父と別れた後の話だ。
僕はタガヤシ丸と帰路につく。
「さて進化の許可はもらったから、進化させるんだけど……」
C3のテイムモンスター進化にはほぼ確実にアイテム使用の条件が存在していた。
それは、プレイユーザーがきちんと進化先を選べるようにするためである。
具体的には戦闘回数、ステータス、クエスト成功回数など多少細かくあるが、進化先の条件を達成させる。その後、進化させたいモンスターのためのアイテムを使用するのだ。
今回のデカントをドデカントにするためには『蟻酸』というアイテムを使用し、そして兵隊アーリーには『破損した武器』と呼ばれるアイテムが必要になる。
「……冷静に考えたら『蟻酸』のほうが集めにくいから、『兵隊アーリー』でよかったかも」
MMORPGでの『蟻酸』は、東大陸の山岳フィールドに出現するモンスターである蟻系モンスター。それこそデカントだったりドデカントなんかを倒せばドロップするアイテム。そして、『破損した武器』は各地のスケルトン系やコボルト系、ゴブリン系など武器持っているモンスターがドロップするアイテム。
間違いなく、後者の方が間違いなく手に入りやすいアイテムだった。
前世を思い出したけれど、この世界の記憶が消えたわけではないので理解しているが、ドロップアイテムなんてシステムは存在しない。モンスターを倒してもその遺体が残るだけだ。
それをうまく剥いだり、持っていたものを持ち帰ったりすることで、人類は発展していっているようだ。
……上記の話を出したが、ちぐはぐな話でモンスターはどこからともなく現れることもある。特に死霊種や妖怪種の発生が顕著らしい。
もう僕にはわけわかんない……。
そういうものだと世間では受け入れられているが、この世界を冒険するなら、何処からモンスターが現れるのか解き明かしたいものである。
ちなみに、この世界の遊びたくて早く寝ない子にはゴーストがさらいに来るぞ! と脅かす文言があったりする。
うん。どの世界でも万国共通だなぁと感心する反面、この世界だとマジで現れる可能性があるので大分ブラックなセリフだと思っている。
と、思考が逸れた。
さて、上記の事を踏まえると『蟻酸』は蟻系モンスターを倒して、それを解体して集める必要が出てくる。
それと仮にアイテムだった『蟻酸』が、前世で言う蟻酸*1だとしても僕はそんなものの作り方など知らない。
「システム的に、同じ種族から進化先のアイテムがドロップするのは普通だと思っていたけど、冷静に考えたら同族狩りで共食いやんけ……」
え、やせいのつよいもんすたーってもしかして……、ちょっと僕は怖くなった。
そんな風に考えていると、いつの間にかタガヤシ丸が僕を家へと運び終えるところだった。
「あ、タガヤシ丸。ちょっと畑の納屋のほうへ行ってよー」
「きゅい? きゅきゅっ」
「え、ダメ? ああー、とーちゃんに連れて帰るように命令されてたんだっけ……」
父とタガヤシ丸はしっかりと上下関係があるパートナーなので、父が命令と言ったら必ず遂行するように行動する。
嫌なものは嫌だと反抗するモンスターもいるので、この辺はテイマーの実力だ。
僕はにやりと笑う。
「じゃあ、家に一瞬入ったら畑の納屋にゴー!」
「きゅ……? きゅ!」
タガヤシ丸は少し悩むように頭を傾けて、心得たとばかりに大きくうなずいた。
許された。タガヤシ丸は結構融通が利くのだ。
うむうむ。
可愛いので、ナデナデしてやろう。
◇
「よし納屋にやってきましたよ、っと! タガヤシ丸ちょっと待っててねー」
「きゅい~!」
子供の手では開けにくい扉を、ぐっぐっ! と力を入れて開く。
ここは家からすぐそこにある畑の納屋だ。
中には畑で使うような道具や藁敷用の藁だったり、何に使うのかわからないような道具がたくさん収まっている。
僕は物色しながら、納屋の奥の方へと進んでいく。
さて先ほど『蟻酸』の話をしたが、今度は『破損した武器』と呼ばれるアイテムの説明をしよう。
『破損した武器』はゲーム内で武器を持っている見た目のモンスターなどが落とすアイテムだった。
フレーバーテキストは共通して『ボロボロで使用することが出来なくなった粗末な武器』と書かれていた。
テキストから考えるに、壊れていて粗末でとても使用に耐えられなさそうな武器なら問題なさそうということ。
逆にまだ使えそうな武器だと怪しい気がするって感じかな?
そうして普段使いしていないものが置かれている奥の方へ、物が雑然として置かれて片付いていない場所へとたどり着いた。
うへぇ蜘蛛の巣はってらぁ。
「この辺だっけ……。ええと……、あった!」
でっかい蜘蛛の巣を物おじせずにはらい、土ぼこりまみれのソレを握りしめる。
木でできた
それは畑を耕すために使うモノ。
木でできたこのクワは、ずいぶん長いこと放置されていたのだろう。もしも大人が握って土を耕そうものならベキリと圧し折れてそうなほど腐りかけている。
農具は武器ではない。そう思うだろうが……。
「ふふーん、C3では武器として使えたんだよねぇ。まぁ玩具みたいなもんだけど」
ほぼ見た目だけのパーティグッズではあったが、間違いなく武器だった。
設定では武器種斧で登録されており、戦士JOBなどの斧スキルを使うことも出来たのだ。というか農家ってJOBもあったからね。鎌どころか移植ゴテすら武器として存在した。
なので、これがC3世界で武器判定になっていないとおかしい。
それに音楽祭イベントや正月イベントの楽器スケルトンや羽子板コボルトというモンスターも、この『破損した武器』と呼ばれたアイテムを落とすので、まぁ大丈夫だと思う。
「もしだめでも次を試せば……っくしゅん! 埃臭い……」
だめだこれ以上ここにいると鼻の中が真っ黒になる。
考え事は外に出てからしよう。
いやぁ、昔サボり逃げ場所として納屋の中を探索した時に見つけといてよかったぜ! ナイス過去の僕!
「ただいまー」
「キュイ」
タガヤシ丸は僕が持ってきた腐りかけクワを不思議そうに眺めている。
「よし、これでタガヤシ丸を進化させるぞー」
『兵隊アーリー』の進化条件は、モンスター討伐数50体以上で『破損した武器』を使用する事。
この討伐数50体以上というのは、実はテイマーが倒したモンスター数もカウントされている。
なので普段から村に降りてくるモンスターだったり、開墾作業中に現れるモンスターをぼっこぼこにしているタガヤシ丸と父コンビなら余裕で突破しているだろう。
「……僕が生まれたころからこの姿だもん。超えてないはずないよ」
少し寂しい気持ちになる。
タガヤシ丸のこの姿も見納めか……。ちょっと父に悪い気がするな。
まぁ言質は取った。先に行動して、先手を打つ。
これも全て。
「僕がテイマーになるためにー……!」
タガヤシ丸の頭を撫でて、僕は大きく息を吸って気合を入れる。
「──よし、進化だ! タガヤシ丸ゥ!!」
「キュイキュイキュイィイイイー!」
僕は腐りかけクワを両手で持ち上げて叫んだ!
そしてタガヤシ丸も気合を入れて前足を持ち上げ……!
……。
…………。
…………………………あれぇ?
「きゅ~……?」
眼前には困惑した様子のタガヤシ丸が。
おろおろと触角と前足を揺らしていた。
何も変わんねぇ。
このアイテムじゃダメってことか……?
あっ。
僕は一つ気が付いて、息を吸って疑問を吐き出す。
「スゥー……、アイテムの使用ってなんだぁ?」
僕は手に持った鍬を見つめて困惑する。
ゲームの時だったら、インベントリのアイテムを二回クリックすれば使えたよな、と思い至りツンツンとつついてみる。
ちらりとタガヤシ丸を見る。
何も変わらないねぇ……。
というか、アイテムの使用ってなんだ……?
抽象的過ぎるだろ。何言ってんだ僕は。
現実でご飯食べるときにアイテムを使用するぜ! とか言わないもんな。言ってたら頭の心配をするよ。
せいぜいカードゲームで遊ぶときに、このアイテムを使用するぜ! コンボ攻撃だぜ! ってする時くらいだ。
「コンボ攻撃だぜ!」
「きゅ、きゅ……?」
タガヤシ丸に突き出しながらやってみたが、変わるわけもなく。
タガヤシ丸の混乱は深まったぜ!
腕組みして悩み……。
「あ、『兵隊アーリー』って手に槍を持ってたよなー」
閃く。頭の上に電球マークが灯った。
次の進化である『兵隊アーリー』は軍隊アリをモチーフにしたモンスター。それをファンタジーに落とし込んだ感じで軍隊が兵隊となり、姿のイメージとしては不思議の国のトランプ兵のアリ版という感じだ。
つまり手に武器を持っている。
「それじゃさっそく持たせてみますか」
混乱していそうなタガヤシ丸の前足を掴んで、腐りかけクワを持たせるようにしてやると。
――今度こそ、タガヤシ丸の姿が光を帯び始めた!
「よし、成功した! ゲームで見た進化の光だ!」
よし、これで『デカント』だったタガヤシ丸は、武器を持った『兵隊アーリー』に進化する! アイテムの使用ってそういう感じかー!
何度も頷く僕の視線は、光り輝くタガヤシ丸の全身へ向いて……。
──そして、はたと気が付いた。
僕の視線の先は、タガヤシ丸の前足にあるクワへと動く。
武器+『デカント』→『兵隊アーリー』の公式ならば。
この先に出来るのは槍持ちの兵隊アーリーではなく、兵隊だけどクワ持ちアーリーになるのでは??? (宇宙猫顔)
「わああ、流石にとーちゃんに怒られる!? BBBBBBBBBBBBBBBィー!!」
伝説の進化キャンセルの呪文をタガヤシ丸の前で僕は必至で唱えた! だが残念なことにC3にはそんなもの実装されていない。
無情にも光が収まる。
そして光の中から現れたのは。
「よ、よかった……! ちゃんと槍持ちアーリーだ。クワ持ちアーリーなんて存在しなかったんだ……」
「きゅいっきゅいー! きゅきゅっ!」
僕はその場にへたり込んだ。
その眼前で自分の姿が変わったことに感動するように、音符を出しながら飛び跳ねるタガヤシ丸。
やっぱこの世界って、どっかシステムチックな部分あるなと大きくため息。
僕はその名の通りガチモンのタガヤシ丸が誕生しなかったことに心の底から安堵する。
そして、僕も笑みを浮かべて喜びを分かち合おうと、はしゃぐタガヤシ丸に飛びつくのだった。
感想ありがとうございます。