【30】
本部から出た新兵たちは中央憲兵に護衛され、壁を登っていく。最後に本部に残ったミカサ、アルミン、ジャン、ベルトルト、ライナー、アニ、そしてクリスタの8人は、これまで本部の外で戦っていた例の巨人が他の無垢の巨人に貪り食われている様を見ていた。
あの巨人を助けるかどうか迷う一同であったが、決断がなされる前に、両腕を失ったその巨人が顎で無垢の巨人を投げ飛ばし一掃した。
そして咆哮の後、身体が再生しなくなったその巨人はうつ伏せに倒れる。蒸気の中に、エレン・イェーガーを残して。
『派手に暴れてくれましたね……おかげで秘匿は難しいでしょう。ですがこれで壁外勢力の侵入者の目はエレン・イェーガーに向いたはず。彼にとっては厳しい道のりとなるでしょうが、進み続けてくれることを願いましょう』
「エレン……」
エレンの生存を喜ぶミカサとアルミンの横から、クリスタはエレンの頬を撫でた。彼の頬には巨人化直後特有の筋繊維模様が浮かび上がっている。
この壁内世界で真実を知らずとも自由を追い求める少年に対し彼女は何ができるだろうか。本来は自分がすべきことの一端を担わせてしまったことにクリスタは心の中で謝罪した。
(だから私は、あなたを守ってみせる)
【31】
エレンの巨人化解除を見届けた八人には箝口令が敷かれた。当事者たるエレンは意識が戻り次第、駐屯兵団から激しい尋問を受けると予想したミカサとアルミンはエレンを庇うためその場に残った。
「残らなくて良かったのかな……」
待機命令の中、クリスタは段差に座りそう呟く。
『あそこで残れば要らぬ注目を招きます。中央憲兵の彼らに任せましょう』
クリスタはエレンを守ると誓った手前、自分が本隊と共に休んでいることを気に病むが、シャルルはそんな彼女をフォローした。
『それに間もなくドット・ピクシスがこちらにやってきます。彼がただエレンを殺すという選択を許すはずがありません』
ドット・ピクシスは駐屯兵団司令にして南側領土最高責任者である。立場として革新派に近い考えを持つ彼ならば無意味にエレンを殺すことはしないだろう。
「はぁ……」
それでも心が晴れない様子の彼女に誰かが近づいてくる。
「クリスタお前……どこ行ってたんだ? まさか一人でまた壁の中に向かったんじゃないだろうな」
クリスタが一人悩んでいると、それを見つけたユミルが詰め寄ってきた。
「ユミル? ど、どうしたのそんなに怒って……」
「どうしたもこうしたもあるか! お前、おかしくなっちまったのか? 今日は一段と自己犠牲の精神が旺盛じゃねぇか。なぁ? 人の気も知らないで……っ!」
ユミルがクリスタの肩を掴んで揺らす。共に生き残ったと思えばまた死地に赴いたクリスタに対しユミルは一言二言言わなければ気がすまなかった。何より不満なのは、自分に何も言わず置いていったことである。
「おいよせよユミル。クリスタは俺たちを助けに来てくれたんだ。あのガスがなきゃミカサだって死んでたかもしれねぇしよ」
コニーが二人の間に入って宥める。
「それは怒ってねぇよ……私はただ、私の知らない場所でクリスタが死ぬのを許容できないだけだ」
至極真剣な顔でユミルはそう言った。
「だから……次は独りで行くな。私も連れて行け」
「ご、ごめんなさい。次からはユミルに相談するね」
顔を赤くして俯きながらクリスタはそう言った。どうして皮肉屋のはずのユミルが素面のまま恥ずかしげもなく、そんなセリフを言ってくるのか。クリスタは身に覚えのない好感度の高さに困惑しつつも内心喜んだ。
なおクリスタはユミルがクリスタの生い立ちを知って訓練兵に入ったことは知らないし、ただ自分の考えを話しただけでユミルの心を救ったことも知らない。クリスタから見てユミルは謎の皮肉屋で優秀で意外と良い人で、初対面から結婚を申し込んでくる面白い人である。
光の女神はただそこにいるだけで周囲を照らすのだった。
『愛されていますね、クリスタ』
クリスタの持つ善性は人を惹きつける。それはある種の才能であり、シャルルには存在しないものだ。しかし今は才能云々ではなく、孤独だった少女が周囲からの愛に戸惑うさまがただ愛おしかった。
「分かったなら良い。私も掴みかかって悪かった」
そう言ってユミルは手を離……さない。その手はしっかりとクリスタの腕に絡みついていた。
「えっと、なら手を離して欲しいんだけど……」
「そうしたら、お前はまたどっか行っちまうだろ?」
「赤ちゃんじゃないんだから……」
「うるさい。この赤ちゃん肌が」
「い、いひゃいよ」
クリスタの白磁の肌をユミルはこねくり回した。その様子を見ていた周囲は『またイチャイチャしてるよあいつら……』と呆れる。だが、それが傷ついた新兵たちの心を落ち着かせていた。
「ほら見ろダズ。こんな状況でもあの二人はいつも通りじゃないか!」
「あ、あぁそうだな」
一方、ライナー・ブラウンはその様子を目に焼き付けていた。
「羨ましい……」
「ラ、ライナー? こっちの話に集中してくれ、今はエレンのことを考えないとだろう?」
「(発情クソゴリラが……巨人に食われて死んでいればよかったのに……いや、いっそあの中央憲兵とやらに密告して……)」
使命のための作戦会議中によそ見をし始めるライナーに他二人の戦士は目眩を覚える。壁の中に来て3年、もう精神的に限界である。だからさっさと壁を壊そうとしたところ、やっとエレンと言う手がかりを得たのだ。今は少しのミスも犯せないのである。だというのにこの色ボケは……。
各々がこの状況に適応しようとする中、爆発音が響いた。それは壁の中からである。全員が音の方を向けば、そちらから煙が上っているのが見えた。
「な、なんだ? 壁の中から聞こえたぞ!?」
「榴弾でも落としたんじゃないのか……?」
『榴弾? ──ッ。まさかあの子鹿、先走りましたね……ッ! クリスタ!』
「分かった! それじゃあユミルも……。えっと、説明が難しいんだけどとにかく一緒に来て欲しい!」
「良いぞ、分かった」
上目遣いで懇願するクリスタのお願いにノータイムのイエスを返すユミル。二人はアンカーを飛ばし、立ち上る煙の元凶へと向かった。そして戦士組のライナー、アニ、ベルトルト。知らないままではいられなかったジャンもまた屋上を駆けた。
エレンの巨人化を見に行くメンバー。ジャン以外みんな巨人なのギャグだろ。
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