【42】
翌朝、新兵たちは叩き起こされ、立体機動装置を所持したままでの召集を受けた。
理由は、何者かが巨人の被験体二体を討伐したことにある。
それは早朝、一瞬の出来事であった。衛兵が犯人の姿を目撃したときにはすでに立体機動装置で彼方の向こうである。あまりの犯行の速さに、兵団は実行犯を『二人』と断定した。
立体機動装置を調査する間、兵士たちは暇を持て余す。たまたま隣に並んだアニ、アルミン、コニーはジャンのことで話をしていた。昨夜、ジャンは突然調査兵団になるなどと言い出したのである。
「なぁアニ、お前憲兵団志望だろ? やっぱり俺もそっちにした方が良いかな?」
「あんたさ、人に死ねって言われたら死ぬの?」
「なんだそりゃ。死なねぇよ」
「なら、自分に従ったら良いんじゃないの?」
一見冷たく突き放すようなアニの言葉は、彼女自身の経験から導き出された答えだ。マーレに命じられたからでも、ライナーに従ったからでもなく、ただ自分が生きて帰るためだけにアニは行動している。
そういう確固たる軸があるから、ライナーのようなクズには堕ちていないと言える。
「アルミン、あんたはどうなの?」
「僕は、死ぬ理由が理解できたら、そうしなきゃいけない時もあると思うよ。嫌だけど」
「そう」
アルミンの言葉にアニは内心感心し、共感した。アルミンもきっと覚悟ができる人物なのだろう。
「あんた、弱いくせに根性あるからね」
アニは軸のブレない人間が好きだった。肉体的な強さだけではない精神的な強さ。そういう意味では、アニはエレンにも一目置いている。彼は何度投げ飛ばそうとも決して諦めない根性があるのだ。あと直情的で投げやすいのも良い。
逆にライナーはデカくて投げにくい上に軸がブレブレなので大嫌いだった。
「ありがとう。アニってさ、実は結構優しいよね」
「……は?」
アルミンはアニにそう言った。アニ自身は全くそう思っていないが、アルミンからはそう見えているらしい。
(本当に優しいなら、マルコを殺したり、巨人研究の邪魔をしたりしないさ)
アニは思う。本当の自分を彼らの前でさらけ出せば、どんな反応をするだろうか。軽蔑するか、激怒するか、少なくとも良い反応ではあるまい。
そんな未来が訪れないことを、彼女は願った。
【43】
結局巨人殺しの犯人は見つからなかった。
新兵たちは面倒な拘束から解放され、その日のうちに兵科選択を行うことになる。
トロスト区104期訓練兵の面々は、調査兵団勧誘式の待ち時間を潰す。その中にはクリスタとユミルの姿もあった。
「なぁ、本当に調査兵団に入るのか? 駐屯兵団でも良いだろ。それに、お前の『王様』の伝手なら憲兵だって選べるんじゃないのか?」
「もうその話は何回もしたでしょ? 私は調査兵団に行くの」
「なら、やっぱり私も……」
「昨日の夜決めたよね。ユミルにはやるべきことがあるんだから……今のあなたはエレンと同じなの。中央憲兵さんたちのところで、力の使い方をちゃんと覚えてきてよね」
「うぅ……」
「『うぅ』じゃないよ、もう……」
ユミルは昨夜からずっとこの調子であった。
昨晩のことを話そう。クリスタはユミルと腹を割って話をしたのだ。そして、お互いの秘密を明かした。ユミルは壁の外から来た巨人化能力者であることを、クリスタは王家の血を引く人間であり、初代レイス王の遺志と能力を引き継ぐ人間であることを。
なお、先に暴露したのはユミルの方である。彼女はクリスタに嫌われることを覚悟した上で己の秘密を語ったのだが、対するクリスタがそれ以上の爆弾を抱えていたので拍子抜けした。
なお王家の血筋であることには何故かあまり驚かなかった。見るからにクリスタはプリンセスだから納得とのことらしい。むしろクリスタが身分を隠していることは全人類の損失だそうだ。意味が分からない。
「ほら、もう新兵勧誘式の時間だって。行こう?」
「はぁ……おい、ヒストリア。王様に言っといてくれ。ヒストリアを傷つけたら私がぶっ殺すって」
「『望むなら直接相手いたしましょう』って」
「やっぱりムカつくなそいつ。本来クリスタと一心同体であるべきは私なんじゃないか?」
「ごめん、何を言っているか分からない」
【44】
調査兵団に入った新兵たちは、一ヶ月後の壁外調査に向けた座学を受けた。主に長距離索敵陣形と呼ばれる、巨人との戦闘を回避するための術だ。
クリスタは昼間は調査兵として必死に陣形を叩き込み、夜間はシャルルが中央憲兵からの報告を受け、合間を縫って同期の兵士たちを監視していた。特に、成績上位10名を。
(被検体を殺したのは確実に壁内に侵入した誰かでしょう。そして兵団は二人と断定したが犯人の姿は一人しか確認されていません。それが出来るのは、私たちのように成績を抑えていないのであれば確実に成績上位者のはず)
エレンとミカサとユミルはあり得ない。そして憲兵に行ったアニを除くライナー、ベルトルト、ジャン、コニー、サシャの5人。シャルルは彼らに注視していた。が、未だ痕跡は見つかっていない。
「陛下、調査兵団が購入した物資目録について情報が入りました」
「『酒樽』……? 壁外調査に酒を持っていくはずがないでしょう。樽の中身は改めたのですか?」
「いいえ、確認させますか?」
「どうせなら製造元を突き止めてください。仮に、有用な兵器なら支援しても構いません」
一方、中央憲兵に引き取られたユミルは地獄を見ていた。
「おい、ふざけんなクソオヤジッ! 私の巨人は平地じゃ使えないって言ってんだろ!? だいたいあの人数相手に勝てるわけねぇだろうが!?」
四肢が吹き飛ばされた姿のまま抗議するユミル。その滑稽な姿に黒ハットを被った男は笑った。
「ごちゃごちゃうるせぇぞ。躾のなってねぇガキだな。平地に不利なのは立体機動も同じだろうがよ」
「知るか……おい、私の巨人の熱でタバコに火をつけようとすんな!」
「減るもんじゃねぇし良いだろ。あぁ、そう言やお前、昔焼印つけられたことがあるとか言ってたな。嫌だったか? すまんすまん」
「絶対殺す……ッ!」
「2000年早いぞ、クソガキ」
そう言って男はユミルの顔を踏みながら優雅にタバコを味わった。
「楽しそうですね、あの人。意外と教育者とか向いてるんじゃないでしょうか?」
「ああ見えて調査兵団のリヴァイ兵士長の育て親だからな」
この会話を男──ケニー・アッカーマンが聞いていれば即座に否定しただろう。『あのドチビを育てたのは地下街だ』とか、『ナイフの扱いを教えただけだ』なんて言って。
『俺は人の親にはなれねぇよ』が口癖のあの男は意外にも情に厚いのだ。でなければ亡き友人のためにシャルルに面と向かって『いつかお前を殺す』なんて言わないだろう。
なお、クリスタも彼の教導を受けたのでリヴァイとは兄妹弟子の関係にあたる。そしてアッカーマン一門の教えはただ一つ。『言葉による教育ではなく暴力による教訓』である。
「おうおう、どうした。もう巨人にはならねぇのか? 早く愛しのお姫様のもとに帰りたいんだろ?」
(私も調査兵団を選んでおけば……ッ!)
ユミルは豊かな中央の生活を一瞬でも夢見た過去の自分と、『私を鍛えてくれた凄い先生だよ!』などと能天気に言っていたクリスタを恨んだ。
こうして、各自の一ヶ月はあっという間に過ぎていく。
ユミル、お前の兄弟子曰く、自分を信じても、仲間を信じてもだめらしいぞ。ここで学べて良かったな。
【原作との違い】
・ユミルが憲兵団に行った
ガイド「こちらが感想評価を糧に生きている二次創作投稿者という生き物です。承認欲求モンスターですねー。鳴き声がとってもおもしろいんですよー」
もんすたー「ヒョウカクレー」