【34】
「アルミン!」
「クリスタ!? 近づいちゃ駄目だ! 今この巨人に、エレンの意思はない!」
「アルミンはどうするの!」
「僕はエレンを出す! それまでエレンを守ってほしい!」
クリスタとユミルは目視でエレンの巨人を確認できる位置まで来た。そこで見たのはその巨人のうなじに刃を刺し張り付くアルミンの姿である。
アルミンとクリスタが話すのを横目に、ユミルは思考した。
(あいつは確かシガンシナ区出身って言ってたな。てことは私と違い壁の外じゃなく、内側で継承された巨人なのか……?)
ユミルは無垢の巨人からたまたま顎の巨人を継承した者だ。それゆえ、知性巨人に対する知識は壁内の者と同等。なので考えても仕方ないとその考察は早々に止めた。
彼女は横にいるクリスタを見て、次に自分の手を見た。いざとなれば、自分の立場を無視してでも、この力でクリスタを守ることになるだろう。
「クリスタ様! 危険です、何故こちらに?」
そこに、中央憲兵が二人現れる。マントはボロボロで、巨人の蒸気にあてられたのか焦げ跡がある。憲兵本人も満身創痍のありさまだった。
「そちらの者は?」
憲兵はユミルを見て言う。そこにユミルは違和感を持った。
(つまり、そういうことか。コイツラが何故前線にいるか分からなかったが……王の身代わりたるクリスタの護衛ってわけだな)
「『騎士』候補……かな。それより二人だけなの? 他の二人は……」
「少なくとも、死人はいません。二人は重傷で壁上に退避しました」
「私と班長は軽傷です」
「わかった。それから、あなたたち二人がまだ戦えると言うのなら、ここにいる四人で駐屯兵を支援しに行きたい。指揮はあなたが執って」
「……陛下の指揮ではなくてよろしいのですか?」
「シャルルは今はいないの。作戦に反対だったから、静かになってもらった。だから、今はみんなが頼りなの」
(陛下……? 『シャルル』……? まさか、壁の王がすぐ近くにいるのか?)
まさか目の前にいる少女がご本人とは露とも思わないユミルは、二人の会話に口を挟まない。今はそんなことを聞いている場合ではないからだ。話しているこの瞬間にも、壁に空いた穴から巨人が入って来ている。
「ならば、陛下のご懸念を払拭するためにも、御身を傷つけるわけにはいきませんね。お前、名前は」
「はっ、ユミルです」
「よし、ではユミル。お前を騎士見習いとしよう。お前は常にクリスタ様の側を離れず、命を賭して守れ。できるか?」
「当然です。言われなくてもやってやります」
「よし、では中央憲兵臨時作戦班、行くぞ!」
【35】
「優先すべきなのは討伐速度よりも生存率だ! まずはうなじ以外を削いで巨人の動きを止めるぞ! 3,2,1──」
合図に合わせて憲兵の二人が巨人の腱を削ぐ。うつ伏せになったうなじを新兵の二人がえぐった。
「次 、前方と後方に一体ずつだ。小さい後方をお前たちに任せる!」
班を2-2に分ける班長。クリスタとユミルは地上で人を食ったままうなじを晒している巨人へ向かった。
「あれは小さすぎる! 私がうなじを直接狙うから、クリスタは援護しろ!」
ユミルは巨人の身体にアンカーを刺し、うなじへ直進すると、そのまま刃でその命を絶った。
「良かった、一撃で済んで」
「だな。さっさと上がって憲兵と合流を……」
ユミルは続いて地上に降りたクリスタに軽口を叩く。そして建物に登ろうとしたとき、二人は見てしまった。地面に転がる死体を。
「うそ、そんな……」
「チッ、逃げ切れなかったのか……」
それはクリスタとユミルが前に助けた、負傷した兵士と同じ班の生き残りの死体だった。
「おい、クリスタ。今は死者を悼んでる暇なんかない!」
「ユミル、私がしたことは無駄、だったのかな……?」
二人の死体に触れてクリスタはそう言った。それを見てユミルは思う。こいつがしたことが無駄になる世界なんてあって良いはずがないと。
「見ろ、クリスタ。欠けた刃を握ったまま死んでいる。必死に足掻いたんだろ。ただで死んだわけじゃない。抵抗しながら死んだんだ、じゃなきゃ死体も残ってねぇだろうよ。そして、そうさせたのはお前が『諦めるな』って命令したからだ、クリスタ」
「だから! だから……この後こいつらを大切に思う誰かが、死体を弔うことができたとしたら、それはお前の成果だ」
だからユミルは、普段なら絶対言わないような希望的観測を言った。
「そうだね、後悔なんてする時間はない。代わりに誓うよ。絶対、この街を取り返してみせるから」
立ち直ったクリスタを連れてユミルは飛んだ。憲兵二人の姿を探して。
「ユミル、ありがとう」
「はっ……まぁ、あれだろ。お前が夢見てないようじゃ、この世界で誰も夢なんて見られないからな」
またこれだ。皮肉屋なユミルに対してクリスタはいつも純粋な感情をぶつけてくる。
妙に照れくさくなったユミルは誤魔化すが、結局余計に恥ずかしくなるようなことを告げただけだった。
「クリスタ様ッ! ユミルッ!」
「こっちの巨人は討伐しました。そっちは……」
合流した憲兵はユミルの声を上書きして叫んだ。
「──エレン・イェーガーが大岩を持ち上げて外門に向かっている! 我々は彼を援護するぞ!」
「「!?」」
そして全員の視界にそれが映った。蒸気を上げて自分の体躯の数倍もありそうな大岩を持ち上げる巨人。それが一歩進むごとに、けたたましい地響きが鳴る。
「しかし、外門付近には立体機動に使える構造物がなにも……おい! クリスタ!?」
ユミルが止める間もなくクリスタは飛び出した。
「本当に、あんな脳筋な手法で穴を塞ごうとするとは驚きですね。都合良く大岩が転がっていたものです。それとも、『進撃』は運命を引き寄せるとでも言うのでしょうか……」
『シャル……?』
「すみません、クリスタ。あれは本来、私が成すべきことでした。あなたでもエレン・イェーガーでもなく。だから今度は、私が守ります。一匹たりとも、巨人を近寄らせはしない」
紫の鋭い眼光が、門から入ってきた巨人を睨む。
「──狩りに興じると致しましょう」
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