属の塊。魔鉱塊だ。
「お、おい!これは魔鉱石...いや、魔鋼だと?!」
カイジンの目が飛び出さんばかりに見開かれた。
魂の匂いが変わった。絶望が、一瞬で狂信的なまでの希望に書き換えられる。
希望への移り変わりも、悪くはない。
リムルはここぞばかりに恩を売り、村の技術指導者の紹介を約束させた。
実に賢いスライムだ。無意識に「契約」の重要性を理解している。
「親父さん、残り4日。今日を入れても4.5日で、仕上げは可能なのかい?」
「…。正直、無理だと思ってる。それでも、やるしかねーんだよ!」
『HAHAHA!根性論かい?嫌いじゃない。でも、時間は残酷な時計の針さ。君が鉄を叩いてる間に、太陽は無慈悲に沈んでいくんだ』
「ビル、ちょっと黙ってろ。...親父さん、俺に策がある。明日は、落ち着いて最高の一本を仕上げてくれ」
「なんだと?お前、素人なんだろ?何が出来るって言うんだ?」
「秘密だ。信じろ!信じられないなら、好きにしな。だが、依頼は失敗するだろうけどね!」
私は工房の天井から逆さまに座り、リムルの「策」とやらを覗き見る。
『...なるほど』
一本さえ完璧な見本があれば、あとは彼の胃袋とミス電卓の力で、完璧なコピー品を量産可能ってわけだ。
『コピー品、量産、規格化! 文明の進化はいつだって味気ないね!』
『でも、そのベスターとかいう大臣が、完璧に揃った20本の剣を見て、どんな風に顔を青ざめさせるか...。その表情が見られるなら、私も少しだけ手を貸してあげてもいいかな?』
パチン。
私は指を鳴らす。
その瞬間、一瞬だけ炉の火が色を変えた。
赤でも青でもない。
「地獄の業火」だ。
空気が歪み、音が遅れる。
鉄を打つ音が、数拍遅れて響く。
時間が、わずかにズレる。
《告。個体名:ビルサイファーの干渉により、炉の温度が想定外の数値を確認》
《さらに、物理法則の逸脱を——》
『HAHA!いいだろう?最高の環境だ』
さあ、カイジン! 最高の剣を打つがいい!
名工のプライドと、スライムのチート能力、そして悪魔の悪戯心が混ざり合った、最高に不公平な製作作業の始まりだ!
夜は更けていく。
火花の散る工房の中で、私は次の「面白い展開」を夢見ていた。
明日、この場所でどんな奇跡が起きるのか……。
諸君、瞬きせずに見ておくんだな。
この物語は——
『次に目を開けた時、同じ形をしている保証はないんだからさ』
読んでいただきありがとうございました。
ビルとミス電卓...もとい大賢者とのやりとり、書いてて楽しかったので、今後はもっと増やしていきたいと思います。
地獄の炎に耐えれる炉って、冷静に考えるととんでもないですよね。
次の話は、例の小役人が出てきますね。顔のパーツでも入れ替えましょうか。
どちらで進めるのがいいですか?
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