【54】
新たな巨人の出現に、生き残ったリヴァイ班の三人は一時逃げることを忘れ樹上に降り立った。
そんな彼らを置きざりにしたまま、未知の巨人は女型の巨人と格闘戦を始める。
初めて見る知性巨人同士の戦いに、ペトラとオルオの二人は圧倒されていた。
「おい……なんだよ、あの巨人は? 見るからに知性があるが、まさか、味方じゃないだろうな……?」
「分からない、でも、私たちを助けてくれたのは事実よ。ここはあの巨人に任せて撤退を……ちょっと、エレン!?」
何を思ったか飛び出そうとするエレンをペトラは押し留めた。
「何を考えてるの!?」
「離してくださいペトラさん、あいつを殺せない!」
暴れるエレンをオルオとペトラは必死で抑えつける。
「お前が行っても暴走して終わりだ! 冷静になれ!」
「でもまた戦わなかったら、今度は二人が死ぬかもしれないじゃないですかッ!!!」
二人はハッとして手を緩めた。拘束の解けたエレンは俯きながら言う。
「俺がみんなを信じて戦わなかったから、選択を間違えたから……グンタさんとエルドさんは死んだ。俺の、せいで……」
歯を食いしばり、涙を零しながらエレンは言った。そんなエレンをペトラは一発ぶった。
「……ッ!?」
「ふざけないで! エレン、それは命をかけて戦った二人と私たちに対する侮辱! 仲間を信じることが間違いだったなんて、二度と言わないで……ッ!」
「でも!」
なおも反論しようとするエレンに対し、オルオは肩を掴んで言った。
「傲るなよエレン。あの二人はお前の選択で死んだんじゃねぇ。あの二人が死んだのは、俺たち四人が、女型の巨人より弱かったからだ。だから……お前は悪くない」
「オルオの言う通りだよ。間違えたのは、あなたの信頼に応えられるほど強くなかった私たち……ごめんなさい」
エレンは涙が止まらず、二人の胸を借りた。
二人はエレンを責め立てることをせず、彼の罪を否定した。しかし、エレンにとってその優しさは残酷なものだ。
つまるところ。それはグンタとエルドの死の責任を背負う資格と、強さがエレンには足りなかったと言うことだろう。リヴァイ班とエレンが対等な仲間だったら、かけた言葉も違ったはずだ。
その事実が、エレンには悔しくてたまらなかった。
だが事実は事実だ。エレンは弱い。だから、今は泥水を啜るような気持ちで、エレンはその感情を飲み込んだ。
「……すいません、取り乱しました。これからどうしますか?」
落ち着きを取り戻した三人は女型ともう一体の巨人を見た。女型が激しい足技で未知の巨人を攻撃するが、その巨人はそれを受け流す。いわばそれは静と動、柔と剛のぶつかり合いであった。
「あの未知の巨人が戦ってくれているおかげで時間はある。私たちはひとまず本隊に合流しましょう。あの巨人たちは……置いていくしかないでしょうね」
ペトラは口惜しそうにつぶやいた。新たに見つかった手がかりと、もう少しで捕まえられそうだった獲物の両方逃す。大きな犠牲を払った調査兵団にとっては受け入れがたい結末である。
「一応聞くがエレン、あいつはお前のお仲間か何かか?」
オルオがエレンに聞いた。
「いえ、俺以外に巨人になれるやつなんて知りません。けど、あいつは一応味方だと思います。その……一つ提案なんですけど、あの巨人と俺たちが協力すれば女型をどうにか……いや、女型は倒せないにしても、あの未知の巨人を連れて帰るくらいはできると思いませんか」
エレンの突拍子もないアイデアにオルオとペトラは目を剥いた。
「は? エレン、お前まだそんなことを……だいたいあれは敵かもしれねぇだろ!」
「味方かもしれません! ……だけど、ここに置いていけば真実は分からない。俺は、やってみる価値はあると思います」
「エレン……できるの?」
「自信はありません。だけど、やります。俺はこのチャンスを逃したくない。今度は二人が、俺を信じてくれませんか?」
エレンは自分の手を見た。この手を傷つければ、エレンは巨人となる。その手を今、二人に差し出した。
二人は顔を見合わせ悩んだ末に、その手を取ることに決めた。
【55】
三人は立体機動で飛び、巨人たちの下へ向かいながら作戦を語り合う。
「良いか、エレン。お前がすべきなのはさっき飛ばした信煙弾をリヴァイ兵長が見たと祈ること、そして兵長が来るまで死なないことだ!」
「私たちの目的はあくまでも未知の巨人を連れ帰ることで、女型との戦闘は足止めが優先だからね」
「はい!」
威勢の良い返事とともにエレンは飛び出す。眼下には格闘技の構えを取り睨み合う二体の巨人がいる。そのうちの片方、女型の巨人をエレンの視線が捉えた。
女型の口は、エルド・ジンの血で濡れていた。
エレンの心から、飲み込んだはずの泥が溢れ出す。
「──ッ!」
指を噛む。激しい閃光と爆発音、そして巨人の咆哮と共に、巨人となった彼は大地へと降り立ち──その拳を女型へと振り抜いた。
突然の乱入者に驚く女型であったが、感情に身を任せた単純な拳をあっさりとかわす。
巨人となったエレンは背後にいる未知の巨人を気にかけることなくそのまま女型の巨人へと猛攻を仕掛けた。
「あれは正気……じゃないみたいね」
「クソッ! あいつ、あれだけ啖呵切っておいてこのザマかよ!」
大樹にぶら下がり様子を見ていた二人は立体機動で飛び出した。
「どうするの、オルオ!」
「知るか! とにかく隙を見てエレンを回収する! 話はそれからだ!」
オルオは作戦とも言えない言葉を吐き捨て、女型と戦うエレンの下へ向かう。
彼は知性巨人同士の格闘戦にただの人間が介入できるとは思っていなかったが、とにもかくにも近くに行かなければエレンを守ることすら出来ない。
二人がガスを吹かす。そしてエレンと女型が戦っている様子をただ眺めたまま止まっている未知の巨人の、横を通り過ぎようとしたときに、彼らの動きは止まった。
「──ッ! な、なんで……!?」
「──はぁ!? お前は、味方じゃ、ないのかよ……ッ!」
警戒していなかった二人は簡単に巨人の手の中に収まった。
「うそ……いやだ、やめて……」
「嘘だろ、こんな間抜けな死に方があってたまるか……」
二人を掴んだ手が口元へ運ばれて行く。
『食い殺される』。そう思った二人だったが、しかし彼らが口の中に収まることはなくその手は停止した。
そして、二人は耳を疑うことになる。
『あなたたちがいたところで邪魔です。私が彼の正気を戻しますので、あなたたちは速やかにリヴァイ・アッカーマンを呼んで来なさい』
「「は……???」」
『もう一度だけ伝えます。リヴァイ・アッカーマンを呼んで来なさい』
言葉を話す未知の巨人。二人はその事実をのみ込む前に殺人的加速度を体感することになった。
巨人の手で投擲されて戦線を離脱した彼らは、ひとまずその勢いのままに飛ぶ。
少ししてやっと二人が落ち着いたときに、オルオがポツリと呟いた。
「な、なんだ今の……巨人が、喋ったのか……? 今のは白昼夢とかじゃないよな……?」
「私にも分かんないよ! さっきから頭の中がパンクしそうなの! ……とにかく、リヴァイ兵長を呼びに行こう」
「……そうだな」
始祖「いや、引いてくれません!?」
進撃「ウォォォ!!!(殺意)」
女型「大チャンス到来。ダブルプレイでゲームセット行けるか?」
まぁこればっかりはエレンに巨人化訓練をあまりさせなかった調査兵団も悪い。そりゃトロスト区の二の舞いになりますよ。
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