やわらか不戦の契り   作:妄想壁の崩壊

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お労しいシャルル回です。


会合2

 

【65】

 

「君は巨人となって、エレンを女型の巨人から助けた。そうだね?」

 

「はい……事実です」

 

突拍子もない質問をするハンジに、ミカサとアルミンはハンジの正気を疑った。そして、それを肯定したクリスタに二人は目を見開いて驚く。

 

「そんな……クリスタが、巨人……だって?」

 

「どういうこと!? クリスタ、あなたは── 」

 

「今は私が質問している。二人は黙っているんだ」

 

二人の横槍をハンジは防いだ。質問は……否、尋問は続く。

 

「巨人化できることをどうして兵団に伝えなかったのかな?」

 

「……口止めされていたからです」

 

ハンジはクリスタに密着するほど体を近づけた。それを見たユミルが止めようとするが、ケニーに視線で抑えられる。彼はこの尋問を愉快そうに見ていた。

 

「それは誰だい? もしかして、その人が中央憲兵の言う王様だったりするのかな?」

 

「……答えられません」

 

「答えられない! そっかそっか……それは残念、なら次の質問をしよう」

 

ハンジは言葉を切った。少しも残念そうには見えない。クリスタはこの眼鏡をかけた中性的な人を恐ろしい人だと感じた。

 

「その王様は107年前に壁の中へ私たちを閉じ込め、真実を抹消したと聞いたのだけれど……その真実を求めて壁の外へ命がけの調査に向かう私たちのこと、どう思っていたのかな?」

「愚かなことだと嗤っていたかい? それとも、自分の意にそぐわない私たちに気分を害した? あるいは何の関心も示さなかった?」

 

「あの……」

 

「答えてくれッ!」

 

──ドンッ!

 

ハンジが強く机を叩き、低く鈍い音が部屋に響いた。クリスタはビクリと肩を震わせる。

 

「……わかりま、せん」

 

「おい、ハンジ。そいつをビビらせて何になる。明日の作戦には関係ないだろうが、聞くならすべて終わったあとに……」

 

「いいや! リヴァイ、私には聞く義務がある。君にもだ。調査兵団の一員たる私たちは聞かなきゃいけないんだ、死んでいった仲間たちのためにも、これから死に行く仲間たちのためにも、私たちが命をかけて求めた真実が、一体何なのかを!」

 

ハンジは普段、飄々とした態度を取っているがその本質は異なる。彼女は人一倍責任感が強く、人十倍仲間思いで、人百倍情熱を持っているのだ。

 

今、彼女は怒っている。死んでいった仲間の代わりに、すべてを隠し通そうとする王に対し直訴しているのだ。

 

「よし、次の質問をしよう。先ほどの会議では君は明日、女型の巨人捕獲作戦には参加せず104期訓練兵の監視に回ると伝えられた。それはどうして?」

 

先程の会議で、ハンジはトラウテからそのように伝えられていた。理由は104期訓練兵のなかに巨人がいたとき、それを止める人物が必要だからとのことだ。ハンジはその理由が怪しいと思った。万全を期すなら女型に負けたエレンよりもクリスタを作戦に投入したほうが良い、存在の不確かな104期に潜む巨人を警戒することよりそちらを優先すべきなのだ。

 

「監視……? すみません……分かりません」

 

「なら、それを決めた人物がいるんだろう? その人に直接聞きたいな。どこにいるのかな? 教えてくれない?」

 

ハンジはクリスタの肩を揺らした。クリスタは唇を噛み、やがてポツリと静かに呟いた。

 

「もう……やめてください」

 

それを聞いてハンジの、堪忍袋の緒が切れた。クリスタの胸ぐらを掴んで壁に押し付ける。

 

「待て、ハンジ!」

 

「ハンジさん!」

 

皆がハンジの暴走に息を飲む。彼女は止まらない。

 

「やめない! やめてたまるか! 君は人々から自由を、思考を、未来奪ったんだぞ! それは、命よりも尊いものだったんだ! なのに、理由さえも教えてくれないのか!?」

 

「やめ……私じゃない……」

 

「そうだ! クリスタ、君じゃない! 君は私から八つ当たりを受けてるだけだ、かわいそうに! だからさっさと出て来て、答えてくれよ──王様ッ!」

 

苦しむクリスタの瞳をハンジは見た。次の瞬間、その目が妖しく輝く。一瞬のうちに、ハンジは腹を蹴られ、蹴飛ばされた。

 

木製のテーブルに、ハンジは背中を強く打ちつける。

 

「ハンジさん! やり過ぎですよ。大丈夫ですか……?」

 

「ゲホッ、ゲホッ……ごめんよエレン。けど、やっと彼と話せそうだ」

 

「何を言って……」

 

飛ばされたハンジを介抱するエレンは見た。そこに立っていたのはクリスタだが、クリスタではない。あの時のように、それは紫の瞳でこちらを睨みつけている。

 

「──憐憫ですよ。ハンジ・ゾエ」

 

姿を現したシャルルは静かに言った。

 

「死に行くことに対してではありません。自由に夢を見ていることです。あなたは酒、薬、煙草、権力、金、女……そんなものに憧れた子供を見たときどう思いますか? 私は可哀想だと思います。そんなものを手に入れても身を滅ぼすだけなのに、子供は何も知らない。そして、それらに手を出してやはり身を滅ぼす」

 

彼はふらりと幽鬼の如く立ち上がる。そして前髪を手でかき上げて、クリスタとは全く異なる冷酷で厭世的な視線を、そこに座る者たちに向けた。

 

「自由は命より尊いと……全くそのとおりでしょうね。同意致します。しかし、だからこそ危険だ。人は自分の自由を奪われるくらいなら、他人の命をも踏みにじることができる」

 

今度はシャルルがハンジのすぐ側まで近づいた。

 

「あなたがたが自由の先に、何を期待しているか当てて差し上げましょう。無限の世界ですよ。そこには何もない。壁も、障壁も、煩わしさもない。ただ広がる地平線と青い空。手を伸ばせばどこまでも自分のものにできる世界、それがあなたがたが求める自由なのでしょう?」

 

彼は両手を広げ、くるりと舞い踊ってみせた。笑っているようにも、無表情にも見えるその顔で。

 

「けれど、そんなものは無い。例えあったとしても、世界は無限ではない。自由の中で手を伸ばせば伸ばすほど、その手は他の誰かにぶつかる。自由の中で、他人が障壁となる。そうして、自由の先には人同士の争いだけが残る」

 

シャルルは手を降ろした。

 

「だから私は、自由を捨てた。自由を捨ててでも、この壁の中と外に、平和を求めた」

 

シャルルはハンジの胸ぐらを掴んだ。

 

「調査兵団は自由を求め死んだと言いましたね。ハンジ・ゾエ」

 

「……っ。たしかに、そう言ったよ」

 

「何人です?」

 

「は……?」

 

「死んだのは何人かと聞いているのですよ」

 

ハンジは一瞬質問の意味がわからず、答えに窮した。

 

「百人? 千人? それとも一万? 設立当初は3000人ほどでしたね、累計の死者で言っても10万には届かないでしょう。違いますか? エルヴィン・スミス」

 

「正確な死者数は分からないが、10万に至らないのは確かだ」

 

「そうですか」

 

自分で聞いておきながら、彼は興味がなさそうにそう言った。そして続けて以下のように告げる。

 

「ハンジ・ゾエ! あなたに教えて上げましょう。私はこの壁と平和を築く過程で、数百万人を殺しましたよッ!」

 

二の句を言わせぬ気迫でもって吐き出されたのは、狂気の告白である。

 

「それほどまでに自由とは残酷で、力も真実も我々には過ぎた代物だった! 犠牲を払ったのが自分たちだけだと思っているなら、それは大間違いです! 調査兵団の払った犠牲が無駄だった? そうかもしれませんね、そしてそれは私も同じだ。おびただしい数の人命を賭けた大きな賭けに、私は負けた! 不戦の契は破られたッ!! 私のしたことは、全て無駄でしかなかったッ!!!」

 

ハンジの胸ぐらを掴む手が震える。怒りの表情はそのままに、涙だけが彼の心境を物語る。

 

「それでも……ッ! 進み続けるしかないのですよ! 犠牲の上に立つ我々には、そうすることでしか、彼らに報いることが出来ないのだから……」

 

そう言って、彼はハンジから手を離し、視線を下げた。周りの人間は何も言わない。ただ、目の前にいる彼が冷酷非道な王でも、人を裁定する神でも、自由を奪う悪魔でもなく、ただの人だと言うことがしかと彼らには伝わっていた。

 

ハンジはシャルルに手を差し伸べた。

 

「……教えてくれて、ありがとう」

 

硬直するシャルル。彼は訳が分からないというふうにハンジの顔を見て、そしてその手を払って言った。

 

「……104期の中に超大型巨人がいた場合、巨人化する前にその中身を殺す必要があります。エレン・イェーガーにそれができるとは思えない。故に、私は女型捕獲作戦ではなく104期の監視に回ります」

 

それだけを伝え、シャルルは部屋を去った。

 

あとに残されたのは非常に気まずい雰囲気をした面々と、爆笑するケニー、そしてスッキリした表情のハンジだった。

 

「ブッハハハ……ッ。見たかトラウテ、あいつ泣いてやがったぞ!」

 

「よし……みんな。私はスッキリしたからもう良いよ。さぁ、作戦会議を始めよう!」

 

二人を除くその場にいた全員が二人の正気を疑った。

 

【66】

 

「ねぇ、シャル……」

 

『すいませんクリスタ。あなたには迷惑をかけてしまいました。二度とあのような──』

 

「──104期の監視ってどういうことなの? あの中に、まだ巨人がいるって言うの? それに、巨人化する前に殺すって……」

 

『……安心してください。あなたが手を汚すことはありません。すべて、私が終わらせますから……』

 

本来、シャルルはクリスタに監視のことを伝えるつもりはなかった。彼女が女型の巨人の正体がアニだと知ったとき、ひどくショックを受けたからだ。

 

アニと同郷のライナーとベルトルトが知性巨人である可能性が高いなどと、シャルルは伝えるわけにはいかなくなった。

 

故に、彼は二人の処置を自分一人で行うと決めた。クリスタには覇道ではなく、王道を歩んでもらうために。

 

彼は座標にある己の体を見た。それは徐々に砂となって崩れ始めている。その様子を隣に立つ始祖ユミルは静かに眺めていた。

 

彼に残された時間は、砂とともにすり減って行く。

 





エレン「ちなみにお前はなんでいるんだよ、ユミル?」
ユミル「私は女型の硬質化を無力化できる巨人なんだよ」
エレン「はは、そんな都合の良い巨人がいるわけねぇだろ。冗談は良いって。それで、なんでなんだ?」
ユミル「……」

↑って言うやり取りを書こうか迷った。次からストヘス区に戻ります。

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