【20】
「クリスタ、目は覚めたかい?」
「おはようクリスタ。起きた?」
懐かしい声の呼びかけにクリスタは覚醒する。
「ミカサ……?アルミン……?」
彼女は医務室の病床から身体を起こした。
「ごめん……寝坊しちゃったみたい。ママは……カルラさんはもう夕飯の準備してるの? 早く手伝わなきゃ……いてっ」
目の焦点が合っていないクリスタをミカサが小突いた。
「ここは家じゃない。私たちはもう兵士になった。あなたは暑さにやられて今は医務室にいる」
「もしかして記憶障害? だとしたら大問題だけど……」
「ご、ごめんなさい。寝ぼけてただけでふ……」
「……『ふ』?」
「『ふ』って言ったね」
ミカサとアルミンは互いに顔を見合わせ、ため息をついた。クリスタは自分の顔に熱が溜まっていくのを感じ、手で扇いだ。
「あはは、久しぶりだね二人とも……あれ、エレンはいないの?」
違和感を感じたクリスタは常に三人でいる彼らのうちエレンがいないことに気づく。
「エレンはつい先ほどまでいたけど、今は食堂にいる。クリスタの分は持ってきたからここで食べて」
なおエレンは現在、周囲の人間から超大型巨人に関して質問攻めにあっていた。
「それじゃあ僕たちは行くよ。話したいことはたくさんあるけど、取り敢えず元気そうで良かった。今日はゆっくり休んで」
そう言うとミカサとアルミンは部屋を出た。クリスタが隣の机に目を移すとトレイがあり、スープとパンが用意されていた。
「もう、二人とも変わらないなぁ」
二人の中でクリスタは相変わらず末っ子枠なのだろう。根が甘えん坊気質なクリスタはその扱いが嫌ではなかった。
「しかもパンが2つも……うん?」
ダン、と窓を外から叩く音が聞こえる。外は暗くてよく見えない。クリスタは手元のランプを窓に近づいてみた。
「ひっ……」
そこにいたのはよだれを垂らしこちらを見つめる巨人──ではなく腹をすかせて憔悴しきったサシャ・ブラウスであった。
「ゆっくり噛んでね、お水もしっかり飲んで。明日から訓練なんだから……」
自分の食事を済ましたクリスタはサシャにパンと水を恵んでいた。
「あ゙り゙がどゔござい゙ま゙ず女゙神゙様゙!」
「あぁこら、鼻水出てる。あなたも一応めす……女の子なんだからね」
ハンカチで顔を拭う。クリスタはまるで捨てられていたペットの世話をしているような感覚だった。
『クリスタ、軽率に獣を拾うのはよくありませんよ』
「うぅ、こげえ優しゅうされたん初めてぇ……。あんたは命の恩人、一生ついち行くばい!」
「あはは……」
ガツガツと野生味溢れる食事風景を見せつけてくるサシャに対しクリスタは乾いた笑い声を零した。これまでクリスタが接したことのあるどの人物とも違うタイプの人間であるサシャに彼女は気圧されていた。牧場出身で動物に好かれやすい性質がここでも発動してしまったのだろう。
「おい」
クリスタがサシャの奇行に翻弄されていると暗がりから声をかけられた。
「お前、今良いことしただろ。それはどうしてだ? その行動に見合った対価は得られたのか?」
声をかけてきたのはスラリとした体型で、そばかすが特徴的な少女だった。これまで隠れて覗き見していたらしい。
シャルルはユミルの名前に違和感を覚えたが、取り敢えずは偶然の一致だと思うことにした。
「……対価とかはあまり考えてないかな」
少し考えた上でクリスタは答えた。そのまま膝の上で眠り始めたサシャの頭を撫でる。
「私は昔、命を救われたんだ。だから私も誰かを救いたい。そうして救いの手を繋げていけば、いつか私の見たい素敵な世界が実現するって思うから」
言葉を止めて、クリスタはサシャの肩を担ぎ持ち上げた。
「だからこれは、もうこの世にいない人への恩返しでもあり、私のためでもあるの。それに、これがきっかけで友達になれるかもしれないしね」
「……ふがっ」
そうクリスタが微笑むとサシャは返事なのか寝言なのか、豚の鳴き声のような声を発した。夢の中で猪狩りでもしてるのだろう。
「へぇ、こいつは驚いた。意外と男気あるんだな、お前」
そう言うとそばかすの少女、ユミルはクリスタとは反対側の肩を担いだ。
「男気って……私は女の子なんだけどな。というか、あなたも手伝ってくれるの?」
「勘違いするなよ。こいつに恩を着せて都合良く使うためだ──いや、やっぱり勘違いしろ。私は超絶親切で優しいユミル様だ、だから私と結婚してくれ『クリスタ』」
先ほどまで露悪的でニヒルな笑みを浮かべていたユミルは打って変わってクリスタに対しわざとらしく明るい笑顔を見せた。
「結婚? いやだから、私は女の子って……なんだか変な人たちに絡まれちゃったかも」
『……やはり獣を拾うと碌なことになりません。ちゃんと自分で面倒を見てくださいね?』
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