開墾村。村はずれの森にて。
僕は畑仕事をほっぽり出して、親父殿のテイムモンスターであるタガヤシ丸(大型犬くらいの蟻)の背中で遊んでいたら転落した。頭を打って星を飛ばしてから目覚めると。
「思い……出した……!」
僕は前世でオタクだった。
特に人型に怪物的な要素。
角や翼、毛や尻尾、動物耳や鱗、尻尾から植物、虫から霊まで様々な要素をプラスされた二次元の女の子。『モンスター娘』と呼ばれるジャンル。
──ソレを病的に愛していたオタクだったことを思い出した!!
村で同世代だった活発な女の子を好ましく思っていた感情も霧が晴れたように吹き飛び……。
いや、そんな表現でいいのか僕。
それは晴れちゃいけない霧というか、正気だったのでないか?
そんな僕の名前はマース。
開拓地農家四男として生まれたようだ。
先ほどまで村の女の子が好きだった10歳にもならない子供だ。
とりあえず、モン娘サイコー!
「……いや本当に、これ思い出してよかったのか?」
何故そんなことを言い始めたかというと、どうやらこの世界は、前世でそれなりにやり込んでたゲーム世界かもしれないのだ。ああそうだ。モン娘の存在する世界かもしれない。
転げて惚けた僕の横で、心配そうに顔を寄せる巨大なクロアリのタガヤシ丸を見る。
間違いなくその造形は、かつてやっていたMMORPG『
通称『C3』と呼ばれていたゲームだ。
他に、何故その世界かと思ったかというと、村の外で経験したことの所為だ。
人の手が入らないエリアに行けば現れるモンスターがいる。
そいつ等、ことごとくゲームで見たことがあったんだよね。
さらに関連付けるなら、特有のアイテムのフレーバーテキスト*1が現実化してたり、家族が日常的に使っている設定的には存在した生活用の魔法なんかだろうか。
その存在達が『C3』世界だと、なおさら僕に裏付ける。
心配そう? 虫の表情? と、前世の自分なら思っていただろう。
だが、このC3世界でのモンスターはコミカルで感情が見えやすい。
何ならこの子には、家族に対する親愛の情だって持っている。
この世界で生まれたときからずっと一緒にいた存在だからね。
タガヤシ丸が僕の事を心配そうに取り乱しているのを、安心させるため立ち上がってぴょんぴょん跳ねて元気アピール。彼がホッと落ち着いたのを見て、僕はまた背中に乗り込む。
僕のその様子にタガヤシ丸も調子を取り戻し、音符を浮かべながらノシノシと散歩を再開した。
ほら、感情が分かりやすい。
僕は頭のたんこぶを摩りながら、再び思い出したことを咀嚼する。
第一にそのゲームのサービスはとても長く続いた。
といっても僕の前世で、途中でサービスを終了していたけど。
サービスが終了したのは、よくある理由だ。
ゲームが長く続いてシステムが複雑化してしまい、ライトなユーザーや初心者が増えず、同接プレイヤー数が減っていった。そして運営はユーザーが減り切ってしまう前に大団円のエンディングを迎えさせた。
最後まで残り続けたユーザー視点でも、運営はとても頑張っていた。しかし、最初に作ってしまった黎明期ネトゲ特有の低確率の装備強化システムだったり、高すぎる要求経験値だったり(効率的に1レベル上げるのに1か月以上かかる)、改善修正が追いついたは良いものの、昔からやっていたユーザーの優位性がなくなったりと人間離れが起きる悪循環を生み出した。
ちなみに、経験値改善のアップデートは、もろ手を挙げて賛同した僕だった。社会人の遊べる時間は少ないのだ。そのアップデートでそれまでにカンストしていたプレイヤーには『原初の英雄』という称号が贈られたりしたのがとても懐かしい。
「本当に、懐かしいなぁ」
「きゅイ?」
「タガヤシ丸の固有モンスター名は『デカント』だったよね?」
「キュ!」
そのゲームを彩る敵モンスター。
具体的には種族数13種からなる種族のモンスターが数々存在した。
あれぇ? 思ったより少なくない? と思うなかれ。
13種の中でも細分化が進み、約3000以上の存在が確認されていた。
……らしい。wikiによるとイベント戦などでしか存在しないモンスターとかもいたらしいので、僕もすべてを見たことがあるわけではない。
各ダンジョンやフィールドを彩りプレイヤーのレベル上げやアイテム集めの狩りの対象になる存在だったが、長く続くにつれ愛着がわいてくるのは人間のサガか?
最終的に、日本人的な擬人化的な美少女化だったり美男子化が発生し、後期のゲームを盛り上げてくれた!
そう、モン娘である!
その盛り上げの中で生まれたのがモンスターテイマーというJOBだ。
元々いたモンスターを使役したり、進化させたりとただの敵だったモンスターを味方にさせたりと人気JOBになった。
まぁなんでもモンスターを仲間に出来るわけじゃない仕様だったけどね。それでも某ポケット魔物やデジタル魔物くらい総数はいた。十分多いぜ。
「そのテイムモンスターがタガヤシ丸みたいな感じかねぇ。しっかし、運がいい。親父殿がテイマーだったらこの世界でもテイマーになりやすいかも……!」
僕も最終的にはテイマーがメインJOBとして、一角のネットゲーマーとして名を広めたものだ。
……PvPの害悪コンボの産みの親という悪名だったけれど今は良し。
どんな優良コンボもモラルのない人間に使われたら害悪になってしまうんや!
僕が特に好きだったテイマー以外にも色々と戦士系や魔法使い系などのもあり、それぞれのJOBにモーションや技にカッコイイやカワイイを詰めに詰め込んでいた。
自身の体を張っての戦闘を良しとする親だったら、テイマーの夢もたたれてもおかしくないからね。本当に親父殿がテイマーでよかった。
グラフィック、システム面やその他もろもろ一新の2が出てサービス終了したが、一定層からの人気があったせいでオフライン版のゲームが発売されるくらいは人気があったゲーム。ストーリーも個人的に好きだった。
当然、僕も買った。
正直、2よりそっちでオンラインではマナー違反でできなかった戦術とか色々試したりして、やりこんでいた。
「キュイ? キュイイ……?」
「うん? うーん、考え事してるだけだよ。よしよし」
「キュイ!」
普段、とても活発な僕が考え事に集中して、背中で騎乗した僕が無言でじっとしているのでタガヤシ丸が心配して声を上げてくれた。
デフォルメされてる大きなクロアリだからか、恐ろしさよりも可愛さが勝るな。
記憶が戻る前の僕が、生まれた時から一緒にいるモンスターだからというのもあるかもしれないが。
親父殿のタガヤシ丸(正式モンスター名はデカント)は、フォルムと特性や技にすら見覚えがある。
育てて進化させたことも当然ある。
特性は地属性物理攻撃にわずかに補正が掛かる奴。ステータスの防御補正が少し優れていたような気がする。
まー、進化Ⅱという序盤も序盤のモンスターなので、慣れたゲームプレイヤーなら1時間もかからず進化させて、さらにその先へと進化させていたので戦闘面で覚えていることはほとんどないけど。
ちなみに進化はⅠ~Ⅹまである。
つまり、基本的にモンスターは十段階の進化を行うのだ。
大体Ⅵくらいからモンスター娘だったり息子だったりする人形形態が増えていくぞ。
あらゆるニーズに応えられるようにされていたのか、まさに怪物と言わんばかりの造形の奴らとか、とても格好いいフォルムのモンスターもいたけどね。
「なぁタガヤシ丸ー」
「きゅぃ?」
「お前、進化したいー?」
デカントの進化Ⅲは、たしか三つあった。
レベルとアイテム使用で『ドデカント』。
一定モンスター討伐数とアイテム使用で『兵隊アーリー』。
特殊儀式で『鉄蟻』。
僕の言葉にタガヤシ丸は上下にぶんぶん頭を振る。
「きゅっ、キュー!」
「そっか。……そりゃそうだよな、お前俺が生まれてから姿変えてないもんなー」
タガヤシ丸はやる気満々で頭をぶんぶんと縦に振って俺の言葉に頷いた。
まぁそれはそうか。強くなれるなら誰だって強くなりたいもんな。モンスターだってきっとそうだ。
「虫種族の蟻系進化か……」
蟻系の最終進化形態だけでも十を越えるほど有る。
その中で、特に印象が強いのは『BriRe:アント』だろう。
──当然、モンスター娘だ!
BriRe:アントはキラキラピカピカが好きな姫騎士格好のテイムモンスター。
進化方法は、南の大陸マップにある亡都の戴冠室で進化Ⅸ虫種の蟻系モンスターに『煌びやかなティアラ』を使用すれば良い。ゲームでは比較的簡単な方法に入る進化だった。
まぁその方法が簡単なだけで、見た目の良い人気モンスターだったため『煌びやかなティアラ』は莫大な値段で取引されていたのはご愛敬。
亡都エリアのボスドロップで更にレアアイテム枠だったから、人の少なくなった後半は確保するのも大変で大変で……。
「でも、可愛いんだよなぁ……!」
鎧ドレスの見た目で、触覚付き四腕二足。
頭にピョコピョコ触覚、尻尾(正確には腹)付きの可愛い女の子だ! 尻尾はドレスでほとんどの時間隠れているけど、戦闘中のスキルモーションでチラ見せしてくるのが素晴らしい。自己火力強化のバフをそれなりに持ってるけど、基本ステータスが防御よりなので全体の中では火力がそれなり……。だがしかし、名のRe:を冠している通り超回復パッシブ持ちだったりするので主な運用は極大範囲スペルの多い長期戦やタンク寄りダメージディーラーが必要な場合に採用されることがあったりした。さらにモーションが全体的にあざとくて良い!! 頭の触覚がピョコピョコ動き、猫のように顔をくしくし洗い、待機モーションは武器を持っていない腕で、胸下腕組しているので胸が盛り上がってボリューミー! プレイヤーが放置され棒立ちになっていると『もうっ汚れてますわよ!』と汚れを払ってくれる。実に素晴らしいお姫様アリなのだ!! アリヴェデルチッ!!! (早口)
──そんなモンスター娘を実際に育てられる世界に来たのか僕は……!
「うへへ……。なるぜ、ていまー!」
「キュ〜イ!」
まぁそんなこんなで、農家四男。
──僕の僕による僕のための究極のモン娘育成始めるぜー!!
その旨を即行で帰宅して父に告げると!
「いや、お前は戦闘のために別なJOBにつけさせる予定だが? それとマース! お前畑仕事をサボったな! タガヤシ丸も連れて行きやがってぇぇ……!」
「いったあああああい!? ぐおおおおお!」
頂いたのは脳天にどでか衝撃。生まれるスーパーたんこぶ。
まぁこれは僕が悪い! でも痛い!
しばらく転げまわり、一連の流れを見て呆れた兄姉たちがこの場を去り、心配したタガヤシ丸がこちらに来た頃、脱力して天を仰ぐ。
「いてて、くっそー。職業選択の自由をくれ……!」
この世界。強いて言えば開拓村の子供は、一家の労働資源でした。
まぁ飯食わせて住ませてもらってるだけでも、ありがたいんだけどさ! 理屈はわかるんだけどさ!
「モンスター娘といちゃいちゃしたい……ッ!」
我ながら欲望に濡れた呆れた考えだ。
でもさ、実際に会えるなら会って触れてみたいだろ! 夢だったんだよ!
夢でしかなかった存在に会えるんだったら、僕はなんだってやれる気がするぜ!
んじゃ、とりあえず神様の啓示でも、夢で見た不思議な知識でも、そんな適当な説明でいいからやってみますか。
「タガヤシ丸、進化だ!」
「きゅ、キュイ〜!?」
自分の有用性を証明しよう。
そうすれば、話を聞いてくれるとっかかりにならないかなぁ。テイマーになれなかったら話にならない。
そんなことして大丈夫かって?
うちの親は子供をフルで労働力に使うあたり、金の卵を産む鶏を絞め殺すほど馬鹿でもない。
それにタガヤシ丸は可愛くて好きだから。
僕の無茶振りに、今目を回して前足で頭を抱えているタガヤシ丸かわゆす。
「それに、もしも大丈夫じゃなかったら……」
……どうしても融通が利かない場合に逃げればいいさ。
幸いなことにこの村は開拓村だ。
人口は少なく、人の出入りも少ない集落だから、子供の僕が今日みたいにサボりも上手く出来たりする。
外のモンスターは多いし、子供の自分じゃ太刀打ちできそうにないが、敵を避けるアイテムの存在なんかも知ってるからね。
計画をうまく立てれば逃げ出すことも出来そう。……その時はデカくなってから恩返しに来ればいいさ。
「おおう、なーんだ!」
タガヤシ丸に抱き着きながら、僕は笑う。
──バラ色人生始まったな! 前世思い出してよかったー!
そんなこんなで前世を思い出した僕の異世界生活は始まるのだった。
その後、衛生トイレ事情や水食事事情に絶望する元日本人の姿があったりするのだが、さもありなん。