やわらか不戦の契り   作:妄想壁の崩壊

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これの次からトロスト区戦です。この話を書き始めたのはマーレ編で書きたいシーンがあったからなんですけどね。道は長いね。


訓練兵団6

【24】

 

「──わっ! 三人とも何してるの?」

 

小走りで三人の背中に近寄ったクリスタは悪戯心で脅かしてみた。

 

「お、脅かすなよクリスタ」

 

「びっくりした……」

 

路地の階段に座り黙って星を眺めていたエレン、アルミンの二人は背後から近づいてきたクリスタに驚く。なお、隣にいたミカサは気配に気づいていたため特別反応はしなかった。

 

「私たちの将来の話をしていた。つまり、どの兵団に行くかについて」

 

そうミカサが言う。104期訓練兵はこの日に卒業を迎え、所属する兵団を選ぶ日が目の前に迫っていた。多くの場合3つの兵団のうちエリートは憲兵団へ、英雄気取りと変人は調査兵団へ、その他の凡人は駐屯兵団へ所属するのが通例である。

 

「そっか。遅れたけどエレンもミカサも成績10位以内おめでとう。一応聞くけど憲兵団には行くの?」

 

「いや、俺たちは調査兵団に行くつもりだ」

 

「やっぱり、昔から言ってたもんね」

 

クリスタとしては予想通りの回答であった。反対はしない。しかし、近頃トロスト区内にて再就職したカルラを思えば内心ため息をつかざるを得なかった。きっと心配をかけるのだろう。

 

トロスト区は外壁でしかも南区。調査兵団は5年前よりここから壁外調査へと向かっている。自分の住む街で息子の生き死にを見守るのは辛いことだろう。

 

「クリスタはもう決まった? 憲兵……はダメなんだった。やっぱり駐屯兵団かな?」

 

アルミンが問う。クリスタの成績順位はギリギリ11位であり、10位の座はユミルが座っていた。ユミルとクリスタの間で熾烈な10位の譲り合い(競り合いではない)があったが、結果は上記の通りである。

 

これには理由があり、クリスタは個人成績よりも全体の練度向上や成績下位者の世話を積極的に行ったため順位が下がってしまったのだ。総合能力自体で言えば他の成績優秀者とそう変わらないはずである。そしてそれは敢えて順位を下げようとしたユミルにも言える。

 

「ううん、私も調査兵団に入るよ」

 

「本気か? まさかお前まで俺を死なせないためとか言うんじゃないだろうな」

 

きっとミカサにそう言われたのだろう。鬱陶しそうに言うがミカサの気持ちももっともだ。最愛の人が戦地に行くのを止めない女がいるだろうか。少なくともクリスタの知る物語には存在しない。そしてクリスタもその立場ならきっとそうしただろう。

 

「違う。私にも夢があるの。エレンたちが壁の外を夢見るように、この壁の中の世界を変えたい、そういう夢がね。それに、エレンは私が守らなくったって大丈夫だよ。私より成績が上なんだから」

 

「そうか……ありがとな」

 

「壁の中を変える……すごく壮大な夢だね」

 

「壁の中を変えるなら駐屯兵団を経由して憲兵団を目指したほうが良いのでは?」

 

ミカサが当然の疑問を呈する。新兵から憲兵団に入団できるのは成績上位10名のみであるが、駐屯兵団にて実績を積めば憲兵に繰り上がることができるのだ。そのため兵団のヒエラルキーはそのまま憲兵団が上位、駐屯兵団が下位に位置付けられている。

 

なお、さらにその上が中央憲兵で、真横でぶらぶらと揺れているのが調査兵団だった。メトロノームな自由の翼である。

 

「昇進を待ってたらその時に三人が生きてるかなんて分からないでしょ。私はみんなと一緒に新しい世界を迎えたいの。ウォールマリアを奪還すれば、三兵団の中で調査兵団が最も発言力を持つことになる。それを五年以内に達成するのが私の夢への第一歩ってわけ!」

 

「本当に壮大な夢だね」

 

「よし、なら俺は五年以内に巨人を全部駆逐する! そして、海を見る! そのために、お前ら三人の力を貸してくれ」

 

エレンはそう言って決意表明をし、空を流れる星に誓った。

 

一方、対照的にクリスタの心の内は沈んでいた。クリスタが明確に5年以内と付け加えたのはユミルの呪いのせいだ。

 

(私に残された寿命はあと8年。それまでに、シャルが夢見た世界を実現させて見せるんだから……!)

 

……若くして散る運命を受け入れるには、まだ全然時間が足りないだろうに。

 

クリスタの心を無遠慮にも感じ取ってしまったシャルルは思考する。

 

(ユミルの呪いを解くためには、始祖ユミルの心を理解しないといけない。しかし、100年間できなかったことが、もう8年の内に達成できるでしょうか? いや、やるしかない。何が何でも……)

 

かくして、各々が新たな目標を胸に刻み翌日を迎えることとなる。

 

【25】

 

翌日。調査兵団が第56回壁外調査へ出かけたあとだ。つい先ほどまでトロスト区を覆っていた熱狂は霧散し平静を取り戻している。

 

クリスタはユミルと共にトロスト区内を巡回していた。

 

「なあ、お姉さん。俺たち今晩食う飯も無いんだよ。何か恵んでおくれ」

 

「ごめんなさい。今は職務中だから……それに生活に困ったなら、ウォール教の教会に向かうと良いよ?」

 

「ちぇっ……給料泥棒のクセにケチ臭いやつ」

 

期待した反応ではなかったのだろう。路地にて話しかけてきた薄汚れた少年は、そう言って去っていった。

 

「ふぅ……あれ、どうしたのユミル?」

 

「いや? 心優しいクリスタなのに恵んでやらなくて良かったのかと思ってな」

 

「あれは子供を利用した物乞いだからね。何かを渡しても元締めの大人に行くだけで根本的解決にならないよ。それより今は、職務を全うしないと」

 

おそらくはウォールマリア陥落後に避難してきた避難民なのだろう。だがもう五年もたった。シャルルが裏にいる王政はそこまで無能ではない。本当に困窮していれば前述の通りウォール教から支援を受ければ良いだけなのだが……彼らは物乞いに味を占めてしまったのだろう。

 

それは個人の性質ではなく、きっと環境がそうさせたのだ。そう思いクリスタ及びシャルルは心の内のやることリストに新たな項目を書き加えた。

 

「ふうん……しかし、そんな真面目にやらなくったって良いんじゃないか? 事件なんて起きやしないだろ」

 

「何言ってるの、ちゃんとシャキッとして。私たちは今や兵士として周りから見られてるんだから」

 

そうして表街道を歩いていると、クリスタは懐かしい顔に会った。

 

「クリスタ……?」

 

「マっ……カルラさん。お久しぶりです!」

 

「ええ、半年ぶりね。いなくなったときは驚いたわ。それにしても、すっかり大きくなって……」

 

「わわっ、ちょっと! 見られてますから……!」

 

カルラに抱き締められたクリスタは慌てて振りほどく。周囲からの注目を浴びていることに気づき赤面した。

 

「ごめんなさい、つい感極まってしまって。子どもはすぐに大きくなってしまうものね」

 

クリスタは身だしなみを整える。

 

「その、エレンの話は聞きましたか? 調査兵団志望って……」

 

「……今でも私は反対よ。でも、エレンももう子供じゃないのだから。とやかくは言いません。生きて帰ってくるか、せめて笑える死に方であって欲しいわね」

 

そう言って茶化すカルラであったが、その憂いを帯びた表情からは息子を心配する心情がありありと見て取れた。

 

「ところでお隣の彼女はお友達?」

 

「はじめましてお義母様、私はユミル。クリスタと婚約してます」

 

「しーてーまーせーんッ! ふざけてないで、巡回行くよ。またね、カルラさん。非番ができたら会いに行くから」

 

「あら、ありがとう。なら今度エレンに爪の垢を煎じて飲ませてあげてちょうだい。じゃないと早死にしそうだから」

 

「あはは、たしかに。それじゃあまた──」

 

そう言って立ち去ろうとしたとき、喧騒の中でもはっきりと、鳥が一斉に羽ばたく音が聞こえた。

 

クリスタが異常を察した次の瞬間。壁の向こう側に雷が落ちた。カルラは思う、それはあの日と同じ晴天の霹靂であった。

 

そしてその場で、奇しくも同じ力を持つ者同士だったクリスタとユミルはそれを瞬時に理解し、声を上げた。

 

「全員! 頭を低くしろ!」

 

「ママ──伏せてッ!」

 

次いで、轟音と暴風が街を襲った。

 




カルラさん生き残ったけれど息子とその友達は全員調査兵団入るし、せっかく社会復帰したと思ったらまた壁壊されるしで、なんかだいぶお労しい感じになってしもてる。誰がこんな酷いこ(以下略)。

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