やわらか不戦の契り   作:妄想壁の崩壊

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前回のあらすじ:子鹿をいじめた。


トロスト区3

【27】

 

中央憲兵の部隊を引き連れトロスト区市街に再び降り立つクリスタ。付き従う面々の顔に彼女は見覚えがあった。その理由は半年間の修行の間、彼らが立体機動の指南役だったからだ。

 

道中巨人と遭遇することが何度かあったが、緻密な連携を駆使して何とかこの場所までたどり着いた。

 

「クリスタ様、大丈夫ですか?」

 

「私は大丈夫、みんなは?」

 

「全員無事です。問題ありません」

 

「そう。ごめんなさい、私たちに付き合わせて……」

 

この作戦が許可されたのは彼らがキッツに圧力をかけてくれたおかげである。シャルルは壁が壊されて以降、全壁内に中央憲兵とウォール教の目を張り巡らせていた。そして今、その網は他の兵団内部まで伸びている。

 

「クリスタ様。我々は百年もの間、王と共に戦うことを待っていたのです。後悔などありません」

 

部隊のうち一人がそう答える。彼は幼少の頃を貧しい環境で過ごし、ウォール教に拾われ、兵士となり、憲兵に入って、中央憲兵へと至った。中央憲兵には彼のような者が多かった。即ち王に救われた者だ。

 

彼らは王の思想に一定の理解を示しつつも、何もしない状況を歯がゆく思っていた。それが今、王と意思を共にし戦うことができるようになり、こうして中央憲兵はあらゆる場所で精力的に活動しているのだ。

 

『ウォォォォォォ──ッ!』

 

「っ!? 今の声は!?」

 

警戒とともに抜剣する一同。怒れる咆哮が大地を揺らす。

 

「私はあちらに向かいます。いずれ、その献身に報いると誓いましょう。先に本部へ向かいなさい。後に合流します」

 

「しかしクリスタ様……いえ、承知しました。ご無事で!」

 

彼らは皆一様に心臓を捧げ、巨人群がる本部へと飛び立った。

 

【28】

 

「ミカサ! アルミン! それにコニーも……良かった、無事だったんだね」

 

「クリスタ、どうしてここに……」

 

クリスタが向かった先にはガスを切らし家屋の屋上を走るしかなくなった三人の姿があった。

 

「あの巨人の声が聞こえたから来てみたの。あとこれ、少ないかもだけど補給物資を持ってきたから」

 

背負った荷物を下ろし、見せつけるようにボンベを小突いた。

 

「まじかよ、助かったぜ。これで壁を登れる! お前ってホント良いやつだよな、クリスタ。ジャンと違ってよ!」

 

「いや、コニー。さっき話した通り本部へ向かおう。補給はミカサが優先的に受けるんだ」

 

「な、なんでだよ? これがあれば少なくとも俺たちは確実に帰れるんだぜ」

 

「ごめん。でも僕は、より多くが助かる方に賭けたいんだ。クリスタ、君にも協力してほしいことがあるんだけど」

 

そう言うとアルミンはある作戦について語った。咆哮の主、巨人を殺す奇行種を使って本部に至る作戦を。

 

『おそらく、あの巨人は知性巨人でしょう。エレン・イェーガー……意思がないところを見るに初めての巨人化ですね。彼が無垢の巨人に敗北することは避けなければなりません。協力しましょう、クリスタ』

 

「わかった、私も戦う。行くよミカサ!」

 

「……分かった。ついて行こう」

 

「ま、待って。戦闘はミカサを軸にみんなで援護を……って」

 

クリスタは補給を終えたミカサを連れて飛び出した。そして蔓延る巨人の腱、目、腕の筋肉を切り動きを止める。続くミカサは最速でうなじに直行し、瞬く間に周囲の巨人は殲滅された。

 

「マジかよあいつ……ほんとにクリスタか? 俺の知ってるクリスタはもっとこう、優秀だけど後ろに控えてていざというときに助けてくれる存在だったんだが……」

 

コニーの評価も間違いではない。彼女の訓練兵団における振る舞いはまさしくそれだった。

 

「もともとクリスタは強いよ。格闘訓練ではエレンもミカサも負け越してるし 。適性訓練のときも全くブレがなかった。きっと力を隠してたんだと思う。それが何故かは分からないけど、今はそれを考えてる暇はない。僕たちも後を追おう」

 

四人と一体の巨人は本部へと進む。

 

一方、別の場所でもまた本部に向かう集団がいた。ミカサに焚きつけられ、ジャンの指示により残り僅かなガスをふかす訓練兵たちである。

 

本部周辺の巨人の群れをかき分けながら進むジャンの横で、一人の兵士が巨人に捕まった。

 

(クソっ……)

 

ジャンは自分の指示で味方を死なせたことと、捕まったやつの運がなかったことに悪態をつきつつ、それが自分ではなかったことに安堵する。

 

そして彼が本部へと突入する直前、壁に張り付く巨人を屠る人影が見えた。翻るマントには見えるのは、王に仕える一角獣の印。

 

(あれは憲兵団か? なんでこんなところに……いや、なんだって良い。腕の立つ味方がいるなら、少しは未来が見えてきたぞッ!)

 

ジャンは弱者だ。だからこそ彼らがいる事実が希望に繋がると正確に読み取る。そしてジャンを含め、生き残った面々は窓を突き破り本部へと突入した。

 

【29】

 

奇行種を連れたミカサ、アルミン、コニー、クリスタは遅れながら本部へと到着した。唖然とする面々に巨人のことを説明する。

 

「巨人に助けてもらう、だと……? そんな、夢みたいな話……」

 

ジャンのセリフが皆の心を代弁する。そして事実を飲み込めないうちに、割れた窓から憲兵が入ってきた。

 

「中にいる者は無事か? 多いな……。これでは持ってきた物資では足りないぞ……それに、全員新兵じゃないか。駐屯兵団は何をやっていたんだ」

 

「あなたたちは……?」

 

アルミンが問う。憲兵は一瞬クリスタを見た。見られていることに気づいたクリスタは瞬時に理解し、沈黙の合図を送った。

 

「ここにいる我々は救援だ。もっとも、四人しかいないがな。さて、全員を救う秘策がある者はいるか? いるなら手を貸そう。我ら中央第一憲兵の精鋭の手をな」

 

戸惑う未熟な訓練兵たちを前に、王に仕える騎士たち四人は心臓を捧げた。

 

かくして、アルミンの発案により補給室の掃討は成されることになる。実行に中央憲兵の彼らの力を借りたおかげか、危なげなく巨人を討伐することができた。

 

「すごいな。憲兵なんて威張り散らすことしか能がないと思ってたけど、あんな人たちもいるんだ。僕の作戦にも黙って従ってくれたし……」

 

ガスを補給しながらアルミンはそう呟く。しかし、その呟きは聞かれていたようだ。

 

「ほーう? 訓練兵。お前名前は?」

 

「あ、ご、ごめんなさい……っ! 決して侮辱するつもりはなくて」

 

「構わないぞ、事実だし。憲兵団のほとんどは威張るしか能がない。俺たち中央憲兵と違ってな」

 

男は誇らしげに胸の印章を叩いた。するともう一人の憲兵が慌てて止めに入る。

 

「おい……あまりペラペラと喋るな。規律違反だぞ。秘匿を忘れたのか」

 

「良いだろ、少しくらいは。俺たちは常に同志を求めているし、せっかく生き残った未来ある若者たちにもチャンスくらいあるべきだ。それに、俺たちには権限があるだろう。ほら、『スカウト』のな」

 

その瞬間、補給を行っていた新兵たちがざわめいた。これまで憲兵になるには成績上位者か、駐屯兵団を経由する道しかないと思われていた。だが、彼の言うことが本当なら、自分も内地に行くチャンスをつかめるかもしれない……と。

 

「言っておくが! 内地に行きたいなどとふざけた心持ちのやつは中央憲兵には絶対なれないからな!」

 

そう新兵たちに釘を刺すが、それでも二人の兵士が男のもとに近づいた。

 

「あの、質問よろしいでしょうか」

 

「私も、聞きたいことがあります」

 

「おい、俺は止めたぞ。減給されても知らないからな!」

 

一人はそう忠告し去っていく。

 

「分かってるよ……それで、お前たちの名前は?」

 

「マルコ・ボットです!」

 

「アニ・レオンハートです」

 

互いに異なる理由で憲兵を目指す二人が敬礼をした。片や王に仕えるため。片や王を奪うため。王に近づく新たな道を二人が放っておけるはずがなかった。

 

「そうか、ではお前から言ってみろ」

 

「はい、そもそも中央憲兵とは何なのでしょうか? 浅学にして聞き覚えがなく……」

 

「そうだな……一般の憲兵は王に仕えるとは言うが、その実仕えてる相手は政府だ。そして中央憲兵は違う。あとは言わずとも分かるな? それで、お前は?」

 

──バキッ!

 

「どうしたのクリスタ?」

 

「ごめん、ちょっと力んじゃったみたい……」

 

ミカサの問いにそう答えるクリスタ。彼女の握っていたボンベのつまみはへし折れていた。

 

「私が聞きたいのは一つ──条件は?」

 

「地位も立場も問わない。必要なのは意思と能力と忠誠心だけだ。そしてそれを王自らか、あるいは中央憲兵の誰かに見初められること。例えばさっきのお堅いあいつは憲兵団上がりだが、俺は駐屯兵団出身、そして向こうにいる二人は調査兵団出身だ。だよな!」

 

──プシュッ!

 

「クリスタ? 落ち着いて。もう私たちは助かったの。あとは壁を登るだけだから」

 

「ご、ごめん。爪を立てちゃったみたい……」

 

「爪……? それはスチールでできてる上に内圧がかかっていたはず。さすがにそれは私でも……」

 

「──なんでしょう。ミカサ・アッカーマン?」

 

「……なんでもない。予備を渡そう」

 

「ありがとうございます」

 

ミカサは困惑したまま視線を下におろす。クリスタの持つボンベには穴があき、ガス漏れが発生してしまっていた。彼女は急いで予備のものと取り換える。

 

「うるさい。こっちを巻き込まないで」

 

「王に見捨てられても知らんぞ、俺は」

 

一方言及された二人。フードで顔を隠し知らないフリをしていた憲兵の二人はそう答えた。

 

「そう言う意味ならお前は良いな。先ほど見ていたが頭は切れるし統率力もある。あとは忠誠心次第だが、どうだ? 王は普段はお隠れになっているが、仕えがいのある御人だぞ」

 

「えっ……僕!? 一応、調査兵団志望なので。検討だけしておきます……」

 

──パコーンッ!

 

握られたガスボンベはその内圧に耐えられず、詮が勢いよく飛び出しレンガの壁に深く穴ができた。

 

「ふ、ふふふ……喋りすぎですね……ふふ。言及して減給……ふふふふふ──」

 

「……私は先に外で待っている。来るのは落ち着いてからで良い」

 

ミカサは思った。ともに戦ったときのあれはきっと空元気だったのだろう。エレンがいない今、クリスタの心は私が守ってあげなくては……と。

 




中央憲兵について教える。
中央憲兵になる方法を教える。
王に繋がる情報を教える。

くぉれは3アウトですね。彼の次の任務はユトピア区で木の数を数える仕事でしょう(適当)。

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