やわらか不戦の契り   作:妄想壁の崩壊

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アニメ2期に入ります。誤字脱字報告感謝です。


南区1

 

【71】

 

兵団の連合部隊がストヘス区にて女型捕獲作戦を行っていた頃、104期生の者たちは私服のままウォールローゼ南区にて集められていた。

理由を知らされず、彼らはただ兵舎の一室で時間を持て余す。そのうちの二人、サシャとコニーは机に肘をつき窓の外を眺めていた。

 

「ここから南に行くと、俺の村が近いんだぜ……」

 

「私の故郷も近いですねぇ……」

 

「なんで帰っちゃダメなんだろうなぁ……」

 

「なんででしょうねぇ……」

 

「「はぁ……」」

 

私服で待機とはいえ指揮命令下にあるにも関わらず、サシャとコニーは気が抜けきっていた。

 

「お前ら、気が緩みすぎだ……」

 

「ジャンは真面目ですね……壁外調査から帰って昨日の今日ですよ? ちょっとくらい休んでも良いじゃないですか」

 

「そうだぞ、ジャン」

 

二人の様子にジャンは苦言を呈すが、とは言え彼もこの状況に不満を抱いていた。

 

(女型の巨人を逃してノコノコ帰ってきたと思えば、エレンと団長は王都に召喚されて、にも関わらず俺たちは何もせずこんな所で待機。アルミンとミカサの姿はねぇし、本当にどうなってやがんだ……?)

 

ジャンもまたコニーとサシャと同じようにため息をついた。どうせあの深謀遠慮のエルヴィン団長のことだ。案外女型の巨人の正体を見抜いて捕獲作戦でもしているのかもしれない……などと考えて、ジャンは自分の突飛すぎる思考に笑った。

 

「……お前ら、おかしいとは思わねぇか?」

 

「あ? 何がだよ、ライナー」

 

ジャンの隣でベルトルトとチェスをしていたライナーが疑問を投げかける。

 

「なんで私服で待機なんだ? おまけに訓練もせず何もするな、だなんておかしいだろ。その上、上官たちは完全武装ときた、この壁の内側で何と戦うってんだ……?」

 

「このあたりは熊が出るからだな……」

 

「ええ、熊ですね……熊。熊肉、食べたいなぁ……」

 

「熊なら鉄砲で良いだろうが」

 

もはやまともに思考を巡らせることもやめた104期の代表的バカ二人にライナーは呆れる。

 

「もしくはあれだ。王都からエレンとエルヴィン団長が逃亡。調査兵団はお尋ね者になり、憲兵団が俺たちを殺しに来る……とかな」

 

「流石にそれはないだろ。ない……よな?」

 

ライナーが聞き返してくる。ジャンはふざけた冗談を言ったつもりだったが、エレンの馬鹿ならやりかねないと思い、少し憂鬱になった。巨人に殺されるのは当然嫌だが、人間に殺されるなら良いというわけではない。

 

その後も他愛もない会話で暇を潰す彼らだったが、突然扉が開き、武装した上官が入ってきた。

 

「クリスタ・レンズはいるか!」

 

「はい! 私です。なにか……?」

 

「ミケ分隊長がお呼びだ」

 

上官はそう言うとクリスタを連れて部屋を去って行く。

 

「おい、なんでクリスタが分隊長に呼ばれるんだ」

 

「俺が知るかよ。なんか用事でもあるんじゃねぇのか?」

 

「用事だと……まさか、クリスタによからぬことを……」

 

ライナーの下衆な勘繰りに、サシャがジト目で釘を刺す。

 

「……見損ないました、ライナー。クリスタに後で伝えておきますから」

 

「ま、待てサシャ! 今のはただの冗談でな……」

 

ライナーの今晩のおかずが、駆逐されることが確定した。

 

【72】

 

クリスタは見張り塔にいるミケのもとに案内される。そこには監視役の調査兵のほかに、中央憲兵の兵士がいた。

 

「お呼びでしょうか?」

 

「あぁ、だが君にじゃない。もう一人の方に用事がある」

 

「そうですか……分かりました。少し待ってください」

 

クリスタはこめかみをグリグリと押し、何やらブツブツと呟き始めた。それをミケを除く調査兵たちは胡乱な目つきで見つめる。

 

彼らは今回の監視の任務にあたり、クリスタの秘密を共有されていた。が、ミケと違ってそれを実際に目の当たりにしたわけではない。それに、調査兵団も知らない情報を持つ得体の知れない協力者など信用していなかった。

 

「──はい、何用でしょうか? ミケ・ザカリアス分隊長殿」

 

クリスタの瞳の色が変わり、声色が少年のように低くなる。明らかな異変に疑っていた調査兵もこれには驚いた。

 

「彼らから報告があった。お前が知る情報があれば隠さず話せ。知る全てをだ」

 

「……話せる限りは話しましょう」

 

そして、ミケは中央憲兵の兵士を促す。

 

「報告致します。昨晩ウォールローゼ南側壁上を哨戒していた兵士が、行方不明となりました」

 

「……駐屯兵の歩哨がですか?」

 

トロスト区が破壊されて以来、兵団は警備を一層強化し、四半日交代制で壁上を監視している。昨晩と言うのはおそらく0時から6時の間を警備する兵士のことだろう。

 

「はい、今朝になっても詰所に帰還せず、交代の人員が向かったところ既に消えていたそうです。そこで転落事故かと考え捜索したのですが……痕跡が何も見当たらず……」

 

「それで、行方不明と」

 

シャルルは指を顎に当て頭をひねる。

 

「ウォールマリア側に落ちて巨人に殺された可能性は?」

 

「血痕などもありませんでした。その可能性は低いかと」

 

「詰所に帰らず、独断で帰宅したわけでもないのですよね?」

 

「担当兵士の自宅を探りましたが、誰も帰っていませんでした」

 

「ならば……殺された?」

 

つまりはそういうことになるのだろう。

 

「犯人に心当たりはないのか? 超大型巨人や鎧の巨人の中身によって殺された可能性は?」

 

ミケの質問が飛んだ。

 

「昨晩の104期訓練兵全員のアリバイはありますか?」

 

「全員兵舎にいたのを確認しています」

 

「……誰が殺したのかではなく、なぜ殺したのかで考えてみましょう」

 

シャルルはフーダニットではなくホワイダニットに思考を切り替えた。

 

「壁上にいる兵士を殺した理由は……生きていては邪魔だったからだ。何に邪魔であったか? ……壁の上を通るのに邪魔だった。犯人が壁の上を通ったのは夜だ。人目を避けたかったはず、見られたので口封じをした……?」

 

「待ってくれ」

 

ミケはシャルルを止めて、恐る恐る口を開いた。

 

「それは、壁の中から『出た』のか? それとも……まさか、『入った』のか?」

 

「……」

 

この壁の中から密かに出ようとする者など超大型巨人と鎧の巨人を置いて他にない。だが、彼らが逃げるなら何もコソコソせずとも良いのだ。歩哨に見つかったところでウォールマリアより外側、そして更に島の外へ向かえば壁内人類が彼らを追う術などないのだから。

 

それが意味するところはつまり……。

 

「敵の、増援……?」

 

シャルルはその結論に至るも、そんな馬鹿なことがあるはずないと心の中で否定した。

 

敵の、マーレの保有する知性巨人は7体だ。壁内侵攻にはすでにそのうち4体、過半数も投じている。敵方に残された巨人は獣、車力、戦鎚だけだ。

 

(そこからさらに増援を送るなど国の防衛を放棄するに等しいことだ、正気の沙汰ではない。しかし……)

 

彼らは、不戦の契りを破って侵攻してきたのだ。もとより正気など期待できない。

 

「教えてくれ、敵の増援とは何だ」

 

「……知性を持った巨人はこの世に9体います。我が方は始祖の巨人、進撃の巨人、顎の巨人の3体を所有している。一方敵方が保有しているのは6体。判明しているだけでも女型の巨人、鎧の巨人、超大型巨人がいます。そして残りは3体」

「仮に敵の援軍が来たのなら、最低でも2体以上の知性巨人がいると思われます」

 

「敵の能力は分かるのか?」

 

「3体の巨人の名は獣、車力、戦鎚です」

「獣はその名の通り獣のような特徴を持つ。角、鱗、尾、翼などを持つことが多く、モデルとなる獣によって異なり、千差万別です」

「車力は持続力に優れます。壁外から来たのならば移動手段としてこの巨人を確実に連れているはずです」

「戦鎚は武器を扱う巨人です。近接武器のみならず弓や弩と言った遠距離武器をも生み出すことができる。最大の特徴は本体をうなじ以外の場所、例えば地中などに隠すことができます」

 

「そうか、分かった」

 

矢継ぎ早に告げたシャルルの言葉を聞き届けたミケはそう言って頷いた。敵の情報を得られるならそれに越したことはない。シャルルが今までその情報を出し渋っていたことが気にならないわけではない。が、少なくともミケは、今この場で彼の怠慢を責め立てるつもりはなかった。

 

しかし、まわりは彼ほど冷静ではない。

 

「お前……ッ! それほどのことを知っておきながらなぜ黙っていた!」

 

特徴的なリーゼントヘアの男、ゲルガーはシャルルの胸ぐらを掴み怒鳴った。

 

「貴様……陛下に何を……!」

 

主を傷つけられ怒りを顕にする中央憲兵の兵士をミケが抑える。その兵士はミケの顔と表情を見て、後ろに控えた。

 

「ゲルガー。今は争っている場合じゃない。抑えろ」

 

「ミケさん。こいつの……こいつの情報があれば、女型を捕らえられたかもしれないんですよ!? それに、仲間も死なずに済んだかもしれないッ! だと言うのにこいつは……ッ!」

 

「やめろ、たらればの話はキリがない。それに、今ここでこいつを怒鳴ったところで死んだ仲間は帰ってこないんだ」

 

「畜生……ッ」

 

ゲルガーは荒く突き飛ばすように手を離した。息を止められていたシャルルはその場に弱々しくへたり込み、上下に肩を動かして呼吸を繰り返す。

 

彼は何も言わない。

 

知識とは力だ。そして力は人を悪魔にも獣にもしてしまう。シャルルはこの壁の中の人類に、無力でも善良であってほしいと願った。シャルルは壁内人類が力に溺れることを恐れ、信じることをせず、無知を強制した。

 

(私が臆病にも壁内の人類を信じることができなかったから、あなたたちの仲間は死んだ……申し訳、ありません……)

 

などと謝罪すれば、それこそ彼らの逆鱗に触れてしまうだろう。

 

壁の外に、志を共にした仲間の意志はもう存在しない。

 

しかし、かと言って始祖の力でまた壁内が壁外を支配したところで、彼の夢見た平和な未来が来たかどうかなど分からない。結局、選択が正しいか間違いかなど誰にも分からないのだ。未来を知ることは始祖の巨人でもっても不可能である。

 

だから、シャルルは進み続けるしかないのだ。己の存在をすり減らしてでも。

 

「立てるか?」

 

「お手を……拝借します」

 

シャルルはミケの差し出した手を取り立ち上がる。

 

不意に、彼は林の向こうを見つめて鼻を鳴らす。そして次の瞬間には険しい表情を浮かべ、以下のように告げた。

 

「先ほど挙げた巨人の中に、壁を破壊できるものはあるか……?」

 

彼の視線の先には、群れを成して行進する巨人たちの姿があった。

 

「ウォールローゼが、突破されたかもしれん……ッ!」

 





まぁライナーに今晩のおかずなんてありませんがね。へっ。

【原作との違い】
・ジャンがいる

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