だいぶ長くなっちゃいました。まあ、読み込めるってことで!
ビルのセリフもっと出してもよかったかも。
ではどうぞ!
戻ってきたぞ!
あの愛すべきゴブリン達の村へ!
ドワーフの国という幾何学的に整列した、だが退屈極まりない自然の檻を後にして、スライム君——もといリムル・テンペストが辿り着いたのは、たった二週間前には広場だった場所だ。
いやぁ、いいね。
三次元の生物は本当に飽きない。
泥をこねて、枝を積んで、形を作る。
何もなかった場所に、「意味」を置こうとする。
大亀の甲羅を鍋にする、か。素晴らしい。
これこそが原始的な知性の輝きだ。
焼くから煮るへ。
彼らはアリから一歩進んで、少し賢いネズミなったわけだ。
悪くない進歩だ。
村へ帰るなり、リグルドが駆け寄って来た。
「お帰りなさいませ!帰って来られて早々申し訳ないのですが、リムル様にお客です・・・」
ドワーフ達をリグルに任せ、私たちはリグルドの案内でテントへ向かう。
テントの中では数名のゴブリンが待機していた。
そして一斉に平伏した。
「「「お初にお目にかかります、偉大なるお方!何卒、我等の望みをお聞き届け下さい!!!」」」
「ふむ。言ってみろ!」
「は!有り難き幸せ!我らの望みは、貴方様の配下に加えて頂く事でございます!!」
「「「何卒、宜しくお願いいたします!!!」」」
HAHAHA!
笑えるだろう?自由を捨てて首輪を求める。これがこの世界の弱者の生存戦略なんだ。
リムルは溜息をついていたが、私の目は見逃さなかったよ。彼の魂の奥底で、一瞬だけ、真っ黒な感情が鎌首をもたげたのを。
「面倒臭い」……ね。
いいね。実にいい。その率直なエゴこそが真実に近いのさ。
しかし彼は、その感情を利害という理屈でコーティングした。人手が足りない、勢力を広げるべきだ。
もし、裏切られたら……。
(……その時は皆殺しにしよう。俺は、裏切りを許さない)
そう、優しさだけでは上には立てない。
善人を気取っているスライムが、内側では粛清のシミュレーションを始めている。魔物を率いるということは、その手をご自慢の粘液ではなく、鮮血で汚す覚悟を決めるということだ。
彼は気づいていない。そうやって「裏切ったら殺す」と心に決めた瞬間、彼はこの世界の残酷な歯車の一部に完全に組み込まれたんだ。
その覚悟こそが、彼自身……いや、この村に災厄をもたらす毒になるかもしれないのにね。
彼らの話を聞くと、森の知恵ある魔物達が覇権を求めて動き出したらしい。
弱小種族であるゴブリンなど、蹂躙される存在でしかない。
各族長は慌て、族長会議を開いて話し合いを行なった。
しかし所詮はゴブリン。いい案など出るはずもなかった。
食料の備蓄も無くなってきた頃、新しい脅威が現れたとの報告がなされた。
黒き獣と、それを駆る者達の噂。
この報告がされると、意見が分かれた。
庇護下に入るべき!という主張と、怪しすぎる!何らかの罠に違いない!とする主張。
庇護を求めるゴブリンの族長達が、ここに来ているということらしい。
「来たいものだけ来ればいい」
リムルはゴブリン達へそう伝え、彼らは自分たちへの村へと帰っていった。
ゴブリン達は帰ってきた。
——500匹の同胞を連れて。
HAHAHA!増えすぎだろう!
この箱庭には明らかに収まらない数だが、リムルは構わず三次元的解決策を引っ張り出してくる。
ドワーフの無口な三男坊、ミルドをキャプテンに据えて、リムルは自分の前世の記憶をひっくり返した。
下水道、肥料の醗酵施設、区画整理!
『HAHA!幾何学的だねぇ、実に! 垂直、平行、十字路!』
三次元の生物はどうしてこうも、自分たちを四角い檻の中に閉じ込め、汚物の流れを制御することに必死になるんだい?
私からすれば、そんなものは次元の裏側にでもポイ捨てすれば済む話なんだけどね。
石灰を混ぜたセメントで固められた水路。
それは、このジュラの大森林という無秩序な混沌の中に無理やり作り上げられた不自然な秩序の傷跡だ。
「衛生的で機能的」。
あぁ、その言葉の裏に隠された傲慢がたまらなく愛おしいよ!
彼はこの世界を自分色に塗り替えようとしている。
やはり彼の物語は、見ていて飽きない。
そして次は500匹の名付けだ。
リムルは再び、自分の生命エネルギーである魔素を切り売りし始めた。
『おやおやおや、これほどの数の魔物に名前をつけようとするなんて……命知らずにも程があるんじゃないかい?』
「いや、魔素の消費よりも、名前を考える方がキツイんだよな。これ」
『君はもう少し、
私は彼が
リムルの目が覚めた。
族長達が、リムルの前に跪く。
ラ・リ・ル・レ・ロ……。おいおい、そんな適当な並びでいいのかい?
「聞け、お前らに位を授ける!」
リグルドを「ゴブリン・キング」に。他4名を「ゴブリン・ロード」に。
「「「ははぁ!!! 承りました!!!」」」
リムルは「俺は仕事頑張ってますよアピール」なんて茶化していたが、彼が授けた「名前」は、この森の環境を確実に、そして取り返しのつかないほど歪めてしまった。
道具、衣服、木材。ドワーフ達の働きもあり、順調に揃ってきている。
こうやって、国が作られていく第一歩を見るのも悪くない。
◆
トンテンカン、トンテンカン……。
森に、家を作る音が響いている。
上下水道、下水処理施設、区画整理……。国の元ができあがってきている。
リムルは誇らしげに、「攻めやすい形かもしれないが、スッキリしている」なんて嘯いている。
あぁ、その通りだよ、リムル。
完璧に整理された町は、外敵にとってはこれ以上ないほど狙いやすい標的だ。
均等で、無駄がなくて——
『……よく燃えそうだ』
リムルが最初に行った、名付けという狂気。その成果が目の前で蠢いている。
ただの
知能が発達し、体格が良くなり、力が強くなる。
特に、キングに任命したリグルドなんて……
「おお!このような場所に居られましたか!探しましたぞ!!」
おやおや、噂をすれば何とやらだ。
見てみてくれ。
「どこの化物だよ!」とリムル自身がツッコミを入れるほどの変わりぶり。
カイジンが「オーガと比較しても遜色ない」なんて驚いていたが、私にはリムルの魔素をこれでもかと詰め込まれた破裂寸前の風船のように見えるよ。
そうそう、リグルドの要件だったね。
どうやら、人間が捕らえられたらしい。
「どうも、この周辺の調査等を行っていた形跡がありまして。判断を仰ごうかと…」
『領土の拡大を狙った国の事前調査の可能性もなくはない、ということだ』
「……ま、会ってから考えるか。リグルド、案内してくれ!」
そう言った瞬間、リムルはリグルドの肩に飛び乗った。
『言っておくけど、リグルドに乗ってる時点で威厳も何もないよ?』
「いや、ほら、視点が低いのが気になるんだよ」
『スライムに目はあるのか?』
いいんだよ、細かいことは!と文句を言いながら、私たちは人間達がいるテントへやって来た。
捕えられた——というか保護された——人間たちのテントから聞こえて来たのはなんとも平和な騒ぎ声だ。
「ちょ!お前!それは俺が狙ってた!!」
「ひどくないですか?それ、私が狙ってたお肉なんですけどぉ!」
「旦那方、こと、食事に関しては、譲れないんですよ!」
「もぐもぐ」
『……平和だねぇ』
状況を理解してないのか、理解する気がないのか。グラビティフォールズの住人といい勝負だ。
私たちがテントへ入ると、リムルへ視線が集中する。
口いっぱいに頬張りながら、目を見開いている。ああ、彼らが今まで生き残れたのが不思議だよ。
リグルドがリムルを紹介すると、三人の間抜けが「スライムが?!」なんて驚いていた。
リムルが「悪いスライムじゃないよ!」なんて、どこかで聞いたような安っぽいセリフを吐いた瞬間、仮面の女性が吹き出した。
リムルはスライムが喋ったことに対しての反応だと思っていたようだが、あれは元ネタを知っていたタイプの笑いだったね。間違いない。
とりあえず、彼らの食事が終わるまで待つということで話はまとまった。
仮面の女性がつけていたアレ……。あまり長く観察できなかったが、アレは……。いや、また後でじっくり見よう。
私たちがテントの中で待っていると、先程の四人が入って来た。
彼らはまず、自己紹介をしてくれた。
「初めまして、俺はカバル。一応、このPTのリーダーをしている。こいつがエレンで、こっちがギドだ。言ってわかるかな?Bランクの冒険者だ」
「初めまして!エレンですぅ!」
「ども!ギドといいやす。お見知りおきを!」
「で、こっちが道が一緒という事で、臨時メンバーになった、シズさんだ」
「シズです」
「これはご丁寧に。それで?」
食事を終えた連中は、疑うことを知らないバカ正直さで情報を垂れ流し始めた。
カバル、エレン、ギド。
この三人組ときたら!脳細胞の代わりに綿菓子でも詰まっていると言ってもいいほどだ。
これ以上に愉快なコメディはないだろう。
彼らがテントの中で提供された茶を飲みながら、ギルドマスターの悪口をペラペラと喋り散らかす様は、まさに三次元の愚かさを凝縮したような光景だった。
だが、彼らの横にいた女性——シズ。
彼女はどうやら、この
いや、正確に言えば彼女の顔に張り付いた仮面だ。
彼女自身は、その仮面はただの仮面だと思っているかもしれない。
だが、私の目にはハッキリと見える。その白色の表面に張り付いた時間の悪臭が。
しかも、それは一度や二度じゃない。
数えきれないほどの分岐、数えきれないほどの絶望、数えきれないほどのやり直し……。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……!
レコードの針が同じ溝を削り続け、ついに盤面が突き破れるほど繰り返されたタイムループの残響だ。
未来から過去へ、過去から未来へ。
因果の糸を誰かが強引に結び直し、運命を無理やり繋ぎ止めてきた痕跡。
その仮面は、もはや単なるマジックアイテムではないだろう。
誰にも気づかれないほどの声で、私は呟く。
『……まさかこんな辺境の村で、私のような多次元的な重みを持つ骨董品と出会えるなんてね。あの仮面、一体どれほどの失敗した世界を見てきたんだろうね』
「ん?なんか言ったか、ビル」
『いや、なんでもないさ。...それよりも、ここに国を作ることが問題かどうか、聞いた方がいいんじゃないのか?』
「そうだな。えーと、見ての通り、ここに町を作っている途中なのだが、ギルド的には問題あると思うか?」
「いや…、大丈夫だろ?」
「そうねぇ…、ギルドが口出す問題じゃないしね。国はどうなんだろ?」
「うーん…、あっしには判りやせん」
テントの中の空気は、一見すると穏やかだった。
だが、私は知っていたよ。
温度計の針が振り切れる音が、私には聞こえていたんだ。
シズの体内で、分子が狂ったように暴走し、発火点を超えて加速している。
彼女が抱えているのは、一国の軍隊を数秒で灰にする、災厄そのものだ。
唐突に、静寂が引き裂かれた。
シズが、椅子から崩れ落ち、獣のような呻き声を上げる。
「ぐ、ぐぅぁあああああああああああああああああ!!!!!!」
ああ、いい声だ。
魂が限界を迎え、自分そのものを破壊する時の、あの美しい不協和音。
仮面の奥で押さえ込まれていた炎が、ついに外の世界の酸素を見つけたんだ。
『HAHAHAHAHAHAHA!さあ、待望のショータイムだ!』
私は指をパチンと鳴らす。
燃え上がるテントの壁に、巨大な三角形の影が映し出された。
その中心にある唯一の眼は、解き放たれようとする業火を、そしてパニックに陥る彼らたちを、恍惚と見つめていた。
その中心で、私は笑う。
『さあ、見せてくれよ。リムル』
この炎が——
君の箱庭を焼き払うのか。
それとも——
君自身を、別の何かに変えるのか。
『これは終わりであり、始まりだ』
一人の女の運命的な終焉。
一匹のスライムの変質。
『仮面を外して終わる者と、仮面を手に入れて始まる者、か』
そして——
『君はその灰の中から、新しい顔を拾うことになる』
影が消える。
『——君はもう、元に戻れない』
ああ、楽しみだよ。
物語はようやく、動き出した。
読んでいただきありがとうございました!
次の話もなるべく早く書けるようにします!
今後もよろしくお願いします!
どちらで進めるのがいいですか?
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書籍版の展開で!
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