アニメ一期前半終わるぞ。
【35】
巨人となったエレンは大岩を背負い、穴を塞ぐべく外門へ向かう。両手の指を食い込ませ、首が曲がるほどの質量に巨人の肉体は破壊と再生を繰り返しながら進む。
うなじに埋まるエレンは、蒸せるような暑さによってその意識を朦朧とさせつつも、一歩一歩大地を踏みしめた。
天空を支えた神の巨人、アトラースのごとき姿に兵士たちは希望を見いだす。
「──死守せよ! 我々の生命と引き換えにしてでも、エレンを扉まで守れ! 絶対に、巨人を近づけるな!」
作戦の現場指揮を担う駐屯兵団精鋭班班長、イアン・ディートリッヒは叫ぶ。その声とともに、兵士たちは一斉に駆け出した。
しかし、市街地を越えた外門近くには立体機動に活かせる建物や構造物はない。あったとしても、超大型巨人によって吹き飛ばされていた。
精鋭班の一つであるミタビ班は、巨人を引きつけるために地上を駆ける。屋上からそれを見下ろすアルミンは言った。『自殺行為だと』。
「地上を歩いてるやつは伏せろ──ッ!」
その時、壁上から聞こえたのはミカサとアルミンがよく知る、飲んだくれの声であった。直後、榴弾が巨人たちを襲う。
かなりの距離があり、うなじからはそれてしまったが、顔や腕、足が吹っ飛び巨人たちは歩みを止めた。
「あれは……ハンネスさん?」
「南側壁上の大砲は超大型巨人にやられたはずじゃ……?」
一方、ハンネスら工兵は壁上にて忙しなく働いていた。
「お前ら! 次弾、榴弾用意! 工兵部隊も巨人を殺せるってところを見せてやれ!」
「部隊長、巨人の動きを止めるだけならぶどう弾ではいけないのでしょうか!?」
「散弾が届くわけねぇだろ! いいから装填!」
部下に、指示を出し、冷静に壁の下を見つめるハンネス。
(あれが巨人になったエレンか……しかし、本当にいけるぞ。これなら……人類が巨人に勝てる……!)
ハンネスは隣に立つ、四肢の一部を欠損した二人の中央憲兵を見る。工兵をこの場に連れてきたのは前線から退いた彼らであった。
南側壁上にもう大砲はない。そして大砲を運ぶためのレールも破損してしまっている。本来なら大砲を撃つことなどできない。
だが、彼らはそれを成した。当然まともな手段ではない。台座に乗せられた大砲は、一発一発撃つたびに反動で倒れ、基軸がダメになり、木製の支えが破損し、壁から落ちてしまう。大砲一つにつき撃てる弾は一発だけ。貴重な兵器を使い潰すことで彼らは巨人を攻撃していた。
(それでも、これであの日々が取り返せるなら安いものだ)
「用意、撃て──ッ!!」
二度目の榴弾の雨が巨人たちに降り注ぐ。これで用意した大砲はすべて使い切った。
「精鋭班! 今が好機だ! 巨人が動けない今なら、地上で五分に戦える!」
憲兵の男は、下で戦う仲間たちに叫んだ。その声と同時に、一つの紫影が巨人たちに飛ぶ。王を纏ったクリスタは三つを数えないうちに巨人を二体屠った。
「もとは同じエルディア人。こうして殺し合うことは本来なかった」
彼女はガスで速度を維持したまま、軍靴のかかとを滑らし、氷上のように地上を泳ぐ。
「だが、なってしまった。私がエルディアを裏切ったから。マーレが……私を裏切ったから」
一体、二体、三体……無駄のない連続した動きで舞うように巨人を狩るシャルルのあとに続き、ユミルと中央憲兵の二人もまた戦闘に参加する。
「ガスの吹かしすぎだ、クリスタ!」
「ユミル、お前はクリスタ様を……陛下を頼む!」
ユミルはシャルルが狙う巨人を見る。巨人の回復は一、二分で完全に完了するはずだ。そしてあの巨人の傷はもう治っている。あれでは、食われてしまう。
「聖者は裏切りに際し、己の血と肉を使徒に分け与えたと言います。ならば王たる私が──」
「クリスタ!」
彼女の身体は無惨にも巨人の口腔の内に収まった。ユミルの悲痛な叫びが響く。だが。
「──臣に捧ぐ最後の晩餐です。どうか道で、安らかに眠りなさい」
次の瞬間、彼女は喉からうなじを切り裂き飛び出した。
「刃がすべてダメになりましたね……あとは彼らに任せましょう」
血塗れとなり、蒸気を立ち昇らせながらも地上に降り立つその様は、聖画のような神秘性を醸し出している。
……そんな彼女に、ユミルは飛びついた。
「クリスタ! お前、また私を置いていったなッ!? もう絶対逃がさな──」
「え……? あ、ユ、ユミル! これは違うの! 私じゃなくて、あとせめてもっと優しく運んでほし──」
正気を取り戻したクリスタは、俗に言うお米様抱っこでユミルによって回収された。
……その戦い様を見ていたイアンは、今しがたうなじを削いで倒れた巨人の上で呟く。
「あの訓練兵……自分から巨人の口に飛び込むなんてな。まさかあれも知り合いなのか?」
そのあとを続くミカサ、アルミンはその発言を聞いて一応のフォローを入れた。
「……一応、同期で幼馴染です」
「普段は優しい子なんですけどね」
「104期はバケモノ揃いか……?」
などと軽口を叩く一方で、エレンは着実に扉の跡に近づいていた。そして、自由を叫ぶエレンの雄叫びを契機にその場にいた全員がその光景を目に焼き付ける。
轟音と土煙が去ったあと、彼らはしばらく放心していたが、リコが真っ先に正気を取り戻し、作戦成功を示す緑の信煙弾を上げた。
「みんな、死んだ甲斐があったな……ッ!」
涙ぐみながらその場にへたり込む彼女の肩をイアンは揺らす。
「リコ、まだ終わっていない。エレン・イェーガーを回収し、生きて帰るぞ!」
未だ穴を塞いだだけであり、トロスト区内は数百の巨人で満たされている。外門付近の巨人は精鋭の活躍と、大砲を使い潰すことによって掃討されたが、エレンの存在を嗅ぎつけたのか続々と巨人は寄ってきていた。
駐屯兵たちは生きた喜びを噛み締め壁を登る。地上に残されたのはエレンを巨人の身体から取り出そうとするミカサとアルミン。そしてそれを支援するイアン、ミタビ、リコだけになった。
「エレンはまだ取り出せないのか!?」
「体の一部が一体化しているんです!」
「もう切るしかない!」
「待ってくださ──」
ミカサの静止は無視され、エレンの腕は二の腕より下が切断された。
「待て、巨人が二体同時に来る。アッカーマン、片方いけるか……ッ!?」
エレンを未だ壁の上に上げやらぬうちに、巨人二体が彼らに近づいてくる。抜剣したイアンがミカサに合図するが、その必要はなかった。
一瞬、影が弧状に流れ、二体の巨人は地に伏す。自由の翼を掲げたマントをはためかせ、その上に降り立つ人類最強の男──リヴァイ・アッカーマンはトロスト区の惨状を見て六人に問うた。
「おい、駐屯兵共。これは一体どういう状況だ……?」
エレンはその記憶を最後に、完全に意識を失った。
【36】
夜間、クリスタたち訓練兵は大きな炎を囲んでいた。火の粉がぱちりと爆ぜて、黒い灰が散る。それを見つめる兵士たちの表情は暗いものだ。
それは戦勝祝賀会やキャンプファイヤーと言ったのんきなものではない。トロスト区で亡くなった戦友を弔う、火葬の場である。
ジャン・キルシュタインは地面に散らばった誰の物かも分からぬ骨片を握り、謎の死を遂げたマルコ・ボットを思う。
彼はジャンのことを強い人ではないと言った。だから弱い人の気持ちが理解できるのだと。
おかしな話だ。ジャンの成績はエレンに次ぐ5番目である。そして訓練兵時代は自己中心的な振る舞いをしてきた。そんなジャンを何を思って『強くなくて、人の気持ちを理解できる人』なんて形容したのか、マルコの心中はもう誰も聞くことができない。
しかし、ジャンはそれを嘘だと言わなかった。マルコには、人の本質を見抜く力があったのだろう。
ジャンは強くない。賢くもない。そして死に急ぎ野郎でもない。
でも決めた。それは他人のためではなく、ただマルコが見抜いた自分自身を裏切りたくなかったからだ。
「俺は、俺は……調査兵団に、なる」
嗚咽を漏らし、恐怖を噛み締め、震える手を抑えながら、ジャンはその夜生まれ変わった。
しばらくして火葬は終わった。残ったのは黒い塊と、その中でわずかに燻る炎だけである。これからこの遺体ですらなくなったものを集め、土に埋めなければならない。
クリスタはこれを悲しい終わり方だと思った。もう誰が誰だか分からない。それでも、まだマシな方なのかもしれない。
調査兵団に入れば死体が持ち帰られること自体がまれであるのだから。
クリスタはジャンを見た。彼は黙々と作業をこなしている。以前の彼とはまるで違っていた。
遺灰を回収する手を緩めず、クリスタは隣のユミルに言った。
「ユミル、私も調査兵団になるよ」
返事はなく、ただ数回シャベルが灰を刺す音だけが響く。
「そうか、なら私も……」
やっぱりか。クリスタはそう思う。このお人好しそばかす娘はジャンに似せて自己中ぶっているが、その実ただの良い子であることは彼女にはもう分かっていた。
「ダメ、ユミルにはやってほしいことがあるから。調査兵団に入るのは認められないよ」
クリスタは何か言おうとするユミルの口を人差し指で遮り、続けて言った。
「ねぇ、ユミル。私の生い立ちについて話すって言ったよね。このあと──少し、話をしましょうか。戸籍不明、始祖の名を冠する、自称ユミルさん?」
【原作との違い】
・駐屯兵精鋭が生き残った
あーした天気なーれ。お、感想評価か。